英雄の剣に憧れた私が剣に生きるのは間違っているだろうか   作:美久佐 秋

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epilogue:Sword of requiem

 迷宮都市オラリオ。

 そこでは毎日あらゆる人種が道を行き交い、また忙しなく都市の内と外を出入りされる。やってくる人々の目的は都市の真下に存在する『ダンジョン』だと断言しても過言ではない。

 

 ある者は富を求めて。

 ある者は名誉を求めて。

 ある者は出会いを求めて。

 

 もちろん、生活のための人もいるのだろう。

 

 そういったありとあらゆる、人の思いつく限りの思惑が闇鍋よろしく放り込まれ、さらに神の恩恵というスパイスが絶妙なバランスを保つことで生み出された珍味の如く。

 まさに混沌(カオス)

 これ以上入れてしまえば取り返しのつかないことになる程に、この都市は薄氷の上に成り立っているような魔境。

 

 それが迷宮都市(オラリオ)と呼ばれる場所である。

 

 その中心聳え立つ白亜の塔(バベル)は神の住居という役割を持つが、ダンジョンの蓋という側面の方が大きいだろう。

 そんなダンジョンには冒険者による日々の探索をもってしても、解き明かしきれない未知がある。

 ただ全てが未知というわけでもなく、明かされていることもあるのだ。

 

 例えばダンジョンから産まれるモンスターは魔石を体内に保有し、その魔石はモンスターの急所でもあり、あらゆる動力源となる代物でもある。

 例えば、ダンジョンにはトラップなどがある。

 例えば、モンスターはダンジョンの壁や床、天井などから産まれる。

 例えば、例えば、例えば、エトセトラ……───

 

 様々な未知と危険が内在する魔窟。

 そこは危険な場所だとわかっていても、飛び込むことを止めないのは人としての(さが)故か。

 そこに娯楽を見出した超越存在(デウスデア)ならば何か知っているのだろうか。

 

 だが、一つ。

 それだけはこのオラリオに住む者ならば必ず知っている。

 

 ダンジョンには何かがある、と。

 

 その何かとは人それぞれなのだろうが、その何かを求めているのはダンジョンに潜る者たちの共通事項であった。

 冒険者は武器を手に取り、装備を整え、今日もその『何か』を追い求める。

 その恩恵にあやかろうとする者が世界中から集うが故に、この都市は世界の中心とも呼ばれているのだが……この都市は集まりすぎている。そして、死に過ぎていた。

 

 ───おかしいとはおもわないかい?都市の外からいくら人が移住しても、迷宮都市(オラリオ)の総人口はあまり変わっていないんだよ。

 

 そう、とある男が傍に撓垂れ掛かる女へ語りかけた。

 

 人の魂は死後、本来ならば輪廻の輪、則ち全ての始まりと終わりと言われる『根源』の渦に取り込まれ、また始まりを迎えることになる。その始まりは同じ人としてか、または動物、もしく植物としてかは明らかではないが、形はどうあれ生物の魂は生物として生まれ変わることになるだろう。

 

 この世の全てはそうあれかし───森羅万象・永劫回帰───と創造されたのだ。

 産まれ、生き、死ぬ。

 人と同じように星も開闢を迎え、いずれは人と共に終焉を迎えるかもしれない。

 星の息吹とは『根源』を循環するエネルギーのことだ。

 

 故にその循環が滞れば淀みが生まれ、決壊した瞬間に終末を迎えるだろう。尤も、それは逆も然り、だが。

 

 さて、ここで思い出してほしい。

 

 人の魂は死後、本来なら輪廻の輪に加わるのだ。

 しかし、このオラリオではどうだろうか。

 神は眷属を増やし、人はダンジョンに潜り、危険を犯す。

 そして多くの人が死んでゆき、また神の眷属は増えていくのだろう。

 何にせよ、ここには世界中から人が集まるのだから。

 

 彼らの魂は癒えることなく未来永劫、神の眷属として仕えることになるのだろう。

 行き先は本来死後の世界とされる、冥府ですらない。いつか起こる戦場だ。毎日のように、とはいかないだろうが、それは余りにも戦士たちが浮かばれない。

 

 ───誰かが、終止符を打たなければならない。

 

 そう、哀しそうに呟いた男は口ずさむ。

 

 

───我、至る───

 

 

 それは過去、現在、未来を通した英霊たちに向けて贈る鎮魂歌だった。

 同時に、英雄の剣に憧れ、剣を執り、剣を鍛えると生涯を決めた男が、唯一愛した女のために詠う、愛の唄でもあった。

 

 安らかに眠れるように、と。

 彼女と共に見た景色を壊したくない、と。

 

 とある『』に迷い込んだのは、男が一度死に絶えた時だった。

 世界の真理の一端を体験し、ある程度のことを知り得た後にそこから蘇った男はそのおかげで己の剣を完成させることができたが、同じくして世界の命運をも知り、それを知っていた今の主に託されてしまった。

 

 しかし男は世界の命運なぞ、知り得たところでどうでも良いとも考えていた。ただ、創りたい剣があったから、男はそれを作るだけである。そして先の利が一致していて、無害故に引き受けただけの話だ。

 

 確かに戦士たちのことも少しだけ思うところはあったが、それも男が剣士でもあるが故のただの感傷で、そこから何かをしようとは思わず、己の女のため、という意味合いの方が相応しいだろう。

 何せ己は剣を創りたいだけの鍛冶師であり、剣士であり、精霊だ、と男は考えていた。

 

 ───だから、詠おう。剣の(うた)を。

 

 そんな時だった。

 眼下に現れた二つの影。

 それらが立っているのはオラリオをぐるりと一周させた外壁の上だった。

 

 はためく黒一色のローブの裾辺りはボロボロで、頭もすっぽりとフードで隠している。念には念を入れているのか、さらに面をつけて顔を隠すその姿は、如何にも侵入者です、と言わんばかりの不審者だ。

 

 しかし、今は夜だということもあり魔石によって作られた街灯の光も届かず、誰にも気づかれることはないだろう。

 

 白亜の塔(バベル)の頂上で夜風に当たる男と女以外には。

 

 二つの影のうち、一人がおもむろに夜空を見上げる。

 そして男も夜空を見上げた。

 

 紫紺と真紅の瞳に映るのは満天の星屑。

 腕を伸ばせば掌一杯に掴めそうなのに、掴めない。

 だからこそ、この世界はこんなにも美しいのかもしれない。

 

 二人はその景色を見て、やはり、と頷く。

 この景色を壊したくない、と。

 

 そうして二人は伸ばした腕を水面に波紋を作るようにゆっくりと星空を薙ぐ。その姿はまるで指揮者のようで……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ピタリ、と腕を停止させたその刹那。

 

 傍で彼らと同じように夜空を見上げていたリヴェリアはその光景に瞠目した後、さも当然だと言わんばかりに大きく頷いた。流石、と。

 

 なにせ───言葉通りに星が停まっていたのだから。

 

 そんな妖精を横目にしながらも、掌握していた天体を解放した二人は同じくして最後の一節───詩の題をその口で紡いだ。

 

「「───【我が境界は剣と成りて(シュヴェールト・エル=テーゼ)】───」」

 

 

 さぁ、聖杯戦争を始めよう。




 申し訳ございませんが、作者の都合で打ち切りのような形で完結させていただきます
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