指揮官には友達がいない   作:狂乱のポテト

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いつか一人暮らしをして猫を飼うのがぼくの夢。……仕事が大変だけど(新社会人並感)




#10 いつも、彼は彼女たちに振り回される

 

 

「指揮官…」

 

「詳しく…説明して下さい……」

 

「今、私は冷静さを欠こうとしています……」

 

「イヤ…ソノー……」

 

「ちっ…違うのよ416!指揮官はホラ…!ふざけてただけで」

 

「45、指揮官に脅されたんでしょう。ネコのコスプレまで強要されて…」

 

「大丈夫、あなたは悪くないわ。全部この変態指揮官が悪いんだから……!!」

 

 すごい誤解が生じてしまっている…。いや、こんな状況じゃあそういう考えになっても無理はないけども…。とにかく416をなんとかして落ち着かせよう。きちんと説明すれば……。

 

「…待て416、違うんだ。これは…ペルシカさんに頼まれたカプセルの実」

 

 ダァンッ!

 

 瞬間、416がセカンダリとして身につけているHK45が火を吹いた。一発の.45ACP弾が顔を掠め、すぐ後ろの壁にめり込んでいる。

 

「ぁ……」

 

「もう少しまともな言い訳をしてください…指揮官」

 

 怖い。

 

 とてつもない覇気だ…。今のこいつなら1人でマンティコアくらいは倒せそう……!あの45でさえ、あまりの狂気に萎縮して動けないくらいだ。

 

「もう一度聞きます、指揮官。あなたはここで45になにをしたんですか?」

 

 ダメだ…本当のことを言っても分かってもらえそうにない。45を頼りたいところだがこの状況じゃあ無意味だろう。

 

 すると、先ほどの銃声を聞きつけた1人の戦術人形が駆け足でやってきた。

 

「指揮官!さっきの銃声はなんですか!?」←武器を手に突入してきたM4

 

「……」←指揮官を狙いながらも黙ってM4を睨む416

 

「ぇ…M4……」←416に銃口を向けられている指揮官

 

「あー…」←ネコ耳を生やしてその場にへたりこんでいる45

 

 カオスとしか言いようがないこの状況に舞い降りた1人の天使(エムフォエル)。もといM4に416を取り抑えるよう頼み、俺は事の真相を打ち明けた。

 

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「はあ…ペルシカがそんなカプセルを……」

 

「じゃあさっきのはネコ化した45に欲情したってわけね」

 

「ちがっ…!あれは日頃の仕返しに……!」

 

「しきかんったら〜♪ケダモノ〜」

 

「実際に獣化してるのはお前だけどな」

 

 変態を見る眼差しを向けてくるM4と416に、俺は必死の弁解をした。45はというとなぜか機嫌がよくなっている。耳がすごいパタパタなってる。

 

「…あの、そこにいるのは私たちが知っているUMP45なんですか?」

 

「性格どころか人格まで変わってるわね……」

 

「メンタルも一部ケモノ化するらしくてな、こいつの場合は人懐っこい仔猫になったわけだ」

 

「ふーん…」

 

 興味なさげに気取っている416だが、その目はカプセルに釘付けになっている。M4はネコ耳が生えた45をジッと見つめていた。そんな彼女たちを見かねた45が、薬が入ったケースを2人へ近づける。

 

「416も飲んでみれば?」

 

「…遠慮するわ、こんな怪しい薬…」

 

「そう?じゃあM4は?」

 

「えっ、わ…私?私は……えっと…」

 

 キッパリ否定する416と違い、どっちつかずの態度を取るM4。そんな2人を見て後者はあと少しでオトせると踏んだのか、M4の耳元で45がつぶやいた。

 

「(これの力は強力よ、謎の勢いで指揮官に甘え放題にゃんだから。いつもはできにゃい、あんにゃことやこんにゃことだって……)」

 

「(あんなこと…こんなこと……)」

 

「…うーん……」

 

 めちゃめちゃ悩んでいらっしゃる…。そこまで無理して決断するほどのものでもないと思うんだが…。

 

「なあM4、そんなに悩むなら飲まない方が…」

 

「…飲みます。指揮官、私にも一つよろしいでしょうか」

 

「え」

 

 普段の自信なさげなM4はどこへやら、こんな英断を下すなんて珍しい。とはいえ俺としては正直これ以上の面倒ごとを増やすのは避けたいのだが…。

 

「ほら指揮官♪M4が自分の意志を示すにゃんて滅多ににゃいわよ?」

 

 45の言うとおり、M4は戦術人形という立場を弁えているのか元々遠慮がちで真面目な性格なのか、なにかを求めることはほぼ皆無である。以前、日頃の感謝を込めてなにか労わせてほしいと何度か言ったが、『お気持ちだけで十分です。』と、すべて断られている。あまりによそよそしいので嫌われているのかと思ったくらいだ。

 

「…そうだな…。M4が望むなら…」

 

 M4本人の意思とはいえ大義名分を振りかざす45に反論できず、M4がカプセルを飲むことを渋々許可することにした。1人も2人も一緒だしな。

 

「で、416は本当にいいの?」

 

「しつこいわね、飲まないわよ」

 

「ふーん?M4は飲むのに?」

 

「……」

 

 明らかな敵意を剥き出しにする416。無理もないといえばそうだろう。彼女がほぼ一方的に嫌っているM4と比較されたうえ、遠回しではあるが『M4の方が優秀』というニュアンスだけでも、完璧主義者の416が激昴するには十分すぎる理由である。

 

「おい…45……」

 

 殺伐とした空気に居た堪れなくなり、下手に416を刺激しないよう45を止める。頼むからこれ以上面倒なことを増やすのはやめてくれ(懇願)

 

「…あなたの安い挑発に乗るのはかなり不本意だけど……」

 

「いいわ、やってやろうじゃない…!!」

 

「ふふっ♪そうこにゃいと♪」

 

 自称・完璧な女、まさかの承諾。いやチョロすぎるだろ……。

 

「うるさいわよ指揮官、いいから早くカプセルを寄越しなさい!」

 

「し…指揮官!私にもお願いしますっ!」

 

「あー……」

 

 1人も2人も一緒なら、2人も3人も同じか…。

 

 

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「いくわよ…」

 

「「せーのっ……」」

 

「……」

 

「………」

 

「……やっぱり不気味だな…」

 

「仕方にゃいわよ、戦術人形だもん」

 

 同時にカプセルを飲み込んで機能停止状態となった416とM4。この状態を見るのは2回目とはいえ、やはり人間と変わらぬ容姿で動きが完全に止まっている違和感は拭えない。

 

「…指揮官はさ……」

 

「ん?」

 

「私たちのこと、どう思ってる?」

 

「なんだ急に…。Vectorに影響されたか?」

 

「いいから」

 

 いつも軽口を叩いたりからかっている彼女ではなく、心の底からの疑問を呈した45。冗談を言って軽く流そうと考えていたがどうやら通用しなさそうだ。

 

「どうって言われてもなあ…」

 

「大事にゃ家族とか大切にゃ仲間にゃんて無難すぎる答えはダメだからね」

 

「おいおい…」

 

 分からない。

 

 先日、激昴したVectorが望んでいたのは戦術人形であることを肯定する意見だった。今の彼女(Vector)はそんな考えは捨てて自分に正直に過ごしているが、45は元からそういう思想を持っているわけではない。故になにを肯定してなにを否定してほしいのか、なにを求めているのかが分からないのだ。

 

 無論、彼女らの一部が俺に好意を寄せていることはさすがの俺でも気づいてはいる。それが親愛か、友愛か、恋愛なのかはさておき、好かれていることに違いはない。俺も彼女たちのことを愛している。

 

 だからこそ。だからこそ俺は戦術人形と一線を超えた関係を持つ気はないのだ。詳細を述べるのはまたの機会にするが、俺のこの意思は彼女たち全員に告げている。

 

「……」

 

「ねえ…」

 

「…前にも言っただろう、俺は…。……!」

 

「…ぅっ…しきかぁん……」

 

 な…!あの45が泣いている…!?

 まさかこれもカプセルの影響なのか。情緒が不安定になる副作用とかそういうやつだろうか。

 

「よ…45!悪かった!俺が悪かったから!!」

 

「あら、仔猫を傷つけるなんて酷いことをするのね。指揮官」

 

 背後から聞こえたのは胸に突き刺さるような416の冷たい声。停止状態から目覚めたのだろう。声がする方へ振り向けば、カプセルの影響でネコ化した416が尻尾をパタパタと動かし、イラついた態度で俺を睨んでいた。

 

 416の姿を猫で現すとするなら黒猫だろう。クールな彼女らしいといえば彼女らしいといえる。でも黒猫って威嚇する時の目が怖いんだよな…。今まさにその状況である。

 

「誤解だ!泣かしたのは俺じゃない!」

 

「さっき『俺が悪かった』って言ってたじゃない。まさかとりあえず謝ればいいとでも思っているの?」

 

「うっ…」

 

 こわい…。なんかいつにも増して圧力がすごい……。

 

「まあ…、童t…指揮官にオンナの扱い方を求めても仕方ないわよね…」

 

「ちょっと?わざとらしく言い間違えるのやめて?」

 

「あら、完璧な私が言い間違えるはずがないじゃない。ところでお腹空いたでしょう?チェリーパイならあるけど食べる?」

 

「優しさに見せかけた精神攻撃やめろ」

 

「ほら45、いつまでも泣かないの。指揮官(チェリー)パイ食べる?」

 

「指揮官と書いてチェリーと読むってやかましいわ」

 

「416ぅ…ひっく…ありがとう…」

 

「口を開けなさい。はい、あーん」

 

「ん…おいひい…!」

 

 優しい顔で45の頭を撫でる416。45が仔猫ならさしずめ416は母猫だろう。すっきり泣き止んで幸せそうにパイを食べる45を見て一安心する。

 

 と、ここでもう1人の彼女を思い出す。

 

「…あれ。そういえばM4は……?」

 

「え?」

 

 416と周りを見渡すがどこにもいない。机の下やベッドルームなど、部屋中を探し回ってもM4の姿はない。となると考えられるのは……。

 

「まさか外に……」

 

「指揮官!入口のドアが開いてる…!」

 

「!…嘘だろ……」

 

 最悪の事態だ。基地内での混乱を避けるため、薬を飲んだ45を部屋に隔離していた。同様に416とM4にも外出は控えるようにさせるはずだったのだが、そういえば2人にはまだ言っていなかったのだ。

 

「まずいぞ…。ネコ耳が生えたM4が基地をうろついて混乱を巻き起こせば、ヘリアンさんに怒られる…!」

 

「指輪の時もこっぴどく叱られていたわね…」

 

「よし、俺はM4を探してくる。416は45と部屋にいろ。絶対に外に出るなよ」

 

「分かってるわよ、さっさと見つけてきなさい。あいつのAIがどう変化したか知らないけど、1人にしておくのは危険すぎるわ」

 

「しきかーん、いってらっしゃーい♪」

 

(なんか妻と娘みたいだな)

 

 

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「クソっ…!どこにいった……!?」

 

 基地内を走り回ってM4を探すが、どこにもその姿は見当たらない。立地が最前線というのもあってうちの基地は比較的大規模なので、1人で見つけだすのはかなり難しい状況である。下手に情報を漏らせられないので誰かに手伝ってもらうわけにはいかない。唯一事情を把握している416と45は部屋にいるから頼れないし……。

 

 頭をフル回転させてM4がいそうな場所を割り出す。が、Vectorと映画を見に行った時もそうだったけど、あいつらの好みとかなにも知らないんだよな…。なんだ詰みか。

 

「これキリがねえな……ん?」

 

 足を止めて訪れたのは救護室。迷い込んできた野良犬や野良猫を保護し、ペットとして宿舎で飼育しているのだが、ここならケモノ化したM4が迷い込んだりしてそうだ。いやどういう理論だよ(困惑)

 

 ガチャッ

 

「M4ー、いるかー?」

 

「あああっ!!可愛い!!!ホントもふもふ最高〜❤」←猫じゃらしを手に猫と遊んでいるWA2000

 

「」←固まる指揮官

 

「はあ〜…。あんたはいいわよね、指揮官に甘えられるし頭を撫でてもらえるんだから。……私だって…指揮官に触ってh…」

 

「あっ……」

 

「……」

 

「…な…なにも見てないし聞いてないから……」

 

「ーーっ!!!???」

 

「指揮官のバカぁっ!はやく出ていって!!」

 

「ちょっ…痛い!ネコカン投げるなっ!!」

 

「うるさいうるさいっ!さっき見たことは全部忘れなさいよ!!」

 

 バタンッ!

 

 ……わーちゃんもあんな顔するんだな…、初めて見た…。うん、いいモノを見た。

 

「いや違う違う…M4を探さないと……」

 

 どこいったんだほんと。他の職員や人形達が騒いでいる様子はないから多分誰にも知れ渡ってはいないっぽいが時間の問題だろう。

 

 なんか面倒ごとを増やさないようにしているつもりがどんどん増えてる気が……。

 

 

 

 

 

 

 

 #10 いつも、彼は彼女たちに振り回される

 

 

 

 

 

 





甘えん坊の仔猫と化した45
お母さん属性がより顕著になった母猫416
果たしてM4はどうなるのか…?

ケモ耳編はもう少し続きます。

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