『総統閣下はドリーマーが倒せないようです』という動画を作ってYouTubeに上げたら1週間で削除されたので初投稿です。(再生数1,200回)
ちなみにニコニコは10時間で消されました。
だらだらと続けてきた番外編ですが、これにて終わりです。無理やり詰め込んだので今回はえげつない長さになりました()
長すぎて読む気が失せるとおもいますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです……。
「…いつから気づいていた」
隊員が口を開く。
「私たちの動きがここまで完全に読まれているとなると、内通者の存在を疑うのが当然よ。まあその内通者が私たちと一緒に行動しているのは予想外だったけど」
「腐ってたのは地元警察だけじゃなかったのね…」
《とにかくこの4人を拘束しろ、あとはトンプソンたちに回収させる》
「りょうかい♪416、手伝って」
「はあ…やっぱり人間は信用ならないわ……」
指揮官から指示を受けたUMP45は手際よく裏切り者たちを近くの支柱に縛りつけ、DEA隊長と回線を繋げる。
《どうした?》
「隊長さん?あなたの部下、カルテル達と随分仲が良いみたいよ」
《……》
「…さっきまで45と楽しくお喋りしてたのに急に黙り込むのね。なんとか言いなさいよ」
露骨にイラついた態度を示すHK416に対してUMP45が「今は黙ってて」とアイコンタクトをする。
《その…すまない。君たちを危ない目に合わせてしまった》
「あの4人が内通者だって知ってたの?」
《疑惑はあった。だが確たる証拠がなくてな…、今のところはひとまず様子を伺うしかなかった》
どうやら“表向きは”捜査線上に挙がっていなかったものの、ごく一部の捜査員の間では彼らの関与が疑われていたらしい。しかし彼らの特殊部隊員としての優れた実績、加えて警察組織の人員不足も相まって迂闊に手を出せなかったのだ。
そして…
《俺はあいつらを…仲間を疑いたくなかった……》
「人間らしいわね、感動して涙が止まらないわ。こんなに堅い絆で結ばれているんだもの」
嘲笑うように皮肉を繰り出すHK416だがUMP45に鋭い視線を向けられてしまい、仕方なく舌打ちして周囲の警戒を続けた。
「そう、分かったわ…。どうするしきかん?」
ことの真相を聞き出したUMP45は指揮官へ指示を仰ぐ。これまで沈黙を貫いていたがしっかり会話を聞いていた。
《だからコールサインで…いや、もういい…》
《…このことは上に報告させてもらう。もちろん
《ここからは我々グリフィンが取り仕切る》
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「指揮官さま、よろしいのですか…?今ここで人手が減るのは厳しいのでは……」
「…ひとまず本作戦が終了するまでは共同した方がいいかと」
カリーナ達の言うように、現状は正規軍レベルの重装備と大勢の戦闘員を持つカルテル相手に苦戦を強いられている。今は猫の手も借りたい状況だが…
「これ以上彼らを信用するほうが危険だ。いつ裏切られてもおかしくない」
《オーバーロード!聞こえますか!?》
他の支部に所属しており、本作戦において指揮下にいるデッドリーチームのMP5から緊急の通信が入る。
「こちらオーバーロード、どうした」
《奴らの待ち伏せ攻撃のせいで被害が甚大に…これ以上の戦闘続行は不可能です!!》
モニターを彼女たちのアイカメラによる映像に切り替えると先ほどのM4たちと同様、軽機関銃やジャガーノートで武装したカルテルが一方的な銃撃を与えていた。こちらは位置の関係からアーチャーの支援を受けられず、火力を犠牲に機動性に全振りしているMP5たちのチームでは歯が立たない。
「すぐに撤退しろ、屋上にヘリを送る」
《り…了解ですっ!》
「……作戦を変更だ。プランBで行くぞ」
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指揮官との通信を終了し、ひとまずHK416とUMP45はM4たちとの合流へ向かう。
「ほんと最悪な状況だわ、私たちだけで片付けろなんて…」
「私達はこういうの初めてじゃないでしょ?いつも通りにやれば平気よ」
《今の状況は多勢に無勢すぎる。できる限り戦闘は控えて目標まで向かえ。見つかると厄介だ》
「了解」
指揮官の指示通り、彼女たちはカルテルたちの目をかいくぐり順調にパーティー会場に近づいていく。すると別行動をしているAR-15から通信が入ってきた。
《こちらAR-15、制御システムの工作は完了したわ》
待ち伏せに遭ったM4とAR-15たちだったがアーチャーの支援もあり、なんとか制御室を制圧しジャミング装置の設置に成功した。これで電子システムを工作し、ホテルすべてのドアのオートロックをシステムダウンさせることができる。
「了解、急いで目標まで来て。時間がないわ」
「…ここね」
「オーバーロード、会場入口に到着。M4とAR-15を待ちます」
HK416とUMP45がついにパーティー会場に辿り着く。見渡す限り周囲に敵はいないようだ。
「てっきり入口をがっちり固めていると思ったのに、私たちの捜索に駆り出されているのかしら」
「すでにけっこうな数を始末してるから人手が足りないのかもしれないけど、だからといって1人の見張りもいないのは妙ね……」
ひと段落ついた2人に指揮官から通信が入る。
《気をつけろ、サーマルでそちらに向かう反応を検知した》
「数は?」
《かなり多い、まるで
「まさかハメられるとはね〜」
「…やるしかないわ……」
2人は左右の壁に張り付いてカルテルを待ち伏せる。
「2人とも聞いてた?なるべく早く来てちょうだい、長くはもたないわ」
《了解、死ぬんじゃないわよ!》
通信が終了すると同時に遠くから複数の足音が聞こえてきた。
支援もなし、味方は自分の相方1人だけ、対する敵戦力は甚大。これまで鉄血と過酷な戦いを繰り広げた彼女たちだが、ここまで不利なのも久しぶりだった。
「私たちだけで何人倒せるかしらね…」
敵の足音が徐々に近づくにつれ、嫌な汗がHK416の身体を流れる。
「さすがの完璧なあなたもちょっと怖気ついちゃった?」
いつもの小馬鹿にするからかいか、それともHK416を気遣うための冗談なのか、UMP45が半笑い気味に言う。しかしそんな軽口を叩く余裕を見せる彼女だが、本心では死への恐怖と不安に襲われていた。
自分たちは人形だ。自分たちにはバックアップがある。たとえ死んでもデータさえあれば生き返られる。
そんなことは分かっている。ちゃんと理解しているつもりなのに、頭のどこか片隅で死ぬのが怖いと訴えていた。
「…あなたも本当は怖いんでしょう?45」
「……」
「まったく…今までこんなことなかったのに…」
そう呟きながらポーチに入れていた銀色の指輪を握りしめる。
不安に押しつぶされそうななか、最も信頼する者の声が届いた。
《あー…416、45》
「……しきかん?」
「…ついにあなたもコールサインで呼ばなくなったわね」
《こういう時は、ちゃんと名前で呼んであげないとな。どこかの誰かさんみたいに不真面目なわけじゃないぞ》
いつも自分たちの面倒をみてくれているあの人の声。戦闘続きの生活のなか、平和な時間を一緒に過ごした指揮官の声だ。
《その…すまない。2人をこんな目に遭わせてしまって…》
「…ふふっ♪DEAの隊長さんと同じこと言ってるわよ」
「人間って謝罪するのが好きなのかしら、それとも指揮官が中間管理職だから?」
一般の戦術人形のみならず、非合法に作られた彼女たちにも分け隔てなく接してくれる指揮官。彼の声を聞くと気づけば恐怖心はどこかへ消え、軽口を言えるほどに落ち着きを取り戻した。
《なっ…違う!いや…管理職だからってのはあながち間違いじゃないが……》
2人にいじられて取り乱してしまういかにも彼らしい姿。死と隣り合わせの状況にもかかわらず、いつも通りの彼に思わず頬が緩んでしまう。
《…2人とも誓約の指輪は持ってるな?》
誓約の指輪。本来制限されている人形の性能と権限を部分解除すると同時に、人形のオーナー権がグリフィンから指揮官個人の所有に移行するというもの。
ペルシカが開発した試作品らしいが、指揮官は指輪の使用にあまり乗り気ではなかった。
《そいつを指に嵌めろ。そうすれば勝機はある。奴らとも互角にやりあえるはずだ》
「……人形とはそういう関係になりたくないんじゃなかった?」
グリフィンの戦術指揮官としては珍しく、彼は人形たちと身体を交えたり身勝手な扱いをする人間ではなかった。どれだけ人形に言い寄られても彼は頑なにそれを断る。
指揮官は同性愛者だと考える者。過去になにかあったと決めつける者。人間にしか好意を抱かないと理解する者。たくさんの仮説があるがその真相はいまだ明かされていない。
《まあ…たしかにそうなんだが……》
《俺の勝手な都合を押しつけて2人が酷い目に遭うほうがもっと嫌だ》
「…」
「……」
《こんな考えは異端だと言われるだろうが、完璧なバックアップなんてものは存在しない。
《俺は…俺は2人を失いたくない……》
《たとえこの思いが偽善で…欺瞞で…偽りの思考だとしても…》
《俺は………》
震えていた。いつも彼女たちの前では明るく振る舞い、頼もしくて温かい彼の声が震えていたのだ。
それは自分たちが知っているいつもの指揮官ではなかった。だが今まで見せていなかっただけで、これが本当の彼なのだろう。
「…私たちを誰だと思ってるの?しきかん?」
「404も舐められたものね…あなたの功績に最も貢献してきたのは誰か知らないの?」
《45…416……》
そう答えながら2人はホロサイトを覗き、距離を詰めるカルテルたちに狙いを定める。
「こんな指輪に頼らなくても人間の相手くらいなんてことないんだから…」
パンパン!
「言っとくけど私たちは死ぬのが怖いわけじゃないわ。任務を失敗して今までの戦歴に泥を塗りたくないだけよ?」
パシュパシュパシュッ!パシュッ!
「私たちなら、大丈夫…」
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ズガガガガガンッ!!
ババババババッ!
通信機越しに鈍く重い銃声が伝わってくる。
「……」
「指揮官さま……」
「…ちっ……」
「…すぐにヘリを出せ、急いで4人の支援に向かわせろ」
「了解。HQよりノーマッドへ、至急プレッジチームの航空支援に当たれ」
アーチャーチームと通信中のオペレーターが指揮官に情報を伝える。
「アーチャーから報告、幹部の奴らが動き出しました。恐らく逃走の準備と思われます」
取引が終了したのか、それとも自分たちのすぐ近くまで戦術人形たちが迫っていることを危惧したのか。早々に撤収作業を始めたらしい。
「急げ、奴らに逃げられるぞ」
《まったく…!人使いが荒いんだから!バシュッ!バシュッ!》
《こちらAR-15!南側の通路から侵攻中、あと少しでそちらに着くわ!》
《了解。45!そっちから2人が向かってる!誤射しないでよ!》
《バンバン! ババババババッ!》
「地下駐車場に動きあり。SUVが3台、登録されているナンバーと一致します」
「…車だと?包囲網を無理やり突破する気か」
現場周辺の道路はすべて地元警察によって封鎖されており、勢いにまかせて強行突破するのはあまり得策ではない。
しかし…。
《まさか地元警察もあいつらの逃走に加担するんじゃないわよね?》
UMP45の言うようにこの国の警察は優秀だが汚職にまみれており、いつ寝返ってもおかしくはない。DEAがいい例だ
「……」
さまざまな予測が指揮官の頭をよぎる。
「…ひとまず今は目の前の敵を撃つことに集中しろ、いいな?」
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「キリがないわね…!ジリ貧だわ!」
数の多いカルテルたちによる圧倒的な制圧射撃により、思うように反撃できない4人。残弾も逃げ場もなく、完全に窮地だった。
「このままじゃ…」
雨音の如く激しい銃声が響きわたるなか、空を切り裂くように羽ばたく鳥が彼女たちの前に現れる。
「あれは…」
グリフィン所属の汎用ヘリ、UH-60だ。
《よう、お嬢さんたち!俺を待ってたんだろ?》
聞き馴染みのあるパイロットの声、それはこの暗い状況を明るく照らしてくれた。
「ノーマッド!奴らにぶっぱなせ!!」
HK416が叫んだ途端、ヘリの側面ドアに搭載されているM134が凄まじい音を立てて銃弾を放つ。毎分3,000発の速さで発射される7.62mm弾がカルテルたちに降りかかった。
さながら、カルテルたちにとっては無慈悲な虐殺。戦術人形にとっては自らを救済する女神のようだった。
だがヘリの死角から攻撃してくる敵も多く、航空支援によってある程度の敵を減らせたものの、不利な状況下にあることに変わりはなかった。
M4A1は必死に思考を巡らせ、この戦況をどう覆すか、空になったマガジンを抜きながら様々な手段を考える。
やがてひとつの答えに辿り着いた。
「45さん!スモークはありますか!?」
「ええ!ひとつだけ!」
「それを投げてください!奴らの目をくらませている間にパーティー会場に突入、即座に扉をロックします!」
警備をする下っ端のカルテルと違い、目的の会場にいるのは幹部数名と少数の護衛のみだ。上手く行けば形勢逆転の可能性はある。
「OK、いくわよ!」
ピンッ シュッ……
UMP45がスモークグレネードを投擲すると瞬時に煙が広がり、辺り一面が濃霧に包まれる。
視界不良のなか進撃するのは危険だと判断したのか、カルテルたちは足を止め、引き金から指を離した。
M4A1たちはその瞬間を見逃さず、扉を開けて会場に突入。同時にジャミング装置を起動させてオートロックシステムをダウンさせることに成功する。これで外の下っ端たちが中に入ることはない。
だが突入するのが僅かに遅く、会場内はもぬけの殻で幹部たちの姿はなかった。
「ちっ…!一足遅かった!!」
道具を用いてドアを無理やりぶち抜いた痕跡があるのを発見する。幹部たちの逃げた道しるべが示されていた。
「こっちよ!急いで!!」
「指揮官、奴らは現場から逃走。追跡します」
《了解だ。地下駐車場でカルテルのものと見られる車両が3台動いている》
《M4とAR-15はそのまま追跡を、416と45は一旦屋上に向かえ。ノーマッドを待機させてある。陸と空から奴らを追うぞ》
「了解です!」
「そっちは任せたわ、しくじらないでよ」
「…私は完璧なのよ。あなたたちに言われるまでもないわ」
そう言い残しHK416とUMP45は屋上に向かって走って行った。
「……」
「…行くわよ、奴らに逃げられる」
「…ええ」
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「AR-15!運転は任せたわ!」
「OK、振り落とされないようにね」
ホテルの地下空間に激しい銃声と車の走音が鳴り響く。駐車場内の道幅は狭いのだがカルテルたちはそんなことお構いなし。追っ手を引き離そうとかなりのスピードを出している。
「へえ…、面白いじゃない…!」
ホテルの敷地内から飛び出ると出入口にはすでに地元警察が待ち構えており、複数の警察車両が追跡に参加する。その際に1台がパトカーに激突、停車したところを警官が取り囲んで確保に成功した。
だが残りの2台はそのまま逃走を続け、追跡するパトカーに差をつける。
「逃がさないんだから…!」
AR-15は見事なハンドルさばきで奴らの車にぴったり張り付き、M4A1が助手席から発砲。運転席を狙うも防弾ガラスによって銃撃を阻まれ、運転手を撃ち抜くことができない。
「駄目!通じないわ!」
「タイヤを狙ってバーストさせなさい!」
AR-15の指示通りM4A1は後方のタイヤに向けて発砲する。攻撃は見事に成功。カルテルの1台がスピードのあまりバランスを崩し、脇道へそれて横転する。
残るは1台。
ここでHK416とUMP45を乗せたヘリが現場に追いつく。
「あれで最後みたいね」
「地上のおまわりさんから報告。幹部が乗ってるのはあの車よ」
「了解、ここで終わらせましょう」
2人は揺れ動く機内から車のエンジン部分へ発砲する。ほとんどの弾は見事に命中し、やがて車体から白い煙が吹き始めて速度が低下していく。
「AR-15、M4、目標を確保する用意を」
「了解。速度が落ちてきてるわね、これなら追いつけるわ」
「目標はフェルブルク通りを南下中!ロードブロックの設置を!!」
M4A1の要請を受け、包囲していた警察が道路にパトカーを設置してカルテルたちの逃げ道を塞ぐ。車はパトカーに激突。ようやく停止させることに成功した。
警官とM4たちはゆっくりと警戒しつつ近づき、上空からUMP45とHK416が車のドアに狙いを定める。
「武器を捨てて!両手を挙げて降りてきなさい!」
M4が投降するようカルテルへ告げた途端、1人の大男が車から出てきた。かなりの体格で身長は2mを越えている。
「両手を頭の上にして地面に伏せなさい」
《奴が
「了解…」
「…証拠品の押収を」
ゆっくりと動きだす大男は不敵な笑みを浮かべると銃を取り出しM4たちへ向けた。
「
『こいつを渡してたまるかァァッ!!』
ドンッ!
「くっ…!」
「まだ反撃する気なの!?」
重い音を立てて放たれた12.7mm弾。M4たちは間一髪で避けたが、後方のパトカーのガソリンタンクに命中し、気化したガソリンに引火して大爆発が起きる。
《…対物ライフルを片手で…!!あいつ何者なんだ!?》
『こうなったらお前らごとブツを始末してやるっ!!』
ドンッ!ドンッ!
男は対物ライフルを乱射しているものの、冷静ではないようで狙いはかなりいい加減だ。
タイミングを見計らって反撃をするが、警官の持つ拳銃や戦術人形のライフルではいまいち効いていないように見える。強化装甲を着込んでいる可能性が高い。分が悪いため、M4は上空で旋回している416に支援を求める。
「416さん!上空から掃射できますか!」
「あんなバケモノをミニガンで倒せる気がしないけど…!」
HK416は目標に狙いをつけミニガンで掃射する。高速で発射される銃弾により、強化装甲を部分的に破壊することに成功する。
『グッ…』
「OK!効いてるわ!!」
『…鬱陶しいハエがァッ!』
銃弾の雨に怯みながらも男がヘリに向けて対物ライフルの引き金を引いた。
ドンッ!
「…!!」
銃弾はヘリの操縦系統に命中してしまい、機体は制御を失う。
《メーデー!メーデー!メーデー!被弾した!!》
「冗談でしょ…!」
警報が機内に鳴り響きぐらぐらと機体が揺れる。徐々に高度が下がるなか、なんとか体勢を立て直そうとするもだんだんと地面が近づいてくる。危機的状況に直面したHK416がパイロットに向かって叫ぶ。
「ノーマッド!大丈夫なの!?」
「フットペダルは生きてる!踏ん張れよクソッタレ…!!」
「危ない!」
ビルに激突する寸前でヘリは体勢を建て直し高度を上げる。奇跡的に墜落は免れた。
「トルクよし、テイルローター有効、油圧計安定。コレクティブピッチ問題なし、燃料70%」
「オーバーロード、飛行可能だ。だが安全のために一旦飛行場まで撤退する」
《了解だ、許可する》
「ふう…やるじゃない、ノーマッド……」
HK416たちの乗るヘリが無事に飛び続けているのを見届け、M4は安堵の表情を浮かべる。
「よかった…!」
だが
「M4!危ない!!」
「…えっ……」
ドオォォォォォンッ!
……
………
M…!
…M4……!
「M4!!」
「う…」
至近距離で起きた爆発の衝撃でM4は吹き飛ばされてしまう。周囲の警官もほとんどが負傷やその救護にあたっており、まともに戦える者は残っていない。
「AR…15……」
「立てる!?一旦引いて…ぐっ……」
M4A1を庇うAR-15だが彼女は対物ライフルの一撃を食らってしまい、右腕を損傷していた。
誰も反撃できないまま幹部の大男が彼女たちに近づく。
『許さねえぞ…グリフィンの犬が……!!』
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「M4A1!」
地上チームの危機にHK416が叫ぶ。
「ノーマッド!今すぐ引き返して!」
「馬鹿言え!あんなバケモノの相手をする気か!?」
パイロットはたった2人であの相手をするのは自殺行為だと判断し、彼女たちの要求を却下する。
「いいから戻りなさい!あいつらを見捨てるわけには行かないわ!!」
「危険すぎる!下手に近づいてまたヘリを撃たれたら確実に墜落するぞ!」
「しきかん!救出の許可を!!」
《……》
「指揮官っ!!」
《…分かった…、許可する》
指揮官は危険な賭けを許可するかどうか決断を迫られるが、404小隊の優れた戦闘能力を信じ、2人を降下させる決断を下した。
パイロットは安全のため、戦闘区域から少し離れた場所にヘリを着陸させて2人を降ろす。HK416とUMP45は徒歩で現場に向かいM4たちの防御につく。
「2人とも無事!?」
「…45…416…?」
「…あんたたちのことは心底どうでもいいわ。ただ、ここで死なれると指揮官に合わせる顔がないのよ」
「…ははっ……」
2人の登場に安堵するM4A1とAR-15は思いを2人に託し、物陰に隠れる。
「私がヤツの注意を引く、416は隙を見て榴弾を食らわせて!」
「OK、分かった」
UMP45は持ち前の高い機動力を活かし、素早い動きで大男を攪乱させる。
『ハエの次はゴキブリか!!』
「動きが鈍いわよ、ちょっとは痩せたら?」
対物ライフルを振りかざして射撃する大男だが、SMG型戦術人形のUMP45にとって銃弾の回避くらい造作もない。
『ちょこまか動きやがってェッ!!』
大男は自らの攻撃が命中しないことにイラつくあまりライフルを投げ捨て、UMP45に巨体を活かした肉薄攻撃を仕掛ける。
しかしこれこそUMP45の狙いだった。ただ回避していたわけではなく、車の近くに大男を引きつけるように立ち回っていたのだ。
そして猛突進してくる大男を回避し、UMP45の思惑通り、大男は数台のパトカーに突っ込む。
「416!今よ!!」
『……!?』
UMP45の合図を受けたHK416はグレネードランチャーの引き金に指をかける。
「私は完璧よ……」
ドオォォォォォンッ!
大男に向けて放たれた榴弾は複数の車両を巻き込み、相乗効果によって大爆発が起こった。
爆発が収まると同時に銃声は止み、辺りにサイレンの音が鳴り響く。爆発の跡、傷ついたパトカー、多数の血痕がこの事件の凄惨さを物語る。
やがて周辺は警察によって封鎖され、立ち込めた硝煙だけが永く漂い続けた……。
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「話は以上だ、下がっていいぞ」
「はっ、失礼します」
合同作戦から4日後。
ヘリアンさんにすべての報告を終えた俺は部屋を後にし、基地の屋上で年甲斐もなく黄昏れていた。
「はあー……」
「ここにいたんですか、指揮官」
現れたのは416、チームを勝利に導いた優秀な人形だ。そして……
「その…申し訳ありません。私のせいで重要な証拠品が…」
俺が上層部にこっぴどく叱られる原因を作った人形でもある。
榴弾で車を巻き込んで大爆発を起こし、HVTの無力化に成功したのだが、その際に証拠品を乗せた車ごと爆破させてしまったのだ。
結果、証拠品は全ロスト。麻薬取引の件で起訴するも証拠不十分を言い渡された。正規軍との癒着疑惑等、なんとか別件の容疑で幹部や構成員を起訴することに成功するも、組織を完全に壊滅させるまでには至らなかった。
「ああ…気にするな、俺はお前たちが無事だっただけで十分だよ」
多少の損害があったものの、1人の犠牲者も出さずに済んだのだから。
「なあ、なんでアレを使わなかったんだ?」
「アレ…?」
「ほら、誓約の指輪」
「ああ…それは……」
416は少しの間考え込んだのち、こう答えた。
「だって指揮官を束縛する重荷にはなりたくないもの。45やあの2人もそう考えているはずよ」
大切な相手の都合を無視してまで自分の想いを貫きたくない。彼女たちはそう判断したのだろう。
「それに…」
「?」
416はしばらく俯き、顔を上げると俺の心になにかを打ち込むように答えた。
「それに、自分で左手の薬指に指輪を嵌めるなんてナンセンスでしょう、指揮官?」
番外編 いつかあなたが振り向いてくれる日まで
長々と続けた結果こんなクオリティーとオチで申し訳ないとは思う←
次回から通常通りほのぼのとしたお話を書いていきます。まずはケモ耳編、てめぇからだ。