指揮官には友達がいない   作:狂乱のポテト

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#9 彼女の本音は彼に届かない

 

 

 前回、『UMP45一人なら俺だけでもなんとかなる』と言ったな。

 

 

「しきかん…ごめん…我慢できないかもぉっ……」

 

「ちょっ!待て45……!クソっ!動けねえ…!」

 

「……にゃあ〜♪」

 

「…っ!?どこ舐めっ……!?」

 

 

 あれは嘘だ(涙目)

 

 

 

 

 さかのぼること数分前……

 

 

 ¦

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「あら、案外すんなりと渡してくれるのね」

 

「これに関してはお前の言い分が正しかったからな。今回だけだよ」

 

 ケースからカプセルをひとつ取り出してUMP45に手渡す。が、彼女はなぜか受け取らない。

 

「?…なんだ?飲まないのか?」

 

「ん〜?せっかくだし、普通に飲むんじゃなくて……」

 

 45の眼差しは、いつものように何かよからぬことを考えている時の目だった。俺は過去の事例から危険を察知し、少し距離を取ろうと後ろに下がる。

 

 が、一歩下がったところで壁に背中が当たり、完全に逃げ場を失う形となってしまった。

 

 トンッ…

 

「指揮官に口移ししてほしいな♪」

 

「っ!?」

 

 両手で壁に手をつき甘い声でおねだり悪ふざけをしてくる45。壁ドンって普通は男がするもんじゃないの?

 

「……あまり俺をからかうな、本気にしちゃうだろ」

 

 身長差も相まって至近距離から上目遣いで見つめられ、堪らず目を逸らしてしまう。やはり予感は的中していた。

 

 このように、45は二人きりになる度にいつも俺をドキドキさせては、その反応をみて楽しんでいる。前回グラニットのことを『童貞』呼ばわりしていたが、お察しの通り俺も童貞である。おまけに女子への耐性が皆無なのだ。

 

 とはいえ相手は生身の人間ではなく戦術人形なので、それほど困るものでもないはずなのだが……。

 

「ん〜?なんで目をそらすのかなあ〜?」

 

「ちょっ…近い…!」

 

 悔しい!でもドキドキしちゃう!!童貞で遊んじゃいけませんって何度も言ってるでしょっ!

 

「い…いいからさっさと飲めっ。こんな面倒ごとはさっさと終わらせるぞ」

 

「ふふっ♪本気にしてもいいのに〜」

 

「はいはい、そういうのはグラニットにしてやれよ」

 

 俺はさも冷静を装って45を適当に受け流す。本当はドキドキして顔がにやけてるんだけど。いや、45のことだから多分見透かされてるんだろうな…。

 

「じゃあ飲むわよ?」

 

「おう、グイッといっちゃえ」

 

 

 ゴクンッ

 

 

「……」

 

「…どうだ?」

 

「うーん…別になんともないけど…。これ本当に効果あるの?」

 

「一応試作品らしいからなあ。失敗作なのかもしれん」

 

「ざーんねん。せっかく指揮官を萌え死にさせようと思っ……」

 

「……?」

 

 途端、45の口が止まった。どうしたのかと振り返ると、口だけではなく45のすべての動作が停止していたのだ。彼女の目の前で手を振ってみるがなにも反応がない。

 

 戦術人形の活動が完全停止する条件は主に三つある。

 

 一つは自身の修復やスリープモードへ移行する際の活動休止状態。二つ目は人工血液の失血やコアの破壊など、動力源が無くなることによる停止。そして三つ目はAIの破損である。これまでの状況から考えると、停止の理由は確実に三つ目だろう。

 

 見た目は人間そっくりの戦術人形だが、完全に動きが止まればその人間らしさはたちまち消え、あくまで彼女たちはロボットなのだという現実を嫌でも叩きつけられる。

 

「…45?」

 

 恐る恐る彼女へ問いかけるが返事はない。なにか異変が起きたのか。AIに不具合が生じたのか、バグが発生したのか。はたまた取り返しのつかないことになってしまったのか。

 

 不安や後悔、大事な仲間を喪った消失感に苛まれるなか、指揮官はひとつの解決策を見い出す。

 

 そういえば、ペルシカが帰る際にある紙を渡された。カプセルの詳細が記されているらしいのだが、この状況を打破するカギになるかもしれない。

 

 急いで二つ折りになっている紙を開き、書類仕事で培われた速読術を最大限に活かす。とりあえず今は全文を読んでいる暇はない。

 

 「なになに……、『・強制停止について─── ケモ耳を生やすだけでなくメンタルもケモノ化させるため、AIの書き換えを行っている状態。正常なので不具合等ではない。』…か。」

 

 どうやら最悪の事態は避けられたらしい。胸をなでおろして安堵すると、45の身体がほんの少しだけ動いた。どうやら目を覚ましたようだ。

 

「し…きかん……」

 

「45!起きたkぐぇっ!!」

 

 俺は45に床へ強く押し倒された。

 

「45…なにをして…うおっ!本当にネコ耳が生えてる!すげぇ!!」

 

「しきかん…ごめん…我慢できないかもぉっ……」

 

「は?なにを言って…」

 

 俺が疑問を口にするよりも早く、45が抱きついてきた。

 

「ちょっ!待て45……!クソっ!動けねえ…!」

 

 立ち上がろうにも戦術人形が抑えつける力に人間が勝てるわけもなく、彼女の拘束を解こうとするがビクともしない。

 

「……にゃあ〜♪」

 

「…っ!?どこ舐めっ……!?」

 

 あらわになった首元を45の舌が伝う。その姿はまるで主人に甘える飼い猫のよう。俺はというと今まで体験したことのない感覚に思わず身体が跳ねてしまった。いくらなんでも童貞には刺激が強すぎである。

 

 いや誰だコイツ(困惑)

 本当に45か?いくらなんでも人格変わりすぎだろ……。

 

「しきか〜ん♪」

 

「分かった…!分かったから身体を擦りつけるのはヤメナサイ!!」

 

 服越しとはいえ美少女に全身をスリスリと擦りつけられて無反応でいられるだろうか、いやいられないだろう(反語法)

 

 普段からG41やSOPMODの相手で慣れてはいるものの、さすがにこれ以上甘えられると理性が吹っ飛びそうなので、とりあえず頭を撫でて落ち着かせる。欲望に身を任せて過ちを犯すわけにはいかない。

 

「〜♪」

 

「はは…、普段もこんなに素直だと助かるんだがな…」

 

 思わずポロッと出てしまったつぶやきを聞いて、少し落ち着きを取り戻した45はムッとした表情になる。今まで自分がしてきたことは本意ではなく、あくまで薬のせいであることを主張する。

 

「…私だって好きでこんにゃことしてるわけじゃにゃいんだから…!」

 

「……」

 

「……」

 

「「えっ」」

 

「にゃ…にゃにこれ!?」

 

「これは……」

 

 ここで新事実。まさかの猫語である。あまりにも恥ずかしかったのか、45の顔がみるみる赤くなっていく。こいつもこんな顔するんだな。初めて見た。

 

「うー……これじゃあまともに喋れにゃい…」

 

「まあ416やM16が聞いたらめちゃめちゃ笑うだろうな」

 

 頭にぴょこんと生えたネコ耳。薬のせいとはいえ、俺にデレデレな甘えっぷり。加えて口調が猫語になるという、普段のエリートな彼女からは想像できないギャップ萌えの連続。ペルシカさん、あんた最高だよ。

 

「こんにゃの他の人に見られたら…」

 

 うなだれながらもネコ耳をぴょこぴょこ動かす45。それ動くんだ、すごいな。

 

「っていっても明日のこの時間までは多分そのままだぞ…」

 

「……」

 

 いまものすごく後悔してるんだろうな。より一層絶望に打ちひしがれてる顔をしている。とはいえ自分の意思で薬を飲んだわけだし、自業自得といえばその通りである。本来ならいつもからかわれる仕返しとして、無慈悲に見捨てたいところなのだが……。

 

「にゃんでこんにゃことに……」

 

 可愛すぎるので救いの手を差し伸べることにする。こっ…今回だけなんだからねっ!!

 

「…仕方ない、薬が切れるまではこの部屋にいろ。幸いなにも予定はないしな」

 

「にゃあん……」

 

 

 ━━━━

 ━━━━━━━

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「45さん?」

 

「にゃに?」

 

「なんで僕の膝に座ってるんですか?」

 

「さあ?」

 

「正直おも「は?」ナンデモナイッス」

 

 恐い。

 

 仕事は済ませたしすることもないのでどこかへ出かけたいのだが、45を置いて部屋を空けるわけにもいかないし面倒を見なければならない。となると必然的に俺もこの部屋で今日を過ごすしかないのだ。室内でできることなんて限られているが、こうして45とゆっくり部屋で過ごすのもたまには悪くないかもしれない。

 

「にゃんでか分からにゃいけど、指揮官の膝がすごい落ち着くんだよね〜」

 

「薬のせいだろうな、普段の45ならしないだろうし」

 

「してほしい?」

 

「べっ…別に!?」

 

 ふふっと笑ってた45だがすぐに退屈そうな顔を見せる。俺はというとソファーに座って久しぶりにゲームで遊んでるわけだが、45はゲームよりも身体を動かしたいらしい。もはやただの活発な仔猫である。

 

「ねえ、しきか〜ん。ゲームばかりせずに私と遊んでよ〜」

 

「悪いな45、このゲームは一人用なんだ。だいたい友達もいないのにみんなでするゲームを買うわけないだろ」

 

「いやゲームでは遊ばにゃいけど…。この前RFBとやってたじゃん」

 

「……なんで知ってんだ…」

 

「さあね♪」

 

「そうかよ…まあそれはそれ、これはこれだ」

 

「むぅ……」

 

 再びコントローラーの操作に集中する俺が気に食わなかったのか。膝に座るのを辞めたかと思えば体勢を変え、対面座位の姿勢になった。いわゆる『だいしゅきホールド』ってヤツ。

 

「なっ…!おい!!45…!」

 

「あはっ♪しきかんの心臓がすごいバクバクしてる〜♪」

 

 こうも密着されれば無理もない、童貞だもの。相変わらずこいつは人をからかうのが好きだな、ある意味で天敵だ。

 

 だが45のターンはまだ終わらない。

 

「ねえ…指揮官、私と楽しいこと…しよ?」

 

「〜っ!!」

 

 耳元で囁かれ、強い刺激に思考の処理が追いつかず身体が固まってしまう。あ、やばい。理性が……。

 

「なあ45…お前は薬のせいでおかしくなってるんだ…。すこし冷静になれ。なっ?」

 

 まだだ…まだ終わらんよ!俺はありったけの自制心をかき集めて45を落ち着かせる。めちゃめちゃ声が震えてるけど。

 

「んー、それもあるだろうけど……」

 

「!?」

 

 ぐいっとソファーに押し倒された。あれ、これすごいデジャブ

 

「もっと指揮官と繋がりたいって、ずっと前から思ってたよ?」

 

「なっ…」

 

 服に手を入れて胸を撫でまわされる。耳にかかる彼女の吐息、イヤらしい手つきと味わったことのない感触にアタマがクラクラしてきた。45から漂う甘い香りが、麻薬のような快楽を誘発する。

 

 その告白はいつもの悪ふざけなのか、それとも彼女の本心なのか。いや、もう難しく考えるのはやめて、目の前の45を受け入れようか。

 

「ねえ…しきかん……」

 

「うぁっ…」

 

 耳元で囁かれる度に、僅かに残った理性が崩壊していく。正直もう限界だった。

 

 45…もう……

 

「にゃんちゃって〜♪」

 

「…はっ??」

 

 パッと動きを止め、そそくさと俺から離れる45。先程まで男を誘惑していたとは思えないほど、流れるような素早い動きだった。

 

「ふふっ♪本気にしちゃった?」

 

「……お前…」

 

 もはやため息しかでない。やはりこいつはこういうヤツである。あまりにも悪ふざけがすぎるのでキツく言いたいところだが、欲情した自分もいるので一概に怒ることはできない。どうしようもないので考えるのをやめることにする。

 

「…ごめん指揮官、ちょっとお手洗い借りるね」

 

「はいはい、トイレでもどこでも行って…?」

 

 不自然なほど足早に去っていく45。一瞬でよく見えなかったが、彼女の顔が紅く染まっていた。

 

「あいつ…?」

 

 なんで顔を赤くして?…と疑問に感じたが、この際もう面倒なのでやっぱり考えるのをやめることにした。

 

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「私のバカ…」

 

 一人トイレの個室で佇み後悔に耽ける45。顔を手で覆い、項垂れるように落ち込んでいる。彼女は先ほどの愚行を後悔していた。

 

 さっきの告白は、間違いなく本心からの言葉だった。いつも指揮官をからかう私だけど、それは私なりの照れ隠しと愛情表現であった。

 

 大好きな彼に想いを告げたい。

 

 だが彼は戦術人形を人間のように扱いこそすれど、"一人の女性"として、すなわち恋愛対象としては見ていない。そんな彼に告白をしても、結果は目に見えている。先日ペルシカが持ってきた誓約の指輪(試作品)の件で確信したのだ。

 

 彼は、私たち(戦術人形)をそういう目で見ていない。

 

 頭ではそれを分かっていても指揮官から直接拒否されたら、多分私は私でいられなくなる。すべてを放棄してしまうだろう。

 

 にもかかわらず、薬の力とその場のノリで過ちを犯すところだった。私としたことが冷静じゃなかった。

 

「にゃにしてんだろ…わたし…」

 

 

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 「うん、やっぱりムカついてきた」

 

 先ほどから考えないようにしていたが、やっぱりよくよく考えたら腹が立ってきた。これは然るべき報いを45に与えなければ。童貞で遊んだら痛い目を見るってことを教えてやらないとな…!

 

「あいつがトイレから戻ってきたら仕返してやろう、飢えた狼は恐ろしいんだぜ……」

 

 もちろん本当に襲うわけじゃないけどな。ただ10倍返しくらいはさせてもらう。……来たっ!

 

「ちょっと指揮官…トイレットペーパーが切れかけだったんだけ…!?」

 

 不意をついて45を壁に押し倒す。か…壁ドンってこんな感じでいいんだよね…!?

 

「し…しきかん?」

 

 恥ずかしすぎて声が震えそうだが、勇気を出して自分を奮い立たせる。

 

「いつも俺が手を出さないと思うなよ?男を甘く見てると後悔するぞ」

 

 45の顎をクイッと持ち上げ、キスをして(当然しない)やろうと顔を近づける。

 

「…っあ…」

 

(なんで抵抗しないんだこいつ…)

 

 少しでも拒絶の意志を示せば辞めるつもりだったのだが、なぜか45は動かない。意地でも耐えるつもりか…?

 

 そうしている間にもどんどん顔は近づいていく。お互いの唇が触れ合うまであと5cm…3cm……1cm………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、入るわよ。明日の模擬訓練についてだけど…」←業務連絡で訪れた416

 

「あっ…」←45を押し倒して無理やりキスをせがんでいる(ように見える指揮官)

 

「んにゃっ?」←顔を赤らめているうえにネコ耳を生やしている45

 

 

 

「「「……」」」

 

 

 

 

 

「これは…どういう状況かしら……?」

 

 

 

 

 

 #9 彼女の本音は彼に届かない

 

 

 






正直猫語を取り入れるかどうかは迷いましたが、せっかくなので45ににゃんにゃん言ってもらいました(←?)
次回、事態に巻き込まれた416が話にどう絡んでいくのか。ご期待下さい。(自分からハードルを上げにいくスタイル)

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