京太郎&赤木 クロスオーバー   作:五代健治

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トウハイ、キライ。
カンガエルノ、メンドイ。
シロートナノ、バレル。
(牌画像変換を使うのが初めてなので、投稿直後に変だったりしても突っ込まないでね。
 すぐ直すから)


7話 スタートダッシュ(カタパルト付き)へご案内

 部室の中に漂う空気が、緩んでいくのを感じた。

 入った直後、咲が泣いていた間なんてもう沈み切ってそこに居合わせるだけで辛かったのに、今はそれが去ったことを皆が感じている。

 

「えっと、部長。それでですね…………」

「何かしら?」

「その、ちょっと申し訳ないんですけれども…………」

「あ、ごめん気が利かないで。いいわ、卓に入っちゃって。さっきまでみんな全然集中できてなかったし、仕切り直し―――」

「い、いえ、ありがたいけどそうじゃないんです」

 

 俺はどうしたらいいかわからず、ドアの方をちらちらと見やる。

 

「そ、その………さっき、俺が言ってた、努力してるだけで偉いんだって言ってくれた人なんですけども」

「うん?」

「その…………その人が、麻雀好きなんだそうで、俺の話聞いたら練習を見学したいって、今外で待っていて………。連れてきてもいいでしょうか?」

「へ?」

 

 部長が面食らったようだった。

 一山超えたと思ったら、予想だにしないお願いをされたのだから当然だろう。

 

「…………うん、構わないわ。むしろ、お会いしてお礼を言わないとね」

「あ、じゃあ………、えっと、赤木さーん…………」

 

 廊下の方に、言葉尻が消えそうな声で呼びかける。

 ギイィ、と少しドアが音を立てた瞬間。

 

バァアアン!

 

 

「ひゃああ!?」

 

 赤木さんが顔をのぞかせた瞬間、雷鳴が鳴り響いた。

 全員その場で小さく跳び上がる。

 それは、雷に驚いたからだけではないようだった。

 

「失礼…………もう入ってもいいのか?」

 

 俺に負けない背丈、いや、その身に纏う威圧感やその他もろもろで俺より大きく見える、齢50を過ぎた老人が入ってきたことに、皆は完全に度肝を抜かれたようだった。

 恐らく、俺が初めてこの人と会った時に感じたような、その凄まじい存在感に中てられているのだろう。

 

「えっと、この人が、俺にアドバイスしてくれた、赤木さんです…………」

 

 ぽかんと口を開けたまま、部長たちは呆然としていた。

 そりゃハギヨシさんみたいな格好いい紳士なお方が登場するとは思っていなかっただろうが、筋モ……一般のお方でなさそうな人が来るとは思ってもみなかっただろう。

 白馬に乗ったヤクザがお姫様を迎えに来たようなミスマッチだ。

 

「……………はっ」

 

 一番先に我に返ったのは部長だった。

 慌てて表情を引き締め、赤木さんに向かい合う。

 

「は、初めまして赤木さん。清澄高校麻雀部主将の、竹井久と申します。このたびは―――」

「ああ、片っ苦しいのは嫌いなんだ。構わねぇよ別に。ただ俺がお前らの麻雀を後ろから眺めるのを許してくれりゃそれでいい。タバコも吸わせてくれればいうことなしなんだがな」

 

 ククク………と、喉の奥で笑う赤木さんに、部長はどう接したらいいかわからないようだった。

 

「え、えっと、校内は全面禁煙なので、ご見学は構わないのですが煙草はちょっと………」

「ま、そらそうだわな(´・ω・`)」

 

 赤木さんはすこししょんぼりした表情を浮かべた。

 

「えっと、それじゃあ須賀君を卓に加えて………1年組で打ってみる?」

「わかりました。あ、じゃあ赤木さんにお茶とか………」

「阿呆、そのくらいわしたちでやるわ。お前はしばらく働かんでええ」

「は、はい………」

 

 雑用根性丸出しで俺がお客にお茶を出そうとすると、染谷先輩に叱られてしまった。

 席を入れ替えて、先輩たちは赤木さんの分の椅子を用意する。

 赤木さんは用意された椅子を動かして、俺の後ろに移動した。

 

「ま、難しいかもしれねぇが、いつもどおりに打ってくれや」

「はぁ………」

 

 正直後ろで妖怪に見られている気分なので、ものすごく落ち着かない。

 でも準備はすぐに済み、東一局が始まろうとしていた。

 

 

 東一局 0本場 ドラ {4}

 東家 優希

 南家 咲

 西家 京太郎

 北家 和

 

「おっしゃ、ダブリーいくじぇ!」

 

 東一局目、もはやそれが当たり前であるかのように、優希がいきなり親のダブリーを仕掛けてきた。

 切ったのは{南}、安牌なんてわかるはずもない。

 咲はとりあえず、不要な字牌から切った。 打 {北}

 

「はぁ………」

 

 京太郎 手牌

 {一一3445779③⑦發發}ツモ {⑨}

 

 ドラが対子なのはありがたいが、中膨れの形だ。

 七対子が速そうだが、そのせいで牌の種類はそこまで多くない。

 果たしてこれでしのぎ切れるか。

 とりあえず{發}対子は捨てたくないので端っこから落としていくしかない。 打{⑨} とすると、一応は通ってくれた。

 

 次は和の第1打。 {發}だったので、鳴くべきか少し迷う。

 

 (今は何が安牌かわからないしな。もう一枚發はあるんだし我慢我慢)

 

 とりあえず、次に發が出たら鳴くことにしてここは見送る。

 一応トイトイも視野に入れておいて損はないだろう。そんな時間があるかはさておき。

 

 そして、優希の第二ツモ。

 

「おっ! カンだじぇ!」

 

 引いて来た牌と、手の内の3牌を倒す。

 カン材は{8}。 そして新ドラは………{8}。

 

「おっしゃあ! ドラ4追加だじぇ!」

「うえぇ!?」

 

 これでダブリードラ4で最低でも親跳ね確定だ。役と裏が乗れば倍満・3倍満もない話ではない。

 嶺上牌を捨てたので、そのまま和了りはしなかったものの、他3人への重圧はすさまじい。

 

「うぐぐ……」

 

 咲はもう一度{北}を落として、俺の番がやって来た。

 ツモは{9}。手牌に加えれば早々に七対子イーシャンテンだ。

 

({8}がもう全部ないんだし、{789}の順子が出来ることはもうない。待ちの変わるカンはできないし、{8}の周りは順子のない比較的安全エリアと。

この手牌なら役牌のみで早めに和了れるかもしれないけど、もう優希が6翻まで確定してるしここはツモ切りだな。対子落としで時間を稼ぐ)

 

 ドラ2とはいえ、張ったとしても単騎待ちしかできない七対子や、鳴いて手の短くなる役牌のみで親跳ねリーチに向かってもしょうがない。

 そう考えて、打{9}。

 

「ローーン!」

「はぁ!?」

 

 倒された優希の手牌は、三暗刻対々で{一}と{9}のシャボ待ち。

 

「ダブリー・三暗刻・対々・ドラ4! 裏は………乗らないけど、親倍満! 24000だじぇ!」

「のおおおおおおおお!?」

 

 千点棒のみを残し、俺の点棒がすべて優希に持っていかれる。

 

「{8}の周りは比較的安全だと思ったんだけどな………」

 

 やはり{9}が重なったことを喜び、まっすぐ七対子を狙うべきだったか。

 そうしていれば、優希の上がり牌をすべて握りつぶしたまま安全に手を進められた。

 

「はっはっはー! どうだ恐れ入った……か……あ………」

「ゆ、優希ちゃん………」

「ゆーき………」

 

 優希がいつものように天狗になるが、さっきの出来事を思い出して口を閉じる。

 咲と和の非難めいた視線が、優希に向けられた。

 

「じぇじぇじぇ………す、すまん京太郎………」

「いや……大丈夫だ」

 

 ここでまた落ち込んだら、何のためにここに戻ってきたのかわからない。 

 気を取り直して、次の局へと気持ちを切り替える。

 

 

 その後1本場は咲が四巡目に加槓で嶺上開花し、500・900でいきなり終わらせた。

 東二局は和が優希から直撃をとり、すぐに終わる。

 そして俺が親の東3局。

 

 ドラ{1}

 親 京太郎 500

 南家 和  26500

 西家 優希 46100

 北家 咲  26900

 

 リーチもできない状態で、表示されたドラは{1}。

 端っこの牌で、手の内で使うのも難しい。

 そして配牌は………

 

 京太郎配牌  {1158二二三②④⑧中中白} ツモ:{六}

 

 何とドラが対子で、翻牌の対子も二つある。

 それらを鳴ければ、それだけで親満確定だ。

 とにかくこの局は飛ばされる事態を遠ざければいくらか安手になってもいい。{白}から切ることも考えたが、他の誰に{白}のみで積もられても親被りでトンでしまうことを考え、初手は打{⑧}。

 

 

 不要牌を処理し、7巡目。

 

 京太郎手牌

 {11156二三④④白}  {横中中中中} 新ドラ{5}

 

(いける!)

 

 鳴いた中に加カンして、新ドラを一つ乗せる。

 これで翻牌1つとドラ4だ。 あと1翻で跳満まで狙える。

 そして引いたツモは、{五}。 

 

(どうする? 手牌にくっつく牌じゃないし、跳満まで狙ったり鳴かれないようにするなら{白}は残すべきだ。

でももう7巡。東場の優希なら今にも和了っておかしくない。手に来るのを待ってたらやられるだけだ。萬子が伸びてくれることを期待して、ここは勝負!)

 

 迷ったのちに、{白}を捨てる。幸いにも、ポンの声は上がらない。

 

 しかし次巡、ツモは{白}。

 

(うぐっ………。捨てなきゃ跳満だった……)

 

 小さく呻きつつも、仕方なくツモ切り。

 さらに次巡、またしてもツモは{白}。ツモ切るしかない。

 

(なんじゃそら………!)

 

 これで{白}が3連続河に並んだ。

 

「ふっふっふ。ドラを増やした上に東場でその遅れは致命的なミス! いっくじぇ、リーチ!」 

 

 優希が、{1}を切ってリーチをかける。

 そこで俺はとっさに動いた。

 

「カン!」

「へ?」

 

 ドラの{1}4枚で、大明槓をする。新ドラは{9}で乗らない。

 だが嶺上ツモは{四}。いいところを引けた。そして打{五}。

 もしかしたら{1中白}で三槓子を出来たかもしれないが、咲じゃあるまいと一言で片づけて終わる。

 

(本当ならこんな他人にドラを乗せかねないカンしないべきなんだろうけど、俺の残りは500点。和了られりゃそれで終わりなんだから、いくらドラ増やそうが関係ない!)

 

京太郎手牌

 {56二三四④④}  {横中中中中 1横111} ドラ:{15⑨}

 

 ともかくこれで、役牌ドラ5で{47}待ち聴牌だ。

 そして俺の次、和の番。ここで俺の目論見が外れれば結局優希がツモってすべては水泡だろう。

 東場限定とはいえ、リーチかけたら絶対ツモることが前提とかどういう麻雀だ全く。

 和は河を見て少し迷った後、打{①}

 

「ポンッ」

 

 咲がその牌を鳴き、優希の番が飛ばされる。

 優希にしては遅い、9巡目でのリーチだ。多分馬鹿みたいに大きな手が入っているんだろう。

 それに俺を飛ばしてしまうことへの抵抗感もあるのか、和と咲は俺を優希のツモで飛ばすという選択肢を捨ててくれた。

 カンを得意とする咲は、チーよりはポンをする可能性が高い。和はまだ河に出ていないかつ、咲の持っていそうな牌を出してくれたのだ。

 心の片隅で彼女たちの良心を利用したような作戦に罪悪感を覚えつつ、俺はツモ山に手を伸ばした。

 

「げ………」

 

 引いて来たのは、{5}。ドラだ。

 

(どうしたもんかね…………)

 

 {6}を捨てて、{5}と{④}のシャボ待ちにすることもできる。そうすれば翻牌ドラ6となり、{5}で上がれば倍満に手が届く。

 が、河を見るとそれらはもうそれぞれ1枚ずつしか待ちがないし、その時捨てる{6}だってドラ近くかつ、優希に対して無スジだ。怖すぎる。

 さらに言えばドラ{5}なんてど真ん中かつドラの牌を、リーチをかけている優希はともかく他二人が捨ててくれるはずはない。

 かといって、{47}で待ちがまだ6枚ある両面待ちを保つ場合でも、今引いたドラそのものかつ無スジを捨てるのも怖い。

 

(いや…………ここでビビっちゃだめだ)

 

 きっと、和のような完全な確率重視の打ち方からすれば、馬鹿馬鹿しいことこの上ないだろう。

 でも、俺はさっき決めた。

 

(どっちで振り込んだって、負けるんだ。どっちだって振り込む可能性が高いなら、より点の高い方へ行くべきだ。それに…………)

 

 赤木さんの言葉を思い出す。

 

『いいじゃないか…………! 三流どころか、五流だって………! そうやって熱くいられれば、それだけで十分じゃあないか………! 

 怖がらなくっていいんだ……ただまっすぐ、自分の欲しいものがあるなら、それに向かうだけで………』

 

(前に進む気持ちを無くしたら、そこで終わりなんだ!)

 

 打{6}。その危険牌切りに、部員全員がぎょっとしたり、息を呑んだ。

 しかしただ一人、赤木だけは、僅かに目を細めただけだった。

 

(へぇ…………)

 

 赤木の見立てでは、{56}ともにリーチをかけている優希には通った。

 しかし、下家の和に{5}は完全にアウトだったろう。

 点数に欲を出し、待ちの少ない方に向かった暴牌のようなうち回しが、京太郎を救った。

 その勢いが、僅かに場を京太郎に有利に作用させたのか、次の優希の番。

 

(うへぇ……嫌なもの掴んじゃったじぇ………)

 

 引いたのは{5}。

 

 優希手牌

 {223344⑥⑦⑦⑧⑧北北}

 

 {⑥}を引けばリーチツモ平和二盃口で跳満、{⑨}でもリーチツモ一盃口平和ドラ1で満貫。

 ドラが3枚もめくれているので、十分に裏ドラも期待できる手。

 しかしリーチをかけている以上、和了り牌以外は切るしかない。

 渋々ドラの{5}を切る。

 

 

「「ロン!」」

「じぇ! やっぱりぃ~~………あれ?」

 

 同時に上がった和の声に、俺は呆然とした。ダブロンなんてリアルだと始めてだったからだ。

 

「あ、あれ? これってダブロンありですっけ?」

「いえ………大会と同じだから、頭ハネありよ」

 

 後ろで見ていた部長も、驚いた様子で答える。

 

「えっと、反時計回りに優先順位が着くから………俺?」

「ええ、須賀君のえっと………翻牌ドラ7で、親倍満ね」

「ほ、ほんとですか…………よっしゃぁ!」

 

 両手で思いっきりガッツポーズを作る。

 頭ハネなんて初めてだったから戸惑ったが、ともかく優希から24000点をそのまま取り返した。

 これで点数は

 

親 京太郎 24500

 南家 和  26500

 西家 優希 22100

 北家 咲  26900

 

 となった。その時

 

「悪い……皆、手牌を見せてくれるか………?」

 

 それまで無言だった赤木さんが俺の背後に立って、卓を上から覗き込んだ。

 

「え、あ、はい……」

 

 咲たちが訝しみながらも、素直に手牌を倒す。

 二人とも安手だが速く、咲はイーシャンテン(相変わらず嶺上のみしかなさそうな役無し)、和は平和でドラ筋の{58}待ちだった。

 

「ふむ……………」

 

 赤木さんは全員の牌と河の捨て牌、その後まだとられていない山牌を全部めくり、少しの間唸っていた。

 

「すまん、手間とらせたな。続けてくれ………」

「は、はぁ………」

 

 何だか釈然としないまま、俺たちはその後も局を続けていった。

 

 

 20分後

 半荘が終わった。

 最終的な点数はこの通り。

 

 京太郎  26900

 和    31000

 優希   13400

 咲    28700

 

「だぁあ~~~! 東場であんまり稼げなかったのが痛いじぇ!」

「稼いでいても、ここまで点とられたら1位は無理だろ」

「畜生! 東場のアタシに食らいついてきやがって! 犬め!」

「誰が犬だ! このタコ!」

「タコじゃない! タコスだ!」

「ゆーき……」

「二人とも………」

 

 30分ほど前のあのシリアスな空気はどこへ行ったのか、俺たちはいつものようになじりあっていた。

 

「……………」

 

 そしてその様子を終始無言で見つめている赤木さん。

 俺が倍満を上がった後、毎回局が終わるごとに、皆の手牌と山を見ていたのだが、一体何だったのだろうか?

 

「京太郎………」

「は、はい」

 

 そんなことを思っていたら、不意に声をかけられた。

 無表情がいきなりしゃべりだすものだから、びっくりする。

 

「お前、明日から俺のところに来い」

「へ?」

「鍛えればものになる。俺が付き添ってやるから、適当な雀荘に行って打て。この連中と打つよりそのほうがためになる」

「え、いや………」

 

 いきなりそんなことを言われて、戸惑うことしかできない。

 

「すいません、赤木さん」

 

 すると部長が、赤木さんの前に立った。

 

「赤木さんが、須賀君のことを激励してくれたことは、いくら感謝してもしたりません。しかし、それとこれとは話が別です。部外者である赤木さんに、須賀君をよそで練習させると言われて、はいそうですかということは出来ません」

「………こいつを強くしたくないのか?」

「それは………今更私に言う資格はありませんが、それでも私は彼の先輩です。私は、自分で彼を強くしなきゃいけない義務があります」

「そりゃあ無理だな」

「…………私たちでは、力不足だと?」

 

 部長の眉根が吊り上がる。さっきも「この連中と打つよりためになる」なんて言われて、頭に来たのだろう。

 

「それ以前の問題だ………ものを考えていなさすぎる。見えてるところしか、見ようとしない。表の事柄だけ見てりゃ満足のガキ共に、死に物狂いで強くなることを決心した奴の相手が出来るはずもない」

「何ですって………!」

「…………!」

 

 部長だけでなく、他のみんなからも敵意のようなものがにじみ出る。

 特に和は、初めて咲に会った頃と似たような顔をしている。

 

「じゃあ、こうしよう………」

 

 赤木さんはおもむろに立ち上がり、全自動卓で、牌をかきまぜた。

 やがて配牌が終わり、積まれた山が出てくる。

 

「俺が今から、この4つの山から牌を表にせず14個取り、役満を作ろう。それが出来たら、京太郎は俺が育てる。出来なければ、お前たちを馬鹿にした詫びに、何でもしてやろう。どうだ、受けるか?」

「は………?」

 

 みんな呆気にとられた。

 いきなり何を言い出すかと思えば、めちゃくちゃな内容のギャンブルをふっかけてきた。

 

「そ、そんな、めちゃくちゃな。話が別………」

「受けるか、受けないのか?」

「っ…………!」

 

 赤木さんの放つ、凄みのようなものに、皆が気圧される。

 しばし無言になったのち、和が口を開いた。

 

「…………条件があります」

「和?」

「何だ?」

 

 和は震えながら、毅然とした態度をとろうと胸を張る。

 

「赤木さんは、勝てるという確信があってこの勝負を持ち出してきたように思えます。つまり、何かからくりがあるのではないかと。ですから、役満の種類はこちらで決めさせていただきます。さらに、作るのは一つではなく、二つ別々に作ってもらいます」

「いいだろう。構わない」

「っ…………! ではまず、国士無双を」

 

 全く動じない赤木さんに、和は息を呑んだ。

 きっと胸の中では、「そんなオカルト在り得ません」と思っていることだろう。

 

「じゃあ、はじめるぜ………!」

 

 赤木さんは一度大きく口元をゆがめて笑みを浮かべると、牌を見つめた。

 

「……………」

 

 だが、一向に始める気配がない。

 しびれを切らした和が、赤木さんをせかす。

 

「何をやっているんですか。時間をかけることで、どの牌が何かわかるとでも?」

「ああ」

「えっ………」

 

 赤木さんは、低い声とともに頷いた。

 

「そうでもなきゃ………53年も、とても生き抜けなかった………」

 

 言い終わると同時に、赤木さんが4つの山の各所から、牌を伏せたまま集め出した。

 まずは最初の14枚。

 開かれたその役は…………

 

「うそじゃろ…………」

「まじか………」

「信じられない………」

 

{①①⑨一九19東南西北白發中}

 

 {①}が対子の国士無双が、綺麗に出来ていた。

 しかも信じられないのは、字牌は字牌で、数牌は数牌でちゃんと分けられていたことだ。

 俺は声も出せずに口を開けたまま見入っていた。

 

「そんな!」

 

 和が椅子を飛ばして立ち上がり、集められた牌の裏側を調べる。

 何か目印になるようなものがないか探しているのだろう。

 だがこの牌は、2週間前に使いだした新品だ。しかも俺が部活のたびに欠かさず洗っている。

 目立った汚れも傷もない。

 

「さぁ、次の役は何だ…………?」

「くっ………だ、大四喜・字一色・四暗刻単騎を」

「おいおい、役満どころか5倍か」

「い、インターハイではダブル以上は皆普通の役満としかみなされないんです!」

 

 和が苦し紛れの理屈を持ち出してくる。

 さすがにそこは一般のルールに合わせるべきだろうよ。

 

「まぁ構わないがな………」

 

 赤木さんは再び山牌に視線を戻し、しばし止まった。

 30秒くらいした頃に動き出し、同じように牌を集め出した。

 

(国士無双で字牌を一つずつ使ってるから、大四喜だけでも風牌4種を残された12枚すべて集めないといけない。さすがにこれは………)

 

 が、そんな俺の心配は無用だと言うように赤木さんはサクサクと牌を選び、単騎待ちとなる14枚目を除いた13枚を開いた。

 

「…………わしゃ夢でも見とるんかのう」

「ありえねーじぇ………」

「う、うそでしょ………」

「そんなオカルト在り得ません………」

 

 現れたのは、{東東東南南南西西西北北北中} の13枚だった。

 並び方も、この通りだ。

 

「そんで最後は…こいつだな」

 

 伏せられていた14枚目を表向きにする。

 まさか、という一縷の望みにすがるような気持ちすら無視し、現れたのは{中}。

 

「…………俺の勝ちだな。約束通り、京太郎は俺が育てる。なぁに、2週間もしねぇよ。10日ってところだ。…………そのくらいが限界だろうしな」

 

 最後の部分は良く聞こえなかったが、間違いなく、勝負は赤木さんの勝ちだった。




『アカギ ~闇を征した天才~』の連載はまだですかねぇ

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