水色のスライム、リムルは考える。
トレイニーにどういう要件でここに来たのか? という疑問より、先ほどの正体不明の声についてだ。
何故だか判らないが、あの正体不明の声の方が、妙に気にかかっていた。
「(今のって、絶対この人の声……じゃないよな? と言うか、どっから声出た? なんでか判らんけど、すっごく気になる……。んー、なんでだろ?)」
それは、全く脈絡もなく、文脈も合わないセリフが突然聞こえてきたから。
確か、『マジ?』とか『ええええっ!』とか、『この子なの?』とかがだ。
大賢者に聞いてみると、このトレイニーと言うお姉ちゃんは、森の最上位の存在であり、《
例えて言ってみれば 女社長、みたいなものだと思った。
そんな階級が上なお人が下々の皆さん相手に『マジ?』だの『ええええっ!』だの言うとは思えない。外観から見ても、そんな風に思えないし、想いたくもない。
つまり、結論付けると 今のはこのお姉ちゃんじゃない。
でも、不思議な装備みたいなのがこの世界にあったっておかしくない。喋る剣、みたいなのがあったって全然不思議じゃない。なので 普通はそこまで追求しなくても良い、と思うんだけど、凄く気になる。
「(大賢者。今の声の主、判るか?)」
――解。声の主は
「(身に着けているモノ ……あの羽衣? ほんとに?)」
――告。現段階において、これ以上の解析不能。捕食者を使用すれば或いは可能かと。
「(……またぁ? っていうか、いきなりお姉ちゃんの着てるものを捕食しろなんて無理に決まってるだろ! ………と言うより、なんで出来ないの? トレイニーさんが妨害してるとか?)」
――解。違います。……断片的にではありますが一部判明。超高濃度、凝縮された魔素の残滓を確認。残滓であるのにも関わらず、
「(ええ! ひ、ひかりのかみ?? ……なんかヤバい感じなのが出てきたな、それ)」
ただでさえ、トレイニーの出現で何十年ぶりだーとざわついているというのに、更にその上位にもなれば、何百……下手したら、この世界に降りた事のない伝説とも言われる相手かもしれないのだから。
何より、想ったのが 大賢者を使って解析しようとした事が、不敬ととられるのではないか? と言う不安だ。
あの声に関しては、自分以外にも聞いていて、不審に思っている者たちが多い。特にベニマルやシオンに関しては、やや臨戦態勢気味。
「(追及するのが正しいのか、下手に刺激せず、ここは抑えた方が良いのか……)」
時間にして、数秒にも満たない程だが、リムルは自問自答を繰り返していた。
メタルなスライム、アティスは考える。
序盤の初見殺しより酷い大ボス級、と勘違いしてた。
最上位な存在の方は
この辺でも最強(想像)のスライム軍の中に飛び込み、その主力部隊に囲まれて、……さぁ大変。
「(羽衣羽衣羽衣…………ボク羽衣)」
だから、もう装備品として生きていこう……。と自己暗示する勢いで念じ、さっきの失言を無かった事に。発言そのものを無かった事にしようと頑張っている。
もの凄く頑張ってる。
一生装備として使われたりするんだーー、と悲痛な想い、そして回避しようと おかしいメタルスライムまで演技したのに。大根役者でもそれなりに頑張れた! と褒めたいくらい頑張ったのに。それも忘れて。
きっと、そう踏み切れたのはトレイニーの存在があったからだろう。
――……さっきまでの事は忘れて、さぁさぁ今は、ただの着物、供物、……トレイニー様、我を捧ぎましょう。
装備として頑張れば、見逃してくれるかもしれない。四六時中ずーっと着ている訳でもないだろうし(それはそれで嬉しいかもしれないけど……)、きっと自由にしてくれるかもしれないから。
「(………賢者さん。ボク、がんばって メタルな羽衣になれてる??)」
――解。何もせず動かなければ 立派な羽衣です。
「(………そうっ!? よっしゃーーっ!!)」
――……そこは喜んで良いのでしょうか?
簡単な応答、回答くらいしか出来ない筈なのに、賢者の感性がやや上がってきた気がする。
――告。スキル《
賢者の性能? が上がったらしい。完璧とはいいがたいが、より人間味を増したナビゲーターとなった。
そんな色んな意味で同族と言っていいかもしれないスライム達の思考、其々の思惑をよそに、トレイニーは一歩前に出た。
「本日はお願いがあって罷り越しました……が、まずはこちらのご説明を優先した方が宜しいですね」
スルっ、と纏った衣服? を脱ごうとするトレイニー。確かに下にまだ羽織ってるものがあるとはいえ、まさかのストリップショーに目の前のスライム驚愕。脱ごうとされてるの判ったはぐれメタル驚愕。
「えええっ! ちょ、ちょっと脱いじゃ駄目ですって!!」
「そーですそーですっ! 脱がないでーーーっ!!」
殆ど同時に言葉を発した。アティスに関しては折角暗示が成功しかけてたのに、台無し。……成功したらそれはそれで自我が崩壊する一歩手前だったかもしれないが。
因みにスライムたち、声色は正直似ている。そんな2人が同時に発した事でステレオ感がこの場に響いて更に訝しむ人たちが増えた。発生源には、場にはトレイニーとリムルしかいないというのに。
トレイニーの存在を知っていて、それにリムルの手前、下手な行動はとらないが、それでも違和感バリバリだから。
「誤解なさらずに。皆さんもお気づきでしょう。私が纏っているこのお方は、決して羽衣などではありません」
呆気にとられる面々を余所に、マイペースに説明を続けるトレイニー。
「訳がありまして、今このようなお姿になっておられますが、この方は“魔物を総べる者”リムル=テンペストの同族。アティス=レイ様にございます」
トレイニーがまるで、神様に捧げる……、と言った姿勢で両手で大事に羽衣をもって、上に掲げていた。
更に、自身の身に纏っている森の輝き? みたいな光をキラキラと羽衣周辺にちりばめて、と演出抜群。
当の羽衣=アティスはと言うと。
怒涛の展開についていける訳もなく、トレイニーが一言一言発し、その言葉の意味が自分に当てはまるのを感じる度に、びくんっ! びくんっっ! と反応してしまうから、もう皆にただの羽衣じゃない、と言うのがバレてしまっていた。
突然、同族紹介されたリムルはと言うと。
「へ? ……オレの同族?」
いきなり何を言い出すの? と混乱したのと同時に、妙な胸騒ぎと知りたい、と言う欲求。なんでそんなに気になったのか、その答えが理解できた。
どうしてなのかは判らない。大賢者でも判らなかったのだから、自分が判る筈もない。なのに、なんでか反応した。……つまり、同族だから反応できたのだ。
「トレイニーさん。それは本当なのか? その羽衣(さっきから動いてるし、羽衣とはもう思ってないけど)が?」
「はい。その通りですよ」
トレイニーは素晴らしい笑顔でリムルに答えた。
それを聞いてリムルも何だか笑顔になる。
そして、リムルを取り巻く面々には少々衝撃が走る。
リムルはスライムでありながらも圧倒的な力と魔素量を持ち、彗星の如く現れ、瞬く間に複数の種族を統一した偉人。魔物の主。魔物を総べる者。つまり、皆のボスだ。
唯一無二、と思っていたお方にまさかの同族がいたとなれば、驚きは隠せられないだろう。
そんな周囲の反応を余所に混乱していたアティスは正気を取り戻していた。
「(―――すとぉぉぉっぷっ! え、えと、えとえと、賢者さんっ! トレイニーさんとだけ、念話! できますですかっ!? できれば 体感時間圧縮、超圧縮! いつまでも喋れるよーに!!)」
――解。可能です。実行いたしますか? YES/NO
『イエスっ! とと、いけるのかな!? トレイニーさーーん! 聞こえますか? 応答してくださいっ! あ、出来れば 皆さんに判らないように!』
『はい。聞こえておりますよ』
意外にも直ぐに返事が返ってきた。
皆の前で分けわからず披露されて、正直悪意の様なのを感じられずにはいられなかったアティスだったのだが、安心できた。ほんのちょっぴり。
『突然なに言い出すのですかーー! ぼ、ボクはただのスライム。いえいえ、メタルなスライムと言ったでしょっ! それにスライムとメタルスライムって 同じ……と言えなくもないかもですけど、違うでしょー!』
『漸く貴方様とお話できますね。心よりお喜び申し上げます』
『いえいえ。こちらこそです。トレイニーさんっ! ……じゃなーく! それはボクとしても嬉しいですっ! でもでも、なんでこんな魔物さんたちの中心でボク、掲げられちゃってるんですかっ! それに、ツッコまない様にしてましたけど、どーして、ボクに敬語で話すんですか!??』
そう、アティスはそこにも正直気付いていた。ずっと怖がってて、どうにか逃げれないかを考えてて、トレイニーの事が判って、今度はこっちが従う気満々にしてて……、つまり 完全な上。最上位だから当たり前だが、媚び諂うつもりだったのに、トレイニーの方が敬意を払ってるんだ。
そんなパニックなアティスとは対照的に、トレイニーは落ち着いた様子で、それでいて喜んでいる。話せるのが嬉しい、と言わんばかりな声色で続けた。
『本当は出会ったあの時に全てを説明致したかったのですが、アティス様がお話を聞いてくださいませんでしたので……』
『はぅ……』
最後の方だけやや悲しそうだった。
そう。混乱しまくってて、最上位な存在。としか認識してなかった時の事だ。……ほんのちょっと前の出来事。正直凄く恥ずかしいかもしれません。
『今は落ち着いてお話できますね? この念話はどうやら 時間を気にせず行える様ですので』
『あ、ハイ。……オネガイイタシマス』
『光の神G.O.D様の事は、ご存じでしょう?』
『あ、勿論。おじいちゃ……。オレに色々と世話をしてくれた恩人。いえ、恩神様です』
『はい。神様に、その御方に あなた様を宜しく、と頼まれたのです。……魔物を総べる者、リムル=テンペストの集落に溶け込めるように、と』
『……へ?』
トレイニーさんの説明は更に続いた。
なんでも、光の神様は あの洞窟で別れた後も地上に滞在してて、
そして、神様も言っていた様に、この地上に降臨するのは滅多にない。異例、と言っていいらしく、図らずも謁見出来た事に感激したトレイニーは その切っ掛けを与えてくれたアティスの事を崇拝したとの事だ。
『……光のおじいちゃん。ほんと色々とありがとう、だよね……。こんなオレに』
話を聞いてて、じーんっ、と感激するアティス。愚痴ばっかり言ってた気がするのに、こんなに優しくして貰えるんだから。
でも、そんな感激も吹っ飛んだ。
『えっとですね。最初は『首に縄付けて、運んでやれ』と申されました。『十中八九ヘタレるじゃろうから、問答無用で スライムの集落に放り込んでやれ』と。後『無敵の身体持って癖に怖がるな、けしからん。さっさと爆心地にもっと近づかんかい』とも言付かっております。そして、最後に『見守っとるぞー』……と』
『……………………』
『あの御方の命令……とはいえ、流石にそこまで強引には、私としても抵抗がありましたので 羽衣状でお連れした次第です』
おじいちゃんは、きっと孫の様に思ってくれてるんだろー、と思ってたのに、何だか今は、ちょっと違う。
孫は孫でも、前の世界では超人気だった漫画に、海賊が主人公な漫画に出てくるおじいちゃんと孫な関係に思えた。
そして、アティスは何だか幼児化してしまったのだろうか。念話上の事なのに、まるで大泣きしている様に見える。
『さぁ、期待を背に、頑張りましょう! アティス様!』
『うわぁぁんっっ! おじいちゃんのっっっ、違うっ! G.O.Dのばかーーーっ!』