Fate/Go Astray   作:泥江青花

16 / 26
EP7.揺らぐ想い【2/3】

〇グレアムホテル 一五階 ラウンジ 屋内

瓦礫が散乱したダイニングやバー、スパなどの施設が並んでいるフロア。

階層の中央に位置するクラブラウンジは天井がなく、一六階と繋がった空間となっている。

セオドア・バリュエレータ・アトロフスカ(三九)が息を切らしながらラウンジを歩いていると、前方の瓦礫の山が大きな音を立てて崩れる。

身構えるセオドア。

瓦礫の下から巨人が這い出ると、その懐から擦り傷を負ったリュカが転がり出る。

セオドアは目を見張り、笑みを浮かべ

 

セオドア「リュカ!」

 

リュカへ歩み寄る。

リュカはセオドアを睨みつける。

 

セオドア「損傷は? 【魔術回路】は無事か?」

 

リュカは拳を強く握り、

 

リュカ「セオドアああああ!」

 

セオドアに跳びかかり、顔を殴る。

うめき声をあげ倒れるセオドア。

さらにリュカは馬乗りになり、顔を何度も殴る。拳が血で赤く染まっていく。

手を止め、息を切らし赤黒く腫れたセオドアの顔を見下ろすリュカ。

リュカは血塗れの両拳を見て口元をほころばせると、手を開きセオドアの首へ添える。

 

リュカ「死ね」

 

リュカは指に力を込める。

 

リュカ「死ね、死ね、死ね」

 

セオドアは呻き声を漏らしながらもがき、リュカを引き剥がそうとする。

 

リュカ「ずっと、ずっとだ。これで」

 

目が血走っているリュカ。

セオドアの抵抗が徐々に弱くなる。

 

リュカ「終わりだ、種無し!」

 

セオドアは青筋を立て大きく目を見開きリュカを見る。

 

〇(回想)セオドアの別邸 寝室 屋内

ベッドの上で半裸のセオドア・バリュエレータ・アトロフスカ(二五)の腕の中で成人女性が寝息を立てている。

女性の左手の薬指には指輪がはめられている。

目を細めて寝顔を見つめるセオドア。

 

〇(回想)同 玄関 屋内

セオドアの手のひらに、女性の手が重なっている。女性が手を引くと、セオドアの手のひらには指輪。

目を丸くしたセオドアは手のひらの指輪を呆然と見る。

セオドアが指輪から玄関へと視線を上げると、荷物を持った女性が玄関から外へと出て行こうとしている。

口を少し開くが、声の出ないセオドア。

玄関扉が閉まる。

 

〇(回想)アトロフスカ邸 執務室 屋内

アンティークの調度品が置かれた室内。

壁には肖像画がいくつも掛けられており、すべての絵の額にアトロフスカ姓の名札が付けられている。

その中のひとつと同じ顔をした壮年男性が執務机の椅子に腰掛けている。

男性の傍らには壮年女性が立っている。

セオドアは机の前に立ち、俯いている。

男性がなにかを喋っているがセオドアには声が聞き取れない。

男性が席を立ち、セオドアの前に来る。

セオドアが顔を上げると男性と目が合う。視線を逸らすと、奥に立つ女性と目が合う。

女性の瞳にやつれた顔のセオドアが映っている。

黒み。

(回想終わり)

 

〇グレアムホテル 一五階 ラウンジ

大きく見開かれた目でリュカを見ているセオドア。

セオドアの指が仄かに金色の光りを帯び、リュカの腕に埋め込まれた金属の楔に触れる。

SE:ドクン(心音)

ラウンジ中にリュカの叫びが響く。

リュカの腕に浮かび上がった【魔術回路】の線が、紅く光りだす。

リュカはセオドアから手を離し、後ろへ飛び退きよろめく。

息を切らしながらセオドアは光る指先をリュカへと向けたまま立ち上がる。

徐々にセオドアの指先が光の強さを増すのとともに、リュカの【魔術回路】も光が強くなっていき、楔が肥大化しはじめ、肉を裂き血が滲み出る。

瞳孔が開いているセオドア。

 

セオドア「こんなところで……」

 

リュカの【魔術回路】の線が浮かび上がる範囲がさらに広がり、口から白煙を吐き、楔が紅い雷を帯び始める。

 

セオドア「終わらせてたまるものか!」

 

険しい表情で声を荒げるセオドア。

突如現れた義姫の刀による一閃でセオドアの右手が断たれる。

セオドアは叫び、後ろへ倒れる。

義姫は即座に片腕でリュカを抱えるとセオドアから距離をとる。

義姫は悲痛な表情を浮かべ、

 

義姫「(若干震える声で)主」

 

リュカの肩を抱く手に力を込める。

瞬間、リュカの体中の楔が棘状に腕から肩、上半身を中心に肉を破って飛び出す。

リュカは叫び、紅い雷が激しく全身を走りはじめる。

義姫は大きく目を開く。

 

〇同 十八階 廊下

壁や天井の一部が崩れ、大小の瓦礫が散乱している廊下。

アーサーは通路を塞ぐ瓦礫を剣の一振りで斬り崩すと、後ろに立っているなずなのほうを振り向く。

少し俯いているなずな。目元がやや赤くなっている。

なずなを見つめるアーサー。

× × ×

(フラッシュ)

傷だらけで壁に寄りかかり座っているルイスの胸に顔をうずめ泣いてるなずな。

ルイスはなずなの頭をそっと撫で、何かを語りかける。

胸に顔をうずめたまま、頷くなずな。

傍らに立ち、二人を見ているアーサー。

× × ×

 

アーサー「なずな」

 

なずなが顔を上げると、真顔のアーサーと目が合う。

 

なずな「大丈夫です」

アーサー「……急ぎますわよ」

 

前を向き直るアーサー。

爆発音とともに建物全体が揺れる。

目を丸くするアーサーとなずな。

 

〇同 一五階 ラウンジ

ラウンジに炎と黒煙が巻き上がる。

リュカの口から煙が吐かれ、棘の先端で紅い雷がばちばちと音を立てる。

棘と肉の境から血が流れ、床を赤く染めていく。

床に膝を突きそれを遠巻きに見る義姫。

甲冑の右肩が焦げ、煙が燻ぶっている。

義姫は体を起こすと大声で、

 

義姫「主!」

 

リュカの顔が義姫のほうを向くが、目の焦点が合っていない。

リュカが叫び声を上げると同時に棘から紅い雷が八方へと放たれる。

義姫は迫りくる雷に、目を見開く。

紅い雷光に包まれる義姫。

 

〇同 外観 夜

上層部分が斜めに削り落とされたグレアムホテル。

一五階で紅い雷光が瞬き、爆発音とともに炎と黒煙が噴きあがる。

 

〇同 一四階 廊下 屋内

爆発音が轟き、建物が大きく揺れる。

セオドアは廊下を重い足取りで歩いている。

足を止め、壁に寄りかかると切断された右手首を一瞥するセオドア。

 

セオドア「死んでたまるか……!」

 

歯を食いしばるセオドア。

 

〇グレアムホテル 一五階 ラウンジ

瓦礫だらけのラウンジ。辺り一帯は炎と黒煙に包まれている。

義姫は床に突き立てた刀を支えにしつつ、片膝を突き俯いている。

バチバチと音が聞こえる。

紅い雷をまとい、立っているリュカ。

四肢の指から赤黒く焦げ始めている。

義姫は顔を上げ、リュカに視線を注ぎ、歯噛みする。

 

〇同 一六階 ラウンジ 屋内

炎と黒煙に巻かれたフロアを駆けてくるアーサーとそれに続くなずな。

アーサーは一六階と一五階を繋ぐ階段に到着すると、ラウンジの中央でリュカと義姫が対峙している様子が目に飛び込む。

リュカの体から紅い雷が周囲に放出される。

アーサーは義姫目掛けて加速する。

 

〇同 一五階 ラウンジ 屋内

アーサーは義姫を脇に抱きかかえて跳躍する。

リュカの棘から放たれた紅い雷は義姫がいた場所を貫く。

体を起こし、目を見開く義姫。

 

義姫「聖剣使い……!」

 

幾筋もの雷が四方の壁を無作為に貫き、破壊していく。

アーサーは体中傷だらけの義姫を見て

 

アーサー「無事――ではないようですわね」

義姫「(頭を下げ)申し訳ありません……(わたし)の力が及ばず」

アーサー「……どういう状況ですの?」

 

義姫とアーサーの視線がリュカに注がれる。

リュカの体表を走る雷が次第に弱まる。

口から白煙を吐き出すリュカ。

棘が肥大化し鈍い音を立てると、リュカは大きく呻き、体を強張らせる。

義姫は立ち上がり、リュカの胸辺りを注視する。

 

○インサート

リュカの体内が透けて見える。

全身の【魔術回路】が紅く光っている中で、心臓の中に一際紅い光を放っている正八面体がある。

 

○グレアムホデル 一六階 ラウンジ 屋内

リュカを見つめている義姫。奥歯をぐっと噛み締める。

 

義姫「【魔力炉】の(たが)を無理矢理に外されたのです。早く止めなくては……」

 

アーサーを真顔で見る義姫。

アーサーも真剣な表情で義姫を見返す。

 

義姫「……異邦の王よ。あなたの力を借りたい」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。