豆腐メンタルなフランちゃん   作:鶏そぼろ中毒

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小悪魔

ーーーーああ、今日は気分が良い。

 

 

 

ーーーーちっぽけな世界が開けたのだ。

 

 

 

ーーーー生きている人間も見ることが出来た。

 

 

 

ーーーー初めてあった人間(霧雨魔理沙)に友達だと言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーそう、私は今日から変わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁーー…、ちょっといい?」

「い、妹様!?どうしてこんな時間に……」

「ちょっと心機一転してね。お姉様知らない?」

「な、なるほど……、先程巫女のところに行くとメイド長と話していた気がしますが詳しくは存じ上げません。」

 

朝日が差し込む人の活動時間が始まる頃、つまりは素晴らしい夜が終わった翌朝に、フランドール・スカーレットは初めて早朝から起きていた。姉のレミリアが出ていった気配がしたからだ。

 

そこら辺の妖精メイドに聞いてみれば昨晩来た巫女のところへ行ったらしい。巫女というからには神社に住んでいるのだろう。もしくは分社を建ててそこに居を構えてるのかもしれない。

いずれにせよフランには場所がわからないし、いつもなら一人で外に出るのは危ないからとレミリアが帰ってくるまで地下室に篭っていただろう。

 

「……ふふっ、巫女のところね!ありがとう!」

「ちょ、ちょっと妹様ぁーー!」

 

しかし今日のフランは違った。原因は昨日にある。

 

幻想郷で言うところの紅霧異変があった昨夜は、フランにある可能性を示した。

生まれて初めての友人。見知らぬ人間とあんなに面白い遊びをした挙句友達になれたのだ。外に出れば、小さ過ぎた世界を広げればもっと沢山の友達ができるはずだ。

 

そんな考えのもと今日のフランはいつもよりずっとポジティブでアグレッシブだった。

 

いつもの陰鬱な表情は影を潜めて、打って変わったような底無しの明るい笑顔を浮かべている。

耳を澄ませば鼻歌さえ聞こえてきそうだ。

 

長い間使ってなかった日傘をさすが、ふと思い立ったかのように日傘を元の位置に戻してレミリアの部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かな……。」

 

レミリアの部屋には吸血鬼でも姿が写る特別な姿見が置いてある。フランは本当に久しぶりーー約500年ぶりーーの外出に若干の緊張を覚えつつ、身嗜みを確認するためにこの部屋に来たのだ。

 

濃い黄色の髪をサイドテールにまとめ、その上からナイトキャップを被っている。 不安そうに、しかし楽しげに服装を確認するその瞳は爛々と紅く輝き口元も心なしか綻んでいるように伺える。

人間の背丈にして10歳前半の背丈に合わせて作られた服装も瞳と同じ真紅と白を基調としており、半袖とミニスカートに近い作りだ。

 

三者から見て奇妙に映らないか不安に思うフランだったが、生粋の箱入り娘であるが故に基準がどうもわからない。

今まで見たことあるのは姉のレミリアにメイド長の咲夜、レミリアの友人であるパチュリーとその使い魔の小悪魔の4人(4匹?)プラス妖精メイドだけだ。

レミリアはフランと特筆する必要のないほど似通った服装をしているし、メイドズはもちろんのことメイド服である。

パチュリーは年中図書館に篭っているせいでパジャマに近い服を着ているところしか見たことがない。

唯一あてになるのは小悪魔だが何故か会うたびに悲鳴を上げて逃げられてしまう。前に初めて会った時、『貴女には王の資質がある』とか『私と契約しましょう』とか言って迫られたので軽く睨んでやったのが響いているのか。

 

「行くしかない、か。」

 

服装は自らを表すという。いかに小悪魔に嫌われていようとも初外出の服装よりも優先順位は低いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひいっ!?」

 

しかしこうも怯えられると何か悪いことをした気分になる。

 

「小悪魔は気にしないで。……それで、どうしたのフラン?」

 

フランが図書館の奥に引っ込んでしまった小悪魔を複雑な心持ちで見ていると、パチュリーから声がかかった。

 

「パチュリー、私の服って変かな?」

「……服?普通よ普通。」

「そう言うと思った。」

 

だろうな、と思った。

どうせパチュリーは年中引き篭もってるのだから、外の世界の流行など知りもしないだろう。流行に乗り遅れた服を着て後ろ指を指されようとも本が友達なのだ。本にファッションは分からない。

 

普通が普通じゃないパチュリーが当てにならないことは分かりきっていた。

 

本題、というより問題はあの本棚達の奥にいる紅魔館の(多分)常識人だと、フランは思った。いくら引き篭もりの魔女で年中同じ服を着ていようとも1人の意見には違いない。その1人の意見に表面上は当てにならないと思っていながら、心の奥底ではどこか安堵を覚えていた。

 

あと、一押し。

 

あと一押しでこの懸念は払拭されるのだ。

 

 

 

 

「パチュリー、…………こ、小悪魔を、呼んで。」

「!?」

 

パチュリーは驚いた。それはもう本の読み過ぎで凝り固まった瞼が筋肉痛になるくらい見開いて。

 

パチュリーとて小悪魔がフランを避けていることは知っている。それは低級魔族の分際でフランに甘い言葉を囁いたため自業自得だ。

 

だが、だが何故フランは小悪魔を呼ぶことに生きるか死ぬかの二択を迫られたかのような顔をしているのか。吸血鬼は死なないけれど。

 

そも、小悪魔はフランが一声かければすっ飛んでくるだろう。そのぐらい種族間の格差はデカい。吸血鬼が気負うことなんて何1つない。

 

何はともあれパチュリーには断る理由もなければ、断ることは出来ない。今のフランの起源を損なえば家族()にしわ寄せが行くのだ。小悪魔と恋人()の命は天秤にかけるまでもなかった。

 

人差し指を空中に掲げて横に一閃。

 

「パチュリー様!?な、何をするんですか!」

「小悪魔、貴女のことは忘れないわ……、1時間ぐらい。」

「何の話ですかぁっ!?」

 

唐突な『必ず死ぬ前口上』に思わず叫んでしまった小悪魔が横に向けていた視線をパチュリーから正面に向けると、そこにいたのはフランドール・スカーレット(悪魔の妹)

 

いつのまにか顔は上気し、はぁはぁと荒々しい吐息を零す。姉と同じような深紅の瞳はどこか潤んでいて、美しい吸血鬼としては奇妙な翼はブリキ細工のようにぎこちなく揺れている。

 

フランからすれば今まで避けられていた相手に服装という(おのれ)を査定されることに極度に緊張しているだけだ。潤んだ瞳は瞬きを忘れるほどの緊張に目がしばしばしているだけだし、ぎこちなく揺れる翼は吸血鬼にとっての緊張を表す指標だ。

 

「へっ!?あ、ああ、あぁっ……!」

 

しかしへっぽこ魔族の小悪魔から見ればその姿は捕食者そのもの。

フランとは別の意味で目が潤み始める。

 

ああ、神様。私はどんな罪を犯したのでしょうか。

 

悪魔が神に祈るとは支離滅裂である。

 

「え?ど、どうしたの?も、もしかして……。」

 

フランは訳が分からなかった。普通に呼んだだけなのに泣かれた。私は泣かせようとしたわけではない。ということは他に泣く要因があったのか。

 

……もしかして、もしかしなくても服装、なのか。

 

私の服装が見るに耐えなさすぎて涙する程のものだったのか。

 

心臓の音がやけに大きく聞こえ、さらに吐息が荒くなる。胸がキリキリと痛み、正面から小悪魔を見ることが出来ない。

 

もう、ダメだ。私には早過ぎたんだ。

 

胸中に暗い考えが影を落とし、挙動が不審になるのに比例して、小悪魔の眼に溜まった液体は大きくなっていく。そんな小悪魔を見てフランはもっと挙動不審になる。悪循環だ。パチュリーは我関せずと大切な人()との時間を再開する。

 

「ーーーーっ!!」

 

ついに耐え切れずフランは図書館のドアを破壊しながら飛び去ってしまった。

 

「へ?」

 

小悪魔は突然去った命の危機に拍子抜けし、床に崩れ落ちてしまった。

 

パチュリーは本を読んでいた。

 

残るのは無残に破壊されたドアと奇妙な空間のみ。

 

 

 

 

 

 

 

つまるところ、フランは他人との距離を知らなさ過ぎた。引き篭もっている間にフランの知る世界は酷く小ぢんまりとしたものに成り下がっていた。そこに495年仕込みのコミュ障が合わさり出来たのが、

 

 

『豆腐メンタルフランちゃん』だ。

 

 

しかし彼女は変わる。

 

全てを受け入れる理想郷での出会いは、コミュ障にとっては残酷であったが、フランにとっては待ち望んでいたものだからだ。



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