「ほいストップ。みんなー この辺で野営にするぞー」
パンパン、手を叩いて号令をかけるリムル。
なんだか生徒を引率する先生の様にも見える気がするなー、とランガのモフモフを身体全体で堪能しながら、アティスはリムルを見ていた。皆が信頼していて、尊敬もされてて、憧れだってありそうで……、理想的。
「やっぱり自分とは違うよね~……。似てるだけで似て非なる~って感じだよぉ……」
尊敬の念を送り……だが、そんな念もランガもふもふするモードになってしまってる。この素晴らしい感触を前に抗えない。
ぐでぇ、と更にアティスはだらしなく力を抜いていた。
それを横目で確認したのはリムル。
「おーいアティスー! そろそろ起きろー」
「むにゃ~ あと5分だけですー……」
「ベタな事言ってないで働けっての。1人だけ楽すんの禁止だ」
「あぅ~……確かに、働かざる者喰うべからず、だよね……」
皆がせっせと野営の準備をしてくれてるのに、自分だけだらけるのなんてもってのほかだし、ありえない。……でも、ランガの背から離れるとなると……恋しくなる。名残惜しい。
でも、何とか煩悩? を退散させてるアティス。ランガの背に頬擦りさせながら。……逆効果だと思うが。
そんな 未練がましく頬を摺り寄せてるアティスを見て リムルは苦笑いしつつため息。
外見は兎も角、精神はいい歳の男だというのが正直複雑な所。これで本当に女子だったら、と何度か思ったりもした。……シズの外見でそれをされると凄く微笑ましくも思える。客観的に自分自身を見たらきっとこう思うんだろうな、とも思いつつ……やっぱりそれ以上に占めるのは悪戯心である。
アティスはいじりがいある、ともいえるが、反応の1つ1つが妙に面白いのだ。
「この辺結構生い茂ってるっすね~。小さい虫も多いし。寝ると刺されまくりそう」
「お、なら焼き払おうか? 虫も含めて」
「そんなのしたら、ここら一帯が焼野原になっちゃうっすよ……」
そして、リムルはゴブタとベニマルの会話を耳にして、1つ閃いた。
この時偶然にも またいやらしい笑み? を見たアティス。でも、何を考えてるのか、とか 何をするのかの予測までは出来ないから、後手後手に回ってしまった。
ここでリムルが取った行動は、ランガに。
『喜べ、リミッターを解除しても良いゾ~』
と言った事。更に。
『アティスはメチャメチャ ランガに感謝しているよ。兄弟のオレとしても嬉しい事極まれり、だ』
そうとも加えた。アティスは嫌な予感がビンビンと感じていたんだが、言っている所に変なトコは無いし、乗せてくれて背中を堪能させてくれて、本当に感謝はしてる。
だから、リムルの言う通りだよ、と軽く会釈をする。……のが失敗だった。
リムルが何をしようとしてるのか、大体察したハクロウとベニマルは せっせと移動。それとなく全員に指示した。
その後の結果、草木の生い茂ってるこの場所が、まっ平らになった。
リミッターを解除したランガの狂乱……狂喜? は凄いものだった。
リムルに言われた事がやっぱり嬉しい、と言うのもあるだろう。尻尾をぶんぶんと振って喜んでいた。尻尾を振って喜んでるだけなのに、竜巻が発生したのかな? と錯覚する様な暴風がランガの尻尾を中心に沸き起こり、あっという間に色々と吹き飛ばしてしまったのだ。
つまり、油断してたアティスは当然ながらお空の彼方、である。
「いやー さっきのランガさんのアレ凄かったっすね。んでも、この辺綺麗になって、これで気兼ねなく焚火も出来るってもんスよねアティス様。生い茂った所での焚火。正直、燃え移っていったら危ないっす」
「そーだねー。火の取り扱いには注意してねー。火は危ないからねー」
「だ、だいじょうぶっすか? 自分の炊き出しの準備は自分に任せてゆっくりしてきて良いんすよ??」
青い顔をするアティスに心配してくれるのはゴブタ。どうやら今の自分は、リムルにより近づけたのかもしれないな~、と割とどうでも良い事を考えてた。
隣でにやにやと笑うのはリムル。引き起こした張本人だ。持ち前の運のスキルで怪我とかは一切ない。そもそも堅牢な身体を持ってるから、運のスキルが無かったとしても、かすり傷1つ負わないだろう。……でも、所謂 心の傷? は別。
「ま、早く起きなかったアティスが悪いな。きっと」
「否定しません。ちょっとだらけ過ぎちゃってたって思ってます。……んでも絶対、ジェットコースターの件の時、既に考えてたんでしょ!? あの生身クレージーヒュー・ストンさせたのって!」
「おー、何だか懐かしい響きがする単語だ……。ある意味嬉しいよ。今は亡き故郷の話題が出るのは」
「そりゃどーもですっ! でも、ほんと 自分には しゃれにならないんですから、カンベンしてくださいっ!」
顔を青く? させながらもぷりぷり怒るアティス。
何があったのかの詳細を説明すると。
竜巻に巻き上げられたアティスだが、最後には見事にランガでキャッチした。いい位置に落下出来たのは運のおかげ。それでも60mくらいは上空に飛んだ気がするまさかの事態だった。そして、リムルが睨んだ通り、絶叫系……落ち系は苦手との事だ。かつての記憶、人間だったころの記憶が鮮明に戻り、つまり心? に凄いダメージがいったようで、口から変なの吐き出して、新たな はぐれメタル…… いや、バブルスライムを生む、なんて事態になるかも、と思ったが、避けられた。
それでも なかなか尾を引く様だった。
リムルは、怒るアティスを どーどー、といなしつつ、周辺の状況確認をソウエイに指示。
ぷんぷんと怒りつつも、おちゃらけている様で、それでもしっかりと周囲の確認は怠らない様にと指示を出せるリムルを見て やっぱり凄いな、とアティスは思う。……色々±0になりそうだけど、それはそれだ。
「あっ、そういえばリムル様。約束の褒美っすけど、ちゃんとクロベエさんに頼んでくれたっすか?」
「約束の褒美? ゴブタ何かしたの?」
「そっすよ。リザードマンの連中が押し掛けてきたとき、そのリーダーのヤツと一騎打ちになって、自分がとりゃー! っとやってやったんすよ! その時、リムル様が約束してくれたんす。自分が勝ったらクロベエさんに武器を作ってもらう様頼んでくれる、と」
「へぇー、凄いじゃんそれ! それにクロベエさんの武器って格好良いし、凄い業物! って感じがするし。やる気出るよね。そんなご褒美があったらさ!」
クロベエ、カイジンの合作に目も心も奪われそうになっちゃったアティス。だから ゴブタの嬉しそうな、生き生きしてる様な目も解るから意気投合。
「(……違う意味で、背水の陣だったんすけど、それは言わない方が良いっすよね)」
ゴブタはと言うと、クロベエの武器と聞いて、さっきの疲れ? も吹き飛んだ様子のアティスを見て、本当の意味で気合が入ったのは、別に理由があるとは言えなかった。
これが後に新たな災いを呼ぶのはまた別の話。
「ゴブタの武器だったら、小刀……小太刀とかかな? でも、オレにくれた時に一緒に渡したらよかったんじゃない?」
ちらっ、とアティスはリムルを見た。ゴブタも同じく視線をリムルに。
ばっちりと2人と目があったリムル。……目が完全に泳いでいた。
「……ん? リムルさんどうしたの?」
「……まさかとは思うっすけど。忘れてました?」
「いやいや、忘れてないよ?? 帰ったらちゃんと頼むって!」
「いやいやいやいやリムルさん。帰ったら、って……忘れてたって事じゃん」
「そんな事ねーって。あっ、ソウエイからメッセ入った! この話中断中断!」
そそくさと逃げるリムル。
どうやら、本当に忘れてたみたいだ。
「めっせ、ってなんすか?」
「めっせ、っていうのはね……。まぁアレだよ。ソウエイさんから連絡がきたーって事で……」
懇切丁寧に教えてあげるアティス。
話の肝はそこじゃないと思うけれど、ゴブタがちょっと気の毒なので、ここでアティスがプレゼントを考えた。ゴブタにもとてもお世話になってるから。
「じゃあさ、戻るまではこれで代用っていうのはどうかな? 短刀だけど」
とぷんっ、とメタルスライム状態に戻って、身体からうねうね~ と短刀を取り出した。
全体的に銀色。アティスの身体の色そのもの。
「わっ、アティス様くれるんすか!?」
「うん。まだまだ練習中のスキルで作ったものだから なまくらだと思うし、クロベエさんの代用って言うのは烏滸がましいけど、これでも貰ってくれるなら」
「いえいえ! すげーー嬉しいっすよーー! ありがとうございますっすっ!」
ぴょーんと喜びをあらわにするゴブタ。結構立ち直りが早い性質らしい。
「もっともっと練習しないとだけど、喜んでくれたなら嬉しいかな? やっぱり」
「あれはアティス様がお作りに?」
「ん? そうだよー。スキルのおかげだから、そんな大層な事じゃないんだ。だから、カイジンさんやクロベエさんたちとは比べないでね?」
「ははは。そんな事はしませんよ。リムル様もそうですが、様々なスキルをお持ちでやはり凄いです」
アティスは人型に戻ってベニマルにそう告げる。ベニマルはスキルの多い2人を見て改めて驚きと敬意を込めてみていた。
因みにアティスが判明した生成系のユニークスキルは『
光の神様曰く、最高クラスの堅い身体を貰ったようなので、それを利用するスキル、らしい。
「(キンゾクノオウ、ってまんま訳したらメタルキングだね……)ん? よくよく考えたら、自分の身体を削って作ってるのかな……? ひょっとしてコレ」
――解。自身の魔素で身体の硬度を再現。そこから金属に生成し、作成しています。
「んー よく判る様な判らない様な……、つまり似たようなもの、って事かな……? 練習し過ぎたら不味いかな?」
――解。体内の魔素残量が一定値を割り込むと、
「すりーぷもーど? 何それ」
――解。全てのスキル使用不能、行動不能となります。
「……成る程。全く動けなくなっちゃって、周りも見えない。……そんなのぜったいやだっ! 練習は程ほどにっ! だね!! だから、危なくなりそうだったら、直ぐに教えてね!」
――了。
敵陣でそれになったら最悪中の最悪。体動かない、魔力感知も使えなくなるから、つまり周囲が見えなくなる。真っ暗闇で動けないとか、考えたくない。
そこにシュナがやってきた。
それも後ろから抱きしめられてビックリ。
「大丈夫ですよ。アティス様。私達が付いてます。リムル様の時もしっかりお守り出来ましたので、任せてください」
スライム型でも人型でも、シュナの方が大きい。にこっ、と笑う笑顔に凄く心が洗われる気がする。
「ありがとう。シュナさん。嬉しいよ」
守ってもらえるのは確かに嬉しい。でも、やっぱり今は無性だけど、前は男性だった。だから、いつかはリムルの様に守れる存在になりたい。堅い身体なんだから盾にでもなって。
と言う訳で、笑顔でシュナに礼を言うアティス。その笑顔を見て、一気に顔を紅潮させたシュナ。また、さっきの様に ぎゅ~~っとハグしてくれた。
とても照れるのと同時に、窒息状態にもなっちゃうので、アティスはお礼を言いつつ、はぐれメタル化して逃げるのだった。
逃げて一息ついた所でリムルがやってきた。
「アティス。ちょっとトラブルだ。一緒に来るか?」
「どうしました?」
「ソウエイからメッセ。何でもリザードマンの首領の側近がオークたちに襲われてるらしい」
リザードマンとオーク。
イメージ的にはリザードマンが勝ちそうな気がするんだけれど、やっぱりオークロードの
つまり、捕食対象として見ているのだという事が判る。リザードマンを食おうとしているのが。考えただけで恐ろしい。
「実戦経験も兼ねて。模擬戦はそこそこしたつもりだけど、実際相手を前にして、縮み上がらないかの確認だ。無理にとは言わない」
「むっ、煽ってますね! だいじょーぶです! リムルさんよりバケモノいないんでしょ? ナントカ、っていうドラゴン食べたスライムを前に怖いものなんか無いですっ! (……たぶん)」