アカメが斬る!帝都の繁栄と腐敗   作:色々し隊

14 / 22
第14話 迫撃の作戦

 ナイトレイドとイェーガーズに龍焉ノ騎士団から招集がかかった後、現地に向った実働部隊とは別にナイトレイド司令塔であるナジェンダは帝具使い数名を集めて緊急会議を開いていた。

 義手の手で頭を抱え周りにいるメンバーへの指令を考えている。あまりにもタイムリーな事態、下手を打てば龍焉ノ騎士団を敵に回すことだって有り得る。

 彼らは帝国を良くする為に動いてはいる。民が安寧に暮らせる良き世界を作ることを第一に考えている。が、そこまでだ。

 革命軍との決定的な違いは

 

    『犠牲による大小の天秤』

 

 である。革命軍の定める標的の中には少なからず龍焉ノ騎士団と交流がある者がいる。

 革命軍側からすれば大量虐殺や善良な文官の暗殺をした者など新しい世界において存在してはいけないと考える。

 では龍焉ノ騎士団はと言うと“そうではない”その行いが悪しきものであろうと境遇と人間性でもって判断する。詰まるところそうするしかなかった(気に入った)人達を守るのだ。たとえ国が相手だろうと、彼らは刃向かうだろう。ナジェンダは確信している。

 

 四肢を失った三獣士最後の生き残り、元イェーガーズ『セリュー・ユピキタス』、暗殺対象(ターゲット)ボルスと暗殺機関のメンバー

 

 これらを始末した場合、総出でナイトレイドを…いや革命軍を殲滅しにやってくるだろう。

 

ナジェンダ

「絶対に気付かれない様に殺すか…暗殺対象から外すか……」

 

 二者一択の状況、時間が刻一刻と迫る中悩めるナジェンダに通信機越しに声をかけた帝具使いが一人いた。

 

「大丈夫よ、私なら問題無いわ。でも少し計画変更ね。」

 

 少女は覚悟と共に手に持った自身の愛用道具を引っさげて目の前の孤児院に向かう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

久々でもない休暇、タナトスは人間の友人の家を宛もなく彷徨っていた。目的はなんでもよかった。情報収集でも、交流目的でも、気まぐれに行動する事はずっと前から変わらないのだから。

 まだ幼い女の子と戯れ合いながらどこか遠い空を見上げる。

 

「お爺ちゃん? どうしたの?」

 

タナトス

「ん…いやな、少し考えてたんだ。てかお爺ちゃんって言うのは辞めて欲しいんだが……一応俺、実年齢は“多分”お前のお父さんより若いぞ?」

 

「えへへ、嘘ばっかり」

 

タナトス

「嘘じゃないって! 何回も俺の顔見てるのにまだ信じないか!」

 

「タナトスさん、娘に変なことしないでくださいよ。」

 

 旦那(ボルス)が不在の中、警護も兼ねて遊んでいた。龍焉の騎士団の面々は各地に赴きそれぞれの対象を護衛する。大臣の悪あがきに結成された実の息子をリーダーとする新部隊、Dr.スタイリッシュの遺産(実験体)を強奪し、ソレを使い民を人質に取りその隙にやりたい放題する言わば行き過ぎた社会不適合者と化していた。メンバーは“一人を除いて”性格破綻者で龍焉ノ騎士団からは満場一致で《殺していい》と言われる始末、しかし危険種数百を抱える敵に対しこちら(龍焉ノ騎士団)は僅か五名。引っ張ってこようと思えば出せるが今総力を露呈させる事はしたくはなかった。

 

タナトス

「いやしないって! 俺は子ども好きだけども、決して変な意味じゃないからな!!」

 

 手首をグワングワンと左右に振る。焦る姿を見て娘のお母さんは微笑ましく笑う。

 

「ッフフ、わかってますよ。」

 

「お爺ちゃん今日は一緒にご飯作ってくれる?」

 

 笑顔で問うてくる少女に申し訳なさそうに謝るタナトス。

 行かなければいけない所があるからと、しょんぼりとする頭を撫でて優しく言う。

 

タナトス

「どうせまたすぐ来るさ、そん時にお前のお父さんも舌を巻くとびっきりの食材持ってきてやる!」

 

 自信満々に言ったものの、高級品とかでボルスに『美味い』と言わせる自信はない。元より家事スキルが高いボルスに食材で勝負するつもりなど毛頭ない。少し高めの食材と自分の娘が丹精込めて作った料理ならきっと美味しいに決まってる。

 

 できた奥さんに可愛い愛娘。ボルスさん、あんた幸せ者だよ。

 

 僅かに笑った。仲睦まじい家族はタナトスにとっても得難かった。記憶は掠れ記録しか残っていないが、それでも心の底からわかることがある。

  

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 エスデス除くイェーガーズが帝都へ急行している。龍焉ノ騎士団から聞いた知らせ、危機が迫る中で全力で走っている。

ーー少しでも早く、民の危機を救わなければ

ーー仲間が餌食になるよりも先に殺す

 

ーー愛する家族を守る。

 

 疾走する中で捉えた光景、たくさんの子供たちが泣いている。その顔はおぼろげだが記憶にあった。

 数ヶ月ほど前、龍焉ノ騎士団が創設される少し前にタナトスがまた宮殿を抜け出し皇帝から緊急の回収命令がイェーガーズに下された時

 タナトスは前までのオネスト大臣一強時の政策によって死んだり育てるお金を無くした親から捨てられた子供がいる孤児院に顔を出していた。マントを引っ張られ、たくさんの子供たちがタナトスの至る所にぶら下がったり乗っかったりしていた。

 子供達の遊具と化しているタナトスに戸惑いを隠しきれないイェーガーズは最初こそ戸惑っていたが十分たったあたりから遊具(タナトス)と普通の会話が成立していた。

 

 目の前の子供はその時にいた顔とよく似ている。

 放っておくことなどできない。自分たちは帝都()を守ると今さっき再び教えられてきた。

 

クロメとて例外ではない。彼女は暗殺部隊に入る前までは普通の女の子だった。姉と親と共に暮らしていた時は貧しくても幸せだったと感じている。だからこそ目の前の泣いている子供達を放っておく事は、かつての自分達姉妹を見捨てた忌まわしき大人達と同じになってしまうのだから

 助けたい気持ちが現実に妨げられる。ここで足を止め帝都の被害が拡大すればそれこそ取り返しがつかなくなる。

 

ボルス

「みんな、先に行って」

 

ボルスの言葉に真っ先に反論したのはウェイブだった。ボルスには何よりも大切な家族がいる。帝都に住んでいるとなると今回の件での危険度は高い。家族に迫る危機はイェーガーズのメンバーは痛いほど理解していた。

 

ボルス

「良いんだよウェイブ君。誰かがこの子達を守ってあげなきゃ、危険種に襲われでもしたら大変だからね。ここは僕一人で十分だよ。先に行って」

 

ウェイブ

「……わかりました。

 

 奥さんと娘さんの事は絶対に俺たちが守ります!

 行くぞ二人とも!!」

 

 グランシャリオの脚力で地面を蹴る。クロメとランが追い付けるはずもなく出せる全力でその場を後にした。

 

 一人その場に残ったボルス、後ろには大人とはぐれたたくさんの子供たち、帝都まで案内しようとも危険が跋扈する現在では自分一人では危険な賭けだ。

 兎にも角にも涙を浮かべる目の前の子達を宥めなくてはならないと、一児の親として脳をフル回転させた。

 

ボルス

「よ〜し、皆んな今からおじさんが皆んなを家まで案内するよ! 安心して着いてきて!」

 

 元気よく不安を跳ね除けるテンションで言ったはいいものの子供たちの顔は晴れない。

 そんな中で一人の男の子がボルスの前に出てくる。

 

「……おじさんは誰ですか?」

 

 恐る恐る爆弾でも取り扱う様に慎重に、ボルス自身気づいていないが顔を隠す独特のガスマスクのせいで恐怖感を掻き立てている。

 

ボルス

「僕は帝国の特殊警察の一人だよ。」

 

 自分が子供たちの保護のために残った事を説明した。ようやく和らいだのか子供達の顔にも安心の色が少し出てきた。しかしまだ完全に不安が取れてはいない。

 

ボルス

「もしかしてこのマスクかい?」

 

 自分の顔を指さした。子供たちは皆首を縦に振る。無垢な子からしたら…というか初対面なら間違いなくシリアルキラーだと思うこと間違いない外見は幼い子達からしたら恐怖の対象でしかない。

 タナトスも最初は外見の恐ろしさに警戒していた。

 

ボルス

「……そうだ! タナトスさんから貰った“アレ”があった!」

 

 昔、仕事が休みで家族皆んなで王族主催の祭りに参加した事がった。

 王族が取り仕切る祭りはお堅いものでは無く、どちらかと言うと庶民よりになっている。

 そんな中で立ち寄った一台のやたい、タナトスとの出会いはそこだった。

 

 

タナトス

(いらっしゃい! お面、お菓子、景品盛りだくさんの射的場へようこそ!)

 

 帝国の特級騎士が祭りに参加しているなど予想出来ようか、しかも客で無く店主、ボルスが初めて抱いた感情はそんな所だ。

 話には聞いていたがどこかおかしな人である事は事実の様だった。

 

 業務など気にせず自由に行動する問題児…児というにはいささか年月が天元突破していたが気にしてはいけない。

 

ボルス

(3回分…お願いします。)

 

 仕事上、トップレベルが相手となると態度も固まりがちになるだろう。娘と妻の前で格好の悪いところを見せられない。すぐに仕事人モードになって規律正しく振る舞った。

 

タナトス

(えッ…はいよ。)

 

 何やら戸惑いつつ差し出されたモノ(射的用の銃)は見た目が完全にモノホンだった。

 

ボルス

(……ッて! これ本物じゃないんですか!?)

 

 結局、娘に手渡した銃はモデルガンで大量の景品をゲットしタナトスもケラケラと笑いオマケと言ってさらにお菓子を振る舞ってくれた。

 

タナトス

(そうだ、あんた帝国部隊の人間だろ? そんな厳つい見た目してたらわかるさ、娘もいるのにそれじゃダメだと俺思うし

 

 これやるYO!)

 

 

ボルス

「全く…こんなところで役に立つなんてね。」

 

 顔を覆う布を取り代わりに付けた祭りのお品(のお面)

 

ボルス

「これなら怖くないでしょ?」

 

 決めポーズを決めた子供達は微妙そうな顔を崩さない。しかし子供達を救おうとあの手この手で不安を取り除こうとするボルスの事を信じ始めていた。

 半ば諦めモードで男の子が言う

 

「もう良いよ。おじさんが良い人なのはわかったからこれ以上無理しないで」

 

後ろの子達も皆首を縦に振っている。ボルスは一瞬凹んだ後に気を取り直し当初の目的(子供達の保護)を遂行する。

 

 お面をつけたままで、学校の先生譲りの統率力、親としての勘、それらを兼ね備えた彼に不可能はない。

 二列に整列させて自分の後ろを歩かせる。何か異常があればすぐにでも報告できる様に警戒心を最大にして森の中を突き進む。

 ウェイブ達が向かった方角、帝都へと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

「ヘッヘッヘ、ボス! いやがったぜ。」

 

 男は異民族と呼ばれる集団に所属していた。

 

ボス

「ハッ、情報通りだな。そこのガキを連れて来い。お前らたんまり金が入るぞー!」

 

 ボスと呼ばれた巨漢は数日前に提供された帝都の特殊警察がこの辺りを通る。反乱軍に恩を売るチャンス。そして自分達はそいつらから身包みを剥がす。メリットしかない。

 その為に帝具使いも二名ほどスカウトした。今回の作戦が上手くいけば自分達は里に帰る事だってできる。《ならず物》などと不名誉な名で呼ぶアイツらだって見返すことができるのだから

 捉えた女に目を移し歪んだ笑みを浮かべる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。