アメノサギリを倒し、平和になったテレビの中。
しかし新しいダンジョンが現れた。
そのダンジョンは堂島家の形をしていて――

要約すると、陽介がヒドイ目にあう話


この話はギャグですが、腐女子の友人とのマヨナカにした会話が元になっているので、腐女子向けのホモっぽい表現とかTSっぽい表現とかの表現を含みます。
(だからといって別に腐女子を読者に想定してるわけでもありませんが)
番長の名前は鳴上悠としていますが、別にアニメ版主人公を想定しているわけではありません。
番長の性癖がいろいろとヤバイことになっているので、番長好きの方は見ない方がいいかもしれません。

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ツッコミ力の強い陽介は推せる


こんな番長のシャドウは嫌だ。

 テレビの中に新しいダンジョンができた。

 クマからそんなことを伝えられたのは、アメノサギリを倒して八十稲羽の霧も晴れた、とある冬の日のことだった。ただし、テレビの中に人の気配はないし、マヨナカテレビにも何も映らないので、事件とは無関係だろう。

 それでも謎のダンジョンというのも気味が悪いので、自称特別捜査隊のメンバーはこのダンジョンを探索することを決め、そのダンジョンの前に来ていた。

「これって……堂島さんの家、だよね?」

 千枝が言う通り、新しくできたというダンジョンは堂島家の見た目をしていた。

「この中も堂島さんの家と同じ造りになっているのかな……?」

 赤と黒の二色で先が見えない堂島家の玄関を見つめて言う雪子。

「他のダンジョンと同様と考えるならば、見た目よりも内部が広い可能性がありますね。例えば地下へ降りていくとか……」

 腕を組んで考え込んでいる直斗に、陽介がいつも通りの明るい声で言う。

「ま、入ってみりゃわかんだろ。りせのサーチだとシャドウの気配は感じてねーんだろ? だったら一度様子見てみようぜ」

「そうだな。みんな、行こう」

リ ーダーである鳴上のその言葉にみんなは頷き、堂島家の玄関をくぐった。

 

 

「うわ、なにこの部屋、真っ白じゃない」

 入った最初の部屋を見渡し、りせが言う。りせの言う通り、部屋の中は壁も床も天井も、白い色で統一されている。

「テレビがあるクマ! ジュネスにおいてあるやつよりももーっと大きいクマねー」

 部屋の中央には学校の黒板ぐらいありそうな、巨大なテレビが置かれていた。

「なんなんスかね、このテレビ。もしかしてまたこれに入るんスか?」

 テレビに近づいた完二が画面に触れる。しかし、普段テレビの中に入る時の様にその手が画面に沈んでいくことはなかった。だが、完二が触れた瞬間、何も映していなかった黒い画面がふいに光を放った。

「うおっ!?」

 驚いた完二がすこし後ずさる。テレビの画面は、少し黄色がかって見える映像を映し始める。

「これ……もしかしてマヨナカテレビ?」

 雪子の言う通り、それは雨の日の夜に映るマヨナカテレビの様子に酷似していた。テレビはそのまま、マヨナカテレビらしき映像を映し続けていく。

 それはどうやら、ある高校生の様子のようだが――

 

 

 俺、鳴上悠は普通の高校生。

 今年で高二になるが、家庭の事情でこれから一年叔父の家で暮らすことになり、ここ八十稲羽に引っ越してきた。

 今日から新学期、俺は八十稲羽にある八十神高校に通うことになる。

 新しい学校に馴染むことができるだろうか――

 そう考えながら八十神高校へ向けて通学路を歩いていると、後方からなにか音が聞こえてくる。どうやら自転車の走る音のようだが……。

 ヒュッ、と俺の横を通り、風のように自転車が走り抜けていく。

 ――そして、そのままゴミ捨て場に突っ込んでいった。

 ものすごい音がしたが大丈夫だろうかと近づく。自転車は無残に路面に倒れている。その運転をしていた人物はというと――ポリバケツに頭から突っ込んで、下半身だけが外にでた状態で道路に転がっていた。脱出するしようとしているのか、左右にゴロゴロ転がっているが、そのせいで制服のスカートからパンツが丸見えになってしまっている。パンモロだ。

 

 

「ちょーっと待てぇッ!? なんでスカート!? これ俺だよな、俺と会った時だよな!? なんで俺女子になっちゃってんの!?」

「え、こ、これ花村センパイなんスか?」

 映像にツッコミをいれるように叫ぶ陽介を見て完二が言う。ドジをやったところをみんなに映像で晒されている状態の陽介は顔を少し赤くしているが、完二も女子のパンツが丸出しという映像のせいで顔を真っ赤にしている。

「ということは花村、実際にポリバケツに突っ込んだんだね……」

「花村くんだと思うと面白いけど、それが女の子になってるとちょっと笑えない状態だね……」

千枝と雪子は苦笑している。

「これは……まさか……」

「先輩?」

 思い当たることがあるのか、鳴上が呟く。それを見て直斗が首をかしげる。

 そうしている間にも映像は進んでいき、今は丁度画面の中の鳴上がポリバケツから陽介らしき女子を救出したところだ。

 

 

 ポリバケツを掴んで引っ張り、女の子をポリバケツから助け出す。ポリバケツから抜け出た勢いで道路にぺたんと座り込んだ彼女はこちらを見上げ、かるく微笑んだ。

「助けてくれてありがとな」

「いや……その、すまない。見ようとしていたわけじゃないんだが、その、スカート……」

「あー、そっか、パンツ見えてた?」

「あ、ああ……」

 平然とした顔でさらっとそんなことを言う彼女に呆気にとられる。

「こっちこそごめんな、俺のパンツなんか見せちゃって」

「あ、いや……」

 ここは別に謝るところじゃないと思うんだが……

 

 

「花村……女子になってまでガッカリとは……」

「花村センパイ……いくらなんでもこれはねーッス」

「ちょ、これ実際に俺が言ったことじゃねーよ!」

 千枝と完二からの言葉に陽介が反論する。しかし、陽介が女子なら言いかねないとでも思われているのか陽介を擁護する声はまったくなかった。

「花村くん、もっと慎みをもたないと……」

「そうですよ花村先輩、あんな状態では性犯罪にあう確率も上がります」

「だからなんで俺が文句言われんの!? 俺悪くなくね!?」

 雪子と直斗にもお説教されそうになり陽介もちょっと涙目だ。まさに踏んだり蹴ったりという状態である。

「あ、まだ続きがあるみたいクマ!」

 クマの言うとおり、続きの映像が流れ出した。

 

 

 ポリバケツに突っ込んでいた彼女と共に学校へと向かう。

 先生に教室に案内されてから気づいたが、彼女は同じクラスで、しかも席が俺の後ろだった。

「今朝はありがとな。花村陽子っていうんだ、よろしくな!」

 

 

「花村ぁ、名前安直すぎない?」

「だから俺は関係ねーよ!?」

 そうやって陽介と千枝が言い合っている間にも映像は続いていった。

 現実とは違い、事件は特に起こらずに平和な日々が続いているようだ。

 陽介――もとい、陽子がラブコメチックなドジっ子エピソードを披露しまくっている所を除けば。

 

 例えば。林間学校でカレーを作るために鍋に水をいれて運んでいる時につまづいて全身びしょ濡れになっていたり(ジャージを着ていなかったせいで下着が透けていた)。

 例えば。階段をのぼっている時に足をすべらせて落下する。その結果、鳴上の顔の上に落ち、スカートの中に鳴上の顔が入ってしまったり。

 例えば。みんなで海水浴に行けば、ビキニの上の部分だけが海の中で流されてしまったり。

 これでもかとばかりに酷い目にあっていた。

 そういうイベントだけでなくとも、りせと恋のさや当てまがいのことをしてみたり、お弁当を持ってきてくれたり(ただし中身はジュネスの総菜だった)、完全にこれラブコメ漫画か何かだよねという状態だった。

 そして鳴上が都会へと帰る当日、ついに陽子が鳴上へ告白し――

 

 

 そうして、映像が止まる。テレビも光を失い、真っ黒の画面だけが残る。

「――これで終わり?」

 特にシャドウの反応もないかな、とりせが言う。

 しばしの沈黙。

 陽介が笑顔で鳴上の肩をポンと叩く。満面の笑みが怖い。

「で、相棒。何か俺に言うことは?」

「陽介が女の子だったら、あのシチュエーションはラブコメみたいになるかなって思っていた。あと、絶対ドジっ子だって。今は反省している」

 ごまかすことを諦めたのか、きっぱり堂々と言い切った。

「だからって男子を女子に変換することないだろ普通! 同じコト他の女子にやらせるんじゃなくて男を女にするとか普通ねーよ!」

「常識は投げ捨てるもの!」

「投げ捨てないで!? もっと大事にしたげて!?」

「あ、扉ができたよ。まだ奥に続いてるみたい」

 言い合う鳴上と陽介を無視して雪子が言う。

「うん、奥の部屋からも特にシャドウの気配はないみたいかな」

 奥の部屋をサーチしたりせが言う。

「じゃあ進んでみようか。ほら、リーダーも花村も行くよー」

 

 

 二つ目の部屋も、一つ目の部屋と同じ造りをしていた。何もない部屋の中央に置かれた巨大なテレビ。一つだけ違うのが、部屋の色だった。

「ムムム、すごいピンクなお部屋クマねー」

 真っ白だった一つ目の部屋と違い、部屋全体がそれなりにドギツイ感じのピンク色をしている。

「さっきの部屋の展開からすると部屋がピンク色ってすげーヤな予感しかしねーんだけど……さっきのヤツの続きとか、なんかもっとヒドイのとかないよな?」

 陽介が不安そうに隣にいる鳴上に訊ねる。

「いや、さっきの続きはないと思うんだが……」

「でもちょっとヘンだよね。今までのシャドウって、簡単には認められないようなコトとかだったじゃん? でも、さっきのやつなら鳴上クンすぐに認めちゃったじゃない」

「ちょっと里中サン、やめてくれません? そんなこと言ってるともっとすごいのきちゃうじゃねーか! 俺がさっきよりヒドイ目にあったらどーすんだよ!」

「ヒドイ目って、別に実害があるわけじゃないしいーじゃん」

「いやいやいや、俺のハートにダメージありまくりだっつの!」

 そんな千枝と陽介の会話を聞きながら鳴上が呟く。

「……もっとひどい、か……まさか……ま、まさか……!」

「センセイ、どうしたクマ? 顔がすっごく青いクマよ?」

 クマの言葉が聞こえていないのか、クマの方をまったく見ずに鳴上はテレビへ向かって歩き出す。武器として持ち歩いている刀を上段に構えて。

「ちょ、センパイ!? いきなりどうしたんスか!?」

「完二、止めるな! 俺は、俺はあのテレビを今すぐ破壊しないと――」

 そう鳴上が言った時。何も映していなかったテレビの画面に、映像が映り始めた。

 

 

 俺、鳴上悠は普通の高校生。

 今年で高二になるが、家庭の事情でこれから高校卒業まで叔父の家で暮らすことになり、これから向かう八十稲羽に引っ越すことになっている。

 そろそろこの長い電車の旅も終わりだ。

 これからお世話になる堂島さん一家が迎えに来てくれるということだが――

 

 

「あ、また高二に戻ってるね」

「そうですね。先ほどの続きということではないみたいです」

「新シリーズクマね!」

 

 

 駅から出ると、堂島さん夫妻と娘さんが俺を待っていた。

 

 

「えっ」

「菜々子ちゃんのお母さん……?」

「え、でもあの見た目……」

 

 

「えっと、悠くん? 堂島陽子です、よろしくね」

 叔父さんの奥さんがそう挨拶してくれた。人の良い笑みが印象的だ。

 

 

「また俺じゃねーか!?」

 女子高生の次は人妻にされた陽介が叫ぶ。

「先輩……あの、これって……」

「訊くな直斗、それ以上訊かないでくれ……」

 そう言ってうなだれる鳴上。間違いなく認められないものが白日に晒されようとしていた。

 鳴上がうなだれている間にも、テレビは無情に映像を映し続けている。

 

 例えば。陽子さんがお弁当を作ってくれたというたわいのないものだとか。

 例えば。鳴上がお風呂に入っている時にうっかり陽子さんが気づかずに入ってきてしまうハプニングだとか。

 例えば。洗濯を手伝っていた時に、洗濯物の中に陽子さんの下着が混ざっていてドキドキしてしまう鳴上だとか。

 例えば。鳴上が学校に行っている間に鳴上の部屋を掃除した陽子さんが布団の下から発掘してしまった十八歳未満禁止っぽい本を真っ赤な顔でそっと机の上に置いて逃げて行っただとか(その本は明らかに人妻ものだった)。それを帰宅してから発見した鳴上がうちひしがれている姿だとか。

 鳴上の性癖が完全にフルオープンだった。

「相棒……」

「い、いや、まってくれ陽子さん――じゃなくて陽介」

「アウト! 今のアウトだかんな!?」

「今のは言葉のあやだ、誤解だ! これは女子高生陽介から一瞬連想してしまったものが大げさに表現されただけであって俺がそういう趣味なわけじゃ――」

 そう鳴上が言った時だった。

『それは嘘だな』

 部屋に響く鳴上と同じ声。

「――ッ、先輩のシャドウ!?」

『本当はああいうのが大好きなんだろ?』

 黄色い目で鳴上のシャドウは本体を見つめる。

「違う、俺は――」

「鳴上……認めろよ、わかってるだろシャドウを否定したら――」

 陽介がそう言った時。鳴上のシャドウが喜色満面の笑みを浮かべて陽介の方を見た。

『陽介! お願いだ、このエプロンとワンピースを着て陽子さんをやってくれ!』

「お前なんか相棒じゃねえっ!」

「はやっ!?」

 鳴上本人よりも早く陽介は相棒のシャドウを否定した。

 シャドウの手にはいつの間にか映像の中の陽子さんが身につけていたワンピースとエプロンが握られている。シャドウの本気が伝わってくるようだ。

「よ、陽介、そこまでシャドウを否定しなくても……」

 一応俺のシャドウなのに、と鳴上はちょっとへこんだ。

「女装したあげくに人妻プレイとか無理があんだろ!? そりゃあ女子にやらせるのも問題だけどな、だからって男に走っていいってわけじゃねーよ!?」

 正論である。だが、正論がシャドウに通じるというわけではない。

『やっぱり陽介は俺を否定するんだ……俺の全てを……』

「え、女装人妻プレイが全てなの? マジで?」

「違う、断じて違う」

 どんどんおかしな方向へと脱線していきそうな状態をみて、鳴上も腹をくくった。

「わかった、お前は俺の一部だ、認めるよ……」

 さっさと認めてこの地雷しかない会話を終わらせる。それしかもう選択肢はなかった。

『認めるんだな?』

「ああ」

 シャドウの念を押す確認に鳴上は頷く。それに安心したようにシャドウは笑った。

『じゃあ認めるってことだな。陽子さんの格好をさせた陽介と台所で一緒に料理をしてさりげなくセクハラするプレイをしたいってことも、陽子さんにエロ本持っていることをしかられるプレイがしたいことも、陽子さんに――』

「やっぱりお前は俺じゃない!」

 あっさりと前言撤回した。元々多くは語らないタイプの鳴上と違い、シャドウはいろいろとだだ漏れ過ぎた。

 そうして結局シャドウとのバトルが始まってしまったわけだが……陽介がいつも以上に必死で全力全開で必殺だった、とだけ言っておこう。

 

 鳴上の性癖がみんなに――特に陽介に――受け入れられたかどうかは、そっとしておくことにしよう。

 



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