英雄の剣に憧れた私が剣に生きるのは間違っているだろうか   作:美久佐 秋

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 何故か《お気に入り》がメッチャ増えてて吃驚しました。
 当作品を読んでくれている方々、ありがとうございます。ただただ、私はこれからも読んでくれている皆さんに面白いと思ってくれるように精進していくつもりです。
 よろしくお願いします。

 それと感想で「ベル君を無理矢理関わらせている感じがあって、違和感がある」といただきましたので、前書きの場でも答えさせていただきますが、別に読まなくても問題はないです。

 本題に戻りますが、その疑問には私は意味のないキャラクターを出すつもりは極力減らすようにしています、と答えました。
 理由はキャラが多すぎても、一人一人の話が薄くなったり、物語の展開が遅くなったりしてしまうと考えているからです。
 そしてなによりも、何人もキャラを出したとしても、私の文章力では活かしきれません……!!

 ですので、登場したキャラは何かしらの役目を与えている、と考えても構いません。
 といっても、全員が全員に役目を与えても、さっき言ったように活かしきれなくなってしまうので、そこは先の展開などを予想などしたりして楽しんでくれると嬉しいと思っています。

 アルジャーノンより。


 では、「episode.08:妖精の王」です。




episode.08:妖精の王

 階層の天井にある水晶の集合体。

 内部で乱反射し、太陽の放つ陽光のように照らされる18階層を二人は歩く。

 

 先程の出来事を簡潔に説明すれば「シュヴェルトの剣気に当てられ、抑えきれそうになかったアマゾネスの闘争本能を慰めるためにティオネがレフィーヤを置いて団長の下へと走り去ってしまう」ということになる。

 そしてそれは誰が聞いてもシュヴェルトが挑発したと取られるだろう。それに関しては自覚もあり、申し訳なくなったシュヴェルトがレフィーヤに謝罪するという一幕があったものの、それからは全く無言の状態が続いていた。

 

 そよ風で揺れる木々の音だけが流れる静寂の中、シュヴェルトは怪しまれない程度に隣を歩く妖精(エルフ)へ視線を移す。

 

 全体的に桃色(ピンク)の色合いとヒラヒラしたデザインで、肌をほとんど隠すような布の多さはエルフの一般的な服装の特徴だ。

 山吹色の髪と碧色の瞳、耳はエルフらしく細く尖っている。そしてその耳は彼女を横目で観察しているシュヴェルトに向けられ、偶にぴこぴこと動いているのは敏感に周囲の音を拾おうとしていることを表している。

 そんな彼女に溜息を吐きそうになるがシュヴェルトは堪え、規則的な呼吸を心掛けていた。

 

(まぁ、それも仕方ないか)

 

 そう、内心で独り言ちたシュヴェルトは彼女の思考を読み解いていく。

 

 詰まる所、レフィーヤがシュヴェルトを警戒しているのは【剣霊(エル・スパーダ)】だという証明は果たされなかったからだ。

 今こうして彼女が【ロキ・ファミリア】の拠点(キャンプ)に案内しているのも先輩であるティオネへの信頼と、怪我人がいることは確かだということ。そしてファミリアの団員たちがいる場所まで連れてけば流石にことを起こすことはないだろう、という考えがあってのことだろう。

 しかし、どうしても自分の中ではまだ消化しきれず、態度まであからさまにはせずとも内心ではいつでも応戦、または叫び声をあげて救援を呼べるように残心だけはしていた。

 

 というのが、彼女の内状である。

 

 そんなレフィーヤの内心など、無数にある剣の道の一つを極めたと言ってもいい実力を持つシュヴェルトからしてみれば、身じろぎ一つからでも筒抜け同然に見破れるだが、そのことを指摘するなどという無粋な真似はしない。

 一般常識であれば(・・・・・・・・)他人の思考を読むなど戦闘中ならいざ知らず、あまり褒められるべきことではないのだが……シュヴェルトは円滑な関係構築のためだという事にして一旦棚に上げる。

 

 もし彼女の心情を暴いたことを本人に告白すれば二人の仲は険悪、もっと酷ければ今後の関係を絶たれるのは確実だ。

 知人からは少女の心の内を読み取った不届き者として絶対零度の視線を受けることは間違いなし。加えて彼女自身の冒険者としての、強いては魔法使いとしての誇りを踏み躙ることにもなるだろう。

 

 もう一段、シュヴェルトは己の行為を棚に上げることになるが、「警戒を怠らない」など冒険者であれば基本で、他ファミリアであれば尚更だ。

 一剣士としても、残心が基本と教わったシュヴェルトは彼女のその警戒は理解できるし、寧ろ警戒されなければ「【ロキ・ファミリア】の団員はこの程度なのか」と、拍子抜けしていたところだった。

 

 だからシュヴェルトは自分の行為が最低なことだと自覚しつつも、さらにもう一段……いや、二段ほど棚に上げた後、そのままにすることにしてから思考を切り替える。

 そしてその矛先はこの場にはいないティオネであり、彼女から放たれた闘気を思い出していた。

 

(剣を抜きそうになるところだった。もし、彼女と闘う機会があれば……是非とも剣を交えたい)

 

 奇しくもティオネとシュヴェルトが考えることが重なったが、それはティオネの思考もあの一瞬で読み解いていたからである。

 …………シュヴェルトのその節操のなさというか、彼の剣の理念を考えれば仕方ないのかもしれないが、最早何も言うまい。

 彼の思惑を読める人などこの世に一人として存在せず、もしいるとすればそれは人ではなく、神霊の類なのだから。

 

 シュヴェルトの読心行為が行き過ぎな件はまぁ、ひとまず置いておく。

 今は命の方が重要であり、もしレフィーヤとの仲が険悪になったとしても、依頼を達成するためには命を安静にして休養が取れる場所に移さなければならないのだ。

 最悪な最終手段としてレフィーヤに暗示をかけるという選択もあったが……懇意にしている【ロキ・ファミリア】団長との関係を考えれば、それはナンセンスであるし、この先にいるであろう友人に証明してもらえれば解決する話なので、この件は放置とシュヴェルトの中で決着がついた。

 

 対して、隣で命を横抱きにしながら歩く人物に色々と観察され、思考を読み解かれているとは露程も知らず、レフィーヤは歩き続ける。

 

 そうしてすぐに前方の景色が開け、視界に入ってきたのは建て並ぶ簡易的なテントと道化を模した【ロキ・ファミリア】の旗だった。

 

 ほうほう、と都市最強ファミリアの団員の多さに感心するシュヴェルト。

 そんな彼に話しかけようとする一人の小人族(パルゥム)がテントの奥から近づき、話しかけてくる。

 

「やあ、シュヴェルト。最後にあったのは遠征の前だったかな?」

「フィンか。久しぶり、という程の時間は経っていないが、一先ずは無事にここまで帰還できてよかったよ」

 

 そんな旧知の親しい友人と久しぶりに会ったような、シュヴェルトと【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナの姿にレフィーヤだけではなく、周りにいた団員達も瞠目した。

 周囲の人達が二人、正確にはシュヴェルトのことを探るように視線を集中させていたが、前情報があったレフィーヤにとっては既に団長がこうして親しげに話しかけた時点でその正体を察していた。

 そしてティオネの頼みを達成できたレフィーヤだが、シュヴェルトに向ける心情は大したものではなく、ただこの人物があの【剣霊(エル・スパーダ)】だったんだな、という程度だった。

 何せ、レフィーヤ自体は剣を振るうわけではない。

 強いて言えば、彼の【剣姫】よりも剣の腕が上だという噂が本当なのかと疑っているくらいである。

 

 それよりも気になっているのはフィンの後ろにいる女性───リヴェリア・リヨス・アールヴについてだ。

 彼女はじっと……と言うよりも、ジトっとした目で何かを見定めるような視線をフィンと命のことについて交渉しているシュヴェルトと向けている。

 

 そんな彼女の異変にはレフィーヤ以外のエルフ達も気づいており、とあるエルフが隣のヒューマン、あるいは亜人(デミ・ヒューマン)にそのことを話せば、さざ波が広がるかの如くあっという間に他の団員達にも伝わっていく。

 必然的に【ロキ・ファミリア】は何かあるのかと様子を伺いにゾロゾロとその場へと集まって来るのだが、そのことを周りの気配から察していたシュヴェルトは交渉を手早く終わらせ、愛しの団長(フィン)の指示で側に控えていたティオネに命を預けた。

 

「それじゃあ、僕の天幕に案内しよう。君のことだからあまり疲れていないかもしれないけどね」

 

 命を優しく抱き、治療用の天幕へと連れて行く後ろ姿を見送ったフィンがそう言った。

 

「いや……その前に、話したい人がいるんだ」

「話したい人、ね。それはここにいるのかい?名前を教えてくれれば連れて…………あぁ、いや。必要ないみたいだね」

 

 そう、頷きながら納得したフィンの前には見つめ合う二人の男女の姿がある。

 言わずもがな、シュヴェルトの視線の先にいるのは彼の【九魔姫(ナイン・ヘル)】ことリヴェリア・リヨス・アールヴであった。

 

 そんな二人の様子を見ただけで察したフィンとは対照的に、他の団員達は困惑していた。

 

 なんだあの空間は、と。

 

 シュヴェルトとリヴェリア程の綺麗な顔立ちをしている人物が揃っている、という理由もあるかもしれないが、何か清浄な雰囲気を際立たせている。

 

 何かの景色に例えるとすれば、青い木々が生い茂る湖の畔だろうか。

 

 その様子を察しの良い人が見れば気づくかもしれないが、その在り方は恋人同士というよりも最早長年連れ添った夫婦の域に至っており、二人の空気がピッタリと合わさったかのような感覚を覚えるだろう。

 

 団員達も二人がただならぬ関係ではないことくらいはわかるが、恋人などという考えは浮かんでこない。

 それは偏に普段のリヴェリアと様子がかけ離れており、それ故に恋人という考えに至ったとしても「本当にそうか?」と疑ってしまっている。

 

 ジッと二人の成り行きを見守る団員達。

 二人は何かを懐かしいことを思い出しながら暫く見つめ合っていたが、先に口を開いたのはリヴェリアだった。

 

「……久しぶり、だな。何年振りだ?」

「……会えて嬉しいよ、リーヴェ(・・・・)。多分、50年は経っているだろうね」

「会えて嬉しい、か。確かに私も嬉しい……だが、それ以前に寂しかったよ。なぁユングリング(・・・・・・)。いや、今はジークハイルだったな」

「つれないなぁ。以前のように呼んでくれないのかい?」

「ずっと待っていたんだ。そうして欲しければもっと早く会いにくるべきだったな。

 それにどうしてこれまで会いに来なかったのか、私が納得できるように聞かせて貰えるのだろうな?」

 

 団員達はシュヴェルトの言葉を聞いただけでもう察することができた。というか、遠回しではあったが「会いたかった」と言ったリヴェリアに驚いていた。

 

 彼女の性格上、甘える姿というのは想像しづらい。

 そして団員達にとって、リヴェリア・リヨス・アールヴとは厳格で、他者にも自分にも厳しい、エルフの見本のような人物である。

 叱られ、間違いを正されそうになると疎ましくは思うこともあるが、それらは全て自分たちのことを思ってのことだと理解している故に嫌うことはない。

 そんな彼女の姿を見て神ロキは「リヴェリアママ」と呼ぶのだが、母親のような存在だという認識は【ロキ・ファミリア】の総意である。

 

 だからこそ、こうしてリヴェリアが女の顔を見せるのは完全に予想外であり、彼女にそんな表情をさせたシュヴェルトのことが気になっていた。

 

(……ツンデレだなぁ)

 

 二人の関係を知りたがっている周囲のことは気にせず、変わらない彼女の様子にシュヴェルトは表情を綻ばせた。

 

 

 会いたかった。

 

 寂しかった。

 

 彼女に触れたい。

 

 

 今すぐにもその細い身体を抱きしめたい想いに駆られるが、ここは人の視線が多い。

 胸の中を掻き混ぜる万感の想いが溢れそうになるのを抑える。ただ募る想いをぶつけるだけでは駄目なのだ。

 ゆっくりと、染み込ませるように時間を掛けて愛したいし、愛されたい。

 一瞬でその想いを発することで散らしてしまうのは勿体ない。

 

 理由(わけ)あって再会を我慢していたシュヴェルトだが、こうして会えたのだ。

 時間が許す限り、ずっと一緒にいたい。

 

 そんな想いを込めながら、剣の精霊は九魔の姫に語りかける。

 

「あぁ、何があったか。話したいことがたくさんあるんだ。聞いてくれるかい?」

「……ふ、お前のそれは死んでも治らなそうだし、仕方ないな。私の天幕に案内しよう。茶葉はあるのだろうな?」

「もちろん常備しているよ。いつ君に会ってもいいようにね」

「ならいい」

 

 そう、最後に呟いたリヴェリアはシュヴェルトの手を取った。

 

 もう一度言おう。

 リヴェリアはツンデレだ。そしてクーデレでもあった。

 

 シュヴェルトは彼女も自分と同様に再会を喜んでくれていることを理解し、その愛おしさを隠す態度には思わずニヤけそうになるが努めて平常心を装う。

 ただ、シュヴェルトは一瞬だけ周りに視線を巡らせた。

 

 こうして女の顔を露わにしているリヴェリアだが、仮にも都市最強の一角を誇るファミリアの最高幹部だ。そんな彼女が男の手を引く光景は団員達に大きな打撃を与えるだろう。

 リヴェリアの影響を考え、ついでに【ロキ・ファミリア】のことが気になったシュヴェルトだが、当の本人であるリヴェリアは気にする様子はなく、取った手を引いてズンズンと自分の天幕のある方向へと連れて行く。

 

 そして予想通り、団員達はその光景を見てあんぐりと口を開けて呆然している者が大半だった。

 

 流石にシュヴェルトもこのままこの場を後にするのは気が引けた。

 頼みの綱であるフィンに視線を向けると、手を振りながらパクパクと何度か口を開いたり閉じたりする姿が目に映る。

 そしてその口の形からフィンの言葉を読み取った。

 

(後は任せて、か。ありがとうフィン)

 

 気を利かせてくれたのだろう友人に感謝の念を送り、後を託してから一先ず心配事を頭の隅へ追いやったシュヴェルトは目を前に向ける。

 その先には機嫌を良さそうに顔を綻ばせているリヴェリアの姿がある。

 

「リーヴェ……」

 

 愛しい人。

 その呼び方にそんな意味が込められていることをリヴェリアは知らない。

 それをシュヴェルトは伝えるつもりはないし、これからも伝えることはないだろう。

 

「ただいま……───」

 

 そう呟くとリヴェリアは立ち止まり、振り向く。

 立ち姿だけでも様になる彼女の美貌は色褪せることなく、その変わらず美しい姿にまた一つ、愛しい気持ちが胸を満たしていく。

 

 随分と歩いたおかげか、周囲には気配が少ない。

 そのことをわかっているのかわかっていないのか。いや、おそらくリヴェリアもわかっているだろう。

 

 ゆっくりと近づいていく二人の相貌。

 

「──おかえりなさい、ヴェルンド(我らの王よ)

 

 天幕の陰でそっと、お互いの唇にキスが落とされた。

 

 

 




 というわけで、ヒロインはロキ・ファミリアのママことリヴェリアで行きたいと思います。
 サブヒロインは用意しません。ごめんねヘファイストスと椿。シュヴェルトのヒロインはリヴェリアだけです!!

 あとここからの展開についてなんですけども、私の神話に関する知識はウィキペディア先生由来のものです。そして得た知識は大して深く理解しているわけではなく、「こんな人がいて、こんなことをした」という程度のものです。
 さらに独自で解釈したり、改変したりしています。特に主人公の名前については調べればわかると思うんですが、色々と混ざっています。
 史実と違うぞ?というところがあれば、感想などでなるべく答えるようにしますが、大体は私の考える話の展開の都合のいいように名前を使わせてもらっていますので、そのところをこの作品を読んでいく上ではご了承いただきたいです。


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