「山‐634M、山‐635M……」
「リムルさん……、あとどれだけでしたっけ……?」
「……1分前に言っただろ」
「でしたっけ……」
「湖‐1F、湖‐2F、湖‐3F……」
「リムルさん……、あとどれだけでしたっけ……??」
「あ゛あ゛ーーー! しつッッこいッッ! 喰うぞ!?」
「はい。……しょーじき そっちの方が良いかもしれないです……。リムルさんのお腹の中で待ちたいです……。あ、ヴェルドラさんとか、イフリートさんと話、してみたいですし」
「現実逃避すんな!! それにサボろうともすんな! オレだっていっぱいいっぱいなんだからな!」
リムル達は、オーク達に名前を付けている真っ最中です。
時折、ゴブタが隊列を整える様に見回りに来る以外にいるのは、ずら~~~~っと並ぶオークたちのみ。
因みに、今つけてる名前がテキトー過ぎ……と、きっと思うだろう。と言うか名前じゃなく記号だ。勿論これにも理由がある。
オーク達の名前を付けてる為だ。
―――そう、15万を超える数のオーク達の。
会議での休憩(強制)が終わり、その後 今後の課題の対策を模索していた。
食糧問題に関してが一番大変だと思っていたのだが、その辺りは問題ない、と断言してくれたのがトレイニーだった。
森の恵み、実りを出し惜しみせず提供する、と。つまり
その食糧の運搬や指揮、スムーズに決まったのだが、問題は今現在、衰弱しているオークの子供や女、非戦闘員たちだった。オークの王 ゲルド 亡き今、良くも悪くも影響を与えていた《
ゲルドの影響で、魔物にとっての生命線でもある魔素が一時的に増加していたのだが、それも失われていき……軈て死んでしまう。
つまり、食糧用意し、配布している時間はないと言う事だ。
そして、それを防ぐ手立てが……今回の名付けである。15万もの数の……。
『……アティスとオレで、半分ずつにするか? オレが7千5百で、残りがアティスだ』
『って、無茶な計算しないでくださいっ! 桁間違えてるのわざとでしょ!』
15万の半分なら7万5千……、なのは置いといて、アティスはこの名づけの過酷さが正直な所、まだ本当の意味では分かってない。単純に15万と言う数に圧倒されてるだけで……。
『名をつけると魔素を持っていかれるんだよ。強化分の魔素を喰って、その喰った分を与えるって感じで 理論上は ずーーっと出来るって、大賢者も言ってるけど、疲労感が半端ないだろ? と言う訳で公平に分けるぞ、アティス』
『ダメです』
『そうだな。よしよし、頼んだ……って、ダメ!? なんでだよっ!!』
今回はアティスは、嫌々逃げてる様子は一切なかった。
顔は真剣そのものだったから、リムルもあまり怒ったりツッコんだりせず、理由を聞く。
『名付けって、その付けられた人が付けた人の子。……配下になるも同然なんですよね? なら、自分が付けちゃうと色んな問題が……、亀裂が生まれそうなのが嫌なんです』
『はぁ? 問題? 亀裂?? そんなもんに心配してるのか? 大丈夫に決まってるだろ』
リムルは断言するけれど、アティスは首を横に振った。
『……はい。リムルさんならそう言うと思ってました。判ってました。オレだってきっとそう思います。皆の事だって信じてますから。……けど、これからも絶対に無い、とは言えないと思うんです。数が増えるに従って 知らない所で派閥とか、独立~とか。ほら、人の歴史でも……、家族間で、兄弟で争った事なんて沢山ありますし。……オレも無い、とは思うんです。でも……、理想の国が出来て、沢山仲間……家族が増えて、リムルさんが盟主である以上、少しでも蟠りが出来るかもしれない事はしたくないんです』
そこまで説明されて、流石のリムルも黙る。
リムル派! アティス派! その対立!! ……現在では決しておこる事はないと思うが、後々にどうなるか…… それはリムルも断言は出来なかった。でも、おこるとしたら大分先の事だとは思うし、可能性とかを考えたら、起こらない方がきっと高い。だから、小さい事を気にし過ぎだ、とアティスに言いたかったが、きっと首を縦に振る事はないだろう、と理解出来た。そっちは100%の確率で。
ゲルドの話を聞いていた時、ゲルドが消滅した時、その時のアティスの姿を見てるから。気が小さい、消極的、と言うよりは 優し過ぎるとも言える性格だから。その性格が現在の能力に反映しているのではないか? とも推察出来た。逃走に……じゃなく、防御に特化した能力。攻撃ではなく守る力になった訳が此処から来ているのでは、と。
『はぁ…… ったくもー、判ったよ』
『……ほっ』
『あからさまに安心しやがって。大賢者、アティスに別方面で手伝って貰いたいんだけど、なんかいい手あるか?』
――解。アティス=レイの魔素を譲渡しつつ、名付けを行う事により不安は解消されると推察。
『んー、つまり、疲れたらアティスから力貰って、オレが続行。アティスの力をもらって名づけ祭を開催してるけど、オレがしているから、名付け親はオレになる、って事で良いか?』
――はい。
と言う訳で、それなら頑張ります、と嬉々と意気込んだアティス。
でも、数が減った訳でも無い。
15万の名付け地獄――デスマーチダンス!
その過酷さを……完全に甘く見てた。
「……リムルさん、オレ、すりーぷもーどに入っちゃいそうです」
「その辺はだいじょーぶだ。自己申告より、はるかに正確に測ってもらってっから。
「ぅぅ……」
色々と文句や弱音を言い合いつつも着実に進んでいく名づけ地獄。
それが証拠に、ゴブタが次に来た時こう言っていたから。
『リムル様、アティス様。次で最後の集団っすよ。約2千っす』
と。
「2千が多いのか少ないのか……わかんなくなっちゃってます」
「気にすんな。オレも同じだし」
15万に比べたら……約1%くらいだ。小さい小さい、と自分たちに言い聞かせてると、そこへやってきたのは、オークの中でも特に強力な力を持つ者達だった。
「お願いがございます。……我らは、
「(そうだな……、うちにも労働力が欲しいのは事実だし)良いぞ、判った。アティスもそれで良いか? って、聞くまでもないか」
アティスは、手を作って 親指と人差し指で〇を作っていた。
聞かれるまでもない事だ。
「よし――、ここまで来たんだ。折角だからお前に先に名前を付けよう。ずっと考えてたんだ。お前には
「良いですね! それに格好悪いけど、オレだけじゃきっと抜けちゃってる所があるから。宜しくお願いします、ゲルド!」
王ゲルドの記憶の世界で、その傍にい続けたのが目の前にいるオークだ。最後まで心配し、そして
「その名を賜る事の重み、しかと受け止めました。……我が忠誠は、貴方様方に。この命、尽きるまで」
「おう。期待してるぞゲルド」
「頑張りましょう!」
「ははッ!」
ゲルドの忠誠をスライム肌で感じていた所で、アティスの頭の中に 賢者の声が響いてきた。
――告。リムル=テンペストの魔素を急速に消失を確認。至急、自動魔素譲渡変更を推奨致します。
「ええ!? それはまずいよ! わ、判った、判ったよ! リムルさん!!」
「へ? “ぷすんっ……”あ……やばっ」
リムルの身体が徐々に形を保てなくなり、液状化しそうになったので 即座にアティスが魔素を送る。今までは制御が難しいから、賢者のスキルを活用し 効率さを重視した譲渡を行っていたのだが、魔素の消失があまりにも早いから方法を変えた。
因みに――この方法を行う時の注意事項はちゃんと事前に賢者からアティスは聞いている。リムルの魔素が尽きそうになると言う事は、アティス自身の魔素も危うくなってると言う事。リムルが先に倒れる訳にはいかないから、頑張らなければならないと言う事。
つまり――
「はうっ……」
アティスの方が先にリタイアしてしまう可能性が高い、と言う事だ。
リムルの代わりに、アティスの身体が変化しだした。メタルスライムから所謂はぐれメタルな感じに。元々変体化のスキルで身体を自在に変化出来るから、見栄えは変わらないのだが、中身が完全な別物だった。
――告。
「(わー、これがすりーぷもーどなんだーー、……ぜーんぜん、うごけない……)」
「アティス、キミの犠牲は忘れないよ……、って言いたいんだが、まだ2千あるんだぞぉ……」
「(オレ、死んでないよぉ……、りむる、さん…… ごめんなさい……、あと、おねがいします……)」
初めてのスリープモード。正直な所 意識が遠くなりつつ視界が暗くなり、周りが全く見えなくなり、恐怖以外の何物でもない状態だった。
これなら起きて名付け地獄を一緒にしたいくらい、とも言えるのだった。
アティスがダウンした事で、魔素供給が無くなり、リムルの負荷が増大したのだが、結論から言って最後の1人に名付けをするまで耐える事が出来た。
名を付けた瞬間……、べちょりと身体が溶けてしまい、最終的に2人はシオンとシュナの手で手厚く介抱されるのだった。
その後も色々とあって、皆で頑張った。
他のゴブリン一族が総出でやってきて、オークの時に比べたらマシとは言え、また名づけ祭が始まってしまったり。
何だかんだと大変だったけれど、皆で 頑張った甲斐はあったと思う。顔つきが全然違うし、其々の家族が家を持ち、衣食住も整いつつあったから。
ここは 1万を超える魔物たちが暮らす街。まだまだ小規模だけれど、魔物の国が出来たから。
□□ 武装国家ドワルゴン □□
ドワーフの王――ガゼル・ドワルゴはかねてより、秘密裏に調査を命じていた暗部からの報告を受け、そして思案に暮れていた。
元々は、以前この国にやってきた1匹の
1つは、魔物の住む町を建設中と言う事。
そしてもう1つは、警戒する
街に関しては、正直冗談か? とも考えたが、王に虚偽をする様な不届き者はこの国には存在しない。
ただ事実を告げるだけで、それは今までも、これからも変わらない。
そして、もう1つの存在――銀色の
暗部も目を疑いたくなる存在らしく、魔物らしからぬ光を纏う存在との事だ。
光と一重にいっても数多の種がある。火を起こし、発するのも火の光だろう。朝日の光もそう。……だが、神々しささえ醸し出す光は、なんとも形容しがたい存在らしい。
歴史上、光を纏う魔物など存在しなかった。光は、無くてはならないもの。この国でもそれは変わらない。国民が暮らす為には、光が無ければならないだろう。街の光、国の光、……一定の輝きを超えれば、それは聖なる存在となる。正直、報告だけでは計り知れない
まだ、報告書には続きがある。
今回は 光の
□
□ 謎の魔物集団の参戦により、終戦。
※ 謎の魔物達の中に光を持つ
眼を疑いたくなる報告を受けるのは 王となって初めての事だった。
それでも、幹部たちにも伝えぬ訳にはいかないので、ガゼル王は即座に緊急会議を開く事にした。
「――王よ、暗部からの報告はなんと?」
「脅威の1つ、
最初の王の言葉から場が騒然となるのは仕方ない。此処にいる者全員が、
「なんですって!? 一体どこの国の部隊が……」
「国と呼べるかは、まだ判らんな。確認できたのはホブゴブリン、牙狼族の変異種、鬼人と思しき魔人が4名、……その全てが例のスライムの配下だと思われる……、と言うのが報告だ」
場がどよめく。
鬼人もかなりの上位な存在。それを従えるスライムの存在など誰が信じようものだろうか。これが暗部の、王の言葉でなければ一笑するにとどまるだけだろう。
「鬼人を従えるスライム……
「ふむ。が、注目すべきは次だ。……不確定要素はあるが、光を纏うスライムも出現した、との事だ」
「……光?」
「うむ。変異種か新種か……、または……。いや、まだ判らぬ」
口ごもる王。王が不安を煽る様な物言いをするのは初めてだった。それ程までな存在なのだろう、と誰もが思った。……スライムの光とは? と疑問にも。
「王よ。どちらのスライムも捨て置けぬ、と言う事でしょうな」
「どうなさるおつもりですか、王よ」
ここから先は、机上で論を交わすだけでは限界がある。
ならば、どうするのか。……もう決まっていた。
ガゼル王は、報告書を蝋燭の火で燃やして焼失させると、告げた。
「決まっておろう。余自らが見極めてやろうではないか、あのふてぶてしいスライムの正体をな。それに迫れば光のスライムとやらも自ずと把握出来よう」