「バレンタインねぇ……。」
恋人の居ないし、貰った事のない俺には関係ない日だな、とちょっとかっこつけ気味で居た俺は一人寂しく屋上でパンを食べていた。
「今日に限って氷川さんが弁当くれなかったんだよなぁ……。」
もそもそとパンを齧る。
「……なんか、味気ない。」
パンが美味しくない。意味わかんねぇ。
こんな気分でベースは弾きたくない。休憩終わるまで寝とこ。
「あ、いたいた。千聖ちゃーん!やっぱりここだったよー!」
「彩ちゃん、そんなに大きい声を出さなくても聞こえているわ。」
「えへへ、つい……。」
「まあ、いいわ。
墓前くん。いつもベースの事について勉強させてもらってるから、そのお礼。」
「あ、私も!いつもベース聴かせてもらってるから!」
二人に手渡された小包を両手で受け取る。はて?今日はバレンタインデーだけど、これは一体なんだろうか?
「……えっと、これは?」
「え?チョコだよ?」
「二人から、俺に?」
「ええ、余りこういう事をするのはアイドルとしては良くないのだろうけれど、日頃の感謝としてなら良いかと思って。」
ちょこ、チョコ、チョコレート?
「えええええぇぇぇ!?お、俺に!?」
「他に無いでしょう?」
「他に誰も居ないからそうだけどさ……いや、ありがとうございます……。」
うおおぉ…………女の子からのチョコ……初めて貰った……!!
そのまま呆然として席に座るまで教室に戻った事にすら気付かなかった。
「あ、あれ?教室?」
「墓前さん、随分と嬉しそうですけれど、どうかしましたか?」
氷川さんが話掛けてきた。でも、俺は何故かチョコを見えないように隠してしまった。
「い、いや、なんでも……。」
「……そうですか。」
それからの授業は寝ていられないくらい気まずいまま進んで行った。
……あの小包。予想ではありますがチョコレートですね……。誰が渡したのでしょう?
「次の問題を……じゃあ氷川ー。解いてくれ。」
「あ、はい。」
誰か、墓前さんが好きな人が居るのでしょうか?
……私も、早く渡さないと。
「ん?氷川、珍しくミスをしているぞ、正しくはこうだ。」
「あ、あれ?」
どうやら、私も少し変みたいです。
結局何で氷川さんの機嫌が悪かったんだろう。未だに分からないままだ。
「たまには、夕日を見ながらね。」
テキトーにフレーズを弾いていく。ああ、出来れば氷川さんからもチョコが貰えたら良かったのになぁ。
「なーんて、考えたって仕方ないよな。」
いつも弁当作って貰ってたし、チョコまで強請るのは良くないよな。
「〜♪」
やっぱ、ここの屋上は風もあるし、なかなか良い場所だ。
「……ベースの音がすると思えば、墓前さんが弾いていたんですね。」
屋上のドアから氷川さんがやってきた。もしかして、うるさかった?
「あー……うるさかったですか?」
「いえ、少し聴こえてくる程度ですよ。」
「そ、そうですか。」
次からはちょっと音を小さくするかな。
「……あの、墓前さん。」
「ん、なんですか?」
「これを……。」
綺麗にラッピングされた長方形の箱。これは……。
「も、もしかして、チョコ、ですか?」
「ええ、これを作っていてお弁当を作れなくてすみません。」
「い、いえいえ、そんな……嬉しいです。本当に。」
夢じゃないだろうか?夢だったら泣くまである。
「た、大切に食べますんで!それじゃ!」
きっとまた顔が真っ赤でにやけているはずだ。そんなみっともない顔を見せられない。
「あ、墓前さん……もう、少しくらい話しても良いじゃないですか。」
きっと、味も分からないくらいテンパってるだろうけど、家に帰ったらすぐに食べよう。
「あ〜……楽しみだなぁ。」
あれ?チョコの感想って言った方が良いのか?まあ、何か恥ずかしいから良い。
話の締めって難しいと思う今日この頃。
私も美少女美女からチョコが欲しかった。