○グレアムホテル 茨の囲い 夜
石の茨に囲われているなずなたち。
セオドアはそれを見てにやついてる。
ルイスとアーサーはなずなを囲いの中心に寄せ、茨から遠ざける。
茨は蠢きながら囲いの厚みを増していき、内側が次第に陰っていく。
ルイス「今の光は……」
リュカ「(舌打ちして)レーヴァテインだ」
ルイスとアーサーは目配せする。首を横に振るアーサー。
不安そうにルイスを見るなずな。
リュカは茨を注視する。茨の中に流れる魔力が金色の光としてリュカの視界に映る。
リュカ「
リュカの服からのぞく肌に【魔術回路】が浮かび上がり紅色に発光する。
ルイスたちはリュカのほうを向く。
リュカ「舐めるな」
リュカは両手を石の茨にかざす。
○インサート
SE:ゴボゴボ(水中の泡音)
黒い空間に漂う義姫。甲冑が所々損傷している。
義姫(M)「奴を止めなければ……主のもとへ行かせては……」
黒い空間に女性の青白い手が浮かび上がり義姫の腕を掴む。
女性の声「ならば、
手の主の姿が露になる。そこには紅い瞳、青白い肌をした打掛姿の義姫。
義姫は目を大きく見開く。
○新宿御苑 日本庭園 夜
上空から池を見下ろしているヴェルンド。
池の中央に立ち上がった義姫を見て、目を細める。
突如、池一帯が紫色の光を放つ。
ヴェルンドは全身が粟立ち、
ヴェルンド「レーヴァ!」
遠くを飛んでいた長剣は義姫のほうへ向きを変え、突撃する。
大量の水飛沫が上がり、霧がかかる。
池の水は光を失い、元に戻る。
長剣は上昇すると、再度義姫のいた地点へ突撃する。水飛沫が上がる。
ヴェルンド「戻りなさい!」
長剣はヴェルンドの傍へと飛んできて、停止する。
ヴェルンドは池を見渡す。辺りに霧がかかっており義姫の姿は見えない。
ヴェルンドは嘆息すると、グレアムホテルのほうを向く。
○グレアムホテル 屋上 夜
茨の囲いに紅色の光が駆け巡り、震動し始める。
目を大きく見開くセオドア。
茨の震動が大きくなり、光に包まれ、一気に爆ぜる。
炎上する茨の残骸からリュカ、ルイス、アーサー、なずなが姿を現す。
リュカは鼻血を袖で拭い、セオドアを睨み付ける。
リュカ「(息を切らしながら)……手間かけさせるんじゃねえよ」
唖然としているセオドア。
身体から白い煙が立つリュカ。肩で息をしている。
セオドア「まさか、お前が?」
リュカ「だったらなんだって――」
セオドア「(遮って)素晴らしい!!!」
呆けた表情から歓喜に満ちた表情に変わるセオドア。
リュカは眉をひそめる。
セオドア「それでこそ私の最高傑作。やはり私の跡を継ぐのはお前しかありえない!」
セオドアへの視線は逸らさずに片膝を床につけるリュカ。息が荒い。
ルイス「リュカくん」
リュカの前にルイスとアーサーが立ち、セオドアに鋭い視線を送る。
セオドア「茨が破られたのは驚いたが、嬉しい誤算だよ。【魔術式】を強引に破るという芸当も私の与えた力があってこそだ!」
よろめきながら立つリュカ。
リュカ「どいつもこいつも……」
○インサート
リュカの母(M)「どうでした?」
リュカの父(M)「さすがは三大貴族の家柄だ。若き才能に金は惜しまないらしい。……それにリュカにとってこれはまたとない機会だ」
リュカの母(M)「そうね。アトロフスカの家ならきっとリュカを立派な魔術師にしてくれるわ」
にこやかに笑うリュカの父と母。
暗転。
薄暗い室内。
拘束具のついた手術台。
血の付着したメスや鉗子。
口の端を上げるセオドア。
○グレアムホテル 屋上 夜
リュカの声「好き勝手に言いやがる……」
リュカを見つめるなずな。
セオドアはリュカを見つめ、
セオドア「愛も、金も、時間も、私はお前に与えられる全てを与えた! やがてはアトロフスカを継ぎ、根源への到達を為すという輝かしい未来の、お前のためにだ!」
嬉々とした表情のセオドアへ目を向けるなずな。
なずな「(小声で)お前のため?」
なずなの横顔を見やるアーサー。
○(回想)会津黒川城 外観
紺地に金箔で日の丸が描かれている旗を掲げ、伊達軍が行軍している。
○(回想)同 廊下
義姫の声「どうして大崎に攻め入った!?」
表情のない伊達政宗(二二)を睨めつける義姫(四一)。
政宗「……全ては伊達家のためにと。嘘偽りはございませぬ」
手を振りかぶる義姫。
SE:ピシャリ(平手打ち)
赤く染まった政宗の頬。
気色ばむ義姫。厳しい眼差し。
○(回想)同 城内
行灯に照らされる室内。
険しい表情の義姫(四三)
政道の声「私とて苦渋の選択にございます。ですが、兄上の所業をこのまま見過ごすわけには行かないのです。……それは母上とて同じ気持ちではないのですか?」
伊達政道(二三)は立ち上がり、
政道「家を守るといいながら、一族に容赦なく牙を剝く。私には兄上が何を考えているのかわかりませぬ!」
○(回想)同 炊事場
家臣は漆塗りの碗に薄茶色の粉薬を入れる。その姿を見つめる真顔の政道と顔面蒼白なたすき掛けした袴姿の男。
戸口に立って三人を見ている義姫。
○(回想)会津黒川城 城内
袈裟斬りにされた政道が倒れている。
畳は血で染まり、食物、碗や膳が散らばっている。
伊達政宗(二四)の荒い息遣い。
刀身が赤く染まった刀。
(回想終わり)
○インサート
暗い空間の中、義姫は梵天丸(七)、竺丸(六)が仲良く走り回っているのを眺めている。
梵天丸と竺丸は暗闇へと走り去っていく。
義姫の前に甲冑姿の政道が現れる。
政道「母上。兄上に伊達家は任せてはおけませぬ。どうかご決断を」
政道は消える。
義姫「小次郎……」
政宗の声「母上」
義姫が後ろを振り返ると政宗が姿を現す。表情は見えない。
政宗「……伊達家の繁栄のため、私はなんだっていたしましょう」
政宗の姿はリュカに変わっている。
顔を上げるとリュカの右目が腐りかけている。
義姫の瞳孔が開く。
○日本庭園 上の池付近
水際で目を覚ます義姫。全身傷だらけ。
ふらつきながら立ち上がるとグレアムホテルの方角を見やる。
義姫は歩き出す。