〇グレアムホテル 一六階 ラウンジ 屋内
黒煙と炎にまかれたクラブラウンジ。
なずなは一五階に繋がる階段の傍に立ち、下の階でアーサー、義姫を見下ろしている。
視線をリュカに移すと体を覆う棘に紅い雷が急速に漲っていくのが見える。
目を見張り、口を開くなずな。
〇同 一五階 ラウンジ 屋内
なずなの声「危ない!」
なずなは階段を駆け下りながら、大声をあげる。
とっさにリュカへと視線を移すアーサーと義姫。
リュカの顔がなずなへと向く。
アーサーと義姫は駆け出す。
アーサー「なずな!」
なずなのいる階段の踊り場へ幾筋の雷が放たれる瞬間、二人はなずなの前へ滑り込み、得物を振るうと雷は切り裂かれ、深紅と紫の衝撃波が巻き起こる。
アーサーと義姫の背後を除いた周囲が
ひどく損壊している。
アーサーはなずなのほうを振り向く。
アーサー「迂闊にもほどがありましてよ!」
なずな「……ごめんなさい」
俯くなずな。それを肩越しに見ている義姫。
一つ息を吐いて、アーサーはリュカのほうへ向き直ると、隣に立つ義姫を横目に見る。
アーサー「話の途中でしたわね」
真剣な顔で視線を交わすアーサーと義姫。
アーサー「それで、あの子を止める手はありますの?」
義姫はリュカに視線を据える。
リュカの肌はひび割れ、凝固した赤黒い血で覆われている。
眉間にしわを寄せる義姫。
義姫「毒を使います」
驚いて目を見開くアーサー。
アーサー「毒……!」
義姫「仮死に至らしめることで、魔力の流れを絶ちます」
アーサー「どこにそんなものがありますの?」
義姫「……妾の有する二つ目の【宝具】を使えば仔細ありません。ただし、隙が生まれてしまう。そこを貴方にお願いしたい」
真顔で互いの顔を見合う義姫とアーサー。
アーサー「よくってよ。私に任せなさい!」
義姫「……かたじけない」
アーサーは義姫から視線を切り、リュカを見据える。
リュカの体の棘に紅い雷が急速に漲っていく。
アーサーは一歩前に出ると、剣を構える。
義姫は目を閉じ、
義姫「廻り往くは
呟くと、義姫の周囲に紫色の靄が漂い始める。
リュカが叫ぶとともに幾筋もの雷が二人目掛けて放たれる。
アーサーは向かってくる雷を剣で切り払っていく。
義姫の背中を見つめているなずな。ふと、視界の中の義姫の姿が霞む。
なずな「切能さん……?」
義姫「我は栄華を
義姫が声を止め自身の左手に視線をやると、なずなの右手によって掴まれている。
少しだけ目を見張る義姫。
なずなは義姫の表情を見て、その視線の先で自身の左手が義姫の左手を掴んでいるのを見る。
目を見開くなずな。
再び義姫の顔を見ると、義姫は困ったように微笑む。
なずなの左手から力が抜け、義姫はそっと振り解いてからリュカのほうへ向き直る。
リュカの体からさらに放たれる雷を、素早く駆け、切り払うアーサー。
右手を掲げる義姫。手には扇が握られている。
義姫「
靄の量が増し、義姫の黒髪が白く、肌は血の気が引き青白く変わっていく。
義姫が瞼を下ろし、開くと瞳の色が赤く変化している。
義姫「
扇を開き、大きく煽ぐと大量の靄がリュカに向かって雪崩れ込む。
靄に飲み込まれるリュカ。
○インサート
天と地がない暗い空間に漂うリュカ。
リュカの周囲に濃霧が発生し、空間全体に広がる。
○同
濃霧が晴れると会津黒川城内、広間が現れる。
最上座にリュカ、下座には数人の家臣が座り、目の前には膳が並べられている。
虚な目をしたリュカは膳に目を向ける。
義姫の声「どうぞお熱いうちにお召し上がりくださいな」
斜め後ろから声をかけられ、リュカは椀に口をつけようとする。
打掛姿の義姫の口角が上がる。
× × ×
(フラッシュ)
袈裟斬りにされた伊達政道(二三)が倒れている。
畳は血で染まり、食物、椀や膳が散らばっている。
× × ×
目を見開くリュカ。膳を畳にぶちまけ、義姫から距離を取る。
肩で息をして周囲を見るリュカ。
義姫「ほう。我が
リュカ「……切能?」
義姫の前に数人の家臣が立ち、刀を構えている。
畳には食物、椀や膳が散らばっている。
目を細めるリュカ。くすりと笑う。
リュカ「……はなから信じちゃいなかったが、これは笑えるだろ……」
リュカは左脇腹に手を当てる。
リュカ「もういい。……死ねよ、切能」
リュカの左脇腹付近から赤い光が放たれる。
しばしリュカと義姫は見つめ合う。
リュカは眉をひそめ、パーカーを捲り、左脇腹を見ると【令呪】が脇腹に刻まれている。
リュカ「……どういう、ことだ?」
瞬間、リュカは叩き飛ばされ畳を転げ回る。呻きながら顔を上げる。
義姫は鞘に収まった刀を携えている。
義姫「どうした? 動揺が顔に出ておるぞ」
微笑む義姫はリュカの元へゆっくりと歩を進める。
義姫「種明かしをするまでもない。死んでくれと言われてはい、わかりましたと答えるうつけがどこにおる? 当たり前の話だ」
義姫はリュカの首筋を掴み、軽々と持ち上げる。
リュカは咳き込みながらも義姫を睨む。
義姫は目を細め、リュカを投げ飛ばす。
襖にぶつかり、呻くリュカ。
義姫はリュカに近づく。
義姫「血脈の存続と繁栄ため、セオドアの行いは是であった。だがのう。……それに果たして意味があったのか?」
義姫はリュカを踏みつけようとする。
併せて襖が横一線に切断され、胴体から真っ二つにされる義姫。
崩れゆく義姫は目を丸くする。義姫の視界に甲冑を身に纏い刀を構える女武者が映る。
義姫の両断された体は黒い泥となり、畳にぬるりと落ちる。泥は畳をすり抜けるかのように消える。
気がつけば、リュカと距離を開けた畳から泥が湧き、義姫の姿を形作る。
女武者は膝を折り、頭を下げる。
女武者「
リュカはゆっくりと上体を起こし、女武者の顔を見る。
女武者「……この首いつでも差し上げる覚悟はできております。しかし、今はこの場を切り抜けることが先決かと」
リュカの視界に甲冑姿の義姫とその背後にいる打掛姿の義姫が映る。
リュカ「切能が、二人?」
義姫(甲冑)は義姫(打掛)と向かい合う。
○タイトル
黒み。
T「揺らぐ想い」
了
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