メタリックなスライムになっちゃった   作:フリードg

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14話

 

「敵、殲滅に向け軌道修正を」

「無知で幼稚な者に分相応を」

 

 物凄く不機嫌モードになってしまってる賢者と大賢者。賢者に関しては姿形はミスト状だから見えないんだけど、はっきりと表情が判る気分だ。

 

 まさに怒髪天、と言う事が。

 

『交代だ。大賢者』

 

 あまりに熱くなり過ぎてる様なので、リムルが表立って出る意思を示した。

 不機嫌だと言う事はリムルも十分に判ってる。だから、落ち着かせる様に徹した。

 ……いつもと逆な気がするが。

 

『大丈夫だって、あんまり熱くなるな。今度はオレ()に任せてくれ』

 

 達、と言う言葉を聞いたのとほぼ同時に、アティスも声を上げた。

 

『だいじょーぶ……だからね? いつもより怒ってる賢者さんも、なんだか、嬉しい気もするけどさ。リムルさんからのとっておきの作戦聞いたから。 そう、大丈夫大丈夫!』

 

 怒ってくれてる賢者に対して、嬉しくもあり、それでいて何だか頭が上がらない様な気もするアティス。おずおずと声をかけて、後半からは リムルの作戦を思い出しつつ、絶対の自信を醸し出し、大きく頷いていた。

 

「……了」

 

 それを聞いた賢者は、ある程度 頭? が冷えたのか、応じる様子。心なしか声色も元通りとまではいかないが、柔らかいものになっていた。

 

『前に大賢者が言ってただろう? 互いの魔素を融合させて より大きな力を得る術があるって。単純な足し算じゃなくて、上手くいけば掛け算。魔素同士の波長とか、色々合わせるみたいだけど、魔素の性質は十人十色で、不確定要素も多くて、かなり確率が低いって言ってたが、成功すれば凄い。アティスとなら何となく出来そうな気がする』

「解。可能性面から鑑みると、限りなく高いかと」

 

 大賢者も頷いた。 

 これで決まりだ、と。

 

 その間は時間にして数秒ではあるが、置いてけぼりを喰らってるゲルドは 自分が何処となく無視されている事に感づいたのだろう。

 

「……どれだけ時間がかかろうトモ、喰らい尽くしてくれるワ!」

 

 激昂すると同時に、魔素量もより強化されていた。可視化する腐蝕のオーラは視る者全てを喰らい尽くすかの様な勢い。

 

 アティスのメタルミスト、光で守られ、暖かささえ感じていた者達も、思わず身震いしてしまう程だった。

 

 が、それでも余裕を一切崩さないのは、大賢者と交代を果たしたリムル。

 

 そう、全てはもう終わったのだ。いや、決まったと言うべきだろうか。

 

 この戦いの勝者がどちらなのかが。

 

 

――解。成功しました。

 

 

「焼け死んだ方がまだマシだったかもしれないぜ? こっちの炎の方がまだ優しいってもんだよ。こりゃ」

 

 

 

 そのリムルの言葉と共に、覆っていた炎が消失した。

 

 

炎化爆獄陣(フレアサークル)が解けた!? それに、光が!?」

「リムル様! アティス様!!」

 

 炎が消失し、人間形態だったリムルの姿が ドロリと溶けた。 それと同時に、周囲を護る様に覆っていたアティスの粒子も同時に消失。 最悪の光景を目の当たりにしてしまったのだから。

 

 だが、その真の意味を直ぐに理解したのは ハクロウだった。

 

 

「(魔素が急激に増大した? 成る程……、まさか この目で見られる日がこようとは)お待ちくだされ」 

 

 思わず駆けつけようとしたベニマルとシオンを制する。

 

「お2人の消失、とは真逆。先ほどとはくらべものにならない程のオーラを感じられます。……そして、リムル様のアレは腐り溶かされたのではないでしょうな。よくごらんなされ」

 

 ハクロウの言葉を聞き、改めて魔王ゲルドの方を凝視。すると、ドロリと溶けたリムルの身体はうねりながら、ゲルドの腕にとりついていた。

 それだけでなく、そのリムルの身体はまるで輝き出したかの様に、青く光沢を放っていた。

 

 

「ぐ、グあ……!? き、貴様……ッ!」

「言ってなかったか? オレは、オレ達はこう見えてスライムなんだよ。それに喰うのはお前の専売特許じゃなくてな」

「オノレ……! ならば、先に…… ヌぁ!!」

 

 リムルの身体を喰らおうとするが、出来ない。

 

「それも無理。今のオレは融合してるも同然だ。さっき、お前が喰えないって言ってたヤツを纏ってる。……お前は一方的に喰われる」

「そんな、馬鹿な事が……!! ならば、他の餌どもを!」

 

 他の者達を喰らおうとするが、一瞬でも気を抜けば、手が、足が先端から無くなってしまう。

 ゲルドは、自己再生にて 回復を優先させなければ、喰う間もなく、自分自身が喰われてしまう事に気付いた。

 つまり、八方ふさがりだ。

 

「ば、バケモノ、か……!?」

「オレもそう思うよ。今回のコレは結構偶然。すげぇな、魔素融合(ユニゾンレイド)って。オレの捕食者(スキル)とアティスの変体化(スキル)を合わせたら、凶悪ってもんだ。――ま、宝くじ当てるくらいの確率っぽいし、モノにしたのは偶然だけど。……同情するよ、お前には」

 

 リムルは、本来のスライムの姿をゲルドの眼前に出した。それと同時に、アティス自身も姿を見せる。

 

「皆を傷付けた、傷付けようとしたんだ。……やり返されたって、文句は言えないよね?」

「き、きさま、が……!?」

 

 光の粒子が集まって、姿を見せたアティス。 

 まるで、自分とは真逆な存在。魔と対照的な存在を、今更ながら本能的に理解するゲルド。

 

 だが、それでもあきらめたりはしなかった。

 何とか喰らおうと足搔く。圧倒的な差を見せられても、足搔く。

 

「(そりゃ、オレだって諦めるなんてしたくないが)」

「(何でここまで……)」

 

 ただただ、極限の飢餓に襲われてしまって、見境が無くなっているだけとは思えなかった。言動からは考えられない程の想いが、伝わってきた。

 

 

 

 そして――、景色が変わった。

 

 

 その場所は、枯れ果てた大地。乾いた土地に、泣き続けるオークの子供と、それを見ている大人のオーク。 オークの王、つまり 魔王ゲルドとなる前のオークだ。

 

『腹が減ったのか。少し待ちなさい』

 

 泣き続ける子供たちにそう告げると、己の腕を引きちぎり、与えた。

 

――大きくなれ。

 

 そう言葉を添えて。

 

 それを止めようとする側近。

 貴方を失えば絶望しか残らない、と。

 

 だが、それでも止めない。

 

 それは、オークたちの住む土地の未曾有の大飢饉。

 一昨日生まれた子は死に、昨日生まれた子は虫の息。

 

 今以上の絶望はもうない。

 

 そして、己の身体は幾ら切り刻まれようとも、再生するが、他の子達はどうしようもなかったのだから。

 

 これが、ジュラの大森林へと足を踏み入れた理由であり、魔族ゲルミュッドに利用されてしまった理由でもある。

 

『………』

 

 アティスは言いようのない感情に見舞われる。

 確かに目の前で仲間達が襲われ、仲間達は家族を、その一族を失う切っ掛けになってしまった。その怒りの感情も確かに見た。感じた。

 敵側の事情など殆ど考えてなかった。ただ、領土を広げようとした程度にしか。

 

 なのに、目の前の光景は――。

 

『あの方はオレに食事と名を与えた』

 

 そして 目の前のオークの姿が魔王ゲルドのものになると同時に、起こった全てを語り始めた。

 

豚頭帝(オークロード)となったオレが喰えば『飢餓者(ウエルモノ)』の支配下にあるものは死なない。飢える仲間達を救えるのだと。……邪悪な企みの駒にされていたようだが、それに賭けるしかなかった。……それしか 道はなかった』

 

 魔王の表情は、先ほどまで戦っていたゲルドのモノではない。心優しき、オークの王のものだった。決して譲れない決意をその表情に感じた。例え、他の誰かを犠牲にしてでもと。

 

『だから、オレは喰わねばならないのだ。……お前たちの存在の異質さは身体全体で感じている。例え、何でも喰うスライムだとしても、……たとえ』

 

 くるり、と 振り返り、その場にいるリムルを、そして アティスの目を見た。

 

『……たとえ、神であろうと、喰わねばならない』

 

 光を感じたゲルドが表現したのは、神と言う名だった。 

 

『生憎だが、お前は喰えない。そしてオレは喰える。……大賢者や賢者の言葉じゃないが、負けの要素は一切こちらにはない。お前は負ける』

『それでも、同胞が飢えているのだ。オレは負けられぬ。……オレは他の魔物を食い荒らした。名づけの親でもあるゲルミュッド様も喰った。……助けるべき同胞をも喰った』

 

 ここは、ゲルドの意識の世界。

 現実では、確実にリムルの捕食者はゲルドを覆いつくしている。再生も追いつかず、身体が溶ける様に小さくなりつつあった。

 

 光の防護を纏うリムルの捕食者に敵う道理が無い。

 

 それを肌で感じたオークたちは、ただただ ゲルドの名を呼び続ける事しか出来なかった。

 

 そんな仲間達の声を、視線を感じるゲルドは決意を新たにする。もう、幾ばくも無い命の残り火を燃やす。

 

 

『オレが死んだら同胞たちが罪を背負う。……最早、退けぬのだ。皆が餓える事の無いように、オレがこの世の全ての飢えを引き受けて見せよう!!』

 

 

 王の決意、威圧はすさまじいものだった。瀕死の状態だとは到底思えない。

 

 でも……。

 

『それでも、お前の負けだ』

 

 リムルは告げる。勝てないと。……負けると。

 アティスも声を上げた。

 

『ゲルドの想いは判る。……けど、退けないのはこっちも同じ。だから オレが、全部護るよ。……全ての罪を背負ってでも助けようとしたオーク達の事も、……オレが護る』

『……なに?』

 

 光の礫が、リムルの仲間達だけでなく、オーク達をも覆い始めた。

 まるで、加護を……光の加護を得たかの様な、温かささえ感じられた。……感じられる資格など、有る筈がない、と思っていたのに。

 

『オレは、アティスの様に甘い事を言うつもりは無い。……だけど、意味は一緒になるかもな』

 

 リムルは、最後の仕上げと言わんばかりに、身体の面積を広げた。

 

『お前の罪も、お前の同胞の罪も、オレが喰ってやる。オレは、『捕食者(クラウモノ)』だからな。お前たちの罪を喰い、そして、オレの罪事 こいつに護ってもらうよ』

 

 その言葉を聞いたゲルドは、とうとう膝を落とした。

 

『罪を喰う……、いや、我らを 護る、だと……? オレの同胞も含めて?』

『ああ。判ると思うが、こいつは相当な甘々でな。さっきまで怒ってたんだけど、もうソレ忘れてるみたいだ。……それに、オレは欲張りで、何でも喰うんだ』

『……オレは負ける訳には――、いや 護られる権利など、オレには』

 

 光の粒子が、ゲルドの手に纏う。まるで、手を握っている様に。

 

『別に甘くたって良いじゃないですか。……オレは、もう何も言えないです。ベニマルさんたちには、申し訳ないですけど。見てしまったから、何にも、いえないです』

『非情になりきれない、ヘタレスライムだから、か?』

『……自分でヘタレって言うならまだしも、他のひとに言われるのには抵抗ありますけどね!』

 

 ゲルドは、その手に 殆ど原型をとどめていない手に、温もりを感じた。

 

『……まさか、魔王になった我に、光の加護……とは。それに 久しい。……いや、初めてかもしれぬ。ここまで暖かいと思うのは』

 

 だらりと力なく、ゲルドは倒れた。

 

『眠い、な。ここは心地良い。……暖かい。強欲で、罪を、全てを喰らう者よ。……そして、光の神よ。多大なる、感謝を―――。オレは、もう――飢えること、はない』

 

 溶け続ける身体が微かにだが、光始める。

 まるで、ゲルドの身体が光の中へと、光になるかの様に。

 

 

『オレは、満たされた――。光に、全てを……』

 

 

 

 豚頭魔王(オークディザスター) 名をゲルド。

 

 たった今、完全にリムルの中で、アティスに看取られ、意識が消滅した。

 

 スライム状になっていたリムルは、人型へと姿を変える。

 アティスも、散らばっていた光の粒子が集まり、人の姿へ。アティスの目には涙が一筋流れていた。

 

 そのアティスの頭をくしゃっ、と一撫でした後に、リムルは仲間達を見て告げた。

 

 

「オレ達の勝ちだ。……安らかに眠れ、ゲルド」

 

 

 その場が歓声に包まれる。

 オーク達は悲痛な顔持ちの者達が多く、信じがたい表情もしていたが、先ほどの様な 眼をぎらつかせ、極限の飢えに縛られた悪魔の様な顔をしている者は一人もいない。

 

 

 

「……王よ。やっと、解放されたのですね……」

 

 側近のオークは、もう形すら残さず逝ったゲルドを思い、頭を下げていた。

 

 

「アティス。あんだけ、皆にも、……ゲルドにも啖呵切ったんだろ? 有限実行も出来たんだ。しょげた顔はもう止めにしよう」

「……判ってます。護るって言っといて、情けないですもんね。ずっとコレじゃ」

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