慈悲をくれるなら感想をくれ。
あらゆるものがうろ覚えなので御指摘あれば是非、是非!(感想乞食)
あぁでも内容に触れてくれると嬉しいかもしれない(チラッ

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気分転換その2です
NTは20分のしか見てないのだ(´・ω・`)



心の()、私じゃない誰か

自首練を終えて稽古場を後にした。

羽根を休める暇もない渡り鳥の様な日々。友人を作ることは諦めた。涙を禁じ得ぬ別れを経たとて彼等との連絡は許されず、繋がりは自然と薄れて消え失せる。何処に行っても動物園の目玉の様な扱いは変わってはいないが、年を取って思春期を迎えた男共の対応が変わった。お陰様で異性との接し方すら忘れる羽目になり、ストレスの捌け口は剣道へと向かった。皮肉な事に、攻撃的になった事が作用して試合で白星の率が増えた。それもこれもあの男共が――――

 

「私は阿呆か」

 

違う。私はストレスに向かう先を与えて発散したいだけなのだ。自嘲の笑みを人目のない所で浮かべるのも、己に酔って気障ったらしく言うだけに止まる。

それに盛っているのは私もだろう。好きな相手を空想するだけで番書を写すノートに空白が出来るのだから、人の事は言えまい。

元はと言えば姉さんが―――

 

「ああ、もう」

 

頭に爪を立ててガシガシする。なまじ理由があって正当化出来てしまう為に、気付けば姉さんを責める思考回路が出来てしまっている。行いは含むものがあっても、あの人の愛情は本物だった。どんな人間よりも姉さんは私を愛してくれた。そんな人に憎しみだけで会話してみれば、彼女はどれだけ傷付く事だろう。今は姉さんを想うことは出来るものの、実際に会ってしまえば私は憎まれ口しか叩けないかもしれない。

私は考える、同じ結論に辿り着くと知っていても。ストレスが無ければ向ける矛もない。何も気にせず腹の裡を晒せる相手か、せめて日々の事を言い合える友人の一人でも出来れば大分楽になるのに。 なら友達を作れば良い。それはもう懲り懲りだ。では関わりもない、或いは浅い誰かに矛を突き出すか。

 

「くそ・・・」

 

気分は暗雲が垂れ込める様に重く、鬱屈としているのに見上げた夜空は清々しい程だった。

星に風情を見出だせる心があれば、星見を趣味にしても良いかもしれない。一抹の希望を抱いて夜空を見上げていると、箒星が流れるのが見えた。

 

「・・・」

 

私は夜空が綺麗である事に何も感慨を懐けぬのかもしれない。けれど日本人らしく何の意味もない、只の現象である珍事を喜べる習性はあるらしい。僅かだが、軽く空いた心持ちだ。

 

いっそ、私が私ではない誰かになれたのなら。

 

 

無理か。切なさを押し込めて夜道を歩き出すと、街灯もないのに私の足元が明るい事に気付く。

なんだ。辺りを見回すと、眩しさに目が眩む。あれは――――

 

「―――っ」

 

私は駆け出した。何かは分からない。けれど煌めく何かが私に迫っている。あれが隕石だとしたら助かりっこない。私諸とも辺りを吹き飛ばしてそれでお仕舞いだ。

待て。これで終わるのなら、それで良いじゃないか。都合よく終わりが来てくれたのだ。きっと自分の人生を閉じるよりか楽に違いない。私は足を止めて後ろを振り返る。

目が潰れる程の光が視界に満ちていた。

 

「やっとか」

 

胸の重りが吐き出された。

恐れは無かった。どれ程の痛みが襲ってくるのか知れず、あるとしても一瞬で終わるのだと想像しているからだろう。

私の意識はその光の如き晴れやかさをもって終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ、神様』

 

男の声が聞こえる。

 

『あなた・・・』

 

女の声が聞こえる。

薄く開けた視界には目元を腫らして呆れた女性と男性が抱き合って此方を凝視していた。両者の肌はこんがりと焼けたように色づき、目鼻立ちはくっきりとして日本人らしくない。というか、日本人ではない。インドやら中東系の顔付きである。

 

『奇跡だ・・・奇跡だぞぉっ』

 

大声を上げ、私に浮かれた男性は猛烈な勢いでキスにし掛かる。

驚いて両手を前に突き出すと、驚くほどに骨の浮き出た腕が目に入り、力も入らず抵抗空しく接吻の雨霰を受ける。

 

『や・・・やめ』

 

『ちょっと』

 

男が押し退けられて女が助けに入る。かと思えば、熱い抱擁を受けてこれまた嵐のような接吻を受ける。

それにしたって独特な臭いがする。何なのだこれは。臭いもそうだが、ここは何処だ。彼等は誰だ。

バングラデシュの民族衣装、サリーを着てややふくよかな女性が私から顔を離し、男性と見合わせる。彼等は私を祝福した。

 

『『お帰りなさい、ファイザ』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

部屋に染み付く嗅ぎ慣れたスパイスの、最早臭い。

 

 

『ファイザ、元気かしら』

 

『えぇ、母さんと父さんは』

 

『それがね、パパったら――』

 

冷凍庫に詰め込んであったジップ○ックのフリーザーバッグを取りだし、凍った其れをフライパンに放って火を着ける。

炊飯器がピーピーと炊き上がった事を囀ずる。

どうせ腹に収まると知っていようとも、手慰みにサラダを見映えよく整えていく。

やはり私には無理だな。母さんの様にはとても出来ない。そう結論付けて手を洗い、食卓前の椅子に着く。灰の星と三日月の掘られた黒い首飾りを撫でる。私が新しく生を授かった頃から共に在るモノ。

 

『また喧嘩してるのか』

 

『あら、何よまたって。あとその言い草だけど――――』

 

『あーあー、ごめんなさい、ママ。愛してるよ』

 

それだけ言い切って毎日の通話を切る。彼女は私の口調に文句があるらしく、事あるごとに足の痺れてしまう様な説教を頂戴してくれる。彼等の過干渉、過保護の程(愛の深さ)は驚くべきもので、しかしその国(バングラデシュ)ではごく当たり前の物だと友人から知ったとき、私は心の底から驚かされた。価値観が根底から違うのだと。言い方は悪いが、マザコンファザコンが当たり前なのだ。日本の親子を見れば、何て愛が無いのだと、冷えきっているのだろうと嘆かれるだろう。

価値観は人それぞれ。無闇に否定するものではなく、どんなものにも長所と短所がある事は理解している。けれど、浴びる程の愛がこれ程までに不安を癒し、自信を与えてくれるものだと体感した時、私は戻りたくないと思ってしまえた。

だけれども、私は再びここ(日本)にいる。御世辞にも裕福とは言えなかった我が家の都合上、私は奨学金制度を利用して来日するに至った。我が家のなけなしの貯金は私の教育費に全て消えてしまったのだから。日本語の試験を難なくパス(ズル)した上に私情でここまで来てしまった以上、罪滅ぼしに精一杯努力させて頂いている。日本の学校に行きたい、そう私が告げた時の両親の慌てようは世界が終わるとしても見られないだろう。

さて、話を戻そう。その理由だが――

 

首飾りの縁が赤く光る。

 

「・・・時節が悪いな」

 

 

金に色付いた星と三日月から光が溢れて身を包む。

体が浮かぶ。

 

「待ってくれ、ガス代が・・・」

 

萎びるだろう野菜を諦め、調理台にふよふよと風に吹かれた風船の如く移動した私はコンロのガス栓を閉める。

すると空を伝った光が窓を開け放ち、私は外から空へと放り出される。

 

「だからそれはやめてくれと・・・」

 

心臓に悪いから、と抗議する私の体がペンダントを中心に結晶化した光に包まれ、私の視界もそれに覆われる。瞑った目を開いて出てきた窓を見れば、黒い全身装甲に覆われ頭に金の角を立てた人型の姿。

ヒールがあるのにも関わらず、角張って雄々しいそれ。

 

「悪くはないが・・・」

 

やはり可愛さが足りないのでは。そう評価を下すと耳をつんざく警告音が耳元で鳴らされる。

 

「すまないっ、謝るから止めてくれないか」

 

鼓膜を突き破らんと音の嘴の鋭さが増す。

そして私達の遊覧飛行は始まる。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

遥か眼下の景色が溶ける速度で飛んでいく。嘗て慣れなかったそれも今では爽快の一言だ。風を切る感覚が気持ち良い。

今日は何処へ行くのだろう。本州を飛び出、海を越え、海上の学園施設へと私達は着く。

見覚えがある。だってここは――

 

「倍率300倍め・・・」

 

憎きIS学園だった。そこのお陰で今私は学費、滞在費をひっくるめた全てを学校側が受け持つという厚待遇でこの国へ来ることが出来た。体重が落ち、肌が荒れ、隈が一時期落ちなくなる程に猛勉強を重ねた私を落としてくれた宿敵(第一志望)である。

とは言ってもここには何もない。この黒いIS擬きの気の向くままに飛んでいたのでここに何かと用事がある訳ではない。

引き返そうとした私の視界の隅、そこに何かがチラつく。隣を光の柱としか形容できぬ物が雲に突き立ち昇っていった。空気の焼ける音。万羽の小鳥が鳴いているかの様だった。

注視した私をアリーナと呼ばれる施設から見返すIS。顔は見えないが正真正銘のISだろう。マズい。逃げなくては。体の芯から凍り付く冷気に総毛立つ。

鼓膜をつつく警告音。頭に浮かぶ

イメージ。背を向けた私へと迫る熱の固まりを横に避ける。

何だ今のは。それに答える者はおらず。考える隙もなく、幾本もの火線が私を灰塵にせんと射られる。安全を取って離れていても大きく回避する私を狙うISは、突然動きを止めた。二つに別たれたその合間から現れたのは、正に夢に描いた愛しの人、一夏だった。

 

「一夏・・・」

 

「あんた、大丈夫か」

 

良く考えてみればここに彼が居るのは当然の事だ。日々の目まぐるしさに頭からすっぽぬけていた私は我を忘れて彼の名前を口に出す。時の感覚を取り戻したのはもう一騎、スパイクが特徴のミスマッチなショッキングピンクが声を荒げて迫ってきてからだ。

 

「ちょっと一夏。何してんの、敵かもしれないのよ」

 

「いやぁ、あいつ狙われてたし」

 

「警戒心を持てっつってんの」

 

その仲睦まじい様子にむくむくと後ろ暗い感情が湧いてくる。一夏はお前の男ではない。激してそんなことを口走ろうとした私は、ハッとする。

私は箒だ、そう言ったとして何となるのだろう。

 

私が妙案を思い付かずにいると、桃色のISが一夏を庇うように前へ出る。彼女が特に何をしたわけでもないのに、高層ビルの屋上から下を覗き込んだ時のように全身が過敏になる。

 

「・・・一夏、下がって」

 

「鈴・・・でもお前」

 

その先を続けさせまいと睨み付けた、年不相応の覚悟を滲ませる彼女に一夏が怯む。

私へ向き直った彼女は、胸に突き刺さるような、冷たい声音で私に問い掛けた。

 

「あなた何者なの」

 

「・・・」

 

「所属は」

 

「・・・」

 

「どうして此処を訪れたの」

 

「・・・」

 

素直に名を言ってどうする。遊覧目的で、そう言って信じてくれるか。ISという兵器の価値を知っているだろう人間は、私の言うそのままを信じてくれるのか。

今は沈黙を貫くしかない私へ彼女が溜め息を吐いた。けれど私の体は未だに目の前の彼女を危険と捉えている。

 

「アンタも無人機なの・・・だとしても今更驚かないわよ」

 

張りつめられた弓のような彼女は、それに掛けた手を下ろすつもりは無いが、離すつもりもないらしい。

硬直に膠着された私を突き動かしたのは、喉元に刃が突き付けられたかのような、錯覚を覚えてからだ。

『ごぃん』掲げた手に肩が外れてしまいそうな程の衝撃が走る。刀を降り下ろされたのだ。

何時の間にこんな近くまで――

 

「――――っく」

 

「鈴、一夏。お前達は下がれ」

 

驚く隙に腹を蹴られ、続けて刃が振るわれる。

刃の軌道、そしてその到達点を直感する。形を成した害意に合わせて腕を薙ぐと、上腕から迸った光がそれを防ぐ。

形を僅かに変えつつも固定された薄桃の光に千冬さんの目が見開かれた。

 

「ビームサーベルだと・・・」

 

取り敢えず離れなくては。呆然とする彼女の融解した刀を返す刃で根本から断つ。

そこから先を躊躇した私へ注がれる弾丸の形に押し固められた敵意。体をずらせば人間の頭蓋など藁のように吹き散らしてしまう様な弾丸が通りすぎる。

 

「山田先生、他には」

 

「いえ、今は私達だけです」

 

「十分です」

 

「千冬ねえ、そいつは」

 

「退け。こいつは所属不明機だ、ここで逃すわけにはいかん」

 

お前は邪魔にしかならん。

それを聞いた一夏が歯噛みしてショッキングピンクと踵を返した。

千冬さんは私から意識の切っ先を逸らそうとはせず、私をピンで標本に縫い止めるようにその場に釘付ける。

良くない流れだ。焦る私は弁明を図る。

 

「私は戦いに来たのでは・・・」

 

「なら大人しく投降しろ」

 

千冬さんが新しく刀を取り出した。

今すぐ逃げるべきだ。この機体で振り切る自信はあるが、逃げ切れないだろう。今いる家を追われる事になるのだ。逃避方向を見られれば逃げ先もバレる。ISなんかでなくても誰かを追跡する手段は山のようにある。例えば衛星軌道上から――――

ふと気付く。千冬さんは私を所属不明機と言った。ではなぜ今の今まで私の存在は露呈しなかったのか。自分の頭のからっけつ具合を棚に置いての事だが、遊覧飛行しに寮を出掛けた時も誰に見られた覚えはないし、報道番組を緊張した面持ちでは今や眺めない。

都合の良い方向にしか考えていないのは自覚している。かといってまともに戦ってどうこうできる相手でもない。逃げ切れる確率の方がまだ高いだろう。

逃げなくては

体を翻せば背中に線と点の敵意が集中する。未だ狙いの単純な千冬さんと行く先々で火線を置く女性の偏差射撃を障害物の間隙を縫うように飛んでいく。爆発しそうな心臓と弾みで動きのずれてしまいそうな体を必死に制御する。

 

「はや・・・」

 

「ちぃっ―――」

 

距離を離した、そう安心したも束の間、背に降り下ろされ叩き付けられる意思に体を傾ける。すると、点に見えていた千冬さんが直ぐに背後で刀を振り切っていた。

 

――――瞬時加速か

 

ならばと真っ直ぐ最短距離を目指すのではなく、X軸にY軸とZ軸の動きを交えて機動を複雑にする。

それでも、猟犬の如く慣性を無視して機動を修正してくる彼女に慄く。前もって敵意を避ければ動物的な速度で狙いが切り替わる。PICがあるとしてもこんな動きが可能なのか、余りにも人間離れしている。

避けきれない。剣を合わせて武器を壊すしかない。振り返って敵意の軌道に今一度迸らせた薄桃の光を差し込む。

はっきりと軌道が変化するのが看取出来た。刀の軌道が途絶えると脳を轟音と共に揺らされる。耳につけた鐘を鳴らされるかの様だった。何故だ。

目まぐるしく変わる視界ではなく機体の感覚を頼りに機動を建て直す。今度も同じ展開を期待して同じ行動を取ると、腕を蹴り上げられ腹部に振るわれる敵意。彼女の一閃を後ろに退いて避けると簡単に推測(直感)した。あの人は適応しつつある。考えず反射で体を動かし、私の敵意に対するセンサーを潜り抜けている。

なんてデタラメ。勝てっこないだろう、こんなもの。回れ右してからは、瞬時加速を駆使した人外の軌道を描く彼女との鬼ごっこが始まった。

 

 

――――――――――――――

 

 

「すごい・・・」

 

接近戦のみで世界頂点を遍く簒奪した、連続する鷲の降下の様な機動に、あの所属不明機は空に帳が落ちても依然と鷲掴みされぬままだ。瞬く事も許されぬ速さで一条の金光を尾に引くその機体は、まるで箒星の様だった。

最大航行速度で二人に接近している筈なのに追い付けない。私と千冬さんの間に横たわる距離、それは物理的で、精神的でもあった。教職を割り当てられる前に経験した挫折の味を思い出す。

まだ、私だって2Xだ。終わっちゃいない。こんなところで腐らずにいたから私は彼女と席を争う所まで行き着いたのだ。夜空の星へと手を伸ばして私は空を翔る。たとえどんなに遠く思えても何時かは手が届く。それが今まで私の歩んできた道のりだったから。

実質的な戦力外通告を言い渡されるまで必死にシミュレートしてきた彼女の機動。それを追われる所属不明機の機動は、しかし場当たり的で予測しやすい。素人をスポーツカーに乗せても常用車には勝てるかもしれないが、プロのレースでは勝ちはとても狙えない。そんな所感を受ける。なら、まだやり用はある。相手方に、経験に不相応な鋭い直感があるのなら、それを計算に入れるだけだ。

IS用の対(IS)狙撃銃を構える。無駄な感覚が削ぎ落とされていく。意識がスコープに吸い込まれていく。そこから覗く光景と引き金に当てられた指先が今の私の全て。所属不明機が否応なく隙を晒す瞬間、千冬さんに対する対処を対処し返され、大きく弾かれる場面、そこに指先を何度も軽く曲げる。必ず当たる瞬間を、絶対的な隙を晒す瞬間を只管に待ち続ける。

そして時は来た。

 

―――――――――――――――

 

 

明らかに気が逸れている。理由は分からないがここぞとばかりに一気呵成に仕掛けると、『がぃん』ピンボールの様に敵機が弾かれた。

先程から感じる違和感。私は沈黙して空中に横たわる所属不明機に近寄ると、胸に着弾痕が出来ていた。山田先生の超長距離からの狙撃、それが功を成したのか。だが、それの意味するところはつまり――――

 

「ISでは・・・ない」

 

私が言葉を溢すと、敵機体に異変が訪れる。切れ込みの入っていた装甲が爪先から可変して中身(・・)を露出する。ゆっくりと体を起こすそれ。一本だった角が二本に割れる。こちらを射抜く視線は一本から二つ(・・)に。

 

「変わった・・・」

 

不気味な沈黙が辺りを満たす。ISに代わるかもしれない兵器に私達はどう対処すべきか。兵器の有用性の証明。国との戦争。兵器と兵器の代理戦争。脱走兵。保護すべき。思考の飛躍する私を他所に、体から滲ませた金の光が二本角の片腕を包むと、結晶化する。それが剥がれて出てきたものは装甲と同質の大きな拳骨。

身構えていた私の意識は山田先生の悲鳴に持っていかれる。

 

『山田先生っ』

 

彼女は二本角に鷲掴みにされ、地上へと降下していく。追い掛ける後ろ目に後方を確認すると、一画の残光だけがそこを起点に続いていた。なんて速度だ。正面から堂々と奇襲されるだなんて。

二重に瞬時加速を使おうと、瞬く間に点と化した流星(彼等)は海上へと飛沫を上げて大海原を砕く。

迫る風の壁を破り、巨大な水の剣山へ突っ込む寸前、足を止めて後退する。

視界は当然ながら、ハイパーセンサー越しにも姿は水に覆われ、熱源も確認できない。これを隠れ蓑にあの速度で奇襲されたら二人纏めて・・・。

 

(私達を放っておいてくれ、もう沢山だ。母さんと父さんを何処にやった。)

 

 

拒絶が脳内を走り抜ける。泣きじゃくり、悲壮感たっぷりに、声がひび割れる程喚き立てられたそれに、何度も覚えた罪の意識が刺激される。

記憶が甦る。それなりの権限を得て、私が何をしでかしたのか、悪友の家族に押し付けられた要人保護プログラムの映像資料を見、初めて実感した時の事を。その翌日、彼女の最愛の妹が忽然と姿を消すことになったのだから、忘れたくても忘れられない。

あの時私は、そう、安堵した。身勝手だった。彼女が苦しむことももう無いだろう、と。だが、それだけではない。関われぬと、実際は顔が会わせられず関わろうともしなかっただけなのに。その後の彼女の人生に何ら関与するべきではないと、目を逸らそうと現状を押し付けた責任を放棄した。

目を背けていた義務()が追い掛けてきた。自分の存在を私に突き付けている。

逃避を試みようとする心。今こそ立ち向かうべきだという心。今までみたく目を閉じ、背を向けて縮こまっていれば嵐は過ぎるだろうという浅ましい心。

葛藤する私は水柱と二本角の反応が失せた事を確認し、山田先生を回収した。またか、と失意と苛立ちが私を支配する。

止まっていた時計の針が動き出したのかもしれない。あれ以来、連絡することも、されることもなくなった彼女と話をしなければならないやもしれぬ。夏をこれから迎える筈の空は、重々しく垂れ込めた暗灰色の冬空の様だった。

 

 

 

 




原作バンシィ君に意思があれば操縦者を攻撃的にして未熟な心を守っているのでは?作者は訝しんだ。だって感情を増幅させるにしてもその種類が限定されすぎじゃないですかね。

愛に餓えた読者諸賢はバングラデシュに行くかネットでその国籍の友達を作るのだ。孤独死入門とか雑誌に載ってるこの国は可笑しい。


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