「いやなぁ、アティスの旦那なら大丈夫なんじゃねぇか? 傷1つ負わなかったんだろ?」
「いやいや、これだけはぜーーーったい譲れませんよ! それに目に見えない傷ってのは存在するんですっ! ね~リムルさん?」
今日は完成間近の装備を見にドワーフ&オーガの工房へと足を運んでいる。
いい加減、ミリムが御馳走を前にして我慢できない~~と言った表情になってきてるので、それを落ち着かせるという意味合いでもあり、なるべく早く仕上げてもらう為に、最後の仕上げ(仕掛け)を施す為に、リムルとアティスの2人は訪れている。
「まぁ、あれだな。被害がアティスだけだってなっちゃうと、別に――――」
「えええ!!?」
今回の件に関してはリムルも間違いなく同意するモノだと確信していたアティス……だったが、まさかの返答に驚愕を通り越してしまった。だけど、取り合えず心配も杞憂となる。
「んでも、やっぱ
「ヒドイっっ!! 他ってなんですか! 俺の危険もしっかり考慮してくださいよっ!」
「いや、だって。アティスってば、ミリムとジャレてたのもそーだけど、カリュブディスやらメガロドンやらと耐久勝負出来てた挙句に、あのデカいミリムの
「ヤメテください!! 思い出させないでくださいっ!!」
ミリムがカリュブディスを吹き飛ばした必殺技に関しては、もう誰もが目に焼き付いて離れない。それほどの衝撃を持った事だろう。
そんな一撃を巻き込まれた形で、ミリム自身がカリュブディスのコアとされたフォビオを殺さない様に加減していたとはいえ、五体満足で生還を果たしているのだからある意味ではリムルの感性が正解だ。
ただ、あのトラウマはアティスにしか解らないのも事実。
そして、何より――――
「そもそもリムルさん、悩んでないですよね!? 目が笑ってます! いつかのイヤらしい笑みです!!」
「ははは、バレたか。冗談冗談」
「言って良い冗談と悪い冗談があるんですーーー!! ミリムさんのアレ、大変なんですからねっ! 無傷な訳ないじゃないですかーーー!」
アティスは、ヒト型に戻ってリムルの身体をポカポカと叩き始めた。
リムルはスライム状態のままで、そのポカポカを受け止めつつ……何だか遊んでいる。
この様子はたまに見かけるので、慣れてる者達からすれば、和むのでありがたいイベントの1つになってしまっているのだ。
当の本人は物凄く、ものすごーーーく真剣なのだが。
「わかったわかった。と言うか、マジで冗談だって。俺だって他人事じゃねーし―――ってな訳で、『減速』と『脱力』の効果を刻んだ魔鋼を忍ばせて~~~っと、ほい完成!」
「よかった……」
最強の魔王が一角、ミリムに対してどこまで通用するか……いや、端から通用するとは思っていない。何せ
でも、何もしないよりはマシだという事で……
そんな時、まるで見計らったかの様に乱暴に勢いよく工房の扉が開いた。
笑顔のまま、飛び込んでくるのはミリム。ワクワクしている様子は宛ら少女と言うより少年の様な面持ちだ。
「できたのかっ!?」
ちゃんと注意した通り、扉を壊さない様にしてくれてる。
リムルやアティスは勿論の事、シュナもミリムに頼んでいるので、どうやら効果はあった様だ。……扉の寿命的なのは幾らか縮まったかもしれないが、即破壊に比べたら何ら問題ない。
「約束してたミリム専用の武器……ドラゴンナックルだ」
「おお~~~~~~っっ!!」
「カイジンさんやクロベエさん達、それにリムルさんも加わった力作ですよ。凄い一品ですっ」
「うおおお~~~~~~っっ!!」
ミリムは頬擦りして目を輝かせていた。
物凄く喜んでくれていて、ここまで喜んでくれたらこちらも嬉しくなる、と言うものだ。
「むむ、アティスは何もしてくれてないのか? ……マブダチなのに?」
「えっ?」
目を輝かせていた―――が、少々しょんぼり? した様な様子も突然現れた。
リムルやカイジン・クロベエたち、皆の名前が出てるのにアティスの名が出てない事に対する不満が有った様子。
何より、アティスは身体そのものが鍛冶にピッタリ? でドワルゴンの王国からも国王直々にスカウトが来る程の天才肌(笑)。
「えっと、ほら。俺はこれから仕上げをするんですよっ? すんごいのが出来ますよっ!」
「おおおっっ!! ほんとかっ!??」
「は、はい!」
可哀想だ、と言う事と後で大変そうだ、と言う気持ちが合わさって慌ててアティスはそう言い、リムルは耳打ちをしてきた。
「(おい、俺聞いてないけどだいじょーぶなんだな? てきとーな事言ったり、軽はずみな事いったり、じゃないんだな?)」
「(は、はい。多分……。自信満々って訳じゃないですが……、何せ今回は自分の発言から、ですし。ちゃんと後でフォローはしますよ……)」
アティスは、そういうと身体を光らせた。
光粒子がゆらゆらと空中を揺蕩い―――ミリムのドラゴンナックル周囲に瞬く。
そして、仕掛けておいた魔鋼に取り込まれる様に―――消えていった。
「あの、ミリムさんは元々が最強で、何も効かない! とは解っているんですが……、一応、光おじいちゃん……、ひかじいの光を武器に込めました。日に1回だけ、1度のみの完全防御。物理・魔法・精神……etc あらゆる攻撃を無効化出来ます」
「うおおおおお~~~~~~!!」
また、ミリムは目を輝かせた。
すると、ヒト型になってるアティスに腕を回して、リムルも抱き寄せて。
「嬉しい! 嬉しいぞ!! 私が最強だとか、関係なく、凄く嬉しいぞっっ!!」
「むぎゅっっ、よ、よろこんでいただけて、光栄で――――」
「良かったな」
以下・大賢者・聖母を使った思念会話。
『お前ってほんっと器用と言うかなんというか…………って、おいおいおいおい、器用ってレベルのデキじゃねーよな? 無茶苦茶凄い能力じゃね? 今の。大賢者も思わず黙ったぞ』
『……はぃ。
『うへぇ……。想像しただけでヤバい……。でもまぁ、ミリムも喜んでくれてるみたいだし、後の責任取ったって意味じゃ、よくやったな、って言っておくわ。流石、我が弟よ! 今後も、テンペストを頼むぞ!』
『………嬉しい事極まれり~~~ですが、名付けの何十倍ですからね? 乱用できませんからね??』
『ぴゅ~~~~』
『聞いてくださいよっっ!! 弟殺す気ですか!?』
楽しそうな脳内会話? が続く。
そんな2人を、まるでお茶でも酌み交わしながら見ているかの様に―――直ぐ傍にはそれぞれの相方がいた。
『『はぁ………』』
それは呆れてるではない。半分は入ってるかもしれないが、それでもあのカリュブディス騒動が終わり、平和な日常に在る意味安堵しているのだ。
そう、あのカリュブディスの1件から数日たって、ここ
戦いを見届けていたフューズたち冒険者はブルムンド王国に帰還。友好関係を結べるように、国王はじめ貴族らを説得してくれるらしい。
『なぁに、ヤツらの弱みを握っているのでね。どうとでもしてみせますよ。……と言うか、全力で媚び売る所存だよ。脅迫してでも』
説得、と言うよりハッキリと脅迫と言い切った所を見ると……色々と思う所があるが、安心感・説得力が凄い。
それと駆けつけてくれた兄弟子が治めるドワーフ王国。後日改めて今回の件を報告する事になっていた。……なって
気付かない内に何やらガゼル王から正式な招待状を貰ったのだ。
『よし。ウチで言う国賓待遇にされて然るべきヤツはアティスだな。うんうん、適材適所』
『………ぼく、1人じゃガゼル王に、あの顔に抗うのムリですぅ……、気づかない内に、ドワーフ王国に取り込まれて―――』
『あーーー、それ却下。わかったわかった』
と言う訳で、後日。王であるリムル、No.2であるアティスは揃って向かう事に。国賓待遇されるので、物凄くビビっているのは秘密だが、互いに支え合ってるも同然なので、ある程度は緩和された。
続いて
なんでも、使者に志願したらしい。
物腰が非常に柔らかく慇懃で最初とまったく違う。
因みに、頭を下げる際 リムルよりもアティスの方が角度にして2.5度ほど深く、時間にして2.3秒ほど長く下げていたそうな。(測定者:大賢者&聖母)
つまり、これらから解る通り、成り行き、行き当たりばったり感満載だった
『大変ですねぇ……』
『メチャクチャに働いて貰うからそのつもりで。サボんなよ』
『……サボれませんて。そんな事したらもっと大変になるのが目に見えて分かるので』
駆け引きがあるとはいえ、基本的には平和なのは事実。
気を引き締めよ、勝って兜の緒を締めよ。
隙を見せない様にする。
この魔物が当たり前の様に跋扈し、色々な所で争いが絶えない世界なら当然だ。
だから、しっかりと日々の戦闘訓練は欠かせない。
「リムルさん、ファイトですっ!」
「おー、いい加減変わってやるよ」
「わっはっはっは! 変わる必要などあるまい? 2人まとめて相手してやるのだっ!!」
「え……………」
そして、訓練の質は間違いなく世界中探してもそうは見つからない程良いと言える。いや、何処よりも上と言っても良い。
何せ、最強の魔王がここで暮らしているのだから。
「にっ」
「あ……」
「ひぇ……」
命からがら。
命がけ。
訓練とはどこの国でも……、どの世界でも………命の危険性は付きまとうモノ、だろう。
2人がかりで攻めても攻めても、ちょっと攻勢を強めただけ(の様に見える)のミリムに一蹴されてしまう。
超高密度のエネルギー波をぶっ放されたら、即座にKO。
「―――――――――」
「……ぐへぇ……、お、おら……きぃ、うしなって、んじゃ、ねーぞ」
「にひっ。2人ともなかなかよくなってきているぞ! ワタシ以外の魔王ならば2人ならば間違いなく倒せるだろう! だから、2人ともが魔王になれ! ワタシは反対しないのだ」
「……いや、ならないって。そもそも、魔
「メンドウ、か? それ以上に面白くなると思うから、問題ないのだっ! と言う訳でもう一度なのだ!」
「いや、休憩な? ほら、シュナが弁当作ってくれたし」
「なにっ!? なら休憩なのだ!! アティス、こっち来るのだ!」
「………………」
と言う訳で、地獄の特訓が済めば、シュナの美味しい美味しいお弁当タイム。
至福の時。
アティスもどうにか復活を果たして同じく美味しいお弁当タイム。
「むむ、やはりアティスは良いな。良い匂いがするのだ」
「え……、俺、臭ってます? ねぇ、マザー……」
『解。ヒトの五感、魔力感知、それら含めたとしても感知不能』
「すんすん。……臭うか? 風呂入ってくるか?」
「ええぇ……、なんか嫌です。後で直ぐ入ります」
匂う発言で色々と身嗜み、エチケットに気を付ける様にしたのか、アティスはミリムの腕の中からすり抜けて、ヒト型に戻った。丁度、ミリムとリムルの間に座って、己の嗅覚で確認をしようとする……が、メタリックな感じの臭いもしなければ、汗臭い……みたいな臭いも無い。自分では感じられないだけ、と言う事も考えられるんだけど、己のスキルやリムルの言葉もあるから、安心……したい。
でも、指摘しているのがミリムだ。
「わっはっは! 解らないのも無理ないのだ! ヒカジイと長く遊んだワタシだからこそ、その片鱗を、アティスから感じ取れているだけだからな。如何なる技、スキルを用いた所で、ワタシの様に感じる、とまではいくまい。―――だからこそ、嬉しいのだ。アティスに敢えて。……勿論、リムルもだぞ?」
「あ、あはは……光栄ですよ」
「へいへい。ん? そういや、ミリムは何で魔王になったんだ? そのヒカジイ……、光の神と何か関係が?」
「ん?」
以前からミリムに関する事、気になっていた事をリムルは聞いた。
最古参の魔王、最強の魔王、くらいしか情報が無いミリム。友人となったからには、マブダチとなったからには……色々と聞いてみたくもなる。
「んーーーそうだな……。なんでだろ? 何か嫌なことがあって……、まぐまぐ、んぐんぐ」
ミリムはサンドイッチを頬張りながら暫く考え込んで……。
「ムシャクシャして?」
「え、小首傾げるって事は俺たちに聞いてる?」
「歴史が短すぎる。解る訳ないだろ。聞くなよ」
「む~~~、よく解らん。思いだせん! 忘れたのだ!!」
「そっか」
「……そう、ですね」
気になるのは事実。
でも、無暗矢鱈にその歴史を、その深淵を覗こうとも思えない。
何せ、魔王なのだ。その過去がどんなモノだったのかなんて……、良い話だとは思えない。
ミリムのムシャクシャして、と言う言葉が真実なのであれば、魔王化する程のナニカが、彼女の身に起こったという事。
それは、決して楽しい思い出だとは思えないから。
「あ、ミリムさんは、家族とかはいないんですか? ヒカジイ以外に」
「お、それは俺も気になってた。なんせずっとここにいるから、心配してるんじゃないか? って」
話題を変えて現在の話に。
流石にそれを忘れている、なんて事は無いだろうから。
「ワタシの世話をする者達はいるぞ。でも、あの者どもは心配などしておらぬのだ。ワタシはサイキョーなので、心配すら恐れ多いと思われているのだぞ」
「……なるほど、祀られてる、崇められてる、って事なら解りますね」
「むむ! 解らなくて良いんだぞアティス! いきなりあの者達の様に振舞ったら、ゲンコツなのだ!!」
「ヒェッッ!? わ、わかりましたっっ!!?」
慌ててミリムはアティスを抱きかかえる。
ヒト型に戻っていたアティスだったが、直ぐにスライム状に変化。そしてあまりにビックリしてしまったので勢い余って液状化までして、はぐれメタルとなった。
「いや、ビビり過ぎだろ。……俺だってわかるよ。トモダチじゃないもんな? そんな関係」
「おう! その通りなのだ。リムルは解っているのだ!」
ミリムはアティスを纏い、そしてリムルを抱きかかえた。
「マブダチはお前達だけなのだ!」
「ですね。そうですね。よろしくお願いします」
「……そうだな。これからもよろしくな、ミリム。2人揃って迷惑かけるかもだが」
「勿論なのだ! 全然かまわないのだ!」
そして、この数日後だった。
ミリムが仕事に行くといい、この国から姿を消したのは――――。
ロケットの様に空を飛び、あっという間に見えなくなったミリムの軌跡を目で追いながら―――呟く。
「やっぱり心配、ですね」
「ああ。アイツは戦闘分野オンリーにスキルポイント振り分けてっから、誰かに騙されたり~とかは普通にありそうだからなぁ。体よく利用されるとか。……一先ず、マブダチになっといて良かったって事か。騙されたとしても、いきなり俺たちに攻撃してくるなんて無いだろ。精神系の攻撃にもべらぼうに強いし」
「その辺は心配してませんよ」
「お? そりゃ意外だったな。てっきり、ミリムのあのドラゴバスター!! 想像して震えるかと思った」
「…………そりゃ、怖いですけど、ミリムさんを、トモダチを信じてますから」
「だな」
リムルはアティスに全面同意――と言わんばかりに笑って踵を返す。
まだ、しなければならない事が多いからだ。
そんな時……だった。
夢か現か、幻か……。
大木の切株に1人の女性の姿が視えた。
その姿は儚く、悲しく、虚空に視線を向けていた。
もう一度、はっきりとリムルがその姿を見ようとしたその時、一陣の風が吹く。
一瞬、ほんの一瞬視線を外した後……もうその姿はどこにもなかった。
「ああ……、わかってるよ。忘れてたわけじゃない」
「???」
アティスはリムルの独り言? が聞こえて傍に向かうと。
「じゃあ、こっからは手分けして工事の様子でも視察に行っとくか?」
「あ、はい了解です」
はい、と元気よく頷くアティスの頭を、無意識にリムルは撫でた。
そして、いつもからは考えられない程優しく
「わぷっ!? ど、どーしたんですか」
何故か優しくなったリムルに、アティスは目を白黒させるのだった。