ナイトレイドのアジトでは、撤退した二人が他の仲間に昨日おきたことを事細かに話した。
帝具使いのセリュー・ユピキタスの戦闘能力、マインの顔がバレ帝都に新たな顔の手配書が行き渡ったこと、そしてこれが最も重要な事だ。
「なるほどな」と葉巻を吸う《ナジェンダ》と言う名の女はナイトレイド内でボスと、言われている。
ナジェンダ
「二人の話はわかった。そいつについては調査隊を編成し偵察させる。北のエスデスの件もあるが、こちらも捨て置けん。」
義手となった左腕で頭を抱える。そう、ナイトレイドのメンバーは帝国から抜け出したものが数多くいる。帝国内では色々な噂を聞いたことがあった。
ーーー月に照らされた大きな羽にうねる尻尾、それに暗闇に光ったという二つの目、まさかとは思うが…ーー
ナジェンダは将軍時代に聞いた500年前の伝説を思い出した。帝都を半壊させるほどに苛烈な戦争を仕掛けた軍の大半をたった一人で殲滅したあの騎士の話を、
今朝、帝国兵から報告があった。最近ちまたを騒がせていた《首切りザンク》なる元処刑執行人がナイトレイドのアカメに殺されたらしい。まぁ俺にはたいして関係ないが
そう、今のタナトスには懸念すべきことが三つほど存在した。
一つ、帝都警備隊隊長オーガの暗殺
二つ、エスデスの帝都帰還の可能性
そして三つ、セリュー・ユピキタスの正義
帝国兵
「……以上が、大臣が秘密裏にエスデス将軍を使い出した指示です。
………聞いてますか?伯爵?」
タナトスの前に手をかざす。帝国一般兵、名をセイギ、彼らは帝国の中でも腐っていない心を持つ兵士だ。ブドー大将軍の近衛兵並みの強さは持ち合わせてはいない。しかし、その心は帝国最強と言っていいほど素晴らしいものだ。故にタナトスは彼ら数名を側に置き情報を集めてもらっている。
タナトス
「ん?すまない。なんだって?」
セイギ
「はぁ〜、もう一度言いますよ。
地方に飛ばされた元官僚のチョウリという人物の暗殺にエスデスの部隊の《三獣士》が使われるんですよ。ブドー大将軍が守っているとは言っても直接ではありません。おそらく暗殺です。それもナイトレイドになりすましてやるなんて、いかにもあの狡猾デブデブ肉喰らいわがまま独裁大臣の考えそうなことですよォ!」
タナトス
「お前、そんなに口悪かったのか…(困惑)」
友の新たな一面に苦笑しつつもタナトスは次の行動にです為の準備を始めた。とは言っても窓を開け、背中の翼を広げ流だけだが、
タナトス
「あとは任す。頼むぞ。」
セイギ
「お任せあれ!」
国を護る騎士は大空へと羽ばたき正しき志を持つ者を守護せんがため剣とかした尾を振るう。その剣波は音速を超えはるか彼方の大地に到達した。そこは氷が支配する北の国、王座らしき場に座る女性のブーツをかすめ背後の建物を切り裂いた。
「エスデス将軍!?」と周りにいた兵士は戦慄した。突然あらぬ方向から衝撃波が飛び込んできたからだ。北の異民族を討伐し指導者《ヌマ・セイカ》の心を壊しペット…いや、下僕のように首輪をつけ足を舐めさせていたエスデスに急に、
衝撃波が過ぎ去った後には堕ちた指導者の首は弾け飛び無様極まりない姿は跡形もなかった。それがせめてもの葬い、堕ちた顔を晒すよりは幾分かマシな死に様だったと言える。
エスデス
「フッ!フハハハハ!
面白い。待っていろ……タナトス・ドラグノフ!貴様も私が蹂躙してやるッ!!」
永久凍土の地を制覇した氷の悪魔は次の標的に牙を向ける。
二日後、荒野の地を一個大隊の護衛を従えた馬車がいた。大臣が暗殺を命令したチョウリという官僚とその娘であるスピアという少女が乗っていた。彼らは帝国の悪政を終わらせるため大臣と戦うことを選んだ。それが大臣に潰される引き金だった。
一個大隊は三獣士によって全滅しチョウリは地面に転がり娘のスピアも三獣士の一人ミャウによって身体中を傷だらけにされている。
男の名はリヴァ、帝国の将軍だったが大臣に逆らい死刑が確定したところをエスデスに助けられ絶対の忠誠を誓う。
どのような命令だろうとエスデスへの忠義にかけて完璧に実行する。それが今の彼の生きる言動力
リヴァ
「あなたの志は私も大変、共感していましたよ。チョウリ殿。大臣の不正は許されるものではないと思っていましたので」
チョウリ
「では何故儂を殺す!?」
リヴァ
「これも我が主人の命」
ニャウ
「ねぇリヴァー、この子すごくいい顔する!恐怖で歪みきってるー
そのままいてね。最高の表情…たまらない…ッ!」
ニャウが取り出したのは帝具でもなんでもないただのナイフ、スピアの顎の下に刃をつける。ピトリと冷たい刃の温度がスピアの顔を恐怖一色に染め上げる。今から何をされるのか、想像したくない。が現実は非常にもこれから起こることを認識させる。
涙で前がかすみ、恐怖でパニックになりかけた。
ついにナイフが顔を剥ぐ。冷たい感覚を顔に感じ、首元を血が滴る。
チョウリ
「スピアァァァァーー!」
最愛の娘の断末魔で自分までおかしくなりそうな勢いを間近で見ていた大男《ダイダラ》はニャウに嫌悪感を向ける。
ダイダラ
「うへ〜、相変わらず気持ち悪りぃ趣味だなそりゃ」
ニャウ
「うるさい。僕の勝手だろ!」
リヴァ
「その辺にしておけ二人とも、先に仕事を片付けるぞ。お前のことはそれからだ。」
ニャウ
「はいはい」
皮膚を剥がす寸前でナイフは止まる。束の間の安心がスピアに訪れたが父が死ぬまで延期されたものだと思い希望の光は闇に消えた。
リヴァ
「それでは、」
その場に居合わせた三獣士全ては驚きを隠せなかった。殺すはずの標的が一瞬にして消えた。ニャウが押さえていたスピアも同じく、あたりを見回しても誰もいない。たった一人を除いて
荒野に君臨したその姿は神々しく、阻む全てをなぎ倒すほどの殺気を纏いゆっくりとリヴァ達へ向かってくる。
リヴァ
「貴方は…なるほど、どこからか情報が漏れていたというわけか、
タナトス伯爵」
三人の眼前に立ちはだかる帝国最最古の騎士はマントに隠れた背部の尻尾をうねらせる。
タナトス
「賊のフリまでして殺したいか?
ハァ〜まったく大臣め、三獣士の相手はあまりしたくないかったんだが……」
リヴァ
「貴方のことはよく存じ上げています。
500年前におきた戦争、帝国滅亡の危機にたった一人で敵を殲滅されたとか。」
ダイダラ
「ヘッ、最高の経験値じゃアねェかョー
いただくぜェェェェ!!」
リヴァの制止を無視しダイダラは己の帝具《二挺大斧ベルヴァーク》を中心で二つに割り片方をタナトスに向かって投擲する。
ベルヴァークが兜をかすめ火花を散らす。
ダイダラは半分のベルヴァークを構え突進、過ぎ去ったベルヴァークはブーメランのように曲がりタナトスの後ろから迫る。
挟み撃ち、ダイダラの必勝戦術だ。今までの敵でこの戦法を破ったのはエスデスしかいなかった。
タナトス
「……くだらん」
呆れきった口調で尻尾をふるった。弧の軌道を描いた尻尾は、後ろのベルヴァークをいともたやすく弾き前方から突撃してきたダイダラの喉をかっ斬った。
糸の切れた人形のように倒れた仲間を見てリヴァもニャウも戦慄している。
勝てない、直感的にそう感じた。
急いで撤退しようと後ろを振り返った先に先ほどまで目の前にいた存在がそこにいた。
タナトス
「逃げる気か?」
タナトスの尾先はリヴァ達二人に向いている。死を覚悟し帝具を構えた。どうせ死ぬのであれば少しばかりの抵抗ぐらいはしてやると、それは二人にとって完全に意地であった。《エスデス軍の三獣士》と呼ばれ帝国軍に名を轟かせた自分たちが何もできずに死ぬなど無様すぎる。
タナトス
「そうだ。そうこなくては面白くない」
長らく忘れていた高揚感を思い出した。
ーーそうこれだ。この感じ、戦場で死を覚悟した戦士と相対した時の感覚……忘れていたーー
気分が有頂天になっていたが、そこにあらぬ者たちがやってきた。
ナイトレイドだ。パンプキンを持ったマインと日本刀型の帝具《一斬必殺 村雨》を持ったアカメ、それに帝具なしの小僧が一人。
???
「どうなってんだ…文官の人は?」
アカメ
「………あれは、帝国の騎士だな。三獣士より先に葬る。」
村雨を構えこちらを見据えるアカメの殺気は凄まじいものがあった。こちらでも楽しめるかと期待を混じらせ尾の先をアカメに向ける。
アカメはやる気満々のようだ。楽しめるといいが
興に浸るタナトスだったがそれを遮るかのようにマインが震えた声でアカメを止めた。
マイン
「待って!!
そいつは……ヤバイ………ッ!相手しない方がいいわよ!」
あいつは、前にハサミのやつといた女か。まぁナイトレイドと戦うメリットもないし、ここは自重しておこうか。大人(実年齢千歳)の余裕を見せなくてはッ!
タナトス
「………だな。今俺と戦えば命がいくつあっても足りんぞ。それに、獲物にも逃げられた。逃げ足の早いことだ。
どれ、一つ取引だ。チョウリとその娘は岩場に隠してある。早急に保護してくれてかまわん。
そのかわりに俺を追ってくれるな。」
アカメのあの顔、疑っているようだな。
タナトス
「なんなら確認が取れるまで身動きを取らないと約束しよう。」
アカメ
「………わかった。そうしよう。タツミ」
タツミと呼ばれた小僧は俺が指差した岩場へチョウリ達の安否を確認する。
タツミ
「アカメ、確かに二人とも無事だ。気絶してるだけで脈もある。ただ酷い傷だ。すぐに戻って手当てしたほうがいい。」
マイン
「撤退するわよアカメ。」
タナトス
「行けよ。」
ナイトレイドは撤退した。ではこちらも向かうとしよう。
翼を広げ点高く飛び上がる。逃げた二人の位置は把握した。
猛スピードで降下する。
リヴァ
「もう追いつかれたのか!?
ニャウお前は先に行け!ここは私が引き受ける!」
差し違えてでも止めるつもりだったリヴァはタナトスがとった行動に呆気にとられる。
タナトス
「まずはお前だ。」
ニャウは驚愕しながらも笛型の帝具《軍楽夢想スクリーム》でタナトスの正拳突きを受け止める。空を斬る拳の勢いは超級危険種を遥かに凌ぎこの世のものとは思えないほどの轟音とともにニャウを後方へと吹き飛ばしあばらの5、6本を折る勢いだった。
リヴァ
「くッ!」
タナトス
「こいつの帝具、音を奏でて戦況をコントロールするやつだったよな確か?
昔のことだからあんま覚えてないけど」
ニャウ
「くはッ!
………!?」
吐血したニャウはその光景に驚愕した。帝具《スクリーム》が真っ二つに折れている。数々の戦場を渡り歩いた。無論その中には自分たちと同じ帝具使いも何人かは覚えている。肉弾戦を仕掛けてくるもの少なくなかった。そういった敵はスクリームを吹く暇もなかった為に笛を警棒のように使って対処するのがニャウのやり方。事実、スクリームは鈍器としても扱える強度はあった。
ニャウ
「そんな…どうして」
タナトス
「その帝具が弱かった。それだけだ。」
リヴァ
「まずいッ!」
急いで助けようとするが無駄に終わる。ニャウの頭へと狙いを定めた拳は無慈悲に頭蓋骨を砕き絶命させた。
崩れるニャウに見向きもせず今度はリヴァへと顔を移す。一瞬、怯んだが最後の意地を見せ戦闘態勢をとる。
タナトスはゆっくりと足を進ませる。それはリヴァにとって《死》以外の何者でもない。自分はもうすぐ死ぬ。だがただでは死ねない。それはエスデスに対する最大の侮辱、せめてもの抵抗はしてやる。
寸前まで迫る。拳をタナトスの頭へと突き出そうとした瞬間にはすでに肉薄されていた。
リヴァ
「………何故、どどめを刺さん?」
何もせずリヴァの目を見るだけのタナトスに疑問を投げかけた。自分たちなら慈悲もなく殺すであろうこの状況で殺さない。これほどの強者が何故何もしないのか?
タナトス
「知らん、ただ、お前はどこか…あの二人と違う気がするだけだ。その命今はとっておけ。せっかく拾った命だ。無駄にするな。」
それだけ言うと跡形もなくタナトスは消えた。その後、リヴァはエスデス軍に帰還 三獣士の内二人が戦死し帝具を回収できなかったことを伝えた。