アビゲイルinヤーナム   作:粉プリン

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「爆発金槌はね、シンプルで分かりやすい武器だわ。撃鉄を起こして叩きつける。それだけでいいの、それだけで獣を倒せるわ。これはお師匠さんが最初にくれた仕掛け武器なの。でも初めて貰ったのは壊しちゃったから、もっとうまく使えるようになりたいわ!」


Beginning Team

ある日、アビゲイルと名乗った少女を連れてヨセフカ診療所へと来ていた。血と獣と腐臭漂うこの地に立つのも実に数日ぶりだ。本来ならばこのまま獣狩りの群衆を背後からノコギリ鉈で斬り殺して行くところだが、今日は別の用がある。

 

何の因果か狩人の夢などに迷い込んだこの少女に自衛手段を持たせるためだ。もっとも本人がやってのけた光り輝く触手(エーブリエタースの先触れ)だけでも十分やれるだろうが。生憎ここは特殊だ。

 

「まず、お前には獣を一匹殺してもらう」

 

「……そうしないと、殺されちゃうのかしら」

 

「狩人の夢は狩人の寄り辺、ただの人など不要。もっともお前も既に半分ほど辞めているようだが」

 

ここに来て数日、人であるならば既に餓死している頃合いだが一向に少女が死ぬ気配はない。それがこの悪夢によるものなのか、はたまた中にいるであろう物の力なのかは定かではない。重要なのは殺される前に殺せるかだけだ。

 

「お前は非力だがアレは並大抵の仕掛け武器なら振り回せる。何も考えず、技術も要らぬなら、これでいい」

 

そう言い虚空から『爆発金槌』を取り出す。ヤーナムの中でも辺境とでも言うべき血に濡れた悪夢で手に入れた『火薬庫』製の武器だ。単に叩き潰すだけならばこれで十分だろう。

 

「……重いわ」

 

「普段はしまっておけ。取り出すのは一瞬で、最速で狙いを定めて、叩き潰せ」

 

「私に出来るかしら……」

 

「出来なければ死ぬだけだ。無様に獣に貪られるのが嫌なら殺られる前に殺れ」

 

そう言いながら正面の床に酒を叩きつける。酒と言ってもほとんどは血だが。その匂いにつられたのか部屋の向こう側で動く音が聞こえる。思えば初めてここに来た時、自分はあれに何も出来ず殺されたのだった。逆に言えばあれのおかげで仕掛け武器のなんたるかを学んだとも言える。いい体験ではないのは確かだが。

 

「武器を扱う基本は教えた。道具の扱い方も学んだ。あとは実戦だ。しばらくしたらまた見にくる」

 

「えっ、私一人なの?!」

 

「これが狩人だ。協力など所詮一時の物だと言ったはずだ。最後に求められるのはお前自身の技量」

 

「で、でも死んじゃう」

 

「死ねば狩人の夢で目覚める。仮に狩人でないならここで終わりだ。これ以上の言葉は不要」

 

灯りを使い狩人の夢へと帰還する。あの少女が生きるか死ぬか、それは俺にはどうでも良いことだが、適性があるならどうせここに戻ってくるだろう。

 

 

 

 

……遅い。あの調子ならばすぐに死に戻りしてくるものと思ったが。ならば死んだのか、随分あっけないがここで誰かが死ぬ方がよほどありふれている話しだ。

 

重い腰を上げ再度ヨセフカ診療所へと向かう。移動の末見てみれば部屋中が血生臭い。しかしあるのは獣の死体のみ。所々が爆発したようにもぎ取られているのを見るに、案外あれで度胸はあるようだ。

 

外に出てみれば所々に少女がやったであろう獣の死体が転がっていた。しかし、それに混じって明らかに別の武器で殺された死体がある。見るにこれは

 

「オイ」

 

声と同時取り出した教会の石鎚を真横に叩きつける。相手もそれが分かっているのか振りかぶっている獣狩りの斧で相殺する。耳障りな音が鳴り、鍔迫り合いの末互いに後ろへと素早く飛び退いた。

 

はたしてそこに居たのはガスコインであった。しかし血に酔っている気配は無い。何があったのか、普段であればオドンの地下墓地にて獣の処理をしていたはずだ。今までの周回であれば(・・・・・・・・・・)

 

「正気か?」

 

「…俺の正気など知ったことか。……オイ、届けたぞ」

 

ガスコインがそれだけ言いヤーナム市街へと消えていく。その背中から出てきたのはあの少女だった。

 

「もう!どうして置いて行っちゃったの!おかげでとても大変な目にあったわ、変な人は寄ってくるし烏と犬が追いかけて来るし、さっきのガスコインさんも凄い形相で私を捕まえるし!」

 

「悪かったな」

 

「ぜんっぜん悪いと思ってない!もしも悪いと思っているなら、今度は私の言うことを聞いてもらうわ!」

 

「ほう、聞こうか」

 

「まずわたしを名前で呼ぶこと!私はアビゲイル・ウィリアムズって名前、お前じゃないわ!次にちゃんと説明すること!必要最低限しか言わないから私も分からないわ!最後にもっと分かりやすくこれの使い方を教えて頂戴!」

 

そう言って少女が半ば折れた(・・・・・)爆発金槌を取り出す。排熱機構はグズグズにやられている。余程強引に叩きつけたのだろう。これでは使い物にならない、直さねばならないだろう。

 

「そうか、考えておく」

 

「絶対よ!破ったら私悪い子になって貴方を襲うわ!」

 

「それは楽しみだ」

 

「もぉ!ホント狩人ってこんな人達しかいないの!?」

 

そうとも。この悪夢でまともな人間などいない、特に狩人であれば。いずれ、アビゲイルにも分かるであろうが。


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