「アティス。見られてるっていうのは、アレにか?」
『………どう、でしょうか』
リムルが指さした先にいるのは、突然飛んで乱入してきて騒いでる男だった。顔は仮面をつけてるから判らない。でも、何だか脇役、雑魚っぽい印象がぬぐえない。癇癪起こしたガキの様な感じもする。
『凄く、嫌な感じがしたんです。――賢者さん。判りますか?』
――解。周囲に
『……そう、ですか。気のせいなのかな? それともリムルさんが言う様に、あの人? の気配?? でも、こっち見たような感じは無かったんだけど……』
「大賢者も多分、アティスの方と似たような回答だった。……ん、ただの気のせいって訳じゃない様な気もするけど、そっちの方がありがたいかもな。今は特に…。あぁ、勿論 アイツが原因、っていうのが一番わかりやすいし、ある意味安心できるかも」
リムルが見る眼下の男は まだまだ喚き散らしてる。
何でも名前は 《ゲルミュッド》。自分の事を《様》をつけて呼んでる。そういう相手に限って小物だったりするのが定番なんだけれど、聞き捨てならないのが、《上位魔人》と言う単語だった。
「アイツがトレイニーさんの言っていた
『う~ん……、同じくです。……さっきは、ほんと凄く嫌な感覚がしたんですけどね。蓋を開けてみればビックリ拍子抜け~ ってヤツでしょうか。でも、魔人なら……』
そう簡単な存在なのなら、森の管理者であるトレイニーが逃がすとは到底思えない。
でも現に、自称魔人のゲルミュッドは此処に来ている。更に言うのなら 鬼人であるベニマル達、リザードマン、そして敵対しているオークたちの間に割って入ってきている。
発言こそ小物っぽい所はあるんだけど、相応の力量が無いとここまで突っ込んで来れないと思えるんだ。
……退けない理由があるのなら、別だが。
「ッと。アティス。急降下するぞ」
『え?』
リムルは、アティスの返事を待つ前に、一気に地上へと降りた。
何故なら、あのゲルミュッドがガビルに攻撃したから。
「
喰う事を推奨するのは確かに構わないかもしれない。喰えば喰う程強くなるのであれば、それが最善の手段だ。
だが、聞き捨てならないのが、あの男の言い方。名を与えたというのなら、言ってみれば名づけの親も同然。自分の魔素を分け与えたのだから。その相手もこうも簡単に始末、否 食料にしようなどと、外道以外の何物でもない。
『この魔人が不快な存在だって言うのは、よく判った。……よく、判った』
「みたいだな。気に入らないよ。オレも。……お前、複数の魔物に名付けしてるみたいだな。それも計画の一端か?」
ガビルの間に割って入ったリムル。
リムルのスキル捕食者で先ほどの攻撃を捕食。……技の余波はアティスの防御力で完全に遮った。
「なっ……!? き、貴様!?」
ゲルミュッドは、突然現れた事に動揺を隠せれてない様だ。
仮にも上位魔人を謡うなら、このくらいで動揺してどうする、と思うが今は良い。
この男、そしてこの男の背後にいる大物が、今回のオーク信仰の黒幕である可能性が非常に高いと判断出来たから。
「ひょっとしたら、アティスが感じた視線っての、その魔王の事かもな」
『……ヤな事言わないでくださいよ。魔王に目をつけられた、みたいじゃないですか……。っと、それより リグルドさんの息子さん。兄のリグルの名を与えた者らしいですよ。このゲルミュッドっていうのは』
「ああ。……オレも聞いた。それにもう1つ、聞き覚えがある」
リムルが視線を鋭くさせ、ゲルミュッドに睨みを利かせていた時だ。
次に行動したのは、ベニマル達だった。
「自分の役に立たないヤツは消す。……つまり、それがそいつのやり方なんだろう。ガビルを消そうとしたのもそうだ」
「そ、そんな……吾輩には見どころがあると……」
「甘言にそう易々乗るものじゃない。……こいつはそういうヤツ。それだけ頭に入れておけ」
ただただ混乱するガビル、そして 怒りに燃えるのはベニマル。
そう、リムルが覚えがあると言ったのは、ベニマル達の話を思い出したからだ。
……滅ぼされたオーガ族の事を。
ベニマルだけでなく、シオン、ハクロウ、ソウエイ。其々が身に宿す尋常ではない憎悪の炎をゲルミュッドに向けていた。
「よう、ゲレ……じゃなくてゲルミュッドか。オーガの里で全員に突っぱねられた『名付け』は順調なようだな」
「き……鬼人!」
ゲルミュッドはどうやら、自分のおかれた立場を判ってなく、ただただ闇雲に突っ込んできただけだった、と言う事も理解出来た。強大な力を持つのなら 幾ら癇癪起こした状態でも、余裕の1つや2つ見せても良い場面なのに、明らかに鬼人の前に萎縮してしまっている。
「我らの里をオークどもに襲わせたのはお前だな?」
「ほっほ。……違うというのなら、早く弁明をしなされ。無限に湧き出るオークどもの狩りにも飽いてきたところ。……明確な仇がこれと判れば、殺る気も出るというものぞ」
完全に包囲されたゲルミュッドに成す術はない。
開き直ってさっきのスキルで攻撃を放ったが、ベニマル達には一切通じず、耳を削がれ、打ち倒された。
死なない程度に手加減をしながら。……直ぐにでも殺したい気持ちを必至に抑えているのが判る。
「そんなもんじゃないぞ。……親父はオレと妹を逃がすために死んだ。親父だけじゃない。多くの仲間が生きたまま喰われたんだ。……その程度の痛みじゃなかった筈だ!」
『とても残酷な世界……ですね』
「ああ。モンスターがいて、色んな種族がいて人間もいて、オレ達はスライムになってて、……そういう世界に来たって事だ。最初、オレもそうだったが、アティス。言わばゲームの世界の中に入ってきた感覚が残ってるか?」
『……目の前で起きているのを見てみれば、虚構じゃなくて現実だって分かりますよ。ベニマルさんたちの怒りも、判ります。……だって、オレ自身も怒りを覚えるんですから』
故郷を、家族を、同族の皆を殺された。その根源が目の前にいる。
これがゲームだって言うのなら、本当に安易な設定だな、と思うだけだろう。
でも今目の前で広げられている光景。ベニマル達と短い時間ではあるものの、共に行動をして、色々と良くしてもらった今。そんな気持ちは微塵もわかない。
ただ、思うのは血で血を洗う様な、戦わなければ生きていけない様な、そんな残酷な世界だと。……そして湧き出るのは 全ての元凶であるあの魔人への怒り。
「手を出そうとは思うなよ? アティス。……あれはあいつらの戦いだ。それにオレ達にはやる事が残ってる」
『判ってますよ。豚頭帝もいますし、それに オレがいった所で、きっとベニマルさんたちの邪魔になっちゃいます』
「アイツらがお前を邪魔だって思う訳ないし、そもそも自分の力過小評価しすぎだっての。……っと、さっさとやろう」
リムルは歩を進める。勿論相手は
その傍に控えている側近のオークが少々気になるが、これ以上森を食い荒らされる訳にはいかなかった。ゲルミュッドに操らわれているのなら、気の毒ともいえるが、操られたまま、意のままに操られたまま このまま永遠に使われる方が気の毒だ。
ベニマル達の決着を待つまでもなく、終わらせようとしたその時だ。
ゲルミュッドが成す術無く殺される寸前まで追い詰められ、甚振られた後にとった行動は
名を与え、食事を与えた。手駒にするつもりだったのが真実だが、それでも 助けられた事には変わりない。だからこそ、
当然、ベニマル達も戦う相手が変わった所で 殺る気がそがれる事はない。直接的な原因はオークたちにあるのだから。オーガの里を襲い、蹂躙し、食い荒らしたのは オーク。
ならば、手心を加えるつもりは一切ない、と。
ここで予想外の事態が起きた。
ゲルミュッドは安堵していた事だろう。
少なくとも標的が一斉に自分から
だから、彼自身も思いもしなかった。自身の頭を切り落とされるなんて。
何が起こったのか判らぬまま、魔人ゲルミュッドは その命を散らした。
そして、頭を切り落としたのは、手駒であり、味方側である筈の
その気配が、可視化されるほどまで高まった所で リムルやアティスの頭の中に声が走った。
――確認しました。個体名ゲルドが魔王種へと進化を開始します。
『まおう、しゅ? なんで? 何それ』
「……アティスも聞こえたか。……今のは大賢者の声じゃないよな?」
――解。「世界の言葉」です。
賢者、大賢者ともに答えは全く一緒だった。
そして、それと同時に警告される。
魔王種へと進化したあの者が放つ妖気の危険性。
「ッ!! 全員離れろ!! アイツの
風が吹き荒れている訳でもないのに、その妖気は瞬く間に拡散した。
ベニマル達は勿論の事、他のメンバーも回避する事は出来たが、戦いの中で力尽き、倒れたオークたちはその妖気をまともに浴び……、そして その身体は瞬く間に腐蝕していった。
「と、とけたっすよ!! オークの死体が溶けたっす!!」
何とか逃げる事が出来たが、少しでも触れてれば……と思うと寒気が走る。
それが、あの者の…… 魔王となった
「これはちょっと予想以上だな」
――成功しました。個体名ゲルドは
そして新たな魔王の誕生である。
『……溶かしてる。……みんなを、とかす……?』
アティスは、倒れているオークたちが溶けていくのを見た。
触れれば即座に腐蝕させるその能力は強力で凶悪。捕まれば命はないと考えた方が良い。それに加えて 相手は魔王だ。力は未知数。いつ、どの世界でだって魔王は凶悪。弱い訳が無い。一見すれば、アティスにだってわかる。膨大な魔素量が備わっている事が。その総量は半端では無かった。
『アイツは、魔王になる、って願った。だから、アイツを食べて、進化を開始して……そうなった。……叶った』
なら、皆はどうなってしまうのだろう。魔王相手に、どうなってしまうのだろう。
リムル達が強い事はアティスだって判っている。ベニマル達鬼人の戦い、ランガの戦い、各個体全員の戦いを目にしてきたのだから、疑いようがない。
だけど、常に最悪のケースを考えてしまうのがアティス。
悪い方へ悪い方へと考えてしまうからこそ、いつもいつも過剰に反応してしまうのだ。
だが、今回は少し違った。悪い方へと考えてしまう事に変わりないが。
『オレは、オレの能力は、皆を守ってくれるかな……?』