○(回想)シュネー家 客間 夜
作戦会議中の一同。
ダグマル「聞き覚えがあります。確か、日本の高名な武士、伊達政宗の母親ですね」
ダグマルに一同の視線が集まる。
ダグマル「
リュカは軽く咳払いをする。
リュカ「義姫の【宝具】は、生前の逸話が昇華されたものだ。これで奴を――」
(回想終わり)
○新宿御苑 日本庭園 夜
義姫とヴェルンドが対峙している。
ヴェルンドは立ち上がり、義姫を睨む。両足の銀の義足が鈍く光る。
リュカ(M)「行動不能にする」
○グレアムホテル 入り口前道路 夜
車が止まり、車内からルイスとなずなが降りる。周囲を見回すルイス。
アーサーが上空から現れ、二人の前に着地する。
そこにリュカが歩いてくる。
○同 スイートルーム 夜
宙に浮かぶ映像群。その一つにルイスたちが映っている。
窓辺に立ったまま、その映像を見ているセオドア。顔を顰め、窓の方を向く。
セオドア「鍛冶師! 無事なのか? 返答しろ!」
ヴェルンドの声「……セオドア」
セオドア「剣は――いや、いい。とにかく、今すぐにこちらへ――!」
ヴェルンドの声「(遮って)
セオドアの顔が強張る。
セオドア「なっ……! もうじき私の所までシュネーの錬金術師共が来てしまう! このままでは……!」
間。
セオドアは眉間を指で強く押さえると、ソファから立ち上がりオーガスタを見る。
セオドア「時間を稼げ! 早く!」
オーガスタは首肯し、部屋から出て行く。
○グレアムホテル エントランス 夜
ホテル内には人はおらず静まり返っている。周囲を見回すなずな。
なずな「誰もいませんね」
ルイス「人払いの結界です。当然ですが、察知されていますね」
リュカは天井の方を睨んでいる。
リュカ「セオドアがいる部屋は二三階だ。さっさと行くぞ」
アーサー「待ちなさい」
一同、アーサーを見る。
アーサー「なずなと話をさせて」
なずなとルイスは目を見合わせる。
リュカは大きくため息を吐くと、アーサーを睨みつける。
リュカ「どういう――」
アーサー「(遮って)そう時間は取らせません」
見合う二人を窺い見るなずなとルイス。
ルイス「必要なことなんですね?」
アーサー「ええ」
ルイス、右手をぐっと握りこむ。
ルイス「では、私とリュカ君は先に上へ向かいます。二人は後から追いついてください。それでいいですね」
ルイスはリュカを見る。リュカは背を向け階段へと歩き出す。
リュカ「時間が惜しい」
ルイス「では、後ほど」
ルイスはアーサーに一礼してから、リュカを追う。二人を見送るなずな。
なずな「あの、アーサーさん?」
アーサーの方を向くなずな。その瞬間、床に片ひざを突くアーサー。
なずな「アーサーさん!」
○新宿御苑 日本庭園 夜
義姫とヴェルンドが対峙している。
都庁の方角を睨むヴェルンド。
ヴェルンド「大事な作品を。大事な竃を」
義姫「汝はすでに手足をもがれたも同然。大人しく――」
ヴェルンド「そしてなにより大大大事な、創造活動を止めるなどと!」
ヴェルンドは義姫の方を向き、ハンマーを振りかぶる。
ヴェルンド「ぶち撒けろ!」
義姫に向かって駆け出そうとして、二歩踏み出したところで動きが止まる。
ヴェルンド「ぬっ!」
少し後ずさり、自分の両足を見るヴェルンド。次に、両手を見ると、持っていたハンマーがなくなっている。
顔を上げ、義姫を見るヴェルンド。視線が義姫から、駕籠へと移る。
ヴェルンド「なにをした……!」
義姫「我が【宝具】は一度見えれば、いかなる戦であろうと、たちどころに凪へと転じさせる」
笑う義姫。
義姫「妾の魔力が尽きるまで、付き合ってもらうぞ!」
○(回想)シュネー家 客間 夜
作戦会議中の一同。
右手をあごに当てているルイス。
ルイス「敵と対話するための【宝具】とは……随分と……その……」
アーサー「厄介な【宝具】ですわね」
ルイスはアーサーを見る。
アーサー「こちらがいくら戦意を持っていようと対話以外の手段を選べなくする、ということでしょう?」
義姫はうなずく。
義姫「得物を手に取ることはおろか、攻撃の意思すら持てなくなるまで減衰させます」
リュカ「と言っても、展開できる時間には当然リミットがある。けど、セオドアを殺るのには事足りるだろ。なぁ?」
アーサーに向かって笑うリュカ。
アーサーは一瞬、なずなを見る。
アーサー「……えぇ。魔術師一人、殺すことは容易いですわ」
なずなはアーサーとリュカを強張った顔で見ている。
○グレアムホテル エントランス 夜
人気のない、静かなフロント、ロビー。
○同 一階ラウンジ 夜
ガラス製の壁面。ホテルの外は暗い。
高級感のある調度品が並ぶラウンジ。
ソファに腰掛けているアーサー。なずなは横に立っている。
アーサー「……恥ずかしいところを見せてしまいましたわね」
なずな「いえ。そんなこと……あの、話っていうのは?」
アーサー「私が【現界】して数日。今はルイスに主導権を預けていますが……あくまで私の【マスター】は貴女。忘れてはいませんわね?」
なずなはそっと左手で右手の甲にある【令呪】に触れる。
なずな「……はい」
アーサー「この先は死線。誰もが命を落としうる舞台ですわ」
なずなは震える声で告げる。
なずな「それでも、私は先生の願いを……先生を助けたい」
アーサーはソファから立ち上がり右手を胸の前にかざす。光の粒子が収束し短剣が現れる。
なずなに短剣を差し出すアーサー。
なずな「……これは?」
アーサー「実は、今の私には戦いに回すだけの魔力が残っていませんの」
はっとするなずな。
アーサー「だから、貴女の血を飲ませて」
なずなは一瞬だけたじろぐ。
なすな「……それで本当に魔力が?」
アーサー「ええ。実は一昨日も、あなた眠っている間にいただいていたの」
なずな「そうだったんですか……」
アーサー「傷をつけるのは気が咎めたので、接吻で」
なずな「せっ、接吻?!」
アーサーの口元を見るなずな。顔が赤らむ。
アーサー「今だって、本当はあなたに傷をつけるのは忍びないのだけど……」
俯くアーサー。
なずな「……わかりました」
なずなは短剣を受け取り、刃を見る。刃に映るなずなの顔。
短剣を手に持ち、刃を反対の手のひらに当てる。
深呼吸するなずな。全身に力が入る。
息を止め、素早く刃を引くなずな。床に数滴、血が落ちる。
なずな「アーサーさん」
アーサーの目を見るなずな。
アーサーは跪くとなずなの手を取り、手のひらに口をつける。