凄く不思議な気分だった。
目の前にいるバケモノ。本当に怖い。物凄く怖い。
そもそも名前からしてアウトだ。
魔王なんて名は普通だったら、自分の知る世界、つまり前の世界だったら、ただの笑い話で終わるんだけど、この世界ででは違う。圧倒的なものを、
傍でいるだけで判る。まだ拙いスキルだけれど判る。
よく考えてみれば、ここに来てこんな感覚の連続だと言えるかもしれない。
不運にも突然死んでしまって、異世界に飛ばされたかと思えば、モンスターになってて、剣と魔法な世界で、……本当に怖い事だらけだ。
でも、光の神様とトレイニーさんにお尻(無いケド)を叩かれて、安心できる場所にくる事が出来た。
たった数日だけど、本当に心地良い場所だったし、楽しかった。
色々とトレーニングしてくれたんだけれど、きっと、自分の性質は変わって無いと思う。怖かったら逃げる。怖いものは怖い。一朝一夕じゃ無理だ。性根ってヤツは。
でも、それは1人だったら。1人だけだったらの話。今は1人じゃない。リムルさんが、……皆がいる。社畜時代も、なんだかんだで 部下とか見捨てれなかった。きっといなかったら、とっくに逃げてると思う。
逃げちゃダメだって時くらい判ってる。 そして、やれるのなら……勿論やれる範囲内になるかもしれないけれど、やってやりたい。
――皆を 守ってくれるかな? じゃなく、護れるような存在になりたい。
――だって、メチャクチャ堅い身体なんだから、それ位は!
――解。スキル 変体化、金属王にて、守護する事は可能。強度は
『………そう、だよね。うん。了解、賢者さん』
皆を守ってくれるかな? と言う問い。殆ど独り言に近かったけれど、答えをくれた。
この身体は、あの魔王よりも堅い。魔王の攻撃よりも堅い。光の神様が教えてくれた通り。
何度も教えてくれていた筈だったのに、こうしてウジウジと考えてしまっていたせいか、当然アティスは出遅れてしまう。
「リムル様! アティス様! 我々にお任せを!」
ベニマルが率先して前へ出てきて、彼のスキル
「多分、ダメか」
リムルは冷静沈着に戦況を見ている風だった。ベニマルの炎は強烈で凶悪。触れる者全て灰燼に帰す炎は、ある意味先ほどの魔王の腐蝕のオーラに負けていないとも思えるのだが、少なくとも魔王の名を関する相手だ。これだけでいけるとは到底思えない。何より、その魔素量も魔王の名に相応しいとさえ思える量だ、
「ランガ! 炎が消えたら雷をぶち当てろ!」
ベニマル自身もリムルと同じ様に感じていたのだろう。すかさず追撃をランガへと伝え。
「了解した」
ランガ自身もリムルの命令で行いたかった、と言う私情があったのだが 今の優先順位を考え、広範囲ではなく一点に収束にさせた 黒稲妻 を放った。
黒い炎の超高熱の後に、黒き雷が轟く。
これまで以上の轟音と舞い上がる砂塵を前に、さしのリムルも身震いした。
「正直、オレもアレを耐えろ、と言われたらきつい……。いや、アティスを纏ってるから大丈夫なのか?」
リムルは、ちらっ、とアティスを見た。今は羽衣状態になっているから、丁度自分を見下ろす形で。だが、アティスから返事が返ってくる事はなく、それよりも早くに攻撃の結果が判った。
「……成る程。これが魔王か」
リムルは、ぎりっ、と歯ぎしりをした。恐らく技を放ったベニマルやランガ、そして、それを見ていた者達全員が同じ気持ちだろう。
表面こそ、炭化している。殆ど死んでいるのでは? と思える様な見てくれ。
だが、平然と起き上がる
更に、魔王の元へ走り寄るオークの1人が、己が身を差し出す仕草をすると、軽く一瞥しただけで、意図もたやすくその首を跳ね落とし そして喰らった。
吐き気さえする光景だが、喰うたびに炭化した皮膚がはがれ新たな皮膚が生まれ、回復していく姿の方がある意味最悪だ。引き千切って喰らった腕でさえ生えてきた。
凄まじい回復能力だ。
「やれやれ 新品に戻りやがった……」
「ぐっ……」
とんでもない化け物の一言だ。
ランガは、今の攻撃で魔素量が空になった様で、蹲ってしまっていた。
「オレの影で休んでいろ、ランガ」
「申し訳ございません……」
無防備な状態でランガを放置する訳にはいかない為、リムルの影の中へと緊急避難させた。
一先ず、ベニマルはまだ余力がある様で大丈夫。ランガも避難させたから大丈夫。これからどうしたものか、と考えていた時、次に放つのはシオンの一閃。
大太刀を全力で振るったシオンの一撃。それはアティスが少しばかり前に受けたその一撃よりもはるかに強力なものだった。力任せ、鬼人の力を存分に使ったシオンならではの剛力。
それを片手に持つ肉切包丁で容易く受け止めた。
あの巨体で反応速度も早い。
そして、間髪入れずに ハクロウの一閃が追撃を入れる。シオンの様な剛力は無いが、目にも止まらぬ神速での一閃。さしもの
一瞬、やった! と思っただろう。首を落とし、生きていられる生物など考えたくもないから。
だが、魔王種と言うものの真の恐ろしさを垣間見た瞬間でもあった。その凄まじい回復力は、首を落としても健在の様で、地に落ちる前に首のない身体は容易く己の頭を掴み、そして元あった場所へと押し込むと……つながったのだ。
まるで、ホラー映画の様だ。
そして、受け止めたままのシオンも強引に力任せに押し切り、ダメージまで与えた。
首を跳ねたダメージなど、最初から無かったも同然かの様に。
だが、それでも追撃の手は止まない。ハクロウの影から、ソウエイが飛び出した。どうやら機を窺っていた様で、粘鋼糸を使い、編み出した技で一気に捕縛する。
「操糸妖縛陣!」
一瞬のうちに捕縛された
「
オーラは全てを腐蝕させ、喰らう。それはソウエイが生み出した糸も例外ではない様で、捕えたのも束の間、あっと言う間に糸を喰らいつくしてしまった。糸まで食べるとは悪食、此処に極まれり。
「……ハラ、減った。もう、いい。……まとめて、喰う。餌、喰う」
ゆらり、と不気味に動くと、身に抑えきれないと言わんばかりに一気に腐蝕のオーラ、
ただでさえ、凶悪なスキルだというのに、その範囲は一気に広がる。ベニマルの炎と比べても何ら遜色ない。寧ろ、気体の様に広がるソレは 更にひどい。
「まずいッ!」
リムルは、咄嗟に動いた。
凶悪な腐蝕のオーラは、戦況の全てを覆いつくさんと広がっている。敵味方関係なく……いや、ある程度は配慮しているのか、前面に広がっていく。アレを受ければ、どうなるか言うまでもない。
――皆が喰われる!?
リムルにとって大切な仲間達が魔王の餌食になるなど、みたくもない。
自分自身のスキルの《捕食者》で捕食する事で、広がる
だが、間に合うか判らない。それ程までに広がりが早いから。
最悪の光景が頭に浮かんだその時だった。
『―――大丈夫です』
アティスの声がリムルの頭に直接届いた。それは《世界の声》や《大賢者》のスキルの様に。
『皆は、オレが護ります』
いつの間にか、リムルに纏っていた筈のアティスの衣が姿を消していたのだ。
「……さっさと、食わセロ」
先ほど、己を、そして味方、配下をも喰らった
鬼人達は、極上の餌。喰えばどれだけ満たされるか判らない程の餌。
涎を垂らし、今か今かと御馳走を待っていた。後寸分で、まずは鬼人の娘を喰らおうとしていたのだが、いつまでたっても満足感は得られない。
「………ム?」
……満足感を得られないどころではなかった。
腐蝕のオーラに負けない程の速度で、
時折、キラキラと輝くそれは、まるで星屑の様に綺麗で、何処か安堵感さえ醸し出す、魔王のオーラとはまるで真逆の存在。光の様な速さで味方達を囲む様に包み込んだ。
『変体化 メタルミスト……って感じかな?』
――告。成功いたしました。