英雄の剣に憧れた私が剣に生きるのは間違っているだろうか 作:美久佐 秋
中層への進出を果たし、その日の内に予定よりも早く地上へ帰還したベル達
理由はとある
そしてその依頼を受けることとなったのがヘスティア・ファミリア派のベル、ヴェルフ、リリ。そしてヘルメス・ファミリア団長であるアスフィ・アル・アンドロメダである。それに同行する形となったのが依頼を出したタケミカヅチ・ファミリアの首領の桜花を含めた数人、そして
その神名はヘルメス、ヘスティア、タケミカヅチ。
ヘルメスの興味本位で十割自分のための行動だが、残り二人は彼の「バレなきゃ問題ない」という誘惑と眷属を思う気持ちが勝ってしまった故の決断だ。
迷宮に神は入ってはならない。それはオラリオに住む神々にとって周知の事実であり、もし他の神々が知れば正気を疑うだろう。そしてこう問うてくるだろう。「お前は天界に帰りたいのか?」と。つまり自殺願望でもあるのかと思われる。それほどにダンジョンとは『
だからこそ神々はダンジョンには潜らないし、もし迷宮にイレギュラーが起き、もしモンスターが溢れ、もしオラリオ中に解き放たれでもすれば迷宮都市は大混乱に陥り、住人達もただでは済まないだろう。そうなればファミリアに罰則が与えられるどころか、オラリオを追放される可能性もある。
そしてそれも一昔前の暗黒期と呼ばれた、
実際に神タナトスが解放した神威のせいで中層のワイヴァーン、しかも亜種の強力個体が上層12階層に出現した事例がある。そしてそれを当時はレベル1だった剣姫が討伐したことでランクアップを果たしている。
話は戻るが、ともかくギルドでも神の迷宮侵入は固く禁じられている。破ればファミリアへの罰則は免れないだろう。ただそれを承知の上で三人は同行するつもりなのだ。
監視も含めた祈祷を行なっている神ウラノスからしてみれば三人がダンジョンに入ったことなど直ぐにわかるだろう。バレることは間違いない。本当に眷属と友神のためを思うのならばヘスティアとタケミカヅチの二人はダンジョンなど入るべきではないのだが……二人は既に決断を下してしまった。
それが己の眷属の信頼を裏切ることに繋がっているとしても、迷宮に足を踏み入れると決めたのだ。それほどに二人の眷属への愛は深かった。
ちなみにヘファイストスは「己の眷属を信頼している」という理由で同行は断っている。そしてその言葉を聞いたことで何かに胸を抉られ、その場で膝を突いた神が約二名いたらしい。
ともあれ、神が三人も迷宮探索に同行するのだ。
現在も一人先行してダンジョンの中層を捜索しているが、見つかる確率は低く、時間をかける程に生存確率は下がっていくだろう。
さらに
そのように神々が同行するに当たって浮上してくる問題点や役割分担を話し合った後にミアハ・ファミリアの拠点───『青の薬舗』を解散し、各々の準備を始めたのだ。
ベルとヴェルフ、リリ、桜花達は分担しながら物資の補給を。
戦力に心当たりのあるヘルメスはアスフィを連れ、とある女主人の酒場へ。
そうして時は流れ、日が傾き切った夜の八時。
場所は摩天楼施設、西の門前。
時間帯が時間帯だけに
捜索隊の準備は既に完了し、後は出発を待つだけなのだが……なかなか出発しようとしないヘルメスにタケミカヅチは焦りを覚え、逸る気持ちを抑えられなくなって号令を掛けようとした。
その時、凛とした声がその場で静かに響く。
「──お待たせしました」
一行の前に冒険者らしき、人物が歩み寄ってくる。
その声音からして女性だろうと判断したタケミカヅチはその足運びや気配を感じ、逸る気持ちを抑えることができた。即ち、あのいけ好かないヘルメスが待っていたのはこの人物なのだろう、と。彼女ほどの実力者であれば命の捜索にもきっと役に立ってくれると信じて。
「おそらくヘルメスが呼んだのだろうが、まずは礼を言わせて欲しい。今回の呼びかけに応じてくれて感謝する。そしてヘルメスからではなく、改めて……私の眷属の捜索に協力して欲しい」
感謝の言葉を告げたタケミカヅチは頭を下げ、続いて彼の眷属達も頭を下げていた。
そして彼女は周りにいるメンバーを見渡し、最初に目に入ったのはポカンとした表情で彼女の正体に気づきつつあるベルとリリ。次は確実に自分よりは実力者であることはわかるが、見覚えのない姿に首を傾げるヴェルフ。そして彼女がこの場にいる原因でもあるヘルメスとアスフィ。同僚の伴侶候補の主神・ヘスティア。
最後にもう一度、タケミカヅチとその眷属達。その誠実な姿勢と言葉に納得したように頷いた彼女は覆面越しに言葉を交わし始めた。
「なるほど……少なくともあなたは神ヘルメスより遥かに信用できる神物のようだ。微力ですが、協力いたします」
「そうかっ!よろしく頼む!!」
「……はい」
強力な助っ人が来てくれたことに「よしっ!!」と後ろで握り拳を作り、喜びを表現しながら今も迷宮を彷徨っているだろう命に思いを馳せるタケミカヅチを傍目に、ヘルメスはやっと出発の号令を掛けようとして……ニヤリ、と企むような笑みを浮かべる。そしてその視線の先にはベルがいた。必然的にその場にいる全員の視線が徐々に集まり、オロオロとベルは狼狽える。
「な、なんですか?」
「やだなぁ、ベル・クラネル。そんな風に警戒しなくても俺は何もしないぜ?僕はただの旅好きな神様さ」
そう言いつつも、面白いものを見つけた神々の目線で見るヘルメス。だが、そんな視線から守るようにヘスティアがシュバッ!とベルの前に立ちはだかり、ボクシングポーズをとる。
「ヘルメス!!僕のベル君には指先すら触れさせないからな!!」
シュバシュバッ!と白い手袋に包まれた腕を振るう度にミョンミョンと跳ねる二筋の黒髪がベルの頬を撫でるシュールな様子にその場の空気が弛緩するが、やっと戻って来たタケミカヅチが声を掛けることで一先ず収集が着く。
そして「これではいつまで立っても出発できない。多少強引でも行動に移るべきだ、というよりも早く行こう」と考えたタケミカヅチは自分に注目を集めてからベルにこう言い放った。
「ベル・クラネル。今回の依頼を受けてくれてありがとう」
「は、はい。でも僕の場合はパーティメンバーの希望と成り行きで、という感じですから、あまり気にしなくても……」
「いや、それでもだ。ただこうしてここに留まっていても自体は一向に進まない。だからベル君。パーティのリーダーである君が号令を掛けてはくれないか?」
「ぼ、僕がですか?」
「ああ、そうだ」
ハッキリと言われたベルは周りの様子を伺うまでもなく、この場の全員に最初の一歩を任されたことを自覚し、数秒だけ目を閉じて息を整えてから口を開いた。
「そうですね。確かに一人……ジークが先行して捜索しているとは言え、一人では限界があります。神様の言う通り時間も押していますし、まずは崩落の起こったルームまでは僕が先行します。みなさん準備はいいですか?」
その呼びかけに全員が頷きで返す。
「───………では、出発します」
そうして、ヤマト・命の捜索隊一行は静かに歩を進め始めた。
◇◇◇
地上でベル含めた命捜索隊が出発してから少し経った頃。一人で先行していたシュヴェルトは命を見つけ出し、合流することに成功していた。
だが致命的ではないものの、支障となる問題が二つほどあった。
「……大丈夫かい?」
「はい。傷はもう塞がっています。ただ……」
二人は視線を斜め下にズラすと、そこにはあるはずの左腕が、肘からゴッソリと失われていた。
「酷なことを言うようだけど……まず、この腕が戻ることはないことは念頭に置いておいた方がいい。ここは中層の
「そう、ですね……はい。そうすることにします」
こうして項垂れることができるようになったのも、シュヴェルトという存在が命に精神的な余裕を与えているからなのだが、今は、これでいい。
一つ目の問題として、最初に上がったのは左腕の欠損による失血と体力の消耗。彼女の体は限界に近かった。合流した時、血濡れになりながら足をなんとか前に進めようとする姿は、最早執念だけで成り立っていたと言ってもいい。
その姿を見て欠損部分を探して繋がることをするよりも、傷を塞ぎ血を止めることを優先したのは時間もなく仕方がなかった。もしも腕を繋げることを優先していれば、命の方が限界を迎えていただろう。シュヴェルトの判断な結果的に命の
今も幻肢痛に苛まれながも、彼女は体力の回復に向けてウトウトと舟を漕ぎ始めている。
「命。今は休み、後のことは私に任せなさい」
「はい。わかりました…………お願ぃ……しま、す……じ……くさ、ま」
「あぁ、無事にファミリアの下へ帰すと約束しよう」
痛みを紛らわせるため、髪を梳くように頭を優しく撫でながら軽い暗示を掛け、眠らせる。それから彼女が元気に復帰できるまで回復するには場所が悪い。
言葉通り、今後の命の
「さてと。あとは
途端にシュヴェルトの声音は弱気になる。だが、その表情に悲壮感はない。
二つ目の問題とは、このことだ。
まず、シュヴェルトが中層に進出していた時の前提条件として
基本的にシュヴェルトはなんでも、文字通りに索敵も戦闘も地図の作成などあらゆることを、本当になんでも一人でできる。強いて言うなら荷物持ちをしてくれるサポーターが居てくれれば万々歳といったところで、それはオラリオにくるまで世界中を一人で飛び回っていたことが関係しているのだが、今は関係ないことなのて一先ず置いておく。
話は戻るが、シュヴェルトがパーティを組むのは今回のベル達が初めてとなる。
元々彼の剣は一対多、もしくは一対一などの単独戦闘を好んでおり、多対一、あるいは多対多の戦闘はできないとは言わないが、彼自身好まないし、気が進まない。それ故に今までベル達と行動している間は弓を使って後方からの支援に徹していたのだが、今度は完全な一対多となる。
だというのに、シュヴェルトの声に覇気が籠らないのは、偏に命の存在だ。言い方は悪いが、今の命はお荷物、もっと悪く言えば役立たずだ。まぁシュヴェルト自身は全くそんなことなど考えていないし、弱気な声も初めてのことに不安が押し寄せてきただけだ。
つまり不可能ではないし、七割以上は可能で、その残りの三割が現在シュヴェルトが不安がっている理由だった。
ただ、いつまでもそうしている訳にはいかないのだ。
「よし、そろそろ行こうか」
先程とは打って変わり、覇気に満ちた声で気分を切り替えたシュヴェルトは命の膝と脇下から背中に腕を通してから立ち上がる。
俗に言う、お姫様抱っこである。
そのまま
本当はもう一度壊して休む時間を確保したいところだが、それも過ぎれば迷宮がシュヴェルトを排除するためのイレギュラーを産む結果を作ってしまう。
その存在は一度だけ倒したことがあり、一人であれば造作もない相手ではあるが、命を抱えている状態では難しいと判断したシュヴェルトは徐々に元に戻っていく壁から視線を外し、歩を進める。
そうして行動を再開したのは、ベル達捜索隊が中層に足を踏み入れた頃であった。