魔王種の力を得たゲルドは、得体の知れない存在を前にしても冷静だ。
飢餓感を持っても冷静さは決して失われない。
1人だけと思っていた得体の知れない存在が またもう1人現れたともなれば、当然と言えるのかもしれない。
最初の存在。
それは得体の知れないどころではない。実体を持たない存在に思えた。
だが、明らかに意思がある。その輝きを見せる光輝くオーラは、こちらの全てを防いでしまうのだから。
自身のスキルをもってしても、直ぐには喰えない。だが、無限に存在し続けられる筈はない。直ぐに喰えないが、攻撃すればするほど霧散し、僅かにだが魔素が消費されているのが判った。弱りきれば喰えるとも判断。
どんな力でも使えば無くなっていくものだという事だろう。そして、魔王となった自分自身の魔素量も決して少なくない。故に持久戦の構えを取った。
魔王ゲルドが取った行動は正解だ。
オークの勢力は有限こそ、万を余裕で超える。喰えば喰う程に強く、身体も超速で修復される。護りの構えしかとっていない相手であれば、時間は掛かるだろうが、最後には果て、軍配はこちら側に上がる。
普通なら、先に根を上げそうな気もする程気が遠くなる戦いになりそうだが、折れる気配は毛頭ない。そこはアティスにとっては最悪だ。(基本諦めてくれるの待ちだから)
ただ、唯一誤算があったとすれば、……もう1人の存在。そう リムル=テンペストだ。
「何だ? 貴様は…… ム!?」
身に感じる違和感。我が身の一部、片腕がいつの間にか斬り飛ばされた。更に驚く事に斬られた腕が再生を始めない。
見た目は矮小な存在。……だが、その者も身に宿すオーラが得体の知れないものだった。
攻めと守り。両方の特化型。
「(オレの腕を一瞬。それも一太刀で、カ……)成る程、強敵が2人。……だが!
腐蝕性オーラを今度は広範囲・拡散型ではなく、集中型。
オーラは、まるで無数の大蛇の様な形を取り、リムルに襲い掛かる。
『賢者さん! リムルさんを護って!!』
「――告。周囲の守護を中断、リムル=テンペスト周囲に集中させると瞬時に拡散させると推察。恐らく敵は我々に狙いを定めつつも、自陣を喰らい、能力を得ようとしているとも推察。……」
一瞬、賢者は言葉を切った後 告げた。
「――告。魔王ゲルド スキル
賢者が説明している際に、《世界の声》が頭の中に響く。
――成功しました。
腐蝕のオーラの色合いが、より薄気味悪く、濃く、なってゆくのが判る。威力・質量ともに賢者が言った通りになった。内包するオーラの濃さがその強さも大体把握できた。
見るだけで吐き気さえする程の気味の悪さだった。……スライムは吐かないけど。
『大丈夫……? オレの力で、リザードマン達は勿論、皆を護れる? 護りきれる? 護る、なんて言うとベニマルさんたちが怒っちゃいそうだけど』
「……(やはり、逃げると言う選択はもうしないのですね)」
『んん?? ひょっとして不味いのっ!?』
「――告。光の神に与えられた魔素は、現状 魔王ゲルドの力の上位の存在。しかし、無限に守護する事は不可」
『良かった……。でも、リムルさん頼りになっちゃうって事……かな』
アティスは、防御に特化した能力を開花させた為、多少ヤキモキする気分だった。自分が格好良く! 敵をコテンパンにする姿など、妄想上でも想像が出来ないのが悲しい性だが。
『おいおい。任せろ、ってオレは言ったんだぞ。ちょっとはオレ、いや オレの大賢者を信じろっての』
そんなとき、葛藤がリムルにも伝わっていたのだろう。リムルの声が聞こえてきた。
勿論、大賢者の声も。
「解。現状負けの要素は皆無」
『そゆことだ。しかし、流石は大賢者。超速再生を持ってるアイツをあんな形で止めるとはな。あそこまで器用に黒炎、オレ操れないと思う』
切り飛ばしたゲルドの腕は一向に再生する気配は見えない。あの腕に纏わりついている黒炎が再生を阻んでいるからだ。
戦況を見つめているスライム軍。大なり小なりの傷は負っているが、オークたちに比べたら擦り傷程度だ。今も尚、僅かに漏れる腐蝕性オーラは油断してはいけないものだが、それは完璧に遮っていた。
「いやー、しかし凄いっスね。リムル様もそーですけど、アティス様のこのオーラ? あったかい感じがするっス―!」
ゴブタは感激! って感じで、手に取ったオーラに頬擦りする様にしていた。
正直、オーラ。粒子の一粒一粒と感覚は繋がってるので、頬擦りされても気持ち悪いだけだ。女性陣なら兎も角。アティスは主導権を賢者に移行しているが、、、それでも気持ち悪さはなぜか伝わってきたので、ちょっぴりゴブタの周辺解除。
「ちょちょッ!! アティス様!? なんか、薄れてきてるっスよ!! なんで!? わーーーっ、服が溶けてるっスーー!!」
勿論、ゴブタを喰わせる様な事はする筈もないので、テキトーな所で切り上げていた。
そんな騒ぎはとりあえず無視しているベニマル達はただただ、戦況を見つめていた。主に止められたが、いついかなる時でも参戦出来る様に備えながら。
「リムル様にしても、アティス様にしても、あそこまで精密な魔素の制御は相当の技術が必要でしょう。……まるで、お人が変わられたかの様だ」
「あの方たちは、同族だと言っていた。……伝わる秘奥の様なスキルを備えていたのかもしれない」
ハクロウとベニマルは、リムルやアティスの変化に驚いていた様だ。同じく戦況を見守っているソウエイも同じく。
ただ、シオンだけは。
「……護られている、と言うものも良いですね。とても暖かいです。アティス様……」
シオンは リムル護衛兼秘書と言う立場。護ると言う立場から、護られるという事を体験し、やや戦闘狂な面を持っている彼女だが、たまには……と頬を少しばかり染めていたのだった。
そして、リムルの大賢者の放った黒炎斬撃は、いつまでも再生を阻む事は出来なかった様だ。悪食者が炎ごと喰らったからだ。
「黒炎も取り込んだゾ。……
黒い炎をも纏った腐蝕性オーラが周囲から迫ってきた。
『うわッ!! なんか、ズルい!! あんな簡単に自分たちのチカラ奪うなんてっっ!! ブーブー!』
「解。アティス=レイのユニークスキル:物真似も似たようなものかと」
『似たようなモンどころか、見ただけで真似れるアティスの方が絶対ズルい。ズル過ぎ』
「解。以下同文です」
アティスの文句に一斉に非難が飛ぶ。
確かに、見て解析して、スキル全部ではない、とは言え真似る。安易に、と言うのであれば、アティスだって負けてない。寧ろ、リムルやゲルドは喰わないと体現出来ないので、アティスの方がズルい。
『なんで皆して矛先がオレなのッ!!? と言うか、すっごい余裕だよねっ! 大賢者さんっ!? 掴まれちゃってるよ!?』
炎に包まれてると言うのに、オマケに、炎の中からあの大きな大きな腕が出てきて、捕まえられたというのに、ツッコミを入れる所を見て驚くアティス。
慌ててるのはアティスだけである。
「リムル様!!」
「……いかん。如何にアティス様の守護範囲は広範囲に広げてるが故に、密着されてしまえば防ぎきれん」
キチッ! とシオンとハクロウが己の獲物を引き抜こうとしていたが、ベニマルが制止させた。『我らが主を、お2人を信じろ』と。
「さぁ、防げるモノなら防いでみロ。我が進化した悪食者は、脆弱な貴様らの全てを喰らい、奪ってくれる。サァ、腐り溶けて死ネ」
「……否。ここまで密接したのにも関わらず、かの力を、かの存在を把握できないとは。……魔王種とは言え、誕生間もなく酷な話」
「……ナニ? フン、何を喚こうと貴様の腕を見ロ。溶け始めたぞ」
リムルの手がドロリ、と原型を留め無くなり、それはまるで本当に腐っている様にも見える。色も蒼っぽいから。
でも、アティスもここまでみて漸く皆が落ち着いてる理由が判った。
アレは溶かされているのではない。部分的にスライムに戻り、そして ゲルドの身体を拘束しているのだと。そして、決め手は 次のリムルの技――
以前聞いた事のあるイフリートを捕食した時に習得したリムルのスキルの1つ。
「光の加護を得た我々に、現状負けの要素は皆無」
炎に包まれるゲルドにそう告げる大賢者。
リムルは炎の耐性があり、一緒に燃えたとしても関係なく、元々 超防御力を備えたアティスには炎は通じない(炎耐性を獲得、物真似をしていないので、熱い!! と思うかもしれないが……)。
故にゲルドのみが燃え尽きるだけだ。……と考えていたが、魔王と言うのは甘くない様だった。
――確認しました。
燃え尽きろ! と放った炎に耐性が出来てしまったから。
「グクク……。魔王の力。オレには炎は通じぬ様だゾ? 耐性も経たオレ。これからもあらゆる耐性を得続けよう。そして、攻め手に欠けるのは貴様らダ。軍配はどちらに上がるカ、それこそ火を見るより明らかダ。極上の餌。どれだけ時間をかけようとも、喰らいつくしてくれる」
「敵、炎への耐性獲得を確認。殲滅計画変更」
「告。――貴様に、アティス=レイを喰らう事など不可能」
大賢者は次なる手を模索。
賢者は何処となく怒ってる様な口調だった。対象に《貴様》と言う時点で、何だか怖い。
いや、大賢者も殲滅! と言う単語を使ってるので、それなりに怖いかもしれない。
そんな スキル達と比べて 今度は主人格側は落ち着いていた。
『アティス。任せとけ、って言っておいて格好悪い気もするが、物は相談だ』
『はい、だいじょうぶですよ! と言うか、こっちも格好悪いトコメチャ見られてますし、リムルさんなんか、まだまだ全然ですっ!』
『そりゃそうだな。んじゃあ 前に大賢者に聞いたんだけどな、