林の中に入ると、さっきの戦いが嘘かのように静かだった。
いや、静か過ぎる
虫の音も、鳥の鳴き声も、風も無い
矢を使う相手としては最高のコンディションって訳か
さっきの毒もある、極力当たらないようにしないと・・
最悪眼を使うか・・、正直使いたくは無いんだが
味方は私を除いて全滅、敵は爆発物、貫通力のある矢、まだ何かありそうだし・・
私もおちおちやられるわけにはいかないしな
眼鏡を外し、ケースに入れる
今まで黒だった眼は、青くなり、視る光景には無数の線ばかりが見える
前を向き、敵へ向かうように走り出した。
???目線
「へぇ・・矢を切るなんて非常識なことをするのは、どこぞの庭師だけかと思いましたよ」
珍しいものを見るように、逃げていく相手を見る
「これで終わりなわけ無いですよね
もっと私を楽しませてもらいませんと、合格できませんよ?」
そんな中、相手が戻ってきたようだ
「戻って来たようですね・・今度はどんな戦いを見せてくれるんでしょうか」
そう言って彼は一本の矢を抜き、静かに構える
「これは切れますかね・・
剛ノ矢 」
強く引かれた矢は、彼が手を離すことにより
空気を切るような音と共に放たれた。
在処目線
敵の近くに行こうと走り出した瞬間、空気を切る音と共に光速の矢が飛んでくる
「速い、確かに速いが」
その矢が、在処を貫くことは無く、無残にも真っ二つになって地面に刺さることになった。
「私の前では、そこまでの脅威じゃない」
そう言って林を進む
放たれる矢を切ったり避けたりすると、木の生えていない少し開けた場所に出てしまった。
「ッチ、まずいな・・」
こんな開けた場所、格好の狩場じゃないか
「ふふふ、やっとここまで来ましたね」
どこからか声が聞こえる
だがどこからの声かは分からない
声は中世的で、男か女か判断はできないな
まぁ、どちらにせよ・・
「まんまと罠に嵌ったわけだ」
「誘導するように射るのは難しいんですよ
でも、楽しい、一応急所は狙ってるんですけどね
面白いくらいに、切っては避けて、切っては避けて
はは・・これだから狩りはやめられない・・!」
相当の手練だな・・、そして変人だ。
「さて、罠に嵌ったのは・・
小鳥か猛獣か・・見極めさせてもらいますよ」
その言葉の瞬間、三本の矢が私を狙う
三本か、一本は切れても後二本が対処できない
毒が無いことを祈るか
在処の取った行動は、矢を切らず、横に飛ぶように回避し
二本の矢は回避できた、が
「っぐぅ」
避け切れなかった矢が右腿に刺さる
毒は無いようだ。
だが、ここで足を怪我するのは得策では無かったか
「休憩している暇は無いんじゃないかな」
その言葉の通り、二本の矢が迫ってくる
「その矢は毒が塗ってありますから、死ぬ気で避けてくださいね」
「ッチ」
舌打ちをして、無様に横に飛び込みギリギリで回避する
「意外と避けますね
痛くないんですか?」
痛くない? 痛いに決まっている
これはやせ我慢だ。
「さて、次のはどうですか
爆風ノ矢 」
目の前の地面に矢が刺さり、警戒するように飛び退くが、それだけ
が、その瞬間、矢を中心にして爆風が襲った。
風自体にダメージは無いが、一緒に飛んできた小石などが無数に襲ってきて
体中にかすり傷ができる
そしてその爆発的な風は、私の体を吹き飛ばし、後ろの木に叩きつけられた
「っぐぁ・・」
叩きつけられたことで肺から空気が一気に抜ける
私はまともな呼吸ができずに、苦しみながらも立ち上がり顔を上げる
「まだ立ち上がるなんて、相当タフなんですねぇ
これで気絶してくれれば楽に終わったのに」
心にも無いことを
どうせそんなこと言いながらも笑ってるはずだ
ここで、息を整えるついでに簡単な作戦を立てねば
矢は一定の場所から放たれる
動いている気配は無いな、動く必要が無いか、動けないか
たぶん前者だろうな
それとあの爆風の出る矢
あれは見たところ、刺さってから発動までに少しタイムラグがあるな
そこを突けば・・
呼吸は整った
頭は痛いが戦えないわけじゃない
腿の痛みも気にならない
握っている刀を前に向ける
「ふぅ・・これから反撃だっ」
私の言葉に反応したのか、その言葉に答えるように
四本の矢が飛んでくる
その矢を避けようとはせず、前に踏み込み、急所を狙う箇所の矢を切り伏せ、前に走り出した。
切ることのできなかった矢が、左肩に、左腿に刺さる
痛みを無視して走る、その時
「 爆風ノ矢 」
来た、これを待っていた!
私の目の前に矢が刺さる
それを無視するかのように通り過ぎ、敵の矢の放たれた方向を向く
その瞬間、矢から、爆発したかのような風が、背後から襲う
だが、その風に抵抗無く吹き飛ばされる
吹き飛ばされた先は林
だが
「脆いな」
木々の死線を視て切り払っていく
その木はまるでバターのように無抵抗に切られていく
先の敵を狙うため、切れた木を踏み台にし、目の前の和弓を構えた敵を・・構えた?
もう踏み込み、前に飛んでいた
避ける術は無い
そして無情にも矢は放たれる
とっさに放たれた矢は切ったが・・
「中々面白い戦法です
ですが・・」
和服のそいつは木から飛ぶと空中で掴まれ、地面に叩きつけられ
咄嗟に受身を取ったが、予測されたのか、飛び移った枝から矢を放たれた。
その矢を防ぐため、咄嗟に腕で顔を守ってしまい
毒塗りの矢が刺さった。
その瞬間、意識が白に染まった。
「実戦が足りませんね」
???目線
放った矢が刺さると相手は眠るように倒れてしまった。
「眠りましたか
中々に楽しかったですよ」
満足そうに和弓を肩に掛け地面に降りる
「残念ながら不合格です
私の攻撃を予測できたなら傷の一つでもつけれたのでしょうけど・・」
「さて、治療しないといけないですね・・
はぁ、面倒です。」
ぐちぐちと言いながらも彼女を背負い林を抜けた
???
辺りが暗い・・なのに私は・・はっきり見える・・・・
私の意識が浮いたり沈んだり
まるであの中を彷徨ってるみたいだ・・
死の海・・死の川・・
時々見るんだよな・・この夢・・
でも本当にこれは夢なのか?
私はこれを経験してる・・の・・か・・・・。
そして真っ暗な世界は白に塗り替えられる
「ふふっ・・」
誰かが・・笑っている・・・・
お前は・・誰だ・・
「貴女は私、私は貴女」
在処目線
「・・・・はっ」
意識が覚醒した。
確か、矢が刺さって、毒で眠ってしまって・・ってここどこだ!?
あたりを見渡すと古い内装だ
よく見ると輝元が同じように寝ていた。
「あ、起きたようですね」
部屋の奥から和服を着た中世的な・・男? って!
「お前! 私たちを狙った」
「そのことも説明しますので、少し落ち着いてください」
ひとまず落ち着いて辺りを見渡す
私の刀は無いな・・こりゃお手上げだ
「で、攻撃してきた理由は?」
「簡単に言うなら試験です
本当ならこんな面倒なことしないんですけどねぇ・・
今回は楽しかったらから良しとしましょう」
試験?どういうことだ?
「まだ理解してないみたいですね
試験とは慧音さんの雇った人たちの力試しみたいなものですよ
私と彼が試験官、まぁ私の相手した人たちはみんな不合格でしたけどね」
「その試験の合格基準は?」
「私に一撃お見舞いすることですよ
後一歩のところで不合格です
私としては合格させたいんですけどね」
無性にこのしゃべり方に腹が立ってきたな・・
「ちょっとこっち来い」
くいくいと指で手招きする
「はいはいなんですか?」
目の前に来た瞬間その顔面目掛けて右ストレートをお見舞いする、が
「おっと、危ないですねぇ」
その右ストレートは空振りに終わった
涼しい顔をして避けやがって
「ッチ、一発殴れば合格できると思ったんだけどな」
「発想はいいですけど、相手の力量を見極めて行動しましょう」
その余裕そうな笑顔を引きつらせたいもんだ
「はぁ、まぁいいや
それで、私はこれからどうすればいい?」
試験には不合格、まさか無職?
「うーん、まずは慧音さんのところに行ってきたらどうですか?
報告もかねて、朝の酒場にいると思うんですが」
なら即座に行動、善は急げ
そう思い入り口に立てかけてある刀を腰に差して、外に出た
私が家に出るときも何も言わずに静かにあいつは笑顔のままだった。