Fate/Go Astray   作:泥江青花

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EP8.鬼、二人【2/3】

○インサート

会津黒川城内、広間。

SE:ドクン(心音)

リュカの視界に血飛沫とともに畳に落ちる鬼母の腕が映る。

鬼母の背後に刀を携えた鬼姫が現れる。

鬼母は泥となり、畳の中に姿を隠す。

リュカを羽交い締めしていた武士は鬼姫に斬り捨てられる。

鬼姫はリュカに背を向け、周囲に気を配る。

畳に膝をつくリュカ。鬼姫を見る。

鬼姫の腹部から血が流れている。息は荒い。

鬼姫の正面に泥が湧き上がり、鬼母が現れる。

鬼姫と鬼母はしばし見つめ合う。

 

鬼母「あわや一息で消えそうな意識の中でよくやる」

鬼姫「……力を、寄越せ」

鬼母「……それは贖罪か? 役立たずの餓鬼一人助けて感心感心。……ふふっ」

 

体をのけ反らせ、哄笑する鬼母。目が血走っている。

笑い声が広間に広がる。

唐突に静まる広間。

しばし天井を見上げている鬼母。ゆっくりと鬼姫に目を向ける。

 

鬼母「被虐趣味の行き着く先が身勝手で無意味な贖罪では目も当てられない」

 

畳から泥が湧き、梵天丸(七)が現れる。右目に布を巻いており、虚な左目で鬼姫を見つめている。右手には小刀を握っている。

 

鬼母「……償いたいのだろう? 助けてやる」

 

眉根を寄せ鬼姫は梵天丸を見つめる。

 

梵天丸「……ぼくはいらない子。……母上の期待に応えられなかった、伊達家を継ぐに相応しくない子……」

 

梵天丸はゆっくりと鬼姫に近づく。

 

梵天丸「……どうして小次郎は死んだの? 誰のせい? ぼくのせい?」

 

梵天丸は立ち止まり、

 

梵天丸「……それとも母上のせい?」

 

呟いて、鬼姫の目をじっと見る。

 

梵天丸「母上は小次郎のこと嫌い?」

 

歯噛みする鬼姫。

 

梵天丸「一緒だね。――ぼくも、母上と小次郎が嫌い」

 

梵天丸は駆け出し、小刀を突き出す。

目を見開く鬼姫。

 

〇(回想)会津黒川城 城内

 

政宗の声「このうつけは私の椀に毒を盛りました。家督欲しさに兄の命を狙うなど許されるはずもありませぬ」

 

畳に右肩から斜めに斬り傷を負った政道が倒れている。

政道を見下ろす伊達政宗(二四)。

目を見開く義姫。

 

義姫「たわけ!!! そのようなことがあってたまるか!! あの椀に毒なぞ入っているものか! あの椀は確かに妾が…!?」

 

政宗の左頬に涙が伝う。政宗の涙に絶句する義姫。

 

義姫「……其方、何故泣いている?」

政宗「……あぁ。(涙を拭う)申し訳ございませぬ。……いや何、私は母上に愛されていたのですね」

 

泣き笑いに似た表情を浮かべる政宗。

 

政宗「(自分に言い聞かせるように)……間違いではなかった。これからも変わりはせぬ。……伊達家の繁栄のため、私はなんだっていたしましょう」

 

はっとする義姫。

(回想終わり)

 

〇インサート

鬼姫、一瞬のうちに梵天丸を斬る。泥に戻る梵天丸。

目を見張る鬼母。

怒りの形相で鬼母を睨む鬼姫。

 

鬼姫「……梵天丸を愚弄するな」

 

顔が引きつる鬼母、後ずさる。

鬼姫を見ているリュカ。顔に戸惑いを浮かべている。

鬼母がふと、視線を自らの手に移すとカタカタと震えているのが映る。

鬼姫は刀を納め、居合の構えを取る。

鬼母は鬼姫を睨みつける。

鬼母の黒髪が白く、肌は青白く変化する。頭には二本の角が生え、瞳は赤くなり、縦長の瞳孔に変わる。

鬼母が吼えると広間の至るところから泥が湧き上がり、広間を侵食していく。

リュカは絶えず左右を確認する。

鬼姫は鬼母を見据え、

 

鬼姫「ご安心めされよ」

 

嵩と勢いを増した泥は鬼姫とリュカを呑み込むように襲いかかる。

リュカは顔に手を翳す。

 

鬼姫「……リュカ、貴方は妾が護る」

 

鞘から滑るように刀が引き抜かれる。

一瞬の閃き。一帯は光に呑み込まれる。

 

〇同

天と地がない暗い空間に漂うリュカ。

リュカは目覚めると、周囲を見る。

リュカの視界の隅に淡い光が見える。

光は徐々に近づいきて、大名駕籠と見て取れる。

紫色の人魂に担がれた大名駕籠はリュカの目の前で止まる。

大名駕籠から竺丸(六)が出てくる。

続いて打掛姿の義姫が姿を表す。その裾を掴んでいる右目に布を巻いた梵天丸。

リュカはぼんやりと三人を見ている。

義姫はリュカに近寄ると微笑みかけ、手を差し出す。

リュカはしばし義姫を見て、恐る恐る手を取る。

義姫の装いが打掛から傷だらけの甲冑に変わる。

リュカは目を見開く。

暗転。

 

〇グレアムホテル 一五階 ラウンジ 屋内

ラウンジを薄紫の靄が包んでいる。その中で紅い雷が数回瞬き、止む。

靄が徐々に薄れていき、手足が焼け焦げたリュカの姿が露わになる。

リュカの全身を覆う棘が崩壊していく。

くずおれるリュカを抱きとめる義姫。安堵の表情でリュカの顔を見つめる。

二人に駆け寄るアーサーとなずな。リュカは咳をし、息を吹き返す。

胸をなでおろす義姫となずな。

アーサーは二人を横目に見る。

 

アーサー「早くここから退きましょう」

 

なずなは頷く。

 

義姫「……ええ」

 

義姫はリュカを抱えて立ち上がろうとして、急に顔を歪ませ、膝をつく。

 

義姫の頭に二本の角が生えてきている。

ふいにアーサーと義姫の全身が粟立ち、空に視線を向ける。

削られた壁から覗く黒い空に橙色の光が閃き、輝く長剣が超高速で飛来してくる。

義姫はとっさになずなとリュカの前に出て、刀を抜く。

ラウンジにかん高い音が響く。

かろうじて立っている義姫。左上半身を深く斬り裂かれている。

 

なずな「切能さん!」

 

飛び出そうとするなずなをアーサーは手で制す。

空へ鋭い視線を向けるアーサー。

光翼を広げ空に浮かんでいるヴェルンド。両腕の前腕部から先が断たれ、怒りの形相で両目から血涙を流している。

睨み合うヴェルンドとアーサー。

長剣がヴェルンドの傍に戻ってくる。

素早く扇を開く義姫。すると靄が周囲に広がり、アーサーたちを覆い隠す。

ヴェルンドは大きく舌打ちする。

長剣が靄へと突進する。ホテルは貫かれ、轟音とともに震動する。

 

アーサー「なずな!」

 

靄の中、なずなに駆け寄るアーサー。

続いて二人の前にリュカを抱いた義姫が現れる。

 

アーサー「助かりましたわ切能。今のうちに――」

 

リュカを床に降ろす義姫。指の爪が長く鋭くなっている。

 

義姫「お二人は主を連れて退却を」

 

なずなは口を開こうとするが、大きな音と震動がして屈み込んでしまう。

真顔で視線を交わす義姫とアーサー。

建物が崩れる音がしきりに響いている。

 

義姫「ここは妾に」

 

アーサーは唇を噛み、ゆっくりと頷く。

 

義姫「……主を頼みます」

 

二人に背を向け、靄の中へ進む義姫。

なずなは口を開きかけたまま、義姫を見ている。

 

〇空中

宙に浮かぶヴェルンド。ホテルの一五階に広がる靄を見下ろしている。

×××

(フラッシュ)

アーサーと空中で切り結び、両腕を切

断されるヴェルンド。

×××

空へ向けて咆哮するヴェルンド。

長剣が建物を破壊していく中、靄が徐々にに薄れていく。

 

〇グレアムホテル一五階 ラウンジ 屋内

薄れていく靄の中から姿を現す義姫。角が伸び、体が若干大きくなっている。

赤い瞳でヴェルンドを睨む義姫。

義姫の周囲を見回して、歯噛みするヴェルンド。義姫を睨みつけると、長剣が義姫に向けて飛んでいく。

義姫は姿勢を低く構え、鋭い爪の一振りで長剣を弾き返す。

驚くヴェルンド。

義姫はいくつもの大きな瓦礫を持ち上げ、ヴェルンド目がけて投擲する。

ヴェルンドが飛びながら瓦礫を躱すと、その陰に隠れていた義姫の爪が迫る。

とっさに義足で防ぐヴェルンド。

義姫は宙返りし、再び襲いかかる。

幾度も衝突する義姫とヴェルンド。

 

〇同 一五階 通路 屋内

薄靄の中ラウンジを背に、アーサーとなずなは通路を走る。

アーサーの腕の中でリュカは弱々しく呼吸している。

走りながら肩越しに背後を見るなずな。

×××

(フラッシュ)

リュカを床に降ろしつつ、顔を見つめる義姫。

×××

靄の中へ進む義姫の背中。

×××

なずなの足が止まる。

ゆっくりと背後を振り向くなずな。

アーサーは足を止め振り返る。

 

アーサー「なずな?」

 

ラウンジで戦っている義姫をじっと見つめるなずな。

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