「その襲われてるリザードマンのひとは大丈夫なんですか? 多勢に無勢、とは聞きましたが」
「ソウエイが今見てるよ。聞いてみたら容易く勝てる、と即答貰ったから 大丈夫だろう」
「……即答で、ですか。まさしくイケメンですね。そんなの出来るのって」
「ああ、マジでな」
ランガの背に一緒に乗せて貰った。
移動するには少々距離があるので、影移動を行ってもらうとの事。
「んん~~ 影のスキル、物真似っ!」
「おっ?」
そして移動する時、ランガの影移動のスキルを物真似でスキルコピーも実施。
出来る時に手持ちは沢山増やした方が良いよ、と賢者さんにアドバイスをもらったからだ。なんだか安易に能力を盗んでるみたいで ちょっと複雑な気分だった。アティス様なら良いです~~、と皆に言ってもらっても、正直免罪符にはならないと思ってるし。
なので、皆の役に立てるんだから! 絶対に役に立つんだから、と自分を納得させている。
影移動の能力が自分の能力になったと認識しだした頃、アティスは リムルの視線を感じた。
「やっぱそれ便利だよなー。ちょっとオレにも解析させてくれない?」
「それって、食べられろ、って事ですか? やですっ! そんなの怖い!」
「冗談だって冗談ー。大賢者も実際やってみても解析は凄く難しそう~って話も聞いてるし。今は別スキルの解析に手を回してもらってるしな。
「うー、それなら……、って 今度っ!? 食べられるの前提!? 嫌ですってば!」
「ぐえっ、コラコラ 首絞めるな。冗談だってば」
ランガの背中で暴れてる2人。
ひとの背で暴れるんじゃないっ! と思われそうだが、ランガは文句の1つも言わず運んでくれた。
そして、現場に到着。外だというのに、血の匂いが充満する場所へ。
「なんだ? もうお終いか? つまらんなぁ」
「もう殺っちゃっていいんじゃないすか?」
「は、早く喰いてぇよ」
「……そうだな。奴らも飽きてきたってよ。そろそろ〆時だ」
多勢に無勢。本当に見たまんまだった。
単純な力量も劣っている上に万が一も逃げられない様にしてる。その上 手を出してる相手は 完全に嬲ってる。遊んでると言っても良い。もう殆ど終わってるとは言っても、見ていて本当に不快だった。
そんな不快な光景を一蹴してくれたのが、イケメン……じゃなく、ソウエイだった。
颯爽と間に割って入り、まさにイケメン。
『勝手に死なれては困るな』
と言葉を添えて目にもとまらぬ斬撃で真っ二つ! ……とまではいってないが、一瞬で切り伏せた。
リザードマンのひとは、きっと死を覚悟してたんだろう。でも、突然の光景に目を奪わててて固まっていた。
「あれ? 女の子……?」
身体はリザードマンだから判別がつきにくかったけれど、髪型や体形、そして 何処となく見ていたら ガサツさがない、と言えば良いのか より女の子だと判った。
「ん。無事で何よりだ。君がリザードマンの首領の側近だな? ほら、これを飲め。回復薬だ」
「大丈夫です安心してください。リムルさん印の特製回復薬! これ凄く効き目があるんですっ。はやく飲んでください!」
沢山の血を流し、明らかに重症、致命傷の傷を負っているのは、医療に携わってなくてもよく判る。このままだと死んでしまう。だから リムルは回復薬を差し出し、アティスは早く飲むように促した。
いきなり現れた者たちの得体のしれない液体を飲む……。正直ハードルが高いかもしれないけど、四の五の言ってられない。無理矢理にでも、と思ってたが、リザードマンの子は素直に飲んでくれた。
そして、もう一瞬。
「………!? 傷が……!? ウソ、致命傷だと思ったのに……」
顔色は、正直人間とは違うリザードマンだから判りにくいケド、ここまで効果が現れたらよくなったんだ、と判る。流れる血も止まってるし、塞がっている。
「はぁ……ほんと良かったよ~。まさにエリクサーだね、これほんと」
「おっ、その名も良いけど、正しくは
完全に回復する回復薬と言えば、エリクサー! と自分の中では決まってたんだけれど、どうやらフルポーションと言う名前の様なので、認識をアティスは改めた。
そして回復していく様子をじっと見て、賢者に問いかける。
「(賢者さん賢者さん。物真似のスキルだけど、効果そのものを真似る様な事って出来そうかな? ほら、回復魔法に昇華! みたいなの。もう真似るんじゃなくて、
――解。物真似スキルそのもので解析・復元・複製・作成への応用は可能です。正し、現状スキルでは 完成度は8割が限界ですが。
「(8割も有れば十分だよ! 10割って完全回復だからさ、8割あれば絶対助けれるから! リムルさんが傍にいてくれたら、きっと大丈夫だと思うけど、目の届かない所はオレが頑張るから)」
目の前で死にそうになっているひとを見て、それも女の子が傷ついてる、ともなったら 助けてあげたい気持ちにはなる。女性差別してる訳じゃないけれど、気のいいものじゃないじゃない?
――お優しいですね。やはり。
「(ん? 何か言った? まだ追加情報とかある?)」
――解。特にございません。解析の方は進めておきます。完了と同時にお知らせします。
「(うん ヨロシクっ! ありがとね!)」
頭の中で賢者との会話が終わる頃にはリムルは自己紹介を終えていて、ちらっ、とアティスを見ていた。何だか上の空の様な気がしたので、肘で突く。
「ほれ、自己紹介しとけって 会談前だぞ。印象印象」
「わっ、は、はい。そうでした! オレはアティス=レイです。えーっとリムルさんの側近の内の1人、で良いのかな? 立ち位置」
「んー。兄弟。……家族、だろ?」
にっ、と笑ってリザードマンの彼女に説明。
そして、家族と言う単語を聞いて、アティスは 頬を緩ませていた。
その後、ソウエイが敵側の情報を引き出す為、あえて殺さず急所を外して殺さなかった~ と話してたら、オークは激昂した。
『負け惜しみを~』
とか。
『主の手前格好つけたかったのか?』
とか言ってて。
最後に『貴様らは敗北――』と言おうとした所で、こちら側の1人の逆鱗に触れてしまったみたいです。
自分の身体よりも大きな大きな剣を振り上げて。
「痴れ者め……!」
普段からは考えられない程冷たく、重いセリフ。そして 怖さを兼ね備えてた。
「あ、おいシオン。そいつからは情報を聞き出さんといかんのだぞ」
「リムル様たちの前に不敬です。問答無用」
と、振り下ろす。
完全に怒っちゃったシオンは、何言っても止まらない。そう判断したリムルは 早速行動を開始した。
「おい、出番だ。アティス、絶対防御形態に移行っ!」
「ふえっ!? なんですか、それ!?」
ぎゅむっ、とリムルはアティスの身体を オークと怒れるひと……シオンの間に放り投げた。アティスは抗う間もなかった。返答を聞く時間もなかった。
「なっ、あ、あてぃす……さまっ!?」
ダメです。止まれませんっ!
と顔色が青くなってるシオン。
アティスは、周りがスローになっているのを身で体感した。……そう、死の間際に感じるという走馬灯……。生憎前回潰されちゃった時は感じる間もなく死んだから見れなかったが、今回は違った。
人生を振り返る……のではなく、極端に回りの速度が遅く、遅く感じた。
「(……リムルさんヒドイっ!! 確かに今相手をやっちゃうより、情報をっていうのは判りますけれど!! って、今はそれより、ここは格好良く決めないと……! よし。秘技っ、真剣、しらはどりっっ!)」
えいっ、と人型から一瞬でメタルスライムに戻って 変形。大きな手を2つ程作って、シオンの剣を挟み込め―――。
“どかんっ!”
「ぶべっっ!!」
無かった。
アティスは、シオンの剣を直撃。その身体はまるで弾丸のごとき速度で、オークの腹部に直撃。スライムの刻印をその腹に刻んだ。貫通はしなかったが、良い感触とはいえないだろう。
オークは人間で言う鳩尾部分? に凄いのを喰らった様で、悶絶して七転八倒してて……最後は動かなくなった。痙攣はしてるけど。
「あ、あ、あ、あ、あてぃすさまぁぁぁぁーーーーっっ! うわぁぁぁんっっ! ご、ごめんなさぁぁぁいっっ」
シオンにぶっ飛ばされて、オークに直撃したアティスは。反動でぽよんっ、とシオンの前に着地出来てた。……運よく遠くの彼方には飛ばされなかった様子。
シオンはアティスを拾い上げると、ぎゅ~~~っと抱きしめた。涙を流しながら、何度も何度もごめんなさい、と謝るシオン。
正直な所、気絶の一歩手前だった。確かに痛みみたいなのは無い。堅い身体は見かけだけじゃない、っていうのは判った。んでも、斬られる瞬間も見てるし、綺麗に真剣白刃どりが失敗したのもはっきり分かった。……走馬灯っぽいのも体感してるし、オマケに、ランガに空中に飛ばされた時以上に吹き飛ばされた衝撃を感じてる。
身体は大丈夫でも精神が1つや2つ逝っちゃっても不思議じゃない衝撃だったんだけど、シオンの涙と抱きしめてくれてる感触で、繋ぎ止められた。……それどころか救い上げられた。
「シオンさんシオンさん。泣かないでください」
だから、そっとシオンの頭を頑張って撫でる。抱きしめられちゃってるから、なかなか身動き取れないけど、うねうね~ と変化させて手だけ伸ばした。
「オレは大丈夫! こう見えても凄く堅い身体だし。大丈夫大丈夫っ! でもちょっと自制した方が良いかもですよ? 確かにオレも許せない! って思っちゃいましたけど、有力な情報って必要ですし」
「うぅぅ…… 本当に申し訳、ございません……」
「ソウエイさん。説明をお願いします! ……ちょっとリムルさんに おはなし してくるのでー」
「……承りました」
しゅるんっ、とはぐれメタル化して、シオンの胸元から抜け出てリムルの前に。
「な? これで立証されただろう! お前の防御力は最高級だ」
「………」
「ずーっと半信半疑だったもんなー。何度か賢者に言われてる筈なのに。習うより慣れろ、ってヤツだ」
「…………」
「だ、だからな? 落ち着け、落ち着け。ほら、シオンにも泣かないでー、って落ち着かせてあげてたじゃん? アティス優しい! 紳士! パーフェクト!」
「……………」
とこの辺りで、アティス憤慨。
「もーーーっ!! 荒療治過ぎるんですっっ!! し、しぬかと思ったんですから!! マジで走馬灯っぽいの、感じたんですからーーーっっ!!」
「わーー、今回のはマジで悪かったってば!」
ふんがーー! と両手をふるってリムルをぽかぽか、と叩く。
確かに身体の堅さ。防御力を確認するには実際に受けてみるのが一番手っ取り早いとはわかってたが、シオンの剛力。剛剣の前に放り出すのは、流石に不味かったかな? とリムルも反省してた。
それ程までに、シオンの一撃には怖さがある。とリムル自身も解っていたから。
「ほほ。リムル様にも届き得た儂の剣を幾度となく防ぎきる堅牢なお体をお持ちだというのは判っておりましたが、あの怒りに任せたシオンの渾身の一撃を受け、無傷とは。……改めて感銘を、そして同時に、御見それ致しました」
「確かに。……シオンのアレは斬るというより叩き潰す一撃。斬撃と打撃を併せ持つと言っていい。アティス様は本当にご謙遜しているが、紛れもなく最強のスライム。その1人と数えて良いな」
リムルとアティスのやり取りを見てたハクロウとベニマル。
どうやら、残党の処理が完了した様だ。……あっという間に。 ぽかぽかとやり合ってた2人は手を止めて視線を変えた。
……確かに、その先は死屍累々だった。オークたちの。
「アレ? 君たちもう終わったの? 強すぎない??」
「いえいえ。アイツらが弱すぎるんですよ。それに、オレ達はそれ以上に凄まじいものを見せてもらいましたよ? 霞みますって」
「……何のことを? とは聞きません。そんなの見せるつもりなんて無かったですよ! 白刃どり、思いっきり失敗しちゃいましたし………」
リザードマンの親衛隊長にして、首領の娘は、目の前の光景に、連続して起こるあり得ない光景に目を奪われ、数秒間思考が停止してしまっていた。
そして、思考停止から復帰後……そこに希望を見た。
リザードマンは最早 滅亡は避けられないと覚悟を決めていた。
だが、それは身内の過ちだ。同盟を締結させる為の会談を前に、勝手に行動を起こしたのは身内。……他の者たちを巻き込むなど、リザードマンの沽券にかかわる失態。
総長にもそう告げられた。最早滅亡は免れない、と。リザードマンの種族、最後の意地と誇りが自身の肩にかかっている、と。
だが、それでも……。
――父上。言いつけに背くことをお許しください。
意地より、誇りより―――仲間の、家族の命の方が大切だった。
「お願いがございます! どうか我が父たる首領と、兄たるガビルをお救いくださいませ!!」