指揮官には友達がいない   作:狂乱のポテト

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すまない…9ヶ月も間が空いて…本当にすまない……。



#19 またしても、彼は地獄を生き延びる

 AM 9:00

 エンゲリス空軍基地まで約120マイル────

 

「そこで俺はこう言ってやったのさ、『ヘリアンさんもやればできるじゃないですか』ってな!HAHAHAHA!!」

 

「ああ、だからあの日、指揮官が死にかけた様子で帰ってきたんですね…」

 

「褒めたつもりだったんだけどな…地雷だったな…」

 

 ビーッ ビーッ ビーッ

 

 突如、警報が鳴り響く。

 

「なにがあった?」

 

「多数の方角から赤外線を探知、地上から狙われています」

 

「なんですって!?」

 

 その瞬間、地上から放たれたロケット弾がヘリの真横を通り過ぎていった。

 

「ブレイク!ブレイク!」

 

 パイロットが叫ぶと機体は急旋回し、建ち並ぶ高層ビルの合間を縫うように飛びぬけていく。そのわずか数秒後に後方にあった電波塔が対空ミサイルによって吹き飛ばされるのが見えた。ヘリは一気に速度と高度を上げた。

 

「ダメだ!奴ら屋上からも待ち伏せしてやがる!」

 

「指揮官の安全が最優先よ、振り切って!」

 

 建物を盾にして射線から逃れようとするのも先読みされており、逃げ込んだ先からも警報装置が絶えず全方向からの危険を知らせている。

 

「第2波きてるわよ!」

 

 AR-15が言うとおり左右後方から多数の飛翔体が接近してきているが、咄嗟に放出された欺瞞用のフレアによって直撃を免れた。だがそれでも砲火は一向に止まず、俺たちはただひたすら逃げ続けるしかなかった。

 

「わたしに任せて!これ一度使ってみたかったんだ~!」

 

 制圧射撃のためにSOP Ⅱがドアガンの銃座に着く。一見するとまるで新しいおもちゃではしゃぐ子供のように見えたがそれも束の間、高らかに笑いながら鉛の雨を降らせるその姿はさながら猟奇的な悪魔だ。

 

「こっ…コラSOP Ⅱ!危ないからちゃんとグリップをしっかり握って!あまりデタラメに撃っちゃダメよ!」

 

「(オカンだ)」

 

「(まるで母親ね)」

 

「(お母さん…)」

 

 そしてその悪魔を叱るROはどうみてもママだった。

 

 うん、まあ、ドアガンの撃ち方で注意する母親ってなんだよって話なんだが。良くも悪くもグリフィンとはこういう組織です。他にも料理を作ろうとして爆発物を生成するツンデレスナイパーを始め、白いストッキングを履いた美少女が好きなバイ、ライフルを持ったドスケベセクシーなバイ、時々フェレットになるバイがいます。バイしかいねえ。

 

「こんな街中でヘリを落とそうとするなんて連中も見境ねえな…」

 

「一体なぜそこまでして私たちを狙うのでしょうか…」

 

「それにあの待ち伏せ、私たちがこの空域を通過すると事前に知っていたとしか思えないわ」

 

 AR-15の推理に思わず言葉を詰まらせてしまった。

 

「それは…つまりこの計画を外部へ漏らした内通者がいるということ?」

 

「そうとしか考えられないわね。それに、グリフィンで指揮官の護送計画を把握しているのはごく少数の限られた者のみよ。となると軍の誰かが過激派連中と繋がっていると考えるべきね」

 

「ああくそっ…!これだから軍は信用ならねえ…!」

 

 もとから繋がりがあったのか今回のために買収されたのか知らないが、この地域の駐留軍は腐敗している。これから軍の保護下に入るとはいえもしも中に過激派とグルの人間がいるとすれば、そこはもう安全地帯ではなくなる。隷下の戦術人形を引き連れることができない以上、グリフィンを離れた時点で信用できる者がいなくなるのだ。

 

 こちらのことはお構いなしにパイロットの慌ただしい声が聞こえた。

 

「フレアをすべて使い果たした。そちらは?」

 

【こちらも今ので最後だ】

 

「3-2、こちらをカバーせよ」

 

 僚機への指示に俺は自分の耳を疑った。アトラス3-2、それはUMP45たち404小隊が搭乗している機体だ。

 

【3-2、Copy(了解)

 

「おい、なにをさせる気だ」

 

「あなたの身を守るのが最優先だ。こうするしかない」

 

「なにを…ふざけるな!今すぐやめさせろ!!」

 

「落ち着いてください指揮官」

 

 ROが止めに入るが俺はパイロットの肩から手を離さなかった。

 

「404を身代わりにするっていうのか!?」

 

「指揮官!!」

 

「…彼女たちはあくまで人形で、あなたは人間。どちらを守るべきかは明らか」

 

「そして私たちには指揮官が必要なのです…あなたも本当は分かっているでしょう」

 

「っ……」

 

 ああ分かっている、分かっているとも。頭の中では当然理解している。

 

 

 だがそれでも、自分が助かるために部下を犠牲にするなんて

 

 

 俺はまだ、あいつらに光を与えられていない。9に本当の家族を、G11に穏やかな暮らしを、416に最高の栄誉を

 

 

 

 45に、本物の海を

 

 

ドォォォォォォォォォォン

 

 

 澄みわたる大空に爆発音がけたたましく轟く。やがて衝撃波が訪れ、俺たちが乗っている機体が大きく揺れた。先ほどまで後ろを飛んでいたヘリが激しく燃え上がり、バランスを失って機体を回転させながら徐々に墜ちていく。

 

 一瞬何が起こったのかわからなかった。いや、正確には認めたくなかったのだろう。たとえ起きてしまったことに変わりはなくても、せめて自分の中だけでは“その光景”を認識したくなかった。

 

「アトラス3-2がやられた。繰り返す、3-2が落とされた!」

 

 パイロットが叫んでいるがよく聞こえなかった。やがて忌々しく不快な警報音が再び鳴り響いていることに気づく。

 

 無慈悲にも砲火はまだ続いている。

 

 ビーッ ビーッ ビーッ

 

「……指揮官、ヘリは撃墜されます。衝撃に備えてください」

 

「っ…」

 

 ROにそう告げられ、俺は自身の身体を縛りつけているシートベルトを力いっぱい掴んだ。それと同時に呼吸が乱れ心拍数が上がっていることに気づく。

 

 うまく息ができない。

 

 

 不快な脂汗が止まらない。

 

 

 

 

 

 こわい、いきぐるしい、おちるのか

 

 

 

 

 しぬ、いやだ、

 

 

 

 

 しにたくない、みんなをたすけたい、まだだれもすくえて

 

 

 

 

 

 おれはみんなを───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命中した、ヴォルガ川の沿岸に墜落していくぞ」

 

「こちらセルコフ班。グリフィンのヘリを落としました。これより人形の回収に向かいます」

 

【ぬかるなよ、もし指揮官が生きていたら連れてこい。クライアントの要望だ】

 

「了解。聞いただろう、行くぞ」

 

 通話を終えると男たちは黒塗りの車に乗り込み、黒煙を上げている方向へ走り去った。

 

 そして、路地裏から車列を見送る影。

 

「………」

 

 長く伸びた黒髪を後ろでまとめた1人の女がいた。

 

 風でなびく度に身体の生傷が露わになり、風音を抑えるようにイヤーピースへ義手を当てる。

 

「奴らが動き出したわ、行動開始して」

 

 

 

 ━━━━━━

 

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「ぅ……っ…」

 

 全身の激痛に苛まれ意識が朦朧とするなか、重い瞼を開いた。やがて周りを見渡そうと身体を起こすが、ほとばしる激痛によって再び地面に戻された。

 

 痛みの元へ触れると生温かくぬらぬらとした感触がする。それが自分の血液ということはすぐに分かった。それと同時に奇跡が起きたことを実感する。

 

 生きている。

 

 はるか上空から撃ち落とされた輸送ヘリは黒く焼け焦げ、ミサイルの直撃と墜落の衝撃で真っ二つに別れていた。漏れ出た燃料によってエンジンは燃え盛り、コクピット部分はバチバチと火花を放っている。大破したメインローターだけがただゆっくりと回転し続けている。

 

「……」

 

 それでも、俺はなんとか生き延びた。

 

 だが人形たちは皆地面に突っ伏したまま動かない。彼女たちの手足は千切れ、辺りに散乱していた。先程まで賑やかに談笑していたとは思えないほど惨いあり様だ。

 

「M4…」

 

 返事はない。

 

 唯一、今さらなんの意味も成さない警報音だけが聞こえていたが、やがて大きな火花が散ると同時に沈黙した。

 

「ぐっ…」

 

 壁を支えにできる限り痛みの少ない体勢で身体を起こす。足を這いずりながらM4たちの破損状態を確かめる。幸いにも強い衝撃で一時的にダウンしているだけでメンタルは無事だった。素体ごと回収し、修復施設で処置をすれば問題ないだろう。だが、残念ながらパイロットは即死だった。

 

「…とにかく…助けを呼ばないと…」

 

 通信デバイスを探し始めた途端、一抹の静寂を破るかのように外から数名の男たちによる声が聞こえてきた。

 

「あれだ、見つけたぞ」

 

「生存者はいるのか?」

 

「アホ、見りゃ分かんだろ」

 

 恐らく我々を陥れた張本人達だろう。その声は段々と近づいてきている。

 

「あの高度から堕ちたんだ、誰も助からねェよ」

 

「指揮官と茶髪で左目に傷のある人形を探すんだ。素体が使い物にならなくてもメンタルさえ無事に確保できりゃいい」

 

 茶髪に左目の傷…45のことか?

 

 幸いなことに45は別のヘリに乗っていたためここにはいない。なぜ彼らが45のメンタルを求めているのか、そんなことを考察する余裕も気力も、今の俺には微塵も残っていなかった。

 

 奴らが近づいてきている。視界がぼんやりとしていてよく見えないが数は5人、全員アサルトライフルで武装している。それに引き換え俺は手負いの身でハンドガンのみ。M4たちも倒れたままだ。もっとも、墜落の衝撃で四肢がもがれており、意識があったとてどのみち戦えそうにないが。

 

 ザッ…ザッ…ザッ……

 

 足音がかなり近づいている。俺のグロックでは奴らのボディーアーマーを貫くことは難しい。となると狙いは頭だけだ。

 

「…よし…」

 

 スライドを引いて初弾を薬室へ送る。呼吸を整え、掩体から一瞬だけ身を出して銃口を奴らへ向けた。

 

 バンッ!バンッ!

 

「がぁっ!」

 

 まずは1人。最も近くにいた男が倒れた。続いてもう1人に向けて即座に発砲するが、一瞬だけ視界がぼやけ、狙いを外してしまった。即座に掩体へ身を隠し、同時にさっきまで自分がいた場所に銃弾が降り注いだ。

 

「(外した…!)」

 

 奇襲は失敗。こちらが制圧射撃を受けている間に奴らは車の後ろへ身を隠し、反撃態勢をとった。残り少ない弾薬でちまちまと牽制するが押し切られるのは時間の問題だ。

 

「あと2本か…」

 

 撃ち尽くした空のマガジンを捨て、ポケットから予備マガジンを取り出した瞬間、足元に円筒状のものが転がってくる。それがスタングレネードだと気づいた時には手遅れだった。

 

「しまっ…!」

 

 刹那、鋭い光と甲高い音に襲われる。咄嗟に目だけは閉じたものの、一時的に視界が真っ白になり、つんざくような耳鳴りが朦朧とする意識へダメージを与える。

 

 虚ろとした目を開けるといつの間にか目の前に男が立っていた。それが敵であることに気づき、咄嗟に銃のスライドを戻して構えるも間に合わず、顔面を蹴り飛ばされてしまう。

 

「お前が例の指揮官か。しぶとい奴だ」

 

 リーダー格と思われるスキンヘッドの男がそう言い捨てると、仲間たちが銃を構えながら横たわる俺を取り囲んだ。

 

「ゲホッ…お前らは…ゔッ!」

 

「安心しな、命までは取らねぇよ。生きたまま連れてこいと命令でな」

 

 腹を蹴りあげられた俺はあまりの痛みに寝転がって悶絶することしかできなかった。

 

「1つ聞きたいことがある。茶髪で左目に傷のある人形はどこだ?」

 

「はっ…可愛いお人形さんをお探しならI.O.Pへ電話しろ。番号を教えてやろうか?」

 

「ほう、まだそんな軽口を利けるとはな。大したもんだ」

 

 男は腰から拳銃を取り出すと躊躇なく俺の左肩を撃ち抜いた。

 

「ぐぁっ…」

 

 創部が焼けるように熱い。たった1発の銃弾だが俺の意識を削るには十分だった。

 

「まあいい、後でじっくり話そうじゃないか。ここからずらかるぞ。セニール、車を持ってこい」

 

 リーダー格の男が手下に指示を出す。だが返事はない。

 

「?おい、セニール…」

 

 後ろを振り返った男たちの目に映ったのは、最も奥にいたニット帽の男が首元から出血し倒れ込む瞬間だった。

 

「なっ…!?」

 

 音を立てず、誰にも姿を見せず、武装した男の喉元を掻き切る鮮やかな手際。突然の出来事にこの場にいる全員が驚愕した。すぐに周囲を見渡すが俺たち以外には誰もいない。

 

「誰だ!どこにいやがる!?」

 

 1人が激昂しヘリの残骸から飛び出た途端、頭を撃ち抜かれた。先程まで怒鳴っていた様子から一変し抜け殻のように倒れる。

 

「!?」

 

 その場にいる全員が倒れた男に釘付けになっている瞬間、突如として長い銀髪を後ろで結んだ女性が飛び込んできた。彼らが状況を把握するより先に、彼女は最も近くにいた男に回し蹴りを食らわせて突き飛ばした。

 

 突然の襲撃に男はバランスを崩し、後ろにいたもう1人の仲間へ倒れこむように寄りかかる。2人はすぐに敵と気づいて銃口を向けようとした矢先、彼女によって頭を撃ち抜かれた。

 

「っ…!この女ァ!」

 

 最後の1人、俺の近くにいたリーダー格の男が彼女へ拳銃を向ける。同時に彼女は姿勢を低くして銃弾を避け、一気に間合いを詰めた。驚異の反応速度にリーダー格の男は動揺するが、再び狙いを定めて引き金に指をかける。

 

「遅いわね」

 

小声でつぶやきながら彼女のナイフは男の喉を穿った。

 

 俺は自分の目を疑った。なんと彼女はこの一連の戦闘をすべて両眼を閉じたままこなしたのだ。

 

「例の参議院議員が絡んでるっていうからどんなものかと思えば、まともに訓練を受けてないゴロツキじゃない。拍子抜けね」

 

 死体からナイフを抜き取り、鮮血を拭き取りながら辺りを一瞥する。両眼を閉じ黒いマスクで口元を隠しているため、表情はまったく読み取れない。

 

「アンジェ、敵性存在はすべて無力化。HVT(高価値目標)は……ひとまず無事よ」

 

 アンジェ。たしかにそう聞こえた。もしかして俺が知っているあのアンジェさんのことか?

 

「…っ……」

 

 身体に力が入らない。自由に動かせない四肢は、まるで自分のものではないような感覚を生じさせた。

 

「怪我が酷いわ、無理に動かないで」

 

 いつの間にか彼女は俺の傍へ近づいていた。

 

「驚いた。これだけの重傷でまだ意識があるなんて」

 

 彼女は背負っていたバックパックから医療キットを取り出し、慣れた手つきで応急処置を始めた。

 

「…きみは…?」

 

俺が問いかけると彼女は黒いマスクを外して答えた。

 

「私は戦術人形のAK-12。今は詳しく説明する時間はないけど、あなた達の味方よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#19 またしても、彼は地獄を生き延びる

 

 

 

 

 

 

 

 

 




満を持してついにあの大人気戦術人形が登場しました。
ということは…?つまり……?
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