Fate/Go Astray   作:泥江青花

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EP6.太陽が如き炎の剣【1/3】

登場人物

 

☆セイバー第七陣営

藤戸なずな(一六) 高校生 アーサーのマスター

アーサー・ペンドラゴン セイバークラスのサーヴァント ルイスに召喚された

ルイス・フォン・シュネー(三二) なずなの担任教師 魔術使い

 

☆セイバー第五陣営

リュカ・バリュエレータ・アトロフスカ(一〇) 義姫のマスター

義姫[よしひめ] セイバークラスのサーヴァント 甲冑を纏った女武者 切能と呼ばれている

 

☆セイバー第四陣営

セオドア・バリュエレータ・アトロフスカ(三九) 魔術師 時計塔所属

ヴェルンド セイバークラスのサーヴァント 義足をつけた鍛冶師

オーガスタ(三五) 執事

 

リュカの父

リュカの母

 

☆伊達家

義姫(四一、四三) 政宗、政道の母

伊達政宗[まさむね](二二、二四)伊達家一七代目当主

伊達政道[まさみち](二三) 政宗の弟 小次郎と呼ばれている

梵天丸[ぼんてんまる](七) 政宗の幼名

竺丸[じくまる](六) 政道の幼名

 

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○グレアムホテル 二三階 エレベーターホール 屋内

血溜まりの上に倒れているオーガスタ(三五)の死体。目は開かれたまま。

藤戸なずな(一六)はオーガスタから目を離せない。

なずなの視界がルイス・フォン・シュネー(三二)によって遮られる。

 

ルイス「藤戸さん――藤戸さん?」

 

なずなは震えながら、ゆっくりと顔を上げる。

 

ルイス「大丈夫ですか?」

なずな「……いえ、その、大丈夫です。先に進みましょう」

 

青ざめた顔のなずな。

ルイスは視線を下げて、

 

ルイス「(顔を上げて)では、先に進みましょうか」

 

なずなとルイスを見つめるアーサー・ペンドラゴン。無表情。

リュカ・バリュエレータ・アトロフスカ(一〇)の舌打ち。

眉をひそめるリュカを見やるルイス。

 

ルイス「どうかしましたか?」

リュカ「……時間が惜しい。先を急ぐぞ」

 

リュカは走り出す。

ルイスはなずなとアーサーに目を向ける。

 

ルイス「我々も行きましょう」

 

なずなとアーサーは頷く。

 

なずな「あっ」

 

なずなは走り出そうとするが、足がもつれ倒れる。

 

ルイス「藤戸さん!」

 

ルイスが駆け寄ろうとするが、アーサーは手で制する。

 

ルイス「キング・アーサー?」

 

アーサーはなずなを見つめる。

なずなの顔は青白く、体が小刻みに震えている。

 

アーサー「剣を握るということ。これで貴女にもわかったはずです」

 

なずなはアーサーを見上げる。真顔のアーサー。

 

アーサー「ここは戦場なのです。今一度考えなさい。……貴女の願いは剣を取るに相応しいものなのですか?」

 

なずな、ルイスと目が合う。

なずなは歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がる。が、身体の震えは止まらない。

 

なずな(M)「(ふらふらと歩き出す)…… 私は、私は先生の役に立ちたい」

 

足がもつれて転倒するなずな。

顔を上げるなずな。アーサーの鎧や衣服に付いた返り血が目に入る。

震える右の手のひらを見て、なずなは顔をくしゃくしゃにしながら目を瞑る。

 

○インサート

月明かりに照らされる廃ビルの屋上。

優しく微笑むルイス。

 

なずな(M)「先生……」

 

SE:がりっ(舌を噛む音)

 

○グレアムホテル 二三階 エレベーターホール 屋内

なずなはゆっくりと立ち上がる。口元から血が流れる。

 

ルイス「ふ、藤戸さん?」

 

駆け寄ろうとするルイスを手で制するアーサー。

 

ルイス「キング・アーサー!」

 

アーサーとなずなはじっと見つめ合う。

なずなは血のついた口元を袖で拭い、覚束ない足取りでアーサーに近寄る。

アーサーの目の前に立つなずな。アーサーの胸元に崩れる落ちるように倒れ、抱きとめられる。

小さくため息をつき、アーサーはなずなの頭をそっと撫でる。

 

○新宿御苑 日本庭園 夜

対峙している義姫とヴェルンド。

石柱と火柱に囲われているヴェルンド。

ヴェルンドは鳩尾に突き刺した両手を横に引き傷口を開く。すると、そこから剣の(なかご)が顔を出す。

周囲の炎が鳩尾の剣へ吸い込まれていき、次第に橙色の光を放つ全長一五〇センチの長剣が姿を現し、その場に浮かぶ。

長剣の腹に刻まれたルーン文字が強い光を放つと、光の環が長剣を軸に発生し、高熱が長剣から発せられ景色がゆらめく。

熱を遮るように腕で口元を覆う義姫。

次の瞬間、義姫の全身が粟立ち、即座に左へ跳ぶのと同時に、義姫の右側を長剣が超高速で通過する。

長剣の軌跡に沿って地面が抉れ、一拍遅れて轟音が響く。

長剣の飛んでいったほうを見る義姫。長剣は夜空をでたらめに飛翔している。

義姫は大名駕籠に視線を移す。大名駕籠は無傷のまま宙に浮かんでいる。

視線をヴェルンドへ戻す義姫。

ヴェルンドは黒く焦げた鳩尾を手で押さえながら、飛翔する長剣を眺めている。

 

ヴェルンド「焼き入れが甘かったか……」

 

ヴェルンドは歯噛みし、義姫を見る。

 

ヴェルンド「だが、貴様には十分だ!」

 

義姫はとっさに長剣のほうへ振り返る。長剣は一〇〇メートル先から義姫目掛けて向かってきている。

義姫は舌打ちし、刀を抜く。

 

○グレアムホテル 屋上 夜

無人のガーデンテラス。柵の傍に立っているセオドア・バリュエレータ・アトロフスカ(三九)。

セオドアは背後から近づく足音を耳にし、顔を強張らせながら振り返る。

一〇メートル先にリュカが立っている。

 

セオドア「リュカ……!」

 

リュカの【魔術回路】が(あか)色に発光し、服からのぞく肌に浮かび上がる。

 

リュカ「死ね」

 

リュカが右手をセオドアに向けると、光弾が宙に発生し、セオドア目掛けて飛んでいく。

セオドアは小さく悲鳴をあげ、とっさに横へ跳んで避けるが転んでしまう。

舌打ちするリュカ。

セオドアは顔をあげて涙目でリュカを見る。

 

セオドア「……なぜだ? なぜなんだ。私は、お前を本当の息子として育ててきた」

 

なずな、アーサー、ルイスが非常用階段を駆け上がり、屋上に到着する。

ルイスたちはリュカたちのいるほうを見て、駆け寄る。

 

セオドア「厳しく接したのも、お前の将来を思えばこその――」

 

リュカは右手をセオドアに向ける。

 

リュカ「ベラベラとうるせぇんだよ」

 

セオドアは両手をリュカへ向ける。

 

セオドア「わ、私が悪かった! 謝る!」

 

真顔のリュカ。

セオドアは床に額を擦りつける。

 

セオドア「頼む! どうか命だけは――」

 

ふと、夜空が明るく照らされ、全員が見上げる。

セオドアの瞳に一筋の光が映る。

リュカは視線をセオドアに戻し、周囲に光弾を発生させる。

ルイスはアーサーを見やる。

 

ルイス「キング・アーサー!」

 

アーサーは剣を構えた瞬間、床から大量の石の(いばら)が生じ、アーサーたちに襲いかかる。

アーサーらは迎撃するが、茨はすぐさま再生し、早々にアーサーたちの周りは半球状に囲まれていく。

 

リュカ「(舌打ちして)これは……」

 

リュカは茨の隙間からセオドアの足元に金属の楔が突き立てられているのを見る。楔にはバラの意匠と回路のような紋様が刻まれている。

 

セオドア「時を稼ぐためとはいえ、無様をさらした甲斐はあったな」

 

セオドアは口の端を吊り上げる。

 

セオドア「そこで大人しくしていろ」

 

石の茨が蠢き、茨の隙間をさらに埋めていく。

 

○新宿御苑 日本庭園 夜

長剣と刀が衝突し、大きな火花が散る。

義姫は衝撃で後ろへ吹き飛ぶが、すぐに体勢を整える。

長剣は再び夜空を翔ける。

大名駕籠は光の粒になり、霧散する。

にやりと笑うヴェルンド。

 

ヴェルンド「やはりな。貴様の【宝具】は私の意思は捻じ曲げられても、備わった機構には干渉できない。そうだろう?」

 

義姫は刀を構えなおし、ヴェルンドに向かって一息に踏み込む。

ヴェルンドの銀色の義足に彫られたレリーフが発光する。

ヴェルンドへ振り下ろされた刀が空を切る。驚く義姫。

瞬間、義姫の頭目がけてヴェルンドの蹴りが叩き込まれる。

義姫はとっさに腕で防御して飛び退くも、次に長剣が飛んでくる。

刀で防御する義姫。衝撃で吹き飛ばされ、池に水飛沫をあげて落下する。

上空から池を見下ろすヴェルンド。腰の後ろに光の翼が展開されている。

ヴェルンドは小さく呻き、自身の足を見る。蹴り足の義足との接合部に刀傷があり、出血している。

歯軋りするヴェルンド。


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