指揮官には友達がいない   作:狂乱のポテト

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えっ…!?読むのっ!?







番外編 戦いがここまで長引くとは誰も思わない

 

 

 人の気配が消え閑散と化したフロア。明かりが灯っているものの日頃の賑やかな面影はない。

 

 

 パシュッ! パシュッ!

 

 

 無骨な廊下に谺響する裁きの銃声。

 

「Clear、そのまま前進維持」

 

「室内から複数名の声を確認」

 

 法の制裁を与える執行者たちの足音。

 

「HK416、カバーを。制圧するぞ」

 

Copy(了解)

 

 DEA(麻薬取締局)×グリフィンによる麻薬密売組織摘発の合同作戦。数人の歩哨を処理し、一同は取引が行われているパーティ会場へ向かっていた。

 

 やがて絢爛な客室から下衆な笑い声が聞こえてくる。会話の詳しい内容を聞き取ることはできないが、どうも物騒な話をしているようだ。

 

 すかさずHK416は無駄のない動きで配置につき、マガジン内の残弾数を確認する。突入の準備が整ったことをDEA隊員にアイコンタクトで伝えると、隊員はM84スタングレネード(特殊閃光手榴弾)を室内へ投げ入れた。

 

「!?なんだ…!」

 

キイィィィィィンッ……!

 

 楽しげに談笑していたさなか、突然強烈な光と音に包まれる3人の男たち。同時にHK416はドアを蹴破って部屋に突入し、男たちが銃で武装していることを瞬時に確認。奴らが狼狽えながら銃を向けるよりも速く、彼女と同じ名の”HK416”が一糸乱れぬ精確な狙いでカルテルの頭を撃ち抜いた。

 

「……All clear」

 

「…見事だな、さすがは戦術人形だ」

 

「当然よ。私たちが普段相手にしている鉄血と比べればなんともないわ」

 

 これくらい朝飯前だと澄ました態度をとるHK416。しかし表情には表してないものの、こう見えて実は内心喜んでいた。優れた戦闘能力であるにもかかわらず、AR小隊の陰に隠れがちで正当な評価を受けることは多くないからである。

 

 とはいえ今の支部に配属されてからはそんな待遇も改善され、以前のような劣等感やコンプレックスを抱くことはなくなった。職場の人間関係がガラリと変わったことが大きいが、一番の理由はいつも彼女を見てくれている指揮官の存在である。

 

「416、少しは素直になったら?」

 

 HK416と違い軽い口調で話すUMP45。DEA隊員達とは冗談を言い合うなど、どうやら仲良くやっているようだ。はじめは可憐なルックスから戦闘能力を疑っていた隊員たちだったが、遺憾なく発揮される2人の戦いっぷりに舌を巻いている。

 

「素直じゃないのはどちらかしら?猫を被って人間に媚を売ってるあんたよりかはマシよ」

 

 強化外骨格のような偽善の仮面を被った奴に言われたくない、と言い放つ。しかし案の定UMP45は『なんの事だかさっぱり♪』といった反応を示しながらDEA隊員たちと雑談をしている。

 

「はあ…、まったく……」

 

 これ以上こいつの相手をしても無駄だと考えたHK416。飽きれるあまり深いため息をつき、足早に部屋を出ようとする。

 

 すると部屋の入口で警戒していたDEA隊員があることに気づいた。

 

「…なんの音だ…?」

 

「音?」

 

 その場にいた全員が口を閉じ、かすかに聞こえる謎の音に耳を澄ます。

 

 

ピッ………ピッ………ピッ………

 

 

「たしかになにか聞こえるわね」

 

 HK416は聴覚センサーの感度を上げ、謎の音の発生源を探し出す。

 

 

 ピッ…ピッ…ピッ…

 

 

 次第に間隔が早まっていく甲高い音。それが窓際の机から聞こえてくることに気づき、恐る恐る身体をかがめて覗き込んだ。

 

「!?全員部屋から出て!!急いで!!!」

 

「「!?」」

 

 音の正体を知ったHK416は部屋から退避するよう大声で知らせる。それを聞いた隊員たちは素早く出口へと走り出した。

 

 が、これでは間に合いそうにない。即座に察したHK416は強い口調で急ぎ退避するよう促す。

 

 ……しかし…。

 

「早く出…

 

ドオォォォォォンッ!!!

 

 

 ━━━━

 ━━━━━━━

 ━━━━━━━━━━━━

 

「ぐっ…」

 

「あいつらどうやってあんな装備を……っ!」

 

《プレッジ0-4!DEA部隊長ならびに0-1達の通信が途絶えた!そちらの状況は!?》

 

「待ち伏せです!こちらの戦力は壊滅!我々は圧倒されつつあります!このエリアはもうダメです!!」

 

「M4!立てる!?」

 

「っ…ええ…。大丈夫……」

 

「プレッジチーム!こっちだ!!」

 

 

 ……20分前…

 

 

 屋上から侵攻するM4A1(プレッジ0-3)AR-15(プレッジ0-4)たち…

 

 

「地上チームが取引現場の確保に向かう、俺たちはその援護だ」

 

「了解」

 

「まずは目標のフロアの電力設備を制御している制御室の確保だ。地上部隊の突入に合わせてパーティ会場の照明を落とす」

 

「制御室の場所は?」

 

「最上階だ。とはいえ一応ホテルの客である奴らがそこを守っているとは考えにくいがな」

 

 カルテルとはいえ、ホテルの設備を占領することはないだろう。だが現実は彼らの想像通りにはいかなかった……。

 

Contact(接触)、敵が複数」

 

 制御室の入口付近では複数のカルテルが哨戒していた。部隊のいる立地が悪いことも相まってうかつに手を出すことができない。

 

「まさかとは思ったが…。数が多いな…俺たちだけでは静かにやり過ごせそうにない」

 

「プレッジ0-3よりアーチャー(狙撃チーム)へ、制御室前に到着しました」

 

《了解だ0-3。視界良好、こちらも位置についた》

 

 ホテルから400m離れた南側に佇む廃ビル。

 

 そこではグリフィンの戦術人形による狙撃チームが待機しており、部隊の狙撃支援や敵勢力の監視に当たっていた。

 

「敵が多すぎて私たちだけでは対処できません。援護を頼めますか?」

 

《目標を複数確認した。そのまま待て》

 

《……了解だ、奥の見張りを始末する。私が指示するまで待機しろ》

 

 狙撃チームからの指示に従い、M4たちは物陰に潜む。

 

 

 ドシュッ!

 

 ドシュッ!!

 

 

 2発の重く鈍い音が響きわたる。

 

《見張りの無力化を確認、通路の5人をやれ》

 

「了解だ、攻撃する」

 

 

 パンパンッ!パララララッ!

 

 

《Clearだ、進め》

 

「了解」

 

 無事通路にいた敵を始末し、部隊は制御室へ走る。

 

 すると戦闘で起きた音を不審に思ったのか、奥の部屋から1人の敵が出てきてしまう。その事にいち早く気づいたアーチャーがすかさず部隊に知らせる。

 

《プレッジチーム、隠れろ。接近中の敵を確認した》

 

「了解です」

 

 

 ドシュッ!

 

 

 アーチャーが放った1発の銃弾は見事にカルテルの眉間に命中。最低限の物音で処理したため、他の敵が音に気づいて寄ってくることはないだろう。

 

《周辺に敵影なし、制御室に突入して制圧しろ》

 

「各員配置につけ、突入だ」

 

 M4とAR-15がドアの両脇に張り付き、DEAの隊員が突入態勢に入る。各自の準備が整ったことを確認したM4がカウントダウンを開始する。

 

「3…」

 

「2……」

 

「1」

 

 

バァァン!

 

 

「Go!Go!Go!」

 

「全員動くな!地面に伏せろ!!」

 

 勢いよく突入する部隊。

 

 だが突入した彼らを待ち受けていたのはライフルやマシンガンなどを装備した大量のカルテル達。無数の銃口を隊員たちに向け、指は引き金にかかっている。

 

「!?」

 

 瞬間、凄まじい数の銃弾が隊員たちを襲う。

 

「下がれっ!一旦引くぞ!」

 

 しかし奴らが引き金を引くよりも隊員たちが反応する方が早く、間一髪で射線から逃れることに成功した。

 

 だがカルテルたちはそう簡単に見逃すわけもなく、壁越しに見境のない銃撃を続ける。7.62mmの銃弾は薄い壁をいとも容易く貫き、容赦なく隊員たちに襲い掛かる。

 

「ぐぁっ…!撃たれたっ……」

 

「ジェフが被弾したぞっ!」

 

「カバーして!急いでっ!」

 

 撃たれた隊員をカバーするため、M4A1やDEA隊員たちもおなじく壁越しにカルテル達へ向けて発砲する。しかし彼らの小銃とカルテルが持つ軽機関銃では制圧効果に雲泥の差があり、圧倒的な制圧射撃を前に反撃できずにいた。

 

「くそっ…!」

 

 そして苦戦を強いられた彼らの前に、厄介な相手が立ちはだかる。

 

「なんだあれは…」

 

強化重装甲歩兵(ジャガーノート)……!?」

 

 彼らの前に現れたのは対爆スーツの上からさらに防護アーマーを身につけた兵士。隊員たちの銃撃をものともせず、M249を片手にゆっくり近づいてくる。

 

「ふざけないで!あんなの正規軍しか持っていないはずよ!!」

 

 ジャガーノートスーツは正規軍が開発中の試作兵器である。現時点ではごく少数の部隊でしか配備されておらず、どう考えても一介の犯罪組織が持てる装備ではない。

 

「あいつらどうやってあんな装備を……っ!」

 

 思わず愚痴をこぼしてしまうAR-15のもとにオーバーロードから通信が入る。

 

《プレッジ0-4!DEA部隊長ならびに0-1達の通信が途絶えた!そちらの状況は!?》

 

「待ち伏せです!こちらの戦力は壊滅!我々は圧倒されつつあります!このエリアはもうダメです!!」

 

 AR-15が焦燥感を露わにして無線越しに叫ぶ。このままでは全滅も免れないだろう。

 

「RPG!!」

 

 DEA隊員の警告を聞いて視線を敵へ向けると、カルテルがRPG-7を担いでこちらを狙っていた。

 

「ちょっと…室内でそんな物騒なもの使うなんて聞いてないわよ!」

 

 AR-15はすかさずRPGの射手へ狙いを定め、見事頭を吹き飛ばすことに成功する。しかし撃ち抜くのが僅かに遅かったか。射手の指はすでに引き金にかかっており、被弾して倒れる勢いで引き金が引かれロケット弾が射出されてしまった。

 

 

ドオォォォォォォンッ!!!

 

 

 発射されたロケット弾はM4やAR-15たちの数メートル近くの壁に命中した。直撃は避けられたものの、凄まじい爆風と衝撃波が彼女たちを襲う。

 

「ゲホッ…ゲホッ…!」

 

「M4!立てる!?」

 

「っ…ええ…。大丈夫…。けど…今の衝撃で通信エラーが……」

 

 咄嗟の出来事に防御態勢をとることができず、爆発の衝撃をもろに受けてしまう。その影響で頭部のマルチ通信モジュールに一時的なエラーが発生してしまった。

 

 これではHQやオーバーロードと連絡を取ることができない。幸い戦術人形間の通信で用いるローカル回線は正常に稼働しているため、プレッジチームや現地にいるグリフィンの戦術人形たちと連絡を取り合うことは可能だ。

 

「ちっ…私の通信モジュールもダメ…。ペルシカに改善してもらわないと…」

 

「プレッジチーム!こっちだ!!」

 

 辛うじて曲がり角まで退避することに成功し、カルテルたちの射線から外れられた。

 

 だが安心してはいられない。カルテルたちに自分たちの位置がバレた今、奴らに包囲されるのも時間の問題である。最も厄介なのはあのジャガーノート。機動力こそ悪いものの、異常なまでの防御力でこちらの銃撃をまったく受けつけない。

 

 せめてあのバケモノをどうにかできれば反撃の糸口を見出せるかもしれないというのに。

 

「いったいどうすれば……!」

 

《こちらアーチャー。プレッジチーム、聞こえるか?》

 

「!…ええ!聞こえてるわ」

 

《私が狙撃できる位置までヤツを引き付けてくれ、あのバケモノを撃ち抜いてやる》

 

「了解…頼んだわよ……!」

 

 仲間からの頼もしい言葉のおかげで少し落ち着きを取り戻し、AR-15は部隊全員にジャガーノートを引き付けて下がるよう伝える。

 

 アーチャーは感覚を研ぎ澄まし、狙いをジャガーノートの頭に定める。

 

 何度か危険な状態に遭ったもののプレッジチームたちはうまく引き付けることに成功。絶好の機会が訪れる。

 

 その瞬間をアーチャーは逃さなかった。

 

「…私を敵に回すとは、浅はかな奴め……」

 

ダァァンッ!

 

 

 ━━━━

 ━━━━━━━

 ━━━━━━━━━━━━

 

「ぅ……」

 

「…416、目が覚めた?」

 

 爆発によって辺り一面が瓦礫の山と化したフロア。

 

 先に目を覚ましたのか、もともと気を失ってすらいなかったのか、HK416の目の前にはやけに落ち着いたUMP45の姿があった。

 

「これは…DEAの隊員たちはどうなって……」

 

「彼らは“奇跡的に”みんな無事よ、先に行っといてもらったわ」

 

 あの爆発の後、負傷こそすれど“奇跡的に”誰も命を落とすことはなかった。部屋に設置された爆弾に最も近い位置にいたHK416はしばらく意識を失ってしまい、UMP45は彼女が目を覚ますまで1人で待っていたのだ。

 

「へえ…1人で……」

 

「……」

 

「なにか私だけに伝えたいことがあるの?45」

 

「…後で分かるわ」

 

「今からDEAと合流するわよ」

 

「…」

 

 意味深な反応を示すUMP45。そんな彼女に対して詮索をしたりすることなく、HK416は無言のまま彼女の後を追う。

 

「おまたせ♪隊長さん」

 

「……来たか、どうやら上の部隊がカルテルたちと派手にやり始めたようだ」

 

「そうみたいね、助けに行く?」

 

「その通りだ、二手に別れるぞ」

 

 DEAの隊長は急遽部隊をふたつに分断することを決めた。ひとつは予定通りパーティー会場を目指し、取引現場を取り押さえる制圧班。もうひとつは上の部隊の救援に向かう班だ。

 

「マイク、リード、キートン、ルノ、サンドは俺と現場を押さえる。他の4人はUMP45、HK416と共に部隊の救援に行ってくれ」

 

「救援部隊の指揮はフォーリーに任せる。頼んだぞ」

 

「任せてください、隊長」

 

 そう言い残すと隊長は5名の隊員を率いて走り去っていった。

 

 残された救援班の6名は戦闘中の部隊と通信を取り、カルテルたちの裏から攻められるよう打ち合わせをしていた。

 

ここでHK416は作戦を少し変えることを指揮官に報告する。あの大きな爆発があったとはいえ、通信機能は無事だった。

 

「オーバーロード、聞こえますか?」

 

《こちらオーバーロード、どうやら回線が回復したようだな。正常だ》

 

「これより予定を一部変更。私たちは0-3達の救援に向かいます」

 

《了解だ、現在こちらからは0-3と0-4両名と通信ができない。そちらから連絡は取れるか?》

 

「……ローカル回線は正常に稼働。どうやらかなりまずい状況のようね…」

 

「事態は一刻を争うようだな、急ぐぞ」

 

「了解♪」

 

「…了解」

 

「HK416、UMP45、2人はポイントマンを。俺たちは後方から着いていく」

 

「先に行ってくれ」

 

「はあ…戦術人形だからって盾扱いしないでくれるかしら……」

 

「まーまー、そんなこと言わずに行きましょ。急がなきゃ」

 

 HK416とUMP45は部隊を先導し、後ろから4名の隊員たちがついて行く陣形となった。今のところ、近くにカルテルがいる様子はない。

 

 

「……」

 

 

 なのだが……

 

 

「……やれ」

 

 

 突如銃を正面に向け、引き金に指をかける4名の隊員たち。

 

 

「……」

 

 

 彼らが狙うその先にいる者は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

 

「ぐっ…!」

 

「フッ!」

 

「っ!がぁっ!!」

 

「「!?」」

 

 UMP45は隊員の顔を勢いよく銃床で殴り、HK416は腰に備えたナイフで別の隊員の右腕を突き刺した。

 

 突然の出来事に戸惑い、動きを止めた残りの隊員。しかし彼らは即座に状況を理解し、2体の戦術人形に向けて銃を発砲した。

 

 だが至近距離では銃よりもナイフ、格闘術の方が圧倒的に有利である。UMP45は隊員をねじ伏せて床に抑えつけ、HK416は隊員の間合いに入り込み首元に刃を当ててこう言い放つ。

 

 動くと命はないわよ、と。

 

 観念した隊員たちは武器を捨て、抵抗の意思はないことを示した。

 

「くっ……」

 

「…45、これで良かったのよね?」

 

「ええ。ありがとう」

 

《おい…2人ともなにを…!?》

 

《DEAの隊員たちはいったい……》

 

「指揮官は黙ってて、すぐに分かるから」

 

 UMP45の尋問が始まる。

 

「さてと…」

 

「私たちが突入した部屋に仕掛けられた爆弾。制御室へ部隊が来るのを事前に知っていたかのような過剰すぎる戦力での待ち伏せ……」

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたちね?カルテルに情報を漏らしていた内通者は」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

番外編 戦いがここまで長引くとは誰も思わない

 

 

 

 

 

 

 

 






あれ…これ終わ…あれっ…。えー…っと、これあの終わるのは……あのちょっとケモ耳編の続き…は…。えー…っと……。あれっ……。


…。


……。



次回こそ番外編を終わらせます(多分)

てかこれ前話とかケモ耳編の話 誰も覚えてないでしょ()




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