アカメが斬る!帝都の繁栄と腐敗   作:色々し隊

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第7話 異次元からの贈り物

 

 歩みを止め脊椎と一体化した尾が変形し持ち手が横へと倒れ剣を手に取る。背中の翼を畳み変形させた盾を取る。現れ立つ存在はどちらの陣営にとっても神のように見えた。

 

リヴァ

「貴様も乗っていたとはな。フン、まぁいい。まとめてエスデス様への手向けとさせて貰おう。」

 

 リヴァの言葉にタナトスは答えない。答える必要がない。堕ちた武人にかける言葉はなく、行動で示すのみ。

 接近してきたミャウとダイダラを回転切りで押し除ける。斬撃は残像とエネルギーを残しタナトスの周りを囲んだ。驚いた2人を他所に神速の足回りでダイダラの懐に飛び込み盾による打撃で怯ませたのちに鞭のようなしなやかさを持った剣によって拘束し海へと投げ飛ばした。

 標的を変えミャウに対して盾を構え突進する。スクリームの擬態を構え帝具の能力を再現しようとする。口に加え歪な音色を奏でる。それはオリジナルの奏でる美しき曲とは遠く離れたものだった。能力も精神干渉系ではなく銀色の液体が死んだ人間の体を乗っ取り立ち上がるだけだった。とは言っても“この世界”においてはナイトレイド最強のブラートですら手こずるレベルの物質、たとえ一般人程度であっても効果は絶大。しかしタナトスは軍勢の寸前で急ブレーキをかけステップで右へ大きく移動し翼が変形した盾を空へと投げ飛ばす。空中を舞った盾は甲板に対して正面を向いた瞬間、閉じていた翼を広げ球体型のエネルギーを凝縮し放つ。着弾の瞬間に分散し液体の群れを焼き殺したその場で注意が逸れた本体が剣を突き出す。最速の一突はミャウを貫きリヴァの胸すら貫いた。

 一連の行動をタツミとブラートは傍観する他なかった。異常ともいえる力を手に入れ過去の上官に不意をつかれたとはいえ侵食された箇所は徐々に体を蝕んでいる。このまま戦っていればダメージの蓄積によってやられていただろう。

 しかしあの騎士はたった数秒で最適の判断で着実に群れを消耗させ数も減らしリヴァにも致命的なダメージを与えた。

 

リヴァ

「グブッ!」

 

タナトス

「どれだけ堕ちてもお前だけは生身の人間。強化しようが関係ない。心臓は貫いた。潔く死ね。」

 

 胸に空いた穴に呼応する様に銀色の液体がピチャリと音を立てて形を崩しリヴァが全てを吸収した。

 莫大な力を取り込み狂気に苦しみ悶えて手に入れた姿に理性はなく、ハイライトが消えた冷酷な目を向ける。

 

タナトス

「巨大化ではなく収束させ小型化した。と言うわけか。なかなかどうして楽しませてくれる。」

 

 ヘルムの下で笑うタナトスはその瞬間、体を横にねじり当たるはずだった超高速の攻撃を寸前で交わす。液体が固体となりタナトスの帝具と同じ性質を得て牙を向く。

 

リヴァ

「行け」

 

 たった一言で船が揺れ変幻自在のスライムと化した液体は体から無数の触手を伸ばし標的を殺す為に襲い掛かる。

 繰り出される百烈…否、千を超えた触手から繰り出されるかわすことが不可能な攻撃にタナトスは盾を構え防御態勢を取りつつ反撃の余地を窺っている。しかし、リヴァが中指につけた指輪の帝具が本性を表した。

 海の水が水柱となって空へ上がりタナトスに急降下する。

 バシャンと船に突撃した水の水圧は凄まじい。防戦を強要し反撃の目処をとことん潰してくる。

 先行する水柱を追うように二本三本と水柱が水柱と交差し全方向からの水圧の攻撃を加える。さらにスライムが水柱を包み込み内部に触手による連撃を喰らわせた後に凝縮しハンドボールほどの大きさになった後にリヴァの元へと帰還する。

 狂い笑い勝利を噛み締める。

 

リヴァ

「次はお前らダ!」

 

 ゆらりとブラートに迫るリヴァの背後に水しぶきが一つ、派手な音とともに舞い戻った戦士は空中で大回転斬りを披露し甲板のリヴァに叩き込む。そうあの時、第1波の水柱に飲み込まれたタナトスは迫る第二と第三の水柱に対し盾を広げ羽ばたかせ人間が水の中を泳ぐのと同じ様に移動し交差点よりも少し前方へ、水中へ潜み隙を窺っていた。

 

 声にならない声で斬られ胴体と腕の接合部を必死に抑え悶える。すぐさまスライムが傷口を覆い形を変え義手になりなんとか一命は取り留めた。

 その光景を見てタナトスは自分の仮説を独り言まじりで語る。

 

タナトス

「超速再生…?いやただ失った部位をそいつで補っただけか、ならチマチマ削るか」

 

剣を軟質化、高速で振るい突風を巻き起こす。その風は不可視の刃となりスライムの体を削り力を奪っていく。

あまりの光景に狂化しているリヴァが驚きの声を上げる。

 

タナトス

「面倒だが、一旦殺すとしよう」

 

巻き起こる風は、スライムの体から少しずつ活動に必要な部位を空中に飛散させ動く力を奪い取る。

 異世界の物体は世界の守護者によって体をすり減らし死んでいく。残った少しはリヴァの体に吸収され残る力全てを集束させる。

 

 非常に不可思議だった。主人から授かった最恐の力、それを奴はこの少ない時間で8割ほど倒し切ってしまった。これが千年間国を守った者の実力だとでも言うのだろうか?

 

 イヤ、違う。チカラはこの程度デハ無い。魅せてヤレ。ノコリノスベテオマエにヤル。

 

リヴァ

「ヌゥッ!?ヌウゥゥゥアァァァァァ……!!」 

 

タツミ

「何が…起こってるんだ…?」

 

 バッとうずくまるリヴァと2人の間に移動したタナトスは若干の焦りが出始めていた。

 

 観測された事象は全て記録されている。知り得ないことはないと思っていたが、こればかりはまずいな。

 

 不安と恐怖を消し、眼前の敵を捕らえると戦闘を再開する。まずは一閃、リヴァの首を捕らえた斬撃は空を斬り空振りに終わる。

 

タナトス

「何ッ!?」

 

 タナトスの死角へ移動したリヴァはタナトスの頭を掴み全力で殴りかかる。一撃二撃三撃と同じ箇所に拳を叩きつけ投げ飛ばす。言葉を発することなくブラートとタツミに構う事もなく、倒れるタナトスへ歩みを進める。

 

タナトス

「……油断したよ。

 

 瓦礫を吹き飛ばし背に携えた翼を広げ天空を舞う戦士は天使の様に後光に照らされ、帝具以上の破壊力をもって異界のテクノロジーに侵された人間を排除する。

 放たれた光線は圧倒的な火力で目前の全てを消し飛ばす。

 

 大きく風穴が空いた船は隙間という隙間から海水が侵入して沈没寸前へ、戦う力を全てもがれたリヴァは倒れ足が侵食されたブラートは激痛に歯を食いしばりながらなんとか立ち上がり逃げようとするが激痛が阻み床に倒れる。横目にタナトスはリヴァを担ぎ上げ数キロは離れているであろう出航場へ一瞬で飛び立ち再び崩れる船へ戻ってくる。

 

ブラート

「はぁ…はぁ…殺すならさっさとしろ…どっち道助からねぇ…この傷でこのまま死ぬか、お前に殺されるかの違いだよ…タナトスの旦那……」

 

 息を荒げるブラードにゆっくりと近づくタナトス、その足音は死神の如く重く轟き死を実感させる。

 

タツミ

「待ってくれ!!」

 

 二人の間に割って入る。良くしてくれた人の死をなんとしても止めたい。この気持ちがタツミを奮い立たせた。剣を構えタナトスを睨む。

 

タナトス

「退け名も知らぬ小僧、お前に構っている猶予は無い。」

 

タツミ

「うるせぇ…!俺が道を開ければあんたは兄貴を殺すだろ?だったら引くわけにはいかねぇ!」

 

 やれやれと深いため息をついて止めた足を進める。タツミに目もくれず横を素通りしてブラートの患部に手を当て確認する。唖然とするタツミ、驚くブラート、タナトスに敵意はなかった。

 

タナトス

「このまま“こいつ”が侵食すれば、いずれ脳に達し自分ではなくなる。どうする?」

 

タツミ

「あんた!?」

 

タナトス

「言ったろ。猶予がないんだ。で、どうする?生きたいか?死にたいか?」

 

ブラート

「………俺は…

 

 

 

 

 

 

 

生きたい。」

 

タナトス

「わかった。なら少し我慢しろ。痛みは一瞬だ。」

 

 次の瞬間、ブラートの侵食された足首から下がブラートから離れる。宙を舞いかつて自分の体の一部だった物を視認する。一瞬の出来事に二人とも最初はなんの反応も示さなかった。やがて理解が追いつくとタツミが叫ぶ。

 

タツミ

「なにやってんだー!」

 

 剣を構えタナトスに斬りかかろうとするタツミをブラートが止める。不思議なことに苦悶の表情はなく真剣な眼差しを向けていた。

 

タナトス

「安心しろ、手加減はした。これで多少の不便はあっても生きられる。」

 

ブラート

「礼を言うぜ。」

 

タナトス

「じゃあ、行くぞ!」

 

 両手に二人を担いで跳躍する。同時に船が完全に形を崩し海の底へと沈んでいく、リヴァと同じ場所に降りると二人を下ろす。

 

タナトス

「ブラート、お前はもう戦場に来るな。その脚はお前への咎め……いや、素直に言おうナイトレイドの戦力を少々でも減らしておかなければ厄介なものでな。」

 

去ろうとするがナイトレイドは敵というタナトスにブラートの抱えていた疑問をぶつける。

 

ブラート

「なら何故シェーレを助けた?」

 

 ピタッと足を止めて振り返る。

 帝国警備隊との戦闘、シェーレとマインは帝具使いの一人と対峙し戦った。本来なら帝国の人間が反乱軍しかも突起戦力であるナイトレイドのメンバーを助ける事は決して無い。大臣による後の仕打ちに怯え心ある将軍でも行おうとしない。

 

タナトス

「決まってる。助けたかったから、それだけだ。」

 

 帰ってきた答えに爆笑するブラート

 

 そうだったな。アンタは昔っからなにも変わってねぇ!

 

 昔同じ様な返答をされたことを思い出し吹っ切れた表情でただ了承する。

 

タツミ

「待ってくれ!

 アンタも帝国に疑心があるなら俺たちと一緒に戦ってくれ!!アンタがきてくれたら戦争なんてすぐに…」

 

ブラート

「やめろタツミ。そいつはそんなじゃねぇよ」

 

タツミ

「なんで…」

 

タナトス

「ブラートの言う通り、俺は“陛下”を裏切るつもりはないが大臣に媚びる気もない。お前たちとも敵対するつもりはない。まぁ、命令が下れば話は別だが…

 

 あっ、そうだナジェンダに伝えておけ三十獣士陥落に伴い帝国に新しい組織ができるそうだとな。名は確か…特殊警察イェーガーズだったか?メンバーは三獣士に勝るとも劣らない凄腕ばかりだそうだ。」

 

 じゃあなと手をあげて去っていく。次に彼が目指す場所は帝国の宮殿、そこには初対面のイェーガーズのメンバー全員が集められている。


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