それは、仲間達を銀の守りで包む少し前の事。
――告。スキル:変体化を使用。粒子状にまで変化させる事で、周囲の守護は可能。
「了解! ……んん、でも 凄く繊細に力を使わないといけないんじゃ……。今は予断を許さない状況だし、ぶっつけ本番って、昔から苦手だったんだけど……」
身体の変化は、メタルスライムな身体を ウネウネと動かし続けたから、何ら問題ない。擬態する事により、リムルの姿を模倣する事も出来たのだから。
だが、粒子状…… つまり気体…… 霧状に、あの
――告。エキストラスキル:賢者に主導権を移行し、
「……おおっ!! 賢者さんが制御してくれるって言うのなら、安心だね!」
賢者のスキルは、リムルの大賢者には及ばなくとも、情報処理の類は得意……と言うより、専門分野だ。機械の様な精密さで行ってくれる事だろう。
――告。リムル=テンペストの
「え? リムルさんのスキルの?」
大賢者と言うスキルは、文字通り 賢者の上位のスキルだ。その能力は、全てにおいて上回ってる。アティスは少しだけ考える。
「えっと、賢者さんだけじゃ無理っぽいのかな?」
――解。防御の範囲、個体数、全てを考慮。可能です。
「じゃあ、賢者さんにお願いするよ」
――了。……理由を尋ねてもよろしいですか? 大賢者のスキルの方が強力です。
スキル 相談者を取り込んでいる賢者。
機械的な受け答えが印象的な賢者のスキルは、時折人間味を帯びる事がある。今回の受け答えの後半部分がより人間のソレだった。アティスは気付いてない様だが。
そして、言葉にはしていないが、より人間味を その感情を深める事になるのはこの次だった。
「大賢者さんは、リムルさんの相棒だからね? オレは賢者さんだよ。賢者さんなら、信じられる。何せ、ほんとの意味で生まれた時から一緒だし! あ、勿論 大賢者さんを信用してない、って訳じゃないからね? そこんところヨロシク!」
――………了。
たった一言だったが、温かい気持ちが芽吹き、花を咲かせた。それと同時に賢者のスキルの能力を解放。大賢者のスキルに肉薄する程の精度を誇るスキルとなり、主導権がアティスから賢者へと移行した。
銀色の瞳が赤く染まり、瞬時にその身体が霧散し 仲間たちを包み込んだのだった。
「……〈なんだ? コレは〉」
早く餌にありつきたい。満たされぬ飢え少しでも、と その本能だけに従っていた
「……喰エ。喰い尽くセッ!」
怒りのままに、飢えのままに雄叫びを上げ、
「……
喰えない事のイラつきが、憤怒の炎を沸かせた。
――ふっふふーん! これ気分良いね! ぜんぜん攻撃通らないや! 痛くないし、透き通るような隙も全然ない! ま、攻撃出来る気もしないけど! 相手が飽きるまでずーっとこうしてるっていうのも良いね! 逃げなくて良いし。
「解。保有する魔素は護る対象の数、そして敵の攻撃により常に消費しています」
――……つまり、消費し続けて、無くなると 解除&すりーぷ? 賢者さんすきるもだうん?
「解」
――わーーー! ダメダメ! それ困るッッ! すっごく困るッッ!! オレも皆も困るっっ!!
大パニックになっていた所に、違う声が頭に響いた。
「大丈夫だ。任せろ、アティス」
よく知る人物、リムルの声。
どうやら、さっきまでのやり取りは、賢者・大賢者・リムルとしっかりリンクしてくれていた様子。
せっかく 恰好つけて皆を守る事が出来たというのに、台無しである。
「この光は、アティス様の……?」
「我々だけじゃない。リザードマンの生き残り全員にも」
「凄まじい程の魔素量…… 此処まで範囲を広げた上に、強度劣る面が無いとは」
シオンとソウエイ、ハクロウは銀の光に包まれているのを目の当たりにし、ソレの正体を直ぐに把握出来た。よく知る気配を広く強く感じれたから。 それは他のメンバーも同様だ。
「何と凄まじくも神々しい。……これがアティス様の。だが、アレだけの力を保ち続けるのはきつ過ぎる筈だ」
魔王の圧倒的な回復力を前に、決定打に欠ける鬼人たち。
アティスの守護で、こちらも魔素量の桁が跳ね上がった故に負けの文字は消えたが、それはアティスに消耗を強いる事になる。長引けば長引く程、魔王の力は全力でアティスを蝕むだろう。
それを良しとする者は此処にはいない。
ベニマルは直ぐに行動をしようとしたときだった。
『聞こえるか? ベニマル。ここは オレ達に任せろ』
聞こえるのはリムルの声。
リムルはいつの間にか、
「リムル様!? いつの間にそんなに前へ!?」
「待てシオン」
前に出ようとするシオンを引き留めるベニマル。
「リムル様は、任せろと言った。……オレ
皆の主として、満を持してリムル=テンペストが動いた。
スライム軍VS魔王軍 最終決戦の幕開け! と言っていい展開なのだが……。
『いやはや お前たちの信頼関係は微笑ましさが湧き出るもんだが、ちょーっと台無し感が漂ってるよーな気がするゾ? 『――大丈夫です。オレが皆を護ります』キリッ だったのにさー』
『わーーー、や、止めてください!! ってか、目の前! 目の前!! まおーですよ!』
魔王を前に、随分と余裕のあるやり取りをしている様子が見て取れる、が、勿論理由がある。
アティスがそうであるように、リムルもアティスと同じ様に、大賢者に自身の主導権を移行。
しっかりと働いてるのは、其々のスキルのみ。
「「……はぁ」」
実に人間味のある反応を見せるスキルたちだった。
『なぁ、大賢者。オレのテキトーな見立てなんだけど、アティスの賢者のスキルって、全然大賢者に迫ってる様な気がするんだけど』
「
『成る程な。(なーんか、アティスの賢者って、相棒って言うより、お母さんって感じがするんだよなー)。それより、どうだ? アティスが頑張ってくれる間に、やれそうか?』
「解。アティス=レイの魔素量の測定は不可。正確なエネルギー量が判らない以上、推察の域を出ません」
『それでもかまわないよ。アティスも、ああは言ってるけど、根性は見せてくれそうだ』
リムルの周囲の光の輝きが増した。
色々と騒いでたアティスだったが、『頑張る!』と言ってる様に瞬いていた。
そして、眼前の魔王。
実体がよく判らない相手。喰えない相手。即ち餌ではない。
「敵……。強敵か。だが、貴様は別だ」
視線の先にいるのはリムル。
「一点集中。存在している以上、貴様は喰えぬ相手ではない。そして、永遠に維持する等も出来まイ」
ゲルドは、視線を他のオークたちに向けた。
全員が首を垂れている。幾万の兵達は、全員が糧になる腹積もりなのだろう。最初から持久戦のつもりの様だ。
「否」
リムル……大賢者は、ゲルドの言葉を短く否定した。
そして、自身の剣に黒炎を纏わせた。
それと同時に、ハクロウの速度にも勝るとも劣らない神速で接近。ゲルドの腕を斬り飛ばした。
「アティス=レイの