そのうちエルフ殺しなんていう異名がついちゃったりします。本編よりも少しむっつりです。男の子してます。
入団の経緯についてはそのうちに書けたらいいかなと。
時系列はベル君達が怪物進呈を受けた直後。
18階層に滑り込んで九死に一生を得たベル君。彼は迷宮の楽園で妖精を見つけます。
ベル・クラネルについて評する人々は多い。
曰く、白髪頭の白兎
曰く、
曰く、ロキ・ファミリアの大型新人
曰く、エルフ殺しの白兎
曰く、
さて、数ある異名のうち、どれが正しいのか。
正解――全部でした。
☆
18階層「迷宮の楽園」。
先日、遠征に帯同しなかった居残り冒険者達と一緒にダンジョンを探索していたところ、
アイズさんに拾ってもらって天幕まで移動――その後、何とか回復したのが翌朝のこと。
体調が戻ったのをいいことに、調子に乗ってダンジョンに戻ろうとした僕を見つけたレフィーヤさんが般若のように激怒したのがつい数時間前のこと。その後、寝付けなくて野営地の周りをウロウロしていた後、現在に至っている。
騒然とした闇に包まれる「夜」の時間帯。大森林の中に佇む湖。夜の光にその透き通るような肌を照らされ、しなやかで美しい身体の全体を水滴が流れる。率直に言って、神秘的――だと僕は思った。
それと同時に、美しい、とも。
(レフィーヤさんに会いに、わざわざ
夕食の際にレフィーヤがそのことを嬉しそうに話していたし、彼女の姿も目にしていた。というか、レフィーヤの仲立ちにより既に簡単な挨拶も済ませている。まぁ、あくまで簡単な、形式的なものではあったのだが。
なんでも、今日はこちらに宿泊して、明日僕らと一緒に最後尾で出発するとか。まぁ、護衛がいるとはいえ安全策を取るに越したことはない。その判断は納得だった。
第一印象は、大人の色気を漂わせながらも、それでいてとてもとても清楚な女性。言葉遣いはぶっきらぼうだが、レフィーヤに付き纏われて顔を赤くしている姿は正直可愛かった。白巫女、という二つ名も頷ける。どこかの国では巫女フェチなるものがあるそうだが、それも頷ける。
ベルの祖父が居ればきっとこう言っただろう。
ベル。巫女の裸体、それは男のロマンじゃ――と。
さて、問題なのは現状である。
先程目を奪われた女性が、清楚で綺麗で美しくて、どう表現したら良いか迷ってしまうような女性が
目の前で一寸纏わぬ姿を晒しているのだ。
ミノタウロスとの戦いの際、ベート・ローガは言った。あいつは雄だぞ、と。
そう、僕、ベル・クラネルとて、立派な雄なのである。いかに可愛いと言われる小さな身体にコンプレックスを感じていても、童顔にコンプレックスを感じていても。童貞で女の人をまともに触ったことがなくても。
チラリと目線を下に向ける。
うん。やっぱり僕の雄も間違いなく雄だった。などと訳の分からない思考に陥る。要するに、パニック、混乱、自分でもわけのわからない状態に陥っていた。
妖精の守護者――という童話がある。透き通るような肌をした妖精。とある少年がその妖精の水浴びをうっかり覗いてしまい、あろうことかその美しさに一目惚れしてしまう。
挙句の果てには、真っ赤になって怒る妖精を前にして情熱的に求婚するという、本当にどうしようもない物語。
読んだ時はさすがにこれはないだろう。そう思った。そう思ったんだけど......
(ま、まずい......早くここから離れないと。で、でも......)
何が、でも......なのか全くもってわからない。わからないけど、覗き始めてから約五分が経過した今も、未だこの木陰から離れられない。あぁ、女性に魅了されるってこういうことかぁー。
なんて呑気なことを考えてしまっている
僕。......レフィーヤさんがまたしても僕に向けて般若のような表情を浮かべているのが見えたが、きっと幻想だろう。きっと。
ともあれ、あのどうしようもない童話も、あながち馬鹿に出来たものじゃなかった。そんな下らないことが頭を過ぎったその時、僕はさらに食い入るように、湖の中の彼女に視線を向けた。
(泣い、てる......?)
何かを抱えるように、自らを護るように両手を前に回した後、彼女は天を見上げた。そして、その瞳から――透明なものが流れる。
顔に血が登っているのがわかる。きっと、今の僕の顔面は茹でダコのように真っ赤に染まっているのだろう。
ゴクリ、と唾を飲み込む。出来ることなら、いつまでもこの美しい人を見ていたい。そんな馬鹿なことを一瞬でも考えてしまったぼくだったけど、
肝心なことを忘れていた
――かくして、その瞬間は訪れる。
「何者だ!?」
片手で胸を隠しながらの、咄嗟の投擲。飛んできたのは、護身用のナイフ。
見事に刺さった刃物。左足首の激痛。出血。思わず奇声を上げながらのたうち回った挙句、湖へ転落。
奇声は情けない声に変わり、顔面から落下した僕は、ぶくぶくと水面に空気を吹き込む。
そう。彼女が隠し持っていたナイフの投擲を避けきれないくらいには、僕は魅入ってしまっていた。
(あぁ、妖精っているんだなぁ......)
☆
はい。なんだかむっつりベル君になってしまいました。次回は少し抑え目で行きたいと思います、、