帝都で避難勧告が出された同時刻、革命軍の各司令官を集めた緊急会議が開かれていた。
議題は勿論、ワイルドハントの暴走と皇帝陛下が迅速に龍焉ノ騎士団を中心に信頼できる文官に指示した避難勧告についてだった。
皆それぞれ口を開き考えられる事を精査し先を予測しようとヤッケになっている。
逃げた市民がどこへ行ったのか
ワイルドハントに対する陛下の対応の甘さ
個人主義者の集まりである龍焉ノ騎士団がやけに大人しかったり
現場を生で見たわけではない為に深まる謎は多く、このまま革命軍としての活動を続けるべきか否かすら不明、混乱に乗じてオネスト大臣を暗殺しようにも彼の周りは固く近衛兵やエスデス将軍がいる以上返り討ちに遭うだけ
誰かがエスデスを止めなければならないがそれ程の戦力を現状の革命軍は持ってはいない。
近衛兵だけならば可能だろう。しかしエスデスが最大の障壁。この1000年の間、彼女を超える“人間”はほとんどいなかった。
だが、革命軍の司令官達は勝機を見出せないわけではなかった。
この戦争最大のジョーカー
味方となればエスデスさえも倒せる“最強”の一手。
きっとあの人は味方してくれるだろうと希望的観測を願う者は多かった。
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ナイトレイドのアジトに突然押し入ったタナトス。お土産に帝都で名物の菓子を持って参上した、ナジェンダを始めとした面々は驚愕し特に防衛の為に周辺に張り巡らせた帝具の使い手である『ラバック』は自分に対しての自信を失いかけていたが、ナジェンダの一言によって半ば諦め気味に調子を取り戻し、目の前で慌てふためくナイトレイドをよそにタナトスはマイペースに話を持ち出した。
「なぁ、家入っても良い〜?」
「はぁ!? あんた状況わかってんのかよ!?」
突拍子もない発言にレオーネが突っ込むが もういい と諦めたナジェンダがタナトスを通す許可を出した。
お土産げを預け、部屋に通されてソファに腰をかける。向かいにはナジェンダが座り周りをアカメをはじめとした歴戦の手練れが囲んでいる。
「……敵陣に単身で突っ込んで話をさせろとは失礼ですがバカですか貴方は。」
「ハハハ、安心しろ大臣に報告なんて絶対無い。俺にとっての敵はあくまでも大臣とその仲間だ。余計なことをしない限り敵対することはねぇよ。」
先日のボルスを討伐するための作戦を思い出す。
洗練さのカケラもなく、異民族の残党を使った復讐劇。思い出すだけでも嫌悪感が襲う。
頭を切り替えてナジェンダを見ると、頭を下げてきた。周りのメンバーはひどく驚き、反乱軍の精鋭チームのリーダーが他者にしかも帝国の最高格の人物に頭をさげる。この事実は他の革命軍メンバーに見せても同じだろう。
「昨日の児童を巻き込んだ作戦に関し、謝罪させてもらいます。つきましては私の方から今後一切この様な作戦は決行させません。」
「ありがとう。その言葉信じるよ。
ただ今回は別件で来た。」
「おおよそはわかります。陛下が権限で避難させた住民の保護を革命軍側でして欲しい……といったところですか?」
「御明察! 流石“元”帝国軍師ナジェンダさん! 俺の考えなんてお見通しってか。」
タナトスが嬉しそうにナジェンダを褒めたが直ぐに いえいえ と言った声がナジェンダから出された。
「普段が私欲まみれで読めない分、こういう時はわかりやすいので助かります。しかし、こちらにも条件があります。」
「ほう?」
ナジェンダの発言に半ばタナトスは自分がこういう時に読まれやすい事実に息を漏らしながら
「簡単な事です。タナトス様、革命軍に加わっていただきたい。」
その場の全員がタナトスを含め凍りついた。
文字通りの『帝国最強』を引き込むことができればメリットが非常に大きい。
まず、タナトスが革命軍に加わるということは現状最も難航している圧倒的な戦力差を覆すことが出来る。
イェーガーズとエスデス将軍、帝国近衛部隊とブドー大将軍、龍焉ノ騎士団と団長のタナトス。三つの中で未だ多くのメンバーの底が見えない彼らが味方してくれるのなら勝機が大いに生まれる。それだけ龍焉ノ騎士団は革命軍側に脅威と認知されている。
それと同時に龍焉ノ騎士団はそれといった悪行をしてあるわけではない。ただ日常を共に楽しむ “隣人” として帝都を護っている。革命軍でもタナトスの友人の将校が多いこともあり支持が多くあった。
ナジェンダからの条件にタナトスはしばらく沈黙を貫く。文字通り頭を抱えたり、落ち着きなく無駄に周囲を歩いては戻りを繰り返す。
龍焉ノ騎士団とタナトスが革命軍側に加わる事で革命軍の被害は著しく減るだろう。だがそうなった場合、苦渋の決断で帝都に残った者はどうなる?
帝国側の手が足りない。皇帝陛下が無意識とは言えオネスト大臣と水面下で睨み合いを続けているうちにワイルドハントが被害をさらに増やすかもしれない。
逆に条件を断れば帝都民の保護は難しくなり行き場を失ってしまう。候補がないと言えば嘘になるが、危険がない分驚愕と恐怖が襲うこと間違いなしなため却下だ。
取れる策は……
「ナジェンダよ、お前の提案は俺としちゃ受けたいと思う。」
その言葉を皮切りにナジェンダの表情が和らぎ、まわりのメンバーも緊張の空気を崩した。
「だが、あともう少し待ってほしい。」
「何故…と理由を聞いてもよろしいですか?」
「やり残したことを片付けたい。無論その分のリターンは約束しよう。俺たち『龍焉ノ騎士団』以上の…それこそ帝国での汚名を挽回出来るぐらいスゴイ“ヤツ”を…」
含みを込めた発言をナジェンダは深入りするつもりはなかった。こういう時、彼が言う自分以上というのは数少ない。過度に期待しても損はなく、候補はおのずと割れる。
「フッ!」
ナジェンダは小さく笑った顔を抑え隠す。
指と指の隙間から覗く目は鋭くタナトスを捉える。
「まさか今まで貴方が
全く、どこまで行っても変わりませんね。」
「当たり前さ! 人じゃない分、心ぐらいは人らしくないとな。」
「わかりました。では民達の保護はお任せください。私達ナイトレイドの名にかけて、必ずお守りしましょう。」
「ありがとう。
ヨシ! 要件はコレで終わりだからブラートや旧友の様子でも見に行くか!」
立ち上がり部屋を出ようと脚を進めると、ナジェンダが見事なスライディングでドアの前に転がり込みタナトスの行手を阻む。
「頼むからそれだけは辞めてくれ。私が連絡するまで待って欲しい。」
ナジェンダの必死の懇願は叶う事はなく、しばらくナイトレイド対タナトスの部屋を脱出する下らない読み合いが発生した。
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タナトスとの交渉が終わり、彼が勝ち部屋を飛び出しアジトを出た後に残されたナイトレイドの面々は床に突っ伏したり壁にもたれている。
理由は簡単で話の後の奇天烈なタナトスの行動に振り回されていた為だ。革命軍の本拠地をなぜか知っていて『挨拶』だと言って突撃しようとしたり、部屋の備品を触って遊んだり、兎に角自由気ままに動き回る事で帝国最強と対峙する緊張も重なり休む暇がなかった。
床に仰向けになりながらダベるのはレオーネ、彼女は今まで『タナトス・ドラグノフ』について深く知ろうとしなかった。知ったところで“敵”である事は変わらない。いずれ敵対するであろう存在に対する印象は悪い方が良かった。どれだけ革命軍の将校が惜しんでも、平民出身のレオーネには関係ない。ただ殺す相手とだけ認識していればいいだけの事
しかし、今こうしてタナトスに翻弄され、先の戦闘の時は違う感情が湧いている。
「つかれたー ッたくなんなんだよアイツー」
滅茶苦茶だ。アレが本当に今の帝国にいていいのか…いやああいう性格だからこうして革命軍にも支持されているのだろうか…
無用に暴れ回り「触るな」と言った途端に備品を壊し、まるで子供だ。倫理観や周りの目など気にせずに反射的に動いている。
ポゲーと時計を眺めては当たりを見回し眼を光らせ、紙袋からお菓子を取り出したかと思えばアカメと鬼ごっこを開始し、ブラートとは筋トレとよくわからない会話に火がつき、ラバックに至っては赤面して怒っていた。
タナトスに何か言われたのだろうか?
思考を深く堂々巡りさせるレオーネを見て疲れ切ったナジェンダが口を開いた。
「あの人の行動理由を考えない方がいいぞレオーネ。割り切った方が疲れなくて済む」
慣れているのか諦めているのか、どちらとも取れる声のトーンでナジェンダは力なく語る。
タナトスの全貌を知らず、まだ彼の実力に疑問を感じていた頃に開かれた交流会という名の地獄を