某日 夕刻 篠ノ之神社にて
☆
……今日はありがとね。
どうだった? 束さんの料理は。
おいしかった?
ならよかった。
ふふ、キミを満足させられる料理を作れた、っていうのは大きいよ。
何せ、人にふるまうのなんて初めてだったから。
キミの舌に合うか不安だったんだけど……。
うん、満足してくれたなら、嬉しい。
変、って何が?
束さんが?
……そうだね、緊張してるからかも。
なんで、って?
ふふ、後でのお楽しみ~。
まぁ、それはそれとして。
ここ、覚えてる?
……だよね、そりゃ覚えてるよね。
そ、キミと束さんが出会った場所。
ちょうど小学生になりたての、あの頃に。
ここでちょっと、キミとお話したくてね。
ちょっと一緒に来てもらったんだ。
……何を話すつもり、ってそれはイロイロだよ。
思い出でも語ろうかな、なんて。
ちょっとそんな気分になっちゃったんだよ。
だから、付き合ってくれると嬉しいな。
……うん、ありがと。
ふふ、なんだかんだ面倒見がいいのは変わらないよね。
――――まず、聞かせてもらうね。
キミは、今の世界をどう思ってるのかな。
素直に答えて。
なんでもいいよ。
キミの思うまま、感じるままを聞かせてほしいな。
――――そっか、ありがと。
うん、関係あるんだ。
束さんってさ、ISの開発者なわけだよ。
だから、誰よりもISについて知ってるわけで。
……誰よりも、こんな世の中になることを知っていた人間なんだ。
ISは、宇宙開発のために――――束さんの夢のために開発したんだ。
だから、初めて学会で発表して、凡人どもに笑われたときね。
とっても、悲しかったんだ。
なんでわかってくれないんだ、って。
あの宇宙にはばたく翼が目の前にあるのに、何でつかもうとしないんだ、って。
……今にして思えば、アイツらは認めたくなかったんだろうね。
自分より年若い小娘に、こんな発明ができるはずがない、って。
だから束さんの翼を否定した。
――――でも、さ。
キミとちーちゃんだけは別だった。
キミは応援してくれた。
ちーちゃんはISを動かせたけど、キミはそもそも男だったし。
キミは束さんやちーちゃんみたいに、天才じゃない。
だから、束さんにISの事を教えられても、全然わかってなかったでしょ?
……ばれてないと思ってた?
でも、キミは笑わなかった。
凡人なりに、束さんの事を理解しようとしてくれた。
宇宙を目指す束さんの背中を押して、頑張れって言ってくれた。
束さんが学校休んだ時は、いっつも束さんのところに来てた。
サボったって言ったら、笑って一緒に遊んだ。
たまに一緒にサボって、宇宙について語って、それでちーちゃんに怒られた。
……君があの時、束さんの話を全然理解できてなかったのはわかってる。
でも、キミはいっつも来てくれた。
それだけで、束さんはうれしかったんだ。
学会から戻ってきた、あの時も、そう。
キミに向かって、すごく怒った。
束さんの抱える気持ちを、全部キミに吐き出した。
キミは何にも悪くなくて、ただ身近にいる凡人ってだけで、八つ当たりして。
ひたすら怒って、悔しくて、情けなくて。
最後はキミに向かって泣き続けて。
それでもキミは、束さんのそばにいてくれた。
――――正直に言うとね。
あの時、束さんはキミの事を遠ざけようとしたんだ。
わざと嫌われてやろう、って。
そうすれば、キミはこんな女と関わらなくて済む。
身勝手な天才に関わらずに済む。
……キミは、そうしたほうが幸せだと思ったんだ。
でも、そんな思惑なんか知ったことか、って感じにさ。
キミが抱きしめてくれて。
何も言わずに頭をなでてくれて。
……正直、嬉しかった。
束さんの思い通りにならなかったって言うのに。
あの時、キミが嫌ってくれなかったことが、なんだか嬉しかった。
それから、束さんは考えたんだ。
ISは、どうあるべきか、って。
……ISは束さんの夢のために作った、ってさっき言ったでしょ?
だから、考えてみたんだ。
その夢はどうすれば叶うか、って。
その夢のために、ISはどうできるか、って。
――――それで思いついたのが、『白騎士計画』。
ISの武力を世界中に示し、それでISの優位性を知らしめる計画。
そうすれば、最終的に束さんの夢は叶うはずだったんだ。
……まぁ、ちーちゃんにぶっ叩かれて阻止されたけど。
でも、そうやって考えてる中でさ。
思っちゃったんだ。
――――もし、この計画を発動してしまえば。
――――二度とアイツと一緒にいることができなくなる。
って。
さっき、ちーちゃんにぶっ叩かれて止められたって言ったけどね。
究極的に言えば、ちーちゃんがいなくてもこの計画は実行できたんだ。
でも、できなかった。
我ながらオトメらしい理由だよね。
キミといる世界が心地よくてさ。
壊すのが惜しくなっちゃったんだ。
結局、『白騎士計画』は頓挫。
なんだか投げやりになってたら、キミが会いに来てさ。
いきなり頬をぶっ叩かれたからびっくりして。
……今さら謝っても遅いよ。
とにかく、あの時は本当に驚いて。
もしかして絶交宣言でもされるかな、とも思ったけどさ。
宇宙に行くんじゃねぇのか、って言ってくれたよね。
ふふ、あの時の事はよーく覚えてるんだ。
なんていったって「篠ノ之束」の再出発地点なんだから。
恥ずかしいって言ったってずーっと覚えてるよ。
何があっても忘れてあげないんだから。
――――うん、あの時の言葉は忘れない。
君が思い出させてくれたんだ。
初めて星を見た時の喜びを。
初めて宇宙を知った時の驚きを。
……全部、全部、キミがくれたものだよ。
だから、束さんは束さんの夢を再定義したんだ。
ISは、束さんの夢のための翼だった。
夢のための翼は――――壊すことには使わない。
ただ、夢を繋げる翼にしたいと思ったんだ。
でも、世界はそう簡単に言ってくれなくて。
ちーちゃんが、世界を飛び回って教習してるのは知ってるよね。
アレ、国から直々に要請が来てるんだよ。
現状、世界でISを一番に乗りこなせてるのはちーちゃん。
だから、ちーちゃんに教えを乞うて、ISの搭乗者を鍛えてるんだ。
……さぁ、何を考えてるのかは、束さんにはわからない。
でも、世界はISを「夢を繋げる翼」とは考えてない。
ISは強大な兵器、ってことは理解してるだろうね。
だから、強大な兵器をぜひとも手にしたい、ってことなのかな。
……うん、長々としゃべっちゃってごめんね。
思い出話はここでおしまい。
あ、ついでに一個、キミに聞いておきたいんだ。
――――もし、さ。
こんな風に世界を変えちゃって。
世界を壊そうと画策したこともあって。
それでも今ある世界をどうにかしようとしてる人がさ。
――――普通の女の子みたいに、恋をしてもいいと思う?
――――なっ。
ちょっと、今笑うところじゃないよ!
もー、人がせっかく真剣に相談してるっていうのに。
ちゃんと、真面目に答えてくれないと。
…………。
……そっか。
そうなんだ。
うん、ありがと。
大丈夫、キミの答えだけが重要なんだから。
うん。
ここまで聞いてくれてありがとう。
もう少し、時間ある?
まだちょっと、伝えたいことがあるんだ。
――――そうだよ。
束さんにとって、一番重要なことなんだ。
☆
「ねぇ、――――」
名前を呼ぶ。
呼び方を変えるだけで、こんなにも胸が高鳴るのか。
そんな単純なことに、驚く自分がいる。
そんな単純なことも、嬉しく思う自分がいる。
見れば、アイツはこちらを見たまま固まっている。
目と目が合い、気恥ずかしさでどうにかなりそうなのをこらえて、言葉を絞り出す。
「これから、キミに伝えたいことがあります。」
ここに来る前から、決めていたことだった。
あの日、織斑千冬に、好きな人がいるか聞いたときに。
言葉では否定していたけれど。
あの時、彼女は誰か、好きな人がいる顔をしていた。
その相手が誰だか、何となく分かってしまって。
――――同じ相手を想っていると、気づいてしまって。
「多分、気づいているだろうけどさ」
でも、この気持ちを諦めたくなかった。
汚いと思われようと、なんと言われようと。
初めて抱いた思いを、誰かに譲りたくなかった。
たとえそれが、自分の一番の親友であっても。
だから、決意した。
もし、許されるのであれば。
――――
今日この日、この場所で。
織斑千冬よりも早く、誰よりも早く。
――――初めて出会った、この場所で。
――――彼との初めての思い出の地で。
きちんと想いを伝えよう、と。
「ちゃんと、改めて、私の口から言わせてもらうね」
胸に灯るのは、暖かくも激しい炎。
初めてあった時、彼が灯してくれた光。
ずっと、胸の奥で感じていた未知の感情。
寝ても覚めても、ずっと知りたいと思っていたこの感情。
名前をつけるとするなら、これは――――
「私、篠ノ之束は、キミのことが大好きです。」
言葉にして伝える行為が、こんなに難しいと思わなかった。
伝えようとする心が、こんなに抑えられないと思わなかった。
心臓の鼓動が、こんなに速く刻まれるなんて思わなかった。
篠ノ之束は、人生の中で一番の未知の中にいた。
かつての篠ノ之束であれば、この感情を否定したであろう。
自分が変わることを恐れていた、あの頃の自分であれば。
けれど。
「もし、この気持ちを受け入れてくれるなら」
言葉を紡ぐたびに胸が高鳴っていく。
未知であるからこそ――――知りたいと思えた。
すべてを理解できる頭脳をもってしても、なお。
“知りたい”が溢れて、止まらなくて。
自分自身でも止められなくて。
だから、この感情を知るために、今。
最後の言葉を、口にする。
「わたしの恋人になってくれないかな? 」
その時、そんな顔をしていたかは、自分でも分からない。
けれど、間違いなく笑顔だったと確信を持てる。
だって、こんなにもまっすぐに向き合って。
愛しい人に、想いを伝えることができて。
それが幸せじゃないなんて、言えるはずがない。
そうしてから、どれほどの時間が経ったか。
時の流れと共に、黄昏が沈みゆく。
夕焼けが落ち、夜の帳が落ち始める合図。
輝く時間が過ぎ、闇が世界を覆う一歩手前。
その刹那、すべてが黄金色に輝く世界の中で。
――――の頷く動作だけが、はっきりと見えた。
ハッピーバレンタイン。
登場人物
・束さん
恋愛クソザコヤンデレ天才科学者でメインヒロイン。
ちーちゃんに取られる前に取ってしまえと行動して勝利した。
なお後述するけど勘違いの模様。
・オリ主君
名無し。子どものころからイケメン。
頭はよくなかったけど束さんたちと一緒にいたおかげでそこそこ知識はある。
お、告白か? とちょっと期待してたらホントに告白された。
いろんな質問
Q.ちーちゃんもオリ主君のこと好きだったの?
A.この√だと異性としての好きじゃなくて家族的な好きを抱いてる。
束さんはちーちゃんも“異性として”オリ主くんが好きだと勘違いした。
Q.ちーちゃんが告白する可能性は?
A.束さんの部屋に入って謎のノートを見つけた時点でない。
Q.今のちーちゃんに異性的な意味で好きな人はいるの?
A.いない。
Q.でもオリ主くんは二人とも好みだって言ってなかった?
A.好感度が高くても、二人とも美人だし他に好きな人でもいるんじゃないだろうかとも思ってた。
だから告白されなきゃ付き合おうとは思わなかった。
Q.なんでオリ主くんこんなに卑屈なの?
A.女性経験が乏しいから。
Q.これにて恋の物語はおしまい?
A.もうちょっとだけ続きます。