「やあ、アビゲイルはいるかい?」
獣を狩り、人を狩り、神を狩る。その僅かに空いた時間は知恵を得るために書物を読む。アビゲイルはたまに読んではいるがあれでまだ中身は子供だ。外に出かけては金槌を振り回し、ガスコインのところに厄介になり、協会で老婆と話をしている方が楽しいのだろう。
そんな昼下がりに鴉羽はやってきた。ここ最近寄り付くようになった奴だが以前までは夢を見なかったらしい。だがアビゲイルの門に接続することで再び夢を見始めた。着々とあいつも人外に寄ってるようだ。
「あいつは出かけてる」
「そうかい。なら暫くここで待たせてもらうさ」
そう言い対面の椅子に腰を下ろす。こいつとは幾つかの周で殺し合ったきりだ。互いにステップからの攻撃を得意とした為長時間の戦闘の末、競り勝った覚えがある。流石に二度はやりたくないが。
「あれが来てからずいぶんここも変わっちまったねえ」
「……それがどうした」
「あんたも変わったってことさ。最初に顔を合わせた時なんて会話すらしようとしなかっただろ?」
確かにヤーナムの市街で顔を合わせた時は会話をしなかったが、それは単に
「あんたは会話することを覚えた。ガスコインは妻子供を大事にした。デュラは獣を従えた。アルフレートは師に出会った。メンシスのあいつは……よくわからないけど、アビゲイルが言うには優しくなったそうじゃないか」
「お前はどうなんだ」
「あたしかい?こうやって無口相手に会話をする程度にはお喋りになったさ」
「……ふん」
「それもこれもあれが来てから。そう考えると不思議なもんさ」
「ただのガキだ」
「ただのガキに変えられるほどあたしらは単純じゃないだろうさ。少なくともあんたは」
鴉羽の言葉に言い返しても良かったのだが、上手い言葉が出てこなく口をつぐむ。実際アビゲイルが来てからここの連中は変わったのだろう。それは事実だと認める、あまり認めたくはないが。
「ただいま、今戻った……アイリーンさん!こんにちは!」
「やあアビゲイル、久し振りだね。今日はどこまで行ってきたんだい」
「ヤハグルを見て回ったわ。でもあそこ右も左もアメンドーズばかりでつまらないわ」
「元気なことだねえ。ならこれも使えるかもしれないね」
そういい鴉羽が懐から吊り下げていた二振りの刃を差し出した。
「アイリーンさん、これは何?」
「私が使ってた仕掛け武器さ。といってももう私の仕事は無くなっちまったからねえ。アビゲイルにあげるから好きに使いな」
「ありがとう、アイリーンさん!」
「じゃあ悪いけど少し借りてくよ。教えが終わったら戻ってくるさね」
鴉羽はそう言い残しアビゲイルと共にまたどこかへ飛んで行った。おそらく辺境辺りで試し切りでもしているのだろう。そんなところへ行かずとも聖杯に潜れば幾らでも確認はできると言うのにだ。
ここに来る狩人で聖杯を使う物は俺とアビゲイルくらいだ。何が不満なのだろうか。
「……お前はあの聖杯をどう思う」
「私は人形ですのであの中に行くことはできませんが、率直に言うのであれば、気味が悪いと」
「…………そうか」
☆
「アイリーンさん、こんな感じかしら」
「そうさね、ステップの踏み込みをもう少し深くしてみな」
「わかったわ!」
アビゲイルは教えがいがある。知識としての吸収が早い、飲み込みがいいと言えばいいのか。仕掛け武器を振らせればすぐに手に馴染ませる。
あの年頃の娘にこんなものを振らせるのはどうかと思うが、ここで生きていく以上はそうする他ない。まあ、私以外の狩人も何人か目をかけているようだ、危険になれば獣よりおっかない連中が轢き潰していくだろうさ。
「まあ、あたしは狩人狩りは引退したからねえ。出来ることはせいぜいあれを鍛えて死なないようにするくらいさね」
もうババアが出る幕は閉じているのだろう。ならこの辺りで譲るのが妥当というところだ。しばらくはのんびり出来るだろうさ。
「アイリーンさぁん!助けてー!」
「なんだい。まだまだ武器は振るえても立ち回りは杜撰さねえ」
この娘に付き合いながらゆっくり生きるとするさ。
あと何人か書いたら灰の人に会うかも(予定は未定)