アカメが斬る!帝都の繁栄と腐敗   作:色々し隊

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新年明けましておめでとうございます(激遅)


第21話 最強を斬る

 長い歴史、繁栄の象徴たる国の中心である王宮は見る影もない。

 爆音が聞こえ向かってみれば、瓦礫の山が目の前に飛び込んだ。

 

 ブドー大将軍は概ね理解した。タナトスが珍しく“お遊び”を“殺し合い”に変えている事に

 

 彼が本気を出すとなると都市全体どころか、下手をすれば大陸全てに被害が及ぶ。しかしこれといった被害が報告されるわけでもない。

 ならば、と、大将軍は空を見上げる。己では挑んだとしても叩き落とされる領域。天を舞い、駆け巡る戦神。その被害が国に及ばない様に祈るばかりだ。

 

 

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帝都上空

 

 

 

 氷の女帝(エスデス)帝国騎士(タナトス)が対峙していた。

 

 

「凄いな。まさか空まで飛べるとは……」

 

「ハッ、貴様が言うと嫌味にしか聞こえんな。」

 

 

制空権を取って仕留めるつもりだったが……と心の中で毒を吐く

 

 今のエスデスは氷で出来た鎧を身に纏っていた。タナトスの様な龍の意匠が入った重装備ではなく、所々彼女の元の服や肌が露出している。攻撃を受けるであろう部分に防御重点を置いた軽装備だった。

 彼女の帝具『魔神顕現 デモンズエキス』は文字通り【氷を自在に操る】帝具……帝具と言うには些か疑問が残る。何せ“危険種の血”なのだから、

 無から氷を生み出し使役する。そこに制限は無い。

 いかに強力か、解釈の仕方次第で可能性は無限に広がる。現に氷の鎧を作り出し、その氷を操作し空を飛翔すると言う離れ技までやってのけたのだ。

 

お互い距離を取り見合いながら一歩も動かない。否、動けなかった。視線による鍔迫り合い、常人ならば耐える事すら億劫であろう殺気の押し付け合い。そして均衡を崩して狂気と狂気(我儘)が衝突する。

 

 

 

 

 はじめに動いたのはタナトスだった。しなやかにうねる刀身の剣圧が彼を覆う様に球体状となり、空気中に漂う冷気を弾き飛ばす。

 

 少しでも気温を上げ安定させなければエスデスの帝具によっていつ足元をすくわれるかわからない。

その予測は外れる事はなかった。

 タナトスは自身の手を見る。握ったり開いたりする度にバキバキと音が鳴る。空気が冷気に耐えられず凍っているのだ。剣圧の中にこいたとしても空気はどこからか侵入する。

 

 知ったことか!

 

 タナトスの動きが変わる。力強く、確実に関節を振るいまとわりつく氷を振り払う。並の危険種を片手で持ち上げる腕力と、踏み込むと地面にクレーターが出来るほどの脚力。双方を併せ持つ彼が力を込め動けば身体に付着する氷など如何ということはない。

 

 

 剣圧の結界から飛び出して繰り出した足技にエスデスは腕を使ってガードする。

 

 

「くッ!?」

 

 

 思わず苦悶の声を漏らしてもこの攻撃だけは受け止める。でなければタナトスには勝てない。勝てるはずが無い。彼の一撃は全てが確殺の威力、人外の脚力に氷の鎧は砕け散る。バリバリと音を鳴らしながら放たれた攻撃は僅かにエスデスの結界で弱くなっていたが、それでも強力なことに変わり無かった。

 

 続けて防御の体制が崩れたエスデスにタナトスは、体制を即座に整えて次の攻撃の準備に…下段から拳を振り上げた。腹部に当たった拳、鈍い音を放つはずだった一撃。

 

この一瞬で防御する箇所に氷を作り、鎧がーー彼女の帝具が致命傷を防いだのだ。

 

 少し驚いたタナトスを置いて氷は徐々に拳を伝い広がる。やがて全身を覆い尽くした氷の中でタナトスは眼のみをギョロリと動かして状況を確認する。

目の前の空で舞う氷の綺麗な光景が視界に入る。

息を整えてサーベルを構えるエスデス。

 

 

 

 

 エスデスはタナトスの実力を高く評価している。パルとの戦闘で己の十八番を突破され辛くも勝利を納めた彼女、故に出し惜しみは出来ず、先の戦いで全力では足らないと実感し、全力を超える力を常時引き出し食らいつく為に己に想像を絶する負荷を掛けていた。

 氷の結界の上から更に全、七層にも及ぶ氷の檻が完成した。ハエ一匹抜け出す隙間なく、灼熱すら捩じ伏せる冷気を纏い。まさに絶対。最強を捉え越える為に作り出された氷の牢獄

 

 

 エスデスが氷の檻に手を翳し握ると、牢獄は鈍い音と共に圧縮され中は跡形もなく潰された。

 静寂が空を支配しても彼女は警戒を解くことはなかった。

 瞬間、エスデスに迫る極小の殺気。すかさず鎧を纏った腕をクロスさせ防御する。その小さな体積からあり得んばかりの衝撃が伝わる。骨を振動させ意識を飛ばされそうになる。攻撃の正体を確かめようと目を細めた先

、余りの常識外れな相手に、「貴様」と、小さく紡がれた言葉に喜びの色が混じっていた。

 

 

「もっと見せろ。貴様の持てる全ての手を尽くし私を楽しませろ!」

 

 

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 目の前のヒトはどこまで喰らい付いて来るのか、普段持てる力を人間の範疇でしか繰り出していなかったこの頃。漸く喰らい甲斐がある敵が現れてくれた。だが既に俺は“アイツの助けが無ければ”彼女に2回は負けている。認めよう。強い。

 事人の範疇でアレに勝てるのはいないだろうと言える程に

 

 極小から元のサイズに戻る。

 

 

「……良くやる。」

 

 

 ただ一言、胸の中にある言葉を吐き出す。戦術、帝具の使い方、どれもが高水準に収まっていた。唯一、圧倒的に優っていると言える剣技も、帝具の予測不能な攻撃に決定打に欠ける。使える武器は愛用の形見(ユニット)のみ、要するにエスデスはタナトスに迫っているということだ。空という場所も条件が悪い。ノリで空から攻撃しようと考えて行動したが、まさか飛べるなんて思わないじゃん……

 

この戦場(フィールド)は手頃に扱える障害物(オモチャ)も無く、遮蔽物もない。氷を意のままに操るエスデスの帝具(デモンズエキス)に全方位の警戒を強いられる。さらに氷の結界による動きの阻害、俺自ら首を絞めたって事だ。

 

 周りから氷槍が来ないか警戒し、結界の効力をいちいち解きながら駆け巡り交戦する。

 氷を振り払い、わざと斬撃の嵐に穴を作り攻撃を誘導してカウンターを叩き込む。エスデスも対応してくる中で100以上の戦術を組み合わせて応戦する。

 

 昔の彼には決して抗うことが出来なかった攻防

 

 

 ーーーーーだからこそ……面白い!ーーーー

 

 

 どうやって戦うか、純粋な『勝つ』為の戦術。加減を気にすることもない。普段使わない頭を回転させる。

 

ならば“あの力”を使ってもいいのではないだろうか?…辞めておこう。

 『俺の』帝具はこの姿そのものだ。第一対等で無くなる。一方的な闘いは偶にすれば良い。

 

 タナトスの頭にあったのは蹂躙による無双では無く、決闘による純粋な競い合いの絵であった。

 

 一瞬の内にエスデスの間合いへ潜り剣を取る。脊椎部から引き抜いた剣の柄を横凪に振るう。

 剣先が僅かにエスデスの皮膚を斬る、続けて空いているもう片方の腕でエスデスの片腕を掴む。この行動にエスデスは驚きを隠せなかった。

 

 

「貴様、私に触れているのがどういう事か分かっているのか?」

 

「あぁ、百も承知さ」

 

 

 この瞬間、エスデスは正気を疑った。

 

私の力(デモンズエキス)は直接触れていなくても氷を作り出すことができる。ましてや直触りならその効果は絶大、一瞬のうちに命を凍結出来るというのに…

 

余りにも大胆で無謀な動きに一瞬たじろいだ。

 

 

「……正常だよ。お前も全力で来いよ!」

 

 

 この後起こる事を分かった上で言っているのか?

 

 得体の知れない感覚に気圧されながらエスデスは能力で自分もろとも氷漬けにする。

 

お互い逃げ場など無く身動きもとれない。続く攻撃で完全に殺す。氷の無限地獄が始まる……筈だった。

 

 突然氷が割れた。驚きの後に感じた殺気、意識を向けた先には剣を振り上げたタナトスの姿があった。エスデスはサーベルで受け止めようと腕を動かしたが間に合わず、右の利き腕に擦り傷を負う。幸いダメージは低く、すぐに反撃に移った。氷の弾丸が空中で生成され放たれる。何十発と鎧に着弾するが強固な守りを破る事叶わず

 タナトスは構うことなく氷の弾丸の中を突撃しエスデスに迫る。

 

 わかっていた事実を受け入れて、次の攻撃を脳内で構築し身体に伝える。一瞬でも遅れれば勝利はなく、選択を誤れば拮抗した戦況が覆る。

 目にも止まらない“人外”同士の攻防は残像を残し、まるで舞踏会の様に煌びやかで美しい。お互いの武器である氷と“外装”が太陽光を反射し輝きを撒き散らす。

 光の反射で視界が定まらない。だが、二人には関係のない事、ただ迫る殺気と己の勘によって互いの攻撃を受け流し反撃を繰り返す。

 

 この世界においてタナトスの力は絶対であった。元となった危険種(ヘーシュギア)の絶対性もあるが、タナトス本人の力量もまた人外の領域に……否、神をも殺せる領域に達していた。

 何億何兆年と鍛錬の末の闘い方、同じ過ちを繰り返さないようにと、ただ強さを求めた。

 失わないように、壊さないようにと、護る者が無くなったとしてもきっと何処かでやり直せると信じて……そして、憎き化け物(神々)を殺せるようにと…

 

 執念の化身と化し身につけた彼の長年の技術に食らいつくエスデスもまた同じく闘争という執念に身を委ねていた。

 

 スラッシュギアとサーベルの鍔迫り合い。タナトスは筋力で、エスデスは帝具の能力を利用し、タナトスを押し返す。エスデスが見下ろす形となり、タナトスが賞賛の声をあげた。

 

 

「やっぱ…当たりだ。お前は強い!」

 

「まさか、貴様の力はこんなものか? 

隠してないで見せてみろ。」

 

 

 エスデスの挑発に視線を落とし考え込む。

 

 

「………んじゃ、少しだけ見せてやるさ、“俺達”の力ってやつをな!」

 

 

 タナトスのヘルム下部にヒビが入る。綺麗に避けた顎はゆっくりと周囲の空気を吸い込んで、そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーーーーーーーーーヴァァァァァ!!ーーーーーーーーーー

 

 

 氷界の舞踏会が一匹の咆哮によって終わりを告げた。

 

 空は震え、空気が凶器となって全方位に飛散する。

 たった一回、()の龍が咆哮を上げただけでこの世界は震え上がり恐怖した。たとえソレが自分達に向けられていないと分かっていても……

 

 

「ぐッ!? なんだ……コレは……!!」

 

 

 戦う余裕すら無く、両手で耳を塞ぎ鼓膜を守る。エスデスが作り出していた氷は粉々に砕け、戦場の支配者が切り替わる。

 なんとかタナトスに視線を合わせサーベルを体の前に出して反射的に防御する。

 先ほどよりも強力な力で後方に強く押され風圧がエスデスの背を襲う。

 

 

「正直…驚いたさ、だが‼︎ この高揚……ッ!」

 

 

 受け止めていたサーベルが悲鳴を上げる。

 

 

 顎から紅い息が漏れる。変形した鎧は刺々しく元の姿で見られた龍の意匠は消えていた。がその頭部は紛れもなく龍そのものだ。

 

 

 久しく味わえなかった感覚、相手側からの許可は得たのだ。変異(フェーズ2)位は使ってもバチは当たらないだろ?

 

 

「最高だ!」

 

 

 龍を象った姿で荘厳さを感じていた先程までとは違い、より源である龍種の形に近づいた身体で剣を振り回す姿は最早、一国に仕える“騎士”などではない。

 

 表現出来ない。人でも危険種でもない。もっと違うナニカだった。

 

 タナトスの剣撃は、徐々に苛烈になっていく。今までギリギリで捌いていた攻撃に空の左手も使いだし、足技まで多用し始めた。

 片手だけでも精一杯の攻防に介入した左腕はおよそ人が反応できる速度で対応など叶うはずもなかった。剣を弾き火花散る中で獲物を食らう蛇の様に鮮やかに迫った腕はエスデスの首に食らいついた。

 苦悶の声を漏らし、必死に掴む腕を引き剥がそうと、能力の解放で氷槍を周囲に展開しタナトスに矛先を向けたが……

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 訪れる静寂。エスデスの呻き声以外何も聞こえない。

 

 自身の帝具による攻撃が発動しない。空の色は抜けモノクロになり、漂う氷槍が空中で静止していた。まるで“時間でも止められた様に”

 その瞬間、エスデスは自身の敗北を痛感した。

 

 勝てる筈が無い…と

 

 

「お前は強い。だがそれだけだ。この世界に“奇跡”は存在するが、今のままじゃ“可能性を超えること”なんて出来やしない。

お前の欲望…そんなもんか?」

 

「…………ぐッ、無茶を…言うな………

私の力など……所詮こんな物だ。弱肉強食は自然の…………摂理だ…殺せ。」

 

 

 加える力を弱めたお陰で開いた心から聞けた声にタナトスは心底残念そうなため息を漏らし、首を横に振る。

彼は、弱者も助ければ強者も助ける。詰まる所我儘なのだ。気に入った相手には中途半端に死なれて欲しくない。満足できる最期を迎えさせあげたかった。龍焉ノ騎士団は皆そうなのだ。

 だからなのだろう、今まで以上に命の篭った声でエスデスに語りかける。

 

 

「違う。お前は強い。望むままに生きて手に入れた力だ。その力を振るうことはあれど振るわれることはなかっただろ。あの危険種(デモンズエキス)に囁かれようと、貴様は己を貫いたろう?

 そんな奴が弱者であるもんかよ。」

  

 

 もうタナトスの手に『殺す』という感情は篭っていなかった。今はただ地に落ちないように首を掴んでいる。

 語る相手に殺気を向けているようでは、いつまで経っても未熟なままなのだから……友に呆れられないように彼は己の信念を貫く。

 

 

「……フン、私も買い被られたものだな。まさか貴様に気づかさせるとは……」

 

 

 サーベルがタナトスの左腕を切り落とした。のけぞったタナトスは変異している口で不敵に笑っていた。エスデスも同じ様に先程まで死にかけていたとは思えない程に獰猛な笑みを浮かべ、サーベルを振るう。

 

 

「訂正しよう。私は強い。あまねく全てを蹂躙する! 貴様も私の足元に跪け!」

 

 

サーベルを振り広げ空中を跳躍する。対するタナトスは左腕を切り落とされても、いつもと同じ何処か楽しそうにしながらエスデスの宣言に受けて立った。

 

この勝負はタナトスの負けだ。だが負け戦なら負け戦で楽しめばいい。どうせ次もある。その次だって“きっと”ある。

 

 スラッシュギアを脊椎に戻し、空の右手でサーベルの連撃を弾き続ける。

 攻防は側からみれば“異常”の一言に尽きた。幾ら鎧で身を守っているとは言え、あのエスデス将軍の振るう斬撃を身体でモロに受け止める帝国の騎士、どちらも戦闘のプロである事に変わりはない。無いのだが二人の攻防は常軌を脱していた。視覚で捉える事は叶わず、音すらも置き去りにし、その光景は戦争というカテゴリーに収まる様な生半可な光景では無かった。

しかし、事の中心である二人は何処までも楽しそうに笑っていた。

 




みて気づいたけど、13話が二つもあった。

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