□□ ラミリス迷宮95層――エルフの森 □□
リムルはテンペストの主だったメンバー全員を引きつれてこの層にまでやってきていた。
「あの…… アティス様。ここで何を?」
迷宮体験はフラメアもしているが、残念な事に冒険者メンバー全滅と言う末路になっちゃってるから、この層までは届いてなく、ここに何があるのか知らなかった。そして、何をするのかも知らされてない為、疑問に思っていた様だ。
「んーーー、ないしょ?」
「ふぇ?」
「あはは。直ぐに判るよ。と言うかリムルさん言ってたでしょ? 『お花見』するって」
「そうですが……よく判らなくって」
「まぁ それもそうだよね。お花見…… 桜は多分此処にしかないと思うし。まぁ 楽しみにしてて。フラメアちゃんのセリフ借りるなら絶対星3つだから」
迷宮と言う事もあり、それなりに緊張をしていたフラメアだったが、アティスと話をしたことで、大分楽になれた様だ。
アティスは、
……と言うか同等と言うか、対を成す存在と言うか、相棒と言うか……。兎も角 様々な異名が轟いてるので これと言った断言は出来ないが兎に角物凄い地位を持つ存在で、物凄い存在である。
でも、気さくと言うか朗らかと言うか、身体の堅さに反比例して色々と物腰柔らかい為、打ち解けるのにも異様に早い。 だから、フラメアも直ぐに気楽に話す事が出来るようになったのだから。アティス自身が、かったるい話し方禁止! と言ったからというのもあるかもしれないが。
「ほんと、色々とやり過ぎなのよね。リムルは」
アティスの隣にいるヒナタは 呆れた様子でため息を吐いていた。当然彼女も同郷の為 花見の事は知ってるし、何をするのかも知ってる。でも、まさかその為に全てを用意するとは思ってもなかった様だ。
「何言ってんの。ヒナ姉も楽しみにしてる癖にー」
「っ……。まぁ、嫌いじゃ無いわよ」
ヒナタとアティスのやり取りを見てたフラメアは また楽しみが増した。辛口コメントの多いヒナタも楽しみにしているともなれば当然だ。
そして――先頭を歩くリムルから声がかかる。
「お前らーー、こっちだ。この先。ついたぞーー!」
光を遮る巨大樹の森を抜けた先に見えたのは 鮮やかな桃色の輝きだ。
それはリムルやアティス、ヒナタ…… 異世界人たちの故郷 地球で春を告げる木、桜の並木。
暖かい風に乗り舞い散る桜吹雪は圧巻で、フラメアはただただ目を奪われていた。
「うわぁ~! 星3つ!」
「ふふっ。だよねー。ここはいつきても良いな」
子どもの様にはしゃぐフラメアを、そして鮮やかな桜を見ながら、アティスはただただ笑っていた。
今回の事を説明をすると花見の企画は、リムルからの提案だった。
――それは遡る事5日前のこと。
「お花見…… ですか?」
「ああ!」
緊急会議! と突然銘打って集められて、言われたのは まさかのお花見企画だった。
「お花見かぁ……、良いですね! でも緊急招集! なんてしなくても良かったんじゃ?」
「う……、まぁ そうなんだが、ほら オレ迷惑かけちゃったじゃん? この間の銅像の件で……」
「ああ…… なるほど。納得です」
銅像の件、と言うのは リムルを象った銅像が盗まれた、と言う騒ぎの件である。
あまり増えるのもよろしくないな、と思ったリムルが誰にも相談なく持ち去った結果――窃盗事件として、大々的に報じられ、職人間は勿論、テンペスト全体がパニックに陥ったと言っても良い。
怒りに震えるシュナとシオン、静かな殺意を漲らせるディアブロ、ソウエイの分身体総動員、ベニマルの
(因みに、アティス像もあったのだが、リムルと殆ど姿が変わらないという事と『これは全部リムル像にしましょう!』のアティスのごり押しで リムルの像のみになったのは別の話)
「いえ、それはリムル様の考えがわからなかった私達が原因で……」
シュナが慌てて 迷惑なんてとんでもない! と伝えようとしたのだが、間に割って入って煽ってくるのは、魔王の1人ラミリス。
「まったくよ! 魔王なんだからもう少し考えて行動しなさいよ! このラミリス様みたいにね!」
「ぐぬぬ……」
煽り耐性はそれなりにあるリムルなのだが、いつも面倒を起こすラミリスに 言われるのは相当堪える様子だ。自分が原因で、間違いなく自分が悪い騒動だと判っているからこそ、である。そう騒動によく巻き込まれる1人でもあるアティス。今回は特に同情していたので、リムルの目の前で煽るラミリスをひょいっと持ち上げた。
「まーまー、ラミリスちゃんもそんなに言ってあげないでって。リムルさんだって色々大変なんだからさ?」
「って、コラ――! アティス! この私をつまむな! 魔王様だぞっ! リムルと違って魔王になってないくせに!」
「それ言ったら、オレ神様だぞーー、がおぅー! ほらほら~~」
「揺らすな私で遊ぶなーーー!」
「(ほんと、助かるよ……、アティス。ちょっとスッとした)」
あはは~ とラミリスで遊ぶアティスを見て、グッジョブ! と言わんばかりにリムルは親指を立てる。
色々と話が脱線している様だが、ここでフラメアが花見の話題に戻した。……戻した、と言うより、よく判らないから聞きたかった様だ。
「え、えっと、お花見……でしたっけ? お花を見るのであれば、わざわざ皆さんで見に行かなくてもその辺にあるんじゃ?」
お花見。読んで字のごとく……の行為であれば、街を着飾る花は幾らでも植えられているから、とフラメアは思った様だ。
「それが少々違うんだよ、フラメア君。何故なら、花見は1つのお祭りなのだからね」
キランッ、と目を輝かせながら言うリムル。
そして、それに同意する様にアティスも笑顔で頷く。ラミリスはアティスの顔を引っ掻いていた。(傷1つ付かないが)
そして、場面は 95層のエルフの森に戻る。
鮮やかな桜の並木を前にして、リムルが言っていた意味が解る気がするのは フラメア。
沢山の美味しそうな料理を並べながらリムルとアティスに聞く。
「これがリムルさまやアティスさまの故郷の花なんですね」
「ああ、そうだ。この花が咲く季節にこうやってみんなで親交を深めるのが“花見”なんだ」
「因みに、これは桜って言うんだよ。普段からとても美味しいけど、こう言う場所で食べたり飲んだりって ほんと格別なんだー」
コチンッとジョッキを合わせ、酒を酌み交わすリムルとアティス。本当に楽しそうだと思った。何より、フラメアはもっともっと聞いてみたくなった。
「お2人の故郷はいろんなお祭りがあるんですね! もっとお話しを聞いてみたいです!!」
「お、おう……」
「フラメアちゃんのスキルなら、聞くより見る~ 百聞は一見、だけど 全部再現するのは大変、かな。でもさ まずはこの花見を楽しんでよ。はい」
「勿論ですっ! あ、わざわざすみません」
酒を注がれ、きゅっ と言い飲みっぷり。
このまま、お花見と言う名の宴会が始まった。
「綺麗な花ですね。薄紅色に包まれ、なんとも……」
「ええ、本当に綺麗です」
シオンとシュナ。今回ばっかりは リムルやアティスより 花に、桜に魅入っている様子だった。因みに、シオンは 花より団子だったようで、直ぐに美味しい美味しい料理に目を奪われ、食したのは言うまでもなく、リムルやアティスを笑わせるのだった。
集まりからやや離れた所で、ハクロウが腕によりをかけて握ってくれた寿司を食べているヒナタ。
「あはは、ヒナ姉はやっぱ寿司好きだよね~、ワサビ抜きの」
「何よ、文句ある?」
「いやいや。なんかさ ちょっと昔――思い出して」
「……そうね」
舞う桜の花弁を眺めながら、アティスは言う。
「ちょっとだけ、ほいっと」
「っ……。はぁ、皆が混乱するからその姿にはならないんじゃなかったの? リュウ」
「いや、何だかさ。自分で本名禁止ー! って言っといてなんだけど、ヒナ姉といる時はこの姿が自然かな、って。もうずいぶん昔の話なんだけど、ついこの間の様な気もするし」
「……それは否定はしないわ。しっくりくるもの」
アティスの姿は、リムルの姿―――ではなく、少年の姿へと変貌していた。あまり見せない姿で、テンペストのメンバーもリムルを除けば殆ど知らない。だから、侵入者? 不審者? って思われる可能性も捨てきれないので見せない様にしている。と言うより、昔の姿を見せるのは少々恥ずかしくて抵抗があったりもする。
「昔――……ね」
ヒナタは、アティスの言う『昔』と言う話を聞いて、少しだけ表情が曇っていた。
思い返すのは、アティスの言う この世界に来る前の話――ではない。
脳裏に映るのは、翅の様に軽く扱えていた筈の武器が重く、重くのしかかる様に扱えなくなった姿。ただただ、止められない あふれ出る涙。
どうしてわからなかったのか。どうしてあんなことをしたのか。
ただただ、見ているだけしか出来なかった。涙を流しながら。
冷たくなっていく最愛の………。
「……ねえ?」
まだ ヒナタは引き摺っているのかもしれない。『大丈夫』と何度も言われているが、どうしても。
「ヒナ――」
こんな穏やかな気持ちに自分が成れても良いのだろうか、と思う。魔物は悪だと決めつけ、刃をつき続け続けた過去は消せないのだから。例え、理由があろうとも。
甘んじている自分が情けなくなる時もある。あの何処までも沈む絶望の感触が、まだ脳裏に残ってて、身体が重く沈みそうに――。
「ヒナ姉!」
「ッ……」
そして、沈みそうな身体をいつも救い上げてくれるのが、このアティスだった。
「な、なに」
「………ヒナ姉?」
「……御免なさい。ダメよね、こんな席でこんな気持ちじゃ」
「うん。判ってるならヨシ! って、なんかいつもとは逆だねー。説教されるのって、オレの方ばっかりなのにさ」
ちゃんと元に戻ったヒナタを見て、ははっ、と安心して笑うのはアティス。姿もしっかりと元の姿に戻っていた。過去の……昔の姿を見せたのが少し悪かったのかもしれない、とアティスは少し自分を責めかけたが、直ぐに安心出来た。
「こうやって、こっちだけでなく、向こうでも飲みに行きたかったわね」
ヒナタはそういって笑ってくれたから。
アティスは、ただただ笑って頷くだけだった。
そんな思い出に浸ってる所に闖入者が1名。
「妾を差し置いて、随分と楽しそうじゃのう、
舞い散る花弁を演出に、現れたのは魔王の1人 ルミナス。
「あれ? ルミナスさんも来てたんだ」
「来ぬ訳ないじゃろう? 妾も興味があってのぅ……」
「桜に? ああ、ヒナ姉から聞いた? 今回の事」
「それもそうなんじゃが……、もう1つ、興味とは少し違うか」
「??」
ふわっ、と消える様にアティスの横に移動するルミナス。後ろから抱きつく様に腕を回し、耳元で妖しく囁く。 そして、勿論 ヒナタも黙ってない。
「妾の事を、『ルミ姉』と呼ぶのはいつか、とな?」
「……ッッ、ええ! ソレ、もう良いって言ってなかったっけ!?」
「くくっ、やはり来てよかった。子ウサギも見れ、楽しみが増えそうで何よりじゃ」
「ルミナス……?」
「(ヒナタのこの表情を見れるのもこれはこれで―――……)」
その後も沢山沢山楽しんだ。沢山食べて、飲み、語らい、全てを楽しんだ。
あっという間に日も落ちて、月明かりが照らす空間へと変わる。
殆どが飲み潰れて眠っていたが、リムルは 酒を片手に桜を見ていた。
想うのは、
「(シズさん。……見せたかったな――、この景色。シズさんにも)」
きっと喜んでくれるに違いない。
彼女が生きた時にも当然ながら桜はあった筈だから。沢山の惨劇があった中でも、桜はいつも春と共にあった筈だから。
そんな時、ふいに升に酒が注がれる。
「……さんきゅ」
「どういたしまして」
いつの間にか、横に来ていたのはアティスだった。
「毎日毎日、大変だけど、楽しい事も沢山あって……、こういう夜も良いよね」
「……まぁ、な。やっぱ 色々と思い出しちゃうんだな、桜って」
リムルもそっと、アティスの升に酒を返杯。
もう本日 何度目になるか判らないが、コチンッとまた合わせた。
まるで、それに応えるかのように、丁度2人の升に一枚ずつ、桜の花が落ちてきた。
「――なぁ」
「ん?」
「また、こんな風に咲くかな?」
鮮やかに咲き誇る桜をみて、呟くリムル。儚げなリムルを見て、アティスは笑った。
「魔王権限じゃーー、桜よ咲けーー! で、きっと、だいじょうぶ!」
それを聞いて、つられてリムルも笑った。
「なんだよ、それ。どっちかっていうと、神様権限じゃーーの方が咲いてくれるんじゃないか?」
「んじゃ、2人で頑張りましょー」
「……だな」