アカメが斬る!帝都の繁栄と腐敗   作:色々し隊

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第20話 闘争を斬る

「フンフン〜

 あー楽しかった!」

 

 

 軽い足取りで敵地のド真ん中をスキップする。

 アカメと対決し、ブラートと語り合い、ラバックは冷やかした。

 

 これで概ね興味のある相手との会話は済んだな。そろそろ帰るか…ん?

 アイツは

 

 

「おーい! タツミー!」

 

「って、アンタは!?」

 

 

 俺を見るなり180度回転して駆け出そうとしたが逃がさん! 

 瞬発力舐めんな、一瞬で近づいて肩に手を置いた。

 

 

「なんで逃げんだよタツミクン?」

 

「イ、イヤ……勘弁してくれよ…」

 

 

 側から見ればチンピラに絡まれたと勘違いされそうだが知った事じゃない。

 

 最も、全身鎧が少年に絡みに行っている時点で異常なのだがタナトスが知る由もない。

 

 

「ちょっとぐらいいいだろ? ツラかせよ。な!」

 

 

 困惑するタツミに構わずに手を引っ張り森を一望できる場所に連れ出した。小鳥の(さえず)りや樹々の音が心地よく気持ちを明るくさせる。だがタツミの心は晴れない。色んな意味で一番面倒な輩に絡まれ、これからどんな事をされるのか内心ヒヤヒヤしていた。

 そんな心配もタナトスの声で霧散する。

 

 

「なぁ、その剣…インクルシオだろ? ブラートの」

 

 

 ベランダの手すりに体を預け、持って来た駄菓子を頬張りながらだったが口調は真剣そのものだった。てっきりどうでもいい世間話をするだけだと思っていたタツミは意表を突かれたがすぐに答えた。

 

 

「あぁ、アンタが兄貴を助けてくれたおかげで毎日特訓してもらって前より強くなって帝具も使いこなせる様になって来たんだ。」

 

「フッ、そっか、それは……良かったな〜」

 

 

 空を見つめて静かに噛み締めるように目の前の怪物(タナトス)は口を開いた。

 タツミはこれでタナトスと会うのは4回目になる。最初は得体の知れなさと三獣士を瞬殺した事もあって『倒す事が想像できない難敵』としか感じなかった。

 だが、ブラートとの任務の折にタナトスの人格を少しだけ見た。

 闘いを好み、全力でぶつかって尚、敵である筈の者を助け、“救いたい”命は見捨てない。

 善悪など関係なく、ただ己の心に従って生きる。それがタツミから見た《帝国の騎士》に対する今の感想だった。

 

 

「アンタはこれからどうするんだ? 帝国を裏切るって……信じていいのかよ。」

 

「モチ! ちょっと違う部分あるけど大まかには信じていいぜ!

 …にしてもお前がインクルシオを受け継ぐなんて、ちょっとだけ意外だったよ。」

 

「なんでだ?」

 

「なんて言えばいいかな…アレ(インクルシオ)の素材になった危険種はそこら辺の《超級》とは訳が違う。扱うには強靭な精神と肉体、両方が必要になる。

 タツミ、俺から改めて聞くぞ。

 

 もし、何を犠牲にしてでも救いたいモノがあったら…お前はどうする?」

 

 

 ヘルムのスリットから見える赤い両眼が全てを語っていた。

 

 きっとインクルシオをつけ続ける事は良くないのだろうと、

 それが何なのかは今はまだわからない。だが答える、世界最強の怪物の眼から逃げずに真っ直ぐに笑った。

 

 

「俺はサヨとイエヤスを助けられなかった。でも今は違う。後悔したくねぇんだ、この力で守れる人達は守りたい。」

 

「成る程ねぇ、なら俺から一つアドバイスをやる。先輩からの有り難〜い言葉だぞ。

 

 どれだけ辛い目に遭っても“自分だけは見失うな”

 

 それさえ憶えてれば大抵どうにかなる。」

 

 

 タナトスの言葉は今のタツミには分からないだろう。インクルシオ…いや素材となった超級危険種(タイラント)の恐ろしさは素材として使われて尚健在だ。いずれエスデスやブドーと戦う日が来る、あの二人はタナトスを除けば別格の強さを誇り、勝つ為ならタツミはインクルシオに無理を言うだろう。

 

 自分の身体はどうなってもいい!! だから力を寄越せ

 

 と。それは悪魔との契約に等しい。

 

 タナトスは知っている。彼も1000年前に殺された“友達”を身に纏って生活しているから、肉体は朽ち、精神だけであったとしても、あの時の思い出は昨日のことのように憶えている。

 共存が叶わぬ程に獰猛ならばいずれ身体も意識も持っていかれ自分ではなくなってしまう。そこに居るのは《かつて人間だった獣》

 人を喰らい、国を荒らし、食物連鎖のサイクルを繰り返す。

 

 だから彼はタツミに忠告した。自分を忘れるなと

 強靭な自我さえあればどうにかなる。自分だって“あの壮絶な体験”を乗り越える事が出来たのだ。恐れることは何もない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「んじゃ、またな!」

 

 

 元気よく手をブンブンと振りアジトを後にする。行きに持って来た大荷物は無く両手は自由になっていた。

 背の翼を広げ空を舞い、音速を超える勢いで生き地獄と化した帝都へと帰還する。

 イェーガーズが護り、ワイルドハントが壊す。このサイクルが繰り返される限り程度に安寧は無く、少ない人の悲鳴が木霊するだろう。

 

 させはしない。全能にも等しい力があるんだ。こういう時にこそ使うべきだろう。

 

 タナトスは帝都上空に滞空しながら己の内に語りかける。脳内の真っ暗な視界が眩しい光に包まれ視界が開けた。

 帝都は燃え、()が積まれ、人々の悲鳴がそこら中から聴こえる。

 事態の真ん中にいるのはシュラを含めたワイルドハント。男も女も子供も老人も良いように弄ばれ苦痛の末に殺されている。

 

 タナトスは“成る程”とまるで他人事のように一人呟いた。事実、辿り着く未来であっても『改変できる段階』なのだ。どうとでもなる。

 翼を閉じ重力に従って下へと落下して行く、そこは王宮殿の庭。砂塵が舞い衝撃で周りに施された豪華な装飾が砕ける。

 

 

「さて、始めるか…」

 

 

 顔を上げた怪物に先までの陽気さは無く、冷酷にただ己の愉悦を邪魔する障害を排除せんがために動き出す。

 宮殿の廊下を歩く足取りは速く、だが頭の中は冷静にするべき事を導き出した。

 

 そうだ。来い。

 

 首筋に感じる冷たい感触。理解していたが、いざ来られると速度、気配、どれも高水準で感服するほかない。だがまだ“足りない”

 

 

「久しぶり〜、エスデス」

 

「クク、随分と楽しんできたらしい。タナトス

 次は私を楽しませてもらおう。」

 

 

 タナトスの後ろには口角を上げて不敵な表情の女帝がいた。

 タナトスは振り返らずに会話を続ける、闘いを求める狂人をまるで気にも止めずに平然とエスデスなど脅威ではないと言わんばかりに軽口を叩く

 

 

「エスデスよ、お前とのお遊びはまた今度だ…なんて言って先送りにしてたけど、そろそろやるか」

 

 

 一瞬の突風、エスデスは後退しタナトスの姿を見失った。キョロキョロと周りを確認するが姿はどこにも無く、どこから来るかわからない“ワクワク”が心を支配した。

 無駄な動きをやめその場で静かに立ち尽くす。神経を極限まで研ぎ澄まし、心眼で敵を捉える。

 レイピアに氷を纏わせて突き上げる。

 

 

 ガキンッとぶつかる音が耳に入る。纏わせた氷は木っ端微塵に吹き飛んだが、レイピアに亀裂は見られない。氷がすべての衝撃を受け止めてくれたのだ。

 当たったが致命傷ではない。次はどのような手で来るのだろう? 対応してみせる。最強を捻じ伏せるのも心が躍る!

 

 

 嫌な風が宮殿を吹き抜ける。『最強』と『最狂』がぶつかり合う中、1000年の節目を迎える王宮はただ静観する。誰も止められない、止めることなど叶いはしない。互いが闘争を望みぶつかる限り、轟音が鳴り止むことは無い。

 エスデスは狂気の笑いを隠す事なく、タナトスも楽しそうに笑っていた。お互いの武器(尾と剣)がぶつかり、余波で宮殿の柱を破壊する。

 タナトスの攻撃は今までのどの様な生物も繰り出したことがない奇怪な戦い方だった。尾による斬撃の中に徒手空拳による横断や薙ぎ払いを加え、どこの武術とも違う独特の戦法をとっていた。

 

 残像を残した斬撃を繰り出しながらも、両者はなんとも楽しそうに殺し合う。

 

 

「ハハハハハ! やはり面白い!!久しいぞ!これ程潰し甲斐がある獲物は!」

 

「ありがとうよ! 俺も大いに楽しませてもらってるぜ!! 久しぶりに本気を出せそうだから、な!!」

 

 

 尻尾は変幻自在にエスデスの攻撃を弾きながら隙有れば切り裂こうと速度を上げた。

 

 これより上があるのか…面白い!

 

 後方にステップし、力を込めたタナトスの踏み込みは音速を超えた。正面突破の刺突が襲い来る。

 

 螺旋状に巻いた尾で下半身を覆ったドリルキック。

 エスデスは氷の壁を何層も出し防御を試みる。

 衝突、激しい音と共に砕け散る氷の壁。一枚二枚三枚……と、ほんの数秒にも満たないうちに破壊されていく。だがこれはエスデスの作戦だった。氷の壁は単なる時間稼ぎ、力を貯めて最硬の盾を錬成する。前までのタナトスの力の一端しか知らないエスデスなら絶対に行わなかった行動、防御を捨て攻撃に出るはずだった彼女を変えたのは龍焉ノ騎士団の団員との戦闘にあった。

 あの危険種(パル)との戦いでタナトスが口だけの穀潰しでないことを理解した。

 風を自在に操り、エスデス以上の速度を持つ規格外の化け物を部下としている。この事実だけで高揚感で身が震える。

 あの時は相手の油断からのギリギリの勝利だったが今のエスデスに慢心はない。故に敵の力量を見誤る事もない。

 

 

「ハァァァァ!」

 

 

 ガキガキと無から氷を生み出し作り出したのは巨大な柱だった。側面に大量の棘を生やしたミキサー

 氷の壁によって威力を落としたタナトスの蹴りと氷柱が再び衝突しあまりの摩擦に火花を散らす。

 お互い一歩の譲らない衝撃が宮殿へと響き拮抗するが結末はすぐにやってくる。

 身体ごと回転し破砕力をさらに加えたタナトスによって氷は砕ける。バラバラに砕けた氷は次の段階へ移り、一つ一つが意思を持ちタナトスに向く。砂塵の如く舞った氷の破片に四方を囲まれ防ぐ手立ては限られたがタナトスには関係の無い事。

 ドリルキックがエスデスの足元に着弾した瞬間に突き刺さった尾を軸に身体はあり得ない軌道を描く、第三の足とも言わんばかりにタナトスを支える。そのまま横凪の蹴りを喰らわせようと肉薄する。多少の被弾は“どうでもいい”。どうせ牽制用の攻撃、意識を割けば続く攻撃に対処できなくなる可能性が出てくる。

 『予知』ではない『予測』は見事に当たっていた。

 エスデスの気合いの声はただの ブラフ で本命は後にあった。氷の破片によって周囲の温度を下げ、空間一帯を凍らせようと画策していた。

 一応言っておくと、ドリルキック後の変則的な攻撃はタナトスの気まぐれだった。

 

(突き刺さった後の動きどうしよ〜 せや!)

 

 程度のノリで次の手を考える。ふざけている様に見えるが事実この戦法が強者には一番効果があった。

 

 戦術を組む上で、相手(タナトス)の行動が読めず、後手に回ることを余儀なくされる。戦が上手ければ上手いほどに底なし沼の様に引き摺り込まれ対処が不可能となる。故にタナトスと戦う際に最も大切な事は《考えるな、感じろ》これに尽きる。手札を切られる前に切る。先行を引けない時点で勝率は大きく下がる。

 

 エスデスは溜めていた力を奇天烈な攻撃の防御に割く他無くなった。

 

 

「ぐあァァ!?」

 

 

 それでも完全に受け止めるわけにはいかずに、後方に吹き飛ばされ石壁が受け止める。

 

 

「ふぅ、やるね〜 今の…かなり力を入れたつもりだが」

 

「……よく言う…死にかけたぞ。」

 

 

 血反吐を吐きながら、なお戦う姿勢を崩さない姿は最早人では無く“同類”に感じる。

 エスデスを受け止めた石壁は彼女の跳躍と共に崩れ跡形も無くなる、一瞬で距離を詰め、ひび割れた氷のサーベルとレイピアの二刀流でタナトスに迫る。

 振り下ろしたサーベルは拳に砕かれ、レイピアによる刺突は尾によって一発も当たる事なく弾かれた。

 

 

「クソ、やはり化け物か貴様」

 

「いやいや、ここまで俺に着いてくるお前も大概人間辞めてると思うぞ。エスデス」

 

 

 まだまだ余裕なタナトスは素直な感想を述べる。

 今までここまで自分と真っ向から戦い食い下がった人間は知らない。大抵は一撃か、戦う前から戦意を失う輩が殆どの中、エスデスは違った。

 如何にねじ伏せようと、闘争心は止まるところを知らず高揚が支配する。今の彼女に見えている景色はきっと圧倒的強者を捩じ伏せる光景ただ一つだろう。

 

 

「ッククク……ッハハハハハ! 面白いッ! 

なんだこの気持ちは…ヤミツキになりそうだ!!」

 

 

 格上との戦闘(殺し合い)は彼女を更なる境地へと誘う。生きる事を二の次に『楽しむ』事を第一とする。身体が壊れても、心が消えようと、この気持ちだけは消せはしない。消えない。

 

 今までエスデスと同等の強者はいなかった。当たり前だ。危険種の…それも《超級》の生き血(帝具)を“全て”喰らい自我を勝ち取った文字通りの化け物と対等の存在などいて言い訳がない。世界の理が許すはずがなかったーーそう無かったのだ。が、世の理は可能性を愛し、適当で、気晴らし程度で摂理を変える。

 故に化け物は量産された。バカ(神級)と闘い、認められた者達は力を託され強くなった。それこそヒト(彼女)以上に……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ドッと場の空気が変わる。周りの植物達に許しを得て、俺はギアを一つ上げる。両手から生み出した光球をジャグリングしながら肉薄する。純粋なエネルギーの塊は押し付けるだけで武器になる。なんせ、高速で移動する磁場を無理矢理封じているんだからな。

 

 エスデスは直感で理解したのか警戒している。斬撃の切り傷が身体中に現れたが、動きが鈍る事がない。むしろ精度が上がっている。ダメージが大きい攻撃をしっかり理解している。

 ここまで食らいつくか! 面白い!

 

 タナトスは心の中で昂る気持ちを隠そうともせずに器用に操る光球を空中に投げ捨てた。注意が光球に向かった瞬間、狂気的な笑みをヘルム越しに表して拳を叩きつける。

 2度3度ではない。何百何千と、一瞬の内に叩き込む。

 強力すぎる衝撃が視界を遮る。周囲を胎動させ、余波が空に登る。だが、コレでもエスデスを殺すには至らない。そう、何より

 

      “死なれたら嫌だ”

 

 

「その程度か……」

 

 

 咄嗟に氷の壁を作り難を逃れたエスデスだったがダメージは確かにあった。滅多な事では疲労する事のない彼女が息を荒げ呼吸を整えようと心臓が激しく鼓動する。

 心は闘う意思を崩さずとも身体が持たない。悲鳴を隠し、誤魔化すしかない。

 彼女が《人というカテゴリー》に位置する限り逃れる事ができない定め。意志の力だけではどうすることもできない限界

 

 こういう時、何も気にせずまだまだ楽しむ余裕があるタナトスに人生で初めて『羨ましい』と感じた。

 生まれてこの方、人を羨んだことなどなかった。彼女は元から歪みを抱え、持てる強さを使い生を謳歌し、己の心に従い殺し続けた弱者を切り捨てる強者だ。

 弱肉強食を貫いてきた信念。だが己が弱者であると思った事は一度もなかった。身体は軋み、意識が朦朧とする。限界などもう目と鼻の先

 

それが…目の前の怪物はどうだろう……どれほど楽しもうと消えることのない意思と体力。我を通す絶対的な力、自分を隠さず真っ直ぐに生き、弱肉強食などクソくらえと言わんばかりに一部の弱者を救う絶対的強者。

 

 弱者を殺した(エスデス)、弱者を救った怪物(タナトス)、真逆でありながら自分と何処か似ている。

 自由に生きてとことん楽しむ。阻む障害は蹴散らし蹂躙する。

 

 二人が違う所があるとすればそれは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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