アカメが斬る!帝都の繁栄と腐敗   作:色々し隊

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第9話 マッドサイエンティストを斬ろうか?

 城壁を超えた少し外、謎の異形種とウェイブは抗戦していた。

 時は少し遡り、周辺警備へ出ていた時、泣き叫びながら助けを求める商人達がやってくるのを追って現れたのが二足歩行し武装した鳥の危険種だった。

 鳥と人間のハーフを思わせる外見はまさしく伝承に聞く『バードマン』武器のボウガンの下部に刃が備わっている。

 

 ウェイブはそこでふと疑問に思う。バードマンは明らかにこちらのことを知っている様な雰囲気でじっと見つめてくる。まるで獲物を品定めする様に、やがてボウガンに矢を当てがって突きつける。

 

バードマン

「ーーーーー」

 

 発射された矢は寸分違わず非武装状態の自分の体にかすり傷をつけた。

 ウェイブは帝具を装着しバードマンへと一気に距離を詰めた。下部に備えた刃があるといえど飛び道具しか持たないのなら懐に入ってさえ仕舞えば幾らでも勝機はある。その考えが命取りになるとも知らずに…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 お前に新しく頼みたいことがあるんだが、良いか?

 

 タナトス様の頼みを聞き入れた私は今帝都の外で変な仮面を付けあるもの達と接触する算段をつけている。横には昨日捕らえた捕虜を身動きが取れない状態で連れている。徒歩で出ていれば流石に怪しまれたがタナトス様の怪しげな術…恐らく帝具の力か何かで空間転移でこの場までやってきたが、正直、護衛も無しだと心許ないのだけれど、タナトス様は信用しろと仰っていたし大丈夫だろう。あの人は言ったことは守るタイプの人だ。きっと私に内緒で付近に護衛を配置しているのだろう。

 

 待つこと数十分、彼方から数人が歩いてくるのが見えた。隊を指揮しているであろう真ん中は体つきからして女性2、他は武装している兵士数名

 

ナジェンダ

「貴様が我々を呼びつけた人物で間違えはないな?」

 

セイギ

「いかにも。帝国兵(仮)であります。そしてこっちが約束の捕虜です。ご安心を…守備はバッチリです。記録通り彼らはすでに死んだことにされています。今更死体が消えた所で咎める者は帝国内部には存在しませんよ。」

 

 この男の言っている事に間違いはない。今更処刑した者を渡した所で非難されることはない。むしろどうやってここまできたのかがいちばんの疑問だ。一兵士如きが帝国全てを騙し我々と接触するのは無理に等しい。外部からの協力があると考えて間違いないだろう。くれぐれも警戒は怠らない様にしよう。

 

 捕らえられていた同胞の縄を解き安全を確認し早速本題へ行く事にする。

 

ナジェンダ

「一つ疑問がある。」

 

 なんです?と仮面の奥からでも余裕の表情を見せる帝国兵に違和感を抱くと横にいるシェーレが帝具をギュッと握り締めている。この時の彼女は一人だけ底知れぬ何かを感じ取っていた。

 

ナジェンダ

「今回、お前の裏にいる人物は……」

 

 問いかけようとした瞬間、己の首に鋭い何かをあてがわれた。背筋が凍る。エスデスの時以来の戦慄がナジェンダを襲う。数多もの戦場を潜り抜けそれなりの自信があったがこの感覚は久しい。再び味わう恐怖に冷や汗が頬をつたる。

 

セイギ

「やっぱり……申し訳ございません。正解が出ている質問に答える必要が有りませんので  

 大体、あなたなら検討がついているでしょう?

 もう質問が無いのなら帰らせて貰います。目的は捕虜の受領ですしお寿司、長いしすぎるとどこからか情報が漏れるかも知れません。一応、今回の設定を守っていただかないとこちらも困るので」

 

 ナジェンダの首から鋭い物が離れて帝国兵の側へ行くその瞬間に恐怖した。先程まで自分を殺そうとしていた存在に……

 

 危険種だった。所々に人外と断定できるパーツがあることは確かだ。昆虫類のカマキリの顔と足と腕、しかし人間の構造にとても近い。昆虫特有の逆関節であるが、二足歩行で動いている。

 

 やはり護衛をつけていた?しかしこの男、不思議だと確信する。殺すことが目的ならいつでも出来たはず帝具を持つシェーレがいたとしてもあの危険種さえいればどうででもなるだろう。

 

セイギ

「それでは、帰りますので。くれぐれも後をつけるなど馬鹿な真似はしない様にお願いします。では」

 

 帝国兵についていく様に危険種も去っていく。みんな恐怖で動けなかった。それはわかっている。

 あの危険種…私が伯爵の話題を持ち出そうとした瞬間に現れた。

 考え事をしていると後ろから顔が青ざめているシェーレが重い口を開いた。

 

シェーレ

「あの…すいません……私、手が震えて………ナイトレイド、失格です…」

 

 シェーレが恐る理由も痛いほどわかる。ナジェンダは喉元に突きつけられた時、エスデスと同等の恐怖に駆り立てられた。きっと後ろの護衛にも同じようにあの危険種はしたのだろう。

 しかし疑問だ。見てくれは確かに危険種そのものだったのに、まるで歴戦の戦士の様な立ち回り、獣の様に本能で暴れず冷静に目標を捉え護衛……ましてやシェーレすら黙らせるプレッシャー。あんな物はどの報告書にも記載がない。だが、あの帝国兵と行動を共にしたのなら手がかりは掴める。何より先の会話からおおよその検討は付いている。

 

ナジェンダ

「シェーレ、帰ったらナイトレイド全員を集める。お前は少し休め」

 

 

 

 

 

 

セイギ

「まさか、君が来るとは。伯爵も人が悪い。」

 

 私の友人は喋ることが出来ない。ただ私の話を聞いているだけでうなづくなどの行動をとって態度を示してくれる。

 初めて会った時は腰を抜かしたが、いざ行動を共にしてみると案外信頼がおけた。危険な任務にただの危険種として陰ながら見守ってくれるし、少し心配性な部分もあるが彼が優しい証拠でもあった。反抗意識を持つものは多い。内部から変えようとする勢力はごまんといるが何より我々の心情は大臣も分かっている。反抗意識を持つものはあの手この手で刺客を大量に送り込んで排除しようとするのだが、彼らが護ってくれる。タナトス様のご友人はみんなこれほどまでに強いのだろうか?まさかな…

 にしても、帰りは徒歩か……あの空間転移なら一瞬なのに…こんなにも遠かったのか……脚が棒になりそうだ。大体、遠すぎる。行きは気にもしなかったが崖やらなんやらが多すぎる。彼に案内されても人間の体では限度がある。

 

セイギ

「……すまない、少々疲れたのだが?

 と言うかタナトス様の技で帰れないのか?」

 

 彼は腕をクロスさせ 出来ない そう答えた。これからのことを考えると気が滅入る。項垂れていると、突然地面がポッカリと空き中から土竜の危険種がピョコっと顔を出した。

 地底を掘る事に特化したのであろう手と顔、だが同時に可愛いとさえ感じてしまう。  

 少々デカすぎるが、許されるなら飼いたい。つぶらな瞳で見つめられれば悩殺間違いなし

 

 すると彼が私の肩を叩く。振り返ると土竜の掘った穴を指さす。まさかこの穴を通って帰るのか?

 コクっとうなづいて土竜の後へついて行く。私も置いていかれたら困るので成り行きでついて行く。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3日後

 

タナトス

「さて、報告ありがとう……その、大丈夫か?」

 

 顔を青ざめさせたセイギは今にも吐きそうで口を押さえながら資料を読んでいた。

 

セイギ

「……すいません……思ったより、早くて……」 

 

 聞いた話だと、歩くのに疲れて土竜の足に二人とも捕まったらそろって振り回され日が経っても気分が良くならないらしい。

 何か、憂さ晴らしをさせた方が良さそうだな。

 

タナトス

「セイギ、マンティスと一緒にしばらく休んだ方がいいんじゃ無いか?だってほら、マンティス倒れてるしお前はその調子だろ?」

 

セイギ

「ヴォ……そうさせ……もらいます……ヴォぇ…」

 

 俺が次元断で迎えに行けばよかったのだがその日は生憎他の用があって手が回せなかった。すまないと心の中で共に詫びマンティスを次元断で森の中にある基地へ運ぶ。セイギも肩を担いで連れて行く。

 

 ついた先で出迎えてくれたのはバードマンのパルだった。300年前凌ぎを削り闘った古き友の一人。彼は異業種の中でも人間の文化に関心がある方で人語もそれなりに話すことができる。でも、時々セイギの口調を真似る為笑いを堪えるのに必死でもある。

 

パル

「お帰り。二人ともどうしたの?」

 

タナトス

「土竜に捕まって小一時間振り回されたんだとさ。3日経ってもこの様だよ。とりあえずあそこの温泉にでもつからせたいから準備お願い。」

 

パル

「オケマル」

 

 

 二人を“どんな病も即座に治す”神秘の秘湯へ投げ込んで自力で帰ってくる間に他の仲間が収集した情報を確認する会議が開かれた。

 

タナトス

「で、聞き忘れてたけどパルが戦ったウェイブの全力はどれぐらいだった?」

 

 前にイェーガーズ全員を試すという名目で戦ったが殆どのメンバーの実力を測れずにいた。だから皆んなに頼んで測ってきてもらった。無論他の事も頼んでも無いのに調べて来てくれた。最高だ。

 

パル

「そうだね。君の言った通り動きはよかった。でも状況判断が浅はかだったかな〜

 こちらの武器がこのボウガンなのをいい事に安易に接近戦に持ち込んできたからね。」

 

タナトス

「パルの本業は近接戦闘だもんな。ぶっちゃけ武器ない方が強いまである!あとその羽ずるいよな。俺にくれ!」

 

パル

「やだねー」

 

 戯れあっている二人をよそにフクロウの外見をした賢者が口を開く

 

「次にDr.スタイリッシュについてだが、マンティスの眷属によるとエスデスには内緒で秘密基地を持っているらしい。」

 

タナトス

「何それかっこいい!?」

 

「ここからが問題じゃ、どうやら非合法の実験をいっぱいしてるみたいでイェーガーズの一人、セリュー・ユピキタスもみたいなのだ。」

 

 その言葉にヘルムから覗かせるタナトスの目が歪む。場にいたものたちは理解できた。こう言ったことを嫌う彼だからこそ自分達は付いてきた。純粋に正義を信じる少女を毒牙にかけられたとあっては我慢出来るはずがない。直ぐにでも彼は動く。持ちゆる戦力全てを使い潰すだろう。皆異論はない。もし仮にこれから行うことを尋ねても皆首を縦に振るだろう。浅はかだとしても迅速に対処すれば影を残さずに完遂できる。だがタナトスから帰ってきた言葉は予想外のものだった。

 

タナトス

「んじゃそれは俺一人で行く。誰もついてくるなよ。」

 

パル

「………それはつまり、直接関与せず情報収集を目的に動けって事?」

 

 そうだと、うなづくタナトスに一同は成長したなーと親が子供に向ける感情を抱いた。

 この数年、多少の小競り合いが反乱軍と帝国の間で起こっても静観していたのに今になって積極的に行動に出ようとする。僕らとタナトスの関係をしられるわけにはいかない。  

 帝国には特にだ。

 それに、タナトスはどうも肩入れした人間には気を使う傾向がある。ボルス然り、セリューさえ、

 

パル 

「わかった。じゃあ老師に編成を決めてもらう。僕らは御留守番でいいでしょ?

 丁度、ボウガン壊されたから直して貰ってるから間近で見てくるよ。」

 

 会議が終わろうとしていた時にドタドタと走り扉を勢いよく開けてセイギがマンティスを抱えて突っ込んできた。怒りマークをつけてタナトスに怒鳴りつける。

 

セイギ

「馬鹿伯爵!!もう少しで溺れ死ぬ所だったぞ!見ろよ!?このマンティスの哀れな姿を!!」

 

パル

「タナトス、やっぱり扱いが雑だね。」

 

タナトス

「まぁ、治ったみたいだし結果オーライって事で」

 

 今日の会議という名のお喋りは終了。各員自室に戻り自由に活動する。

 ある者は地下の広大な部屋達に戻り、ある者は部屋に飾られた彫刻を弄り、人間が見たら百鬼夜行や地獄絵図と思うだろうが気にしない。何せ彼らは皆自由に生きている。利害の一致だとかではなく一緒にいて楽しいからそうしている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私は今、帝都の見回りをしている。ここ最近近辺では様々な良からぬ噂を耳にする。新型危険種にナイトレイドの活発化、帝都の人々は恐怖に震えて怯えている。こういう時にこそ我々イェーガーズは頑張らなくてはならない。相棒のコロは今日も愛らしい。孤児院の子供達とも良くやってくれているし賊が現れた時はとても頼りになる。でも私もコロもまだまだ強くならなければならない。ナイトレイドを二人も逃した挙句危険種にも遅れをとるようではオーガ隊長に合わせる顔がない。あんなにも私によくしてくれた人を、また賊に殺された。きっとこれからも続くだろう。だから私は強くなりたい。正義を成し遂げる為の強さが…

 もうこれ以上、大切な人を失いたくない……

 

 少女の大切な人間の大多数は歪んでいた。がそれを本人が知る由もない。側から見れば凶悪極まりない土外道であっても少女にとっては大切な恩人なのだから

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タナトス

「さて、行くか」

 

 夜、身支度を整えて目指す場所はDr.スタイリッシュがエスデスにも内緒にしているアジト。   

 非人道的な実験を沢山行い、被害にあった人間は少なくなくナイトレイドの標的に設定されている人間の一人。イェーガーズの中でも俺が最も嫌悪する醜い人間だ。

 

 穴を掘りながら地下を進むこと数分、地上で複数人の気配を感じ取る。地上に出て待ち伏せることにしたが大方の検討は着いていた。

 

タナトス

「久しいな。ナイトレイドの諸君?」

 

アカメ

「なッ!?タナトス!?」

 

 いち早く戦闘態勢に入るあたり、やはり暗殺部隊のエースだっただけはある。

 両手を上げて“今”は戦意がない事を伝える。

 

タナトス

「落ち着け、無用な争いをするつもりはないんだよ。少し話がしたくてね。

 というか、ほとんど出てきてるし拠点はいいのか?」

 

ナジェンダ

「ご心配なく、あそこには腕利きを残してきてますので。」

 

タナトス

「ほぅ、今すぐにでもエスデスに言えば飛んで行きそうだけど良いのかな?いくら帝具使いがいても、数は知れてる。精々2、3人ぐらいだろう。アイツにかかれば朝飯前だ。」

 

ナジェンダ

「その時は貴方の裏にいる危険種の事を大臣にリークするので、言うも言わないもそちらの自由です。伯爵

 あなたを消せることは革命軍にとっても大きな足掛かりとなることでしょう。」

 

タナトス

「酷いな。あっちには知り合いが結構いたと思ったのだが…薄情者だな…

 それはさて置きマンティスの奴、後で激辛ラーメン十杯の刑だな。これは」

 

 無理やり激辛を食べさせられる姿を想像すると笑えてきたが、後回しだ。今はとりあえず

 

タナトス

「此処には、スタイリッシュを殺しに来た…ようだな。」

 

ナジェンダ

「ええ、依頼があったので。貴方も邪魔をしないでいただくと助かるのですが?」

 

タナトス

「悪いな。生憎と今此処であのオカマを殺させるわけにはいかなくてな。邪魔させてもらうよ。

 

 …………ナイトレイド」

 

 剣を抜く。相対する敵は五人、殺さずに力の差を見せ撤退させる事が第一条件でどうするかな。

 深く考えても仕方ないな。とりあえずやるとするかな。

 

 タナトスは単騎でナイトレイドへと跳躍する。月光に照らされた姿に見惚れる暇などはなくアカメに斬りかかる。

 動きが止まったタナトスに獣化した女のレオーネが獣の本能で感じた恐怖をかき消しながら突進してくるが、タナトスには届かない。アカメを吹き飛ばしその余波で回し蹴りを叩き込む。

 背後からエクスタスを開き、真っ二つにするべくシェーレが攻撃を開始した。上空にはインクルシオが跳躍している。挟み撃ち。本命はエクスタスの取り柄の《万物両断》確かに斬られれば痛いのは確かだ。だが“それだけ”だ。大したことはない。

 開かれた刃にわざと入る。上のインクルシオは驚いているがシェーレはそのままエクスタスを閉じようと力を込めた。瞬間、タナトスは即座に体制を変える。のけぞって刃を避けたかと思うとそのまま手を軸に足技をシェーレへと振るう。突風を巻き起こし大きく吹き飛ばす。マントが邪魔だったので外してインクルシオへと投擲すると見事に命中し、ブーメランのように戻ってきたマントはいつの間にか形を変えていて盾となりタナトスの腕に戻っていく

 次にナイトレイドの面々は取り囲むように陣を組み最速の攻撃を仕掛ける。アカメの村雨、レオーネの拳、シェーレのエクスタス、インクルシオのノインテーター、それら全ては無駄だった。

 村雨を弾き、腕を切り落とし、エクスタスを投げ飛ばし、インクルシオを地面に叩きつける。

 

タナトス

「そういえば、インクルシオ、前に見た時とだいぶ違うが、入ってるのはブラートか……いや戦い方がまるで違うな。軽すぎる。少し観させてもらおう。」

 

 掴んだ手に神経を集中させた瞬間、タナトスのヘルムはエネルギー弾によって風穴を開けさせられた。彼方より狙い撃ったのはこの場にいなかったマインだった。

 

マイン

「よっしゃ!ぶち抜いてやったわ!!いくら強くても私のパンプキンの前では無力ね!」

 

 強敵を沈めることに成功し喜ぶマインは予期していなかった。自分が何を相手にしているのかを…

 

 伝説に曰く、ヘーシュギアと呼ばれる存在は『神級』と呼ばれてはいるがそうではない。元よりその名は人間がヘーシュギアの強さを表現する為だけにつけた名前。不老不死を体現し、この世の理を司った神の存在。世界が誕生したと同時に生まれ、世界の観測を行い、外側からの外敵を沈める。

 

 パンプキンの一撃程度で倒れるはずは無い。現にインクルシオを掴む腕の力が弱まる事がなかったのだ。だがマインは喜びで見えていなかった。数秒後、パンプキンの銃口に一発、弾丸が打ち込まれアタッチメントが爆発した。そしてタナトスと交戦していた全員が今の状況を飲み込めていなかった。

 ヘルムに先が見えるほどの大穴が開いているが何も気にすることなく、狙撃してきた方角へ腕を変質させた銃火器をぶっ放していた。

 

 生物とは急所が必ず存在する。伝承に聞く数多の英雄も人間であれば必ず弱点がある。が、タナトスにはそれが無い。有るとすればそれは、世界線の外側の力……この世の理を超える力が必要となる。ナイトレイドはそのことに気がついていない。

 

 頭を撃ち抜かれようと、体を凍らされようと、在り方をゆがめられようと魂は不滅。

 

タナトス

「……あー、そういうことな。」

 

 インクルシオから手を離すと即座にアカメとシェーレがカバーに入る。ひと時の均衡状態にタナトスが口を開く。

 

タナトス

「タツミ、あの後ブラートはどうなった?

 足を切り落としたから戦線復帰は相当無理すると思っていたが、お前がそれを託されたなんてな…因果か。」 

 

タツミ

「兄貴はアジトで俺の特訓に付き合ってもらってる。

 あんたのおかげで兄貴は死なずに済んだことは感謝してるけどさ、悪党を守るなら押し切らせてもらう!」

 

 インクルシオことタツミは地面を思いっきり蹴ってタナトスへ一直線に向かい持ち前の脚力でキックを叩き込むがタナトスは盾でガードすると即座に後退する。全力を込めたタツミの蹴りは抑えが効かず簡単に受け流された。

 

タナトス

「確かに、俺を戦うなら『その帝具』しかないな。」

 

 タツミの目の前から消えて背後に回る。

 

タナトス

「だが、それだけだ。戦うことはできても勝てはしない。」

 

インクルシオを纏い反射神経を上げていて、タツミ本人も最近のハードな特訓で将軍クラスの実力を身につけているのは確かだった。が、まるで時間が止まったと錯覚するほどに速く背後に回られた時には《死んだ》と確信してしまう。その時だった。地響きと共に静観を決め込んでいた勢力が他のナイトレイドのメンバーを襲撃した。

 


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