指揮官には友達がいない   作:狂乱のポテト

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FALのコミュニケーション4ボイスを聴いてリアルに悶絶したので初投稿です。
他の人形も早く4ボイスが実装されねえかなあ




#8 天才と変態は紙一重

 午前中の会議を終わらせ、俺は部屋でキーボードを叩きながら戦術人形のバイタリティや周辺地域の治安情報が表示されたモニターとにらめっこをしていた。けれどもあまり根を詰めていると416ら辺に怒られそうなので、少しひと息つこうとキーボードを打つ手を止め、時間が経ってぬるくなったコーヒーを啜る。

 

 ふと時計をみると、後方支援へ送り出した部隊が帰還する頃合いだった。幸い今日中に終わらせないといけない仕事は済ませたし、せっかくだからあいつらの出迎えでもしてやろう。

 

 しばらくぶりに席を立ってヘリポートに向かおうとした矢先、充電しているスマホから着信音が鳴り響く。

 

 おおっ珍しいな。暇つぶし機能付き目覚まし時計と化した俺のスマホに誰かから電話がかかってくるなんて。あまりにも珍しすぎて一瞬なんの音か分からなかったレベルだ。えーっと誰からだ……?

 

 

 

━━━ ペルシカさん ━━━

 

 

 

 

 

応答 ←━━ 着信中 ━━→ 拒否

 

 

 

 

 

「……。」

 

 と…取りたくねえ…。あの人から着信ってことは多分ロクなことじゃない。なにかしら面倒ごとを押し付けられるに決まってる。誰が好き好んで自分から請け負うのかって話だ。

 

 うん、無視しよう。もし今度会った時になんか言われたら、『すみませーん、会議中で席を外してましたー★』とでも言えばいいだろう。戦術指揮官というのは多忙な仕事なのだ。『I.O.P社の首席研究員(ペルシカ)さんよりも忙しいのか?』という質問に関しては、現在担当者が不在のためコメントは差し控えさせていただきます。

 

「さーて、そんなことよりあいつらの出迎えに行かないと……」

 

 一向に鳴り止まないスマホをソファーへ放り捨て、俺は上着を羽織って部屋を出た。

 

 ━━━━

 ━━━━━━

 ━━━━━━━━━

 

 タンデムローター式のヘリ、CH-47のローター音が広大なヘリポートに響きわたる。吹き荒れる強風に耐えながら、後部ハッチから戦術人形たちが出てくるのを待つ。

 

「ご主人様ー!ただいまー!!」

 

 最初に元気よく飛び出して来たのはG41だった。後方支援に出ていた時間はたったの半日ほどだったが、まるで数年ぶりに会う親子のようにはしゃいで俺に抱きついてきた。

 

「おう、おかえり。よく頑張ったな」

 

 そう言って頭を撫でてやれば、彼女はこのために仕事を頑張ったと言わんばかりの満足気な表情を浮かべる。 ふとハッチの方に目をやると、他の隊員達が続々と降りてきた。

 

「まったく…、G41は相変わらずだな……」

 

「ははっ、ボスも罪な男だぜ」

 

 そう言ってきたのはダネルNTW-20とトンプソン。やれやれと呆れながらも、G41へ送る視線はとても優しいものだった。

 

「お疲れ、ダネル。怪我はなかったか?」

 

「ああ、心配ない。後方で狙撃してたし、敵には見つからなかったからな」

 

「おいおいボス、怪我の心配は私にしてくれよ」

 

「お前は耐久性的に考えたら死ぬこと以外はかすり傷だろ」

 

 そう言って冗談を混じえながら2人の頭を撫でる。G41のようにコロコロと表情を変える2人ではないが、戦闘での疲れが癒されたのか、少し顔をほころばせて微笑んでいる。女の子の頭を撫でるのってなかなか勇気がいるんだぞ。ちなみに人間の女の子を撫でたことはない。

 

 なんてことをやっていると、トンプソン達の後ろから妙にそわそわしながらこちらを見ているMicro Uziの存在に気づく。彼女のことだ。こういうのには自分から寄ってこれないんだろう。もうちょっとそわそわさせたいが、あまり焦らすのも可哀想なので気を遣うことにした。

 

「おかえり、Uzi。よく頑張ったな。期待していた以上の戦果だ」

 

「……別にあんたのためじゃないんだからね!勘違いしないでよね!!」

 

「あら、帰りのヘリで『これなら指揮官も喜んでくれるかな』ってつぶやいてたのは誰だったかしら?」

 

 会話に参加してきたのはAR-15。本来なら彼女の所属はAR小隊なのだが、試験的に別部隊の人形達と組んで作戦に参加してもらったのだ。

 

「ちょっ…!ばっ…バカじゃないの!?私がそんなこと言うわけないじゃない!!」

 

 突然のカミングアウトに慌てるUziを落ち着かせようと優しい手つきで彼女の頭を撫でたのだが、どうやらそれは逆効果だったようで顔を赤くして宿舎の方へ走り去ってしまった。

 

「ははは…。お疲れ、AR-15。AR小隊以外のメンバーでの作戦はどうだった?」

 

「実戦では初めてでしたが、模擬作戦などでM4達以外の子と組むことはよくありましたから。それほど問題もありませんでしたし、順調でした」

 

「そうか、じゃあ今度M4たちも他の人形と組ませてみよう」

 

 そういって一緒に基地内へ戻ろうと歩みを進めると、AR-15が俺の服の裾を引っ張っていることに気づく。

 

「…どうした?」

 

「指揮官…その……、私の頭も撫でてください」

 

 そこには普段のクールで凛々しい姿はなく、顔を赤くしてモノ欲しげな表情を見せる可憐な少女だった。

 

「ああ、よく頑張ったな。AR-15」

 

「指揮官、私も撫でてよ」

 

「はいは……あん?」

 

 本来ならこの場にいないはずの者の声が聞こえ、思わずその声の主を二度見した。こんなこと、誰が予想できただろうか。

 

「ペッ…ペルシカさん!?なんでここに!?てか今ヘリから出てきませんでした!?」

 

 AR-15の背後からひょっこりと顔を出したのは、かの16Lab首席研究員ことペルシカさん。そう、さっき電話を掛けてきたヤベーやつである。

 

「実は指揮官に用があってね。AR-15に連絡して研究所に迎えに来て乗せてもらったの。事前にアポを取ろうと思って君に電話を掛けたけど出なかったでしょ?」

 

 なんだと。いや、だからといって帰還する最中とはいえ作戦行動中であるPMCのヘリをヒッチハイクするって、普通に考えておかしいでしょ。AR-15も勝手になにやってるんだ。

 

「す…すみません!私もこのような真似は決して許されることではないと思ったのですが、グラニットさんにペルシカとの会話を聞かれて……」

 

「うんうん、(グラニット)は話が早くて助かるわ。ふたつ返事でわざわざ迎えに来てくれたんだから」

 

「……。」

 

 想定外すぎて思わず頭を抱える。とりあえずAR-15以外の人形たちに、宿舎に戻って修復を済ませるよう指示を出し、俺は全ての元凶であるヘリパイロットのグラニットの元へ詰め寄る。

 

「おいお前なんてことしてくれたんだ…。よりによってペルシカさんを連れてくるなんて……」

 

「いや、だってあの美人なペルシカさんだぞ?そんなお方の頼みを断るわけにはいかないに決まってるだろ」

 

「テメェの好みなんて聞いてねえんだよッ!そんなんだからお前はいつまで経っても童貞なんだよグラニットォォッ!!」

 

「さんをつけろよデコ助野郎」

 

「指摘するところそこなんですね…グラニットさん……」

 

「あははっ!やっぱり指揮官は面白いねぇっ!」

 

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 ━━━━━━

 ━━━━━━━━━

 

「すみません、こんなものしか用意できなくて」

 

「いえいえお構いなく」

 

 AR-15に後ほど作戦報告書を提出するよう指示し、ペルシカさんを執務室へと案内した俺は、コーヒーを差し出して本題へ切り込む。

 

「それで、ペルシカさん。ご用件とは?」

 

「指揮官はさ、"ケモ耳"って好き?」

 

「……はい?」

 

 思いがけない質問に一瞬思考が止まってしまった。ケモ耳……というとTMPやG41のアレだろうか。

 

「うーん…TMPの猫耳も一応そうなんだけど、ここでいうケモ耳っていうのはIDWやG41みたいなリアルな方のヤツだね」

 

「はあ…。別に嫌いではないですけれども……」

 

「だよね!やっぱりそうだよね!指揮官なら分かってくれると思ってたよ!!」

 

「ペルシカさんちょっと…近いです……」

 

 こうして見るとグラニットがペルシカさんのことを美人だと評価する気持ちは分からんでもない。顔はキレイな方だしな。隈が酷いけど。

 

「私もね、猫耳や犬耳などのケモ耳は大好きでね。私は主任だから自分の好みで人形たちの外見をデザインすることができるわけなのよ」

 

「つまり、戦術人形の外見にはペルシカさんの性的嗜好や性癖が詰まっていると」

 

 他人のそういうのを知るのってなんかやだな……。

 

「ふふっ、それはちょっと大げさよ。あくまで見た目の可愛さを追求しただけだし」

 

「で、AR小隊の外見を考案する際にも猫耳を付けようとしたのよね」

 

「でもほら、AR小隊はいわゆる"戦術人形による特殊部隊"って位置づけじゃない?だから戦闘に必要なもの以外は付けるなって上に怒られちゃって……」

 

「はあ…それで結局ペルシカさんの意見は通らず、標準的な人型のまま開発されたと……」

 

「そういうこと。あーあ、やっぱり強く反対するべきだったかなあって前までずっと思ってたんだけど……」

 

「ところがどっこい。ここからが本題なんだけど、ついにオプション装備の開発に成功してね……」

 

「オプション装備?」

 

 話の流れ的にしょうもないんだろうな……。ロクなもんじゃなさそう(予感)

 

「それがこのカプセル!ケモミミハエール!」パッパカパーン

 

 ロクなもんじゃなかった(的中)

 

「見た目は戦術人形の強化に使うただの増幅カプセルだけど、これを飲めばなんと猫耳や犬耳が生えてくるのよ!!」

 

「ソッスカ」

 

「試作品だからどんな耳が生えてくるかは完全にランダムなのよね。持続時間はだいたい目安として24時間程度」

 

「スゴイッスネ」

 

「で、これをあなたの部隊の人形に投与して実験してほしいの」

 

「ヘー…」

 

「……はぁっ!?」

 

 

 なにそれ…。(困惑)

 

 

 

 いや、なにそれ(再認識)

 

 

 

「それ、服用したらAIがバグったり不具合が起きたりしませんよね……?」

 

「そういう検証も含めての実験よ。まあそんなヤバい成分を含んでいるわけじゃないし大丈夫よ★……タブン…」

 

「いま"たぶん"って言いました?」

 

「あーっと!これから16Labで専用装備の開発しなきゃいけないんだった!!その薬の詳しいことはこの紙に書いてあるから!」

 

「ちょっ…!ペルシカさん!?」

 

「じゃ、頼んだよ指揮官。君ならその薬の良さを分かってくれると思うわ。あ、グラニットとヘリ借りていくわね」

 

 そういってペルシカさんは足早に執務室を出ていった。部屋に残っているのは面倒ごとを押しつけられて困惑している俺と、忌々しい問題の薬だけだった。

 

「……。」

 

「………。」

 

「…これ、どう使えばいいんだろう(裏声)」

 

「まさかとは思うけどそれ私のマネじゃないよね?」

 

「!?」

 

 振り向けばそこには汚物を見るような目でこちらを見るUMP45の姿が。お前いつからいたんだ……。

 

「ついさっきよ。指揮官がペルシカにコーヒーを渡してた時ね」

 

「会話の冒頭からじゃねえか」

 

 まずいな…。よりによって一番マズいヤツに知られてしまった。45の目を見れば分かる。あれは新しいおもちゃを手に入れた子供のような目だ。

 

「しきかぁ〜ん♪面白そうなもの持ってるわね、私にも見せて♪」

 

「ダメだ、お前が絡んでくると厄介ごとが増える」

 

「ひどいなあ…そんな悪いことにはしないわよ?」

 

「俺は騙されんぞ。前もそう言ってペルシカさんから押し付けられた誓約の指輪(試作品)の存在を皆に言いふらしただろ」

 

 おかげで部隊の人形たちに言いよられてきて大変だった。普段大人しくて奥手なM4でさえ、積極的になってきたほどである。

 

「いいか、このことは絶対に誰にも言うなよ」

 

「口止めするのはいいけど……なにか見返りがほしいなあ」

 

 そう言う45の目は例のカプセルに釘付けだ。

 

「それ、最初は私に飲ませてよ」

 

「…本気で言っているのか?」

 

「本気よ。今のところ私と指揮官、2人だけの秘密なんだしちょうどいいじゃない?もし問題が起きてもそんなに広まることはないわ」

 

 彼女の言うことも一理ある。ここで第三者の人形へ渡して無駄に話を広げる必要はない。それでもしなにか問題が起きれば支部内は混乱するだろう。この場にいるUMP45だけならば、最悪の場合は俺一人でなんとかすることはできる。

 

「……分かった。言う通りにしよう」

 

「やった♪指揮官のそういうとこ好きよ♪」

 

 よく言うわ……とため息をつきながら、例のカプセルを彼女に手渡した。

 

 

 

 この時はまだ知らなかった。まさかあんなことになるなんて……

 

 

 

 

 

 

 #8 天才と変態は紙一重

 

 

 




これを書いたあとに唯一の誓約相手である45からバレンタインチョコを貰ったので、我が生涯に一片の悔い無し。
ケモ耳編はしばらく続くかもしれないし、あっさりと終わるかもしれない(予防線)


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