登場人物
☆■■■■■■陣営
藤戸なずな(一六)高校生
アーサー・ペンドラゴン ■■■■クラスのサーヴァント ルイスに召喚された
ルイス・フォン・シュネー(三二)なずなの担任教師 魔術使い
エミリア・フォン・シュネー(二八)ルイスの妻
ラウラ・フォン・シュネー(一〇)ルイスの子ども
ダグマル・クリューガー(六一)シュネー家の執事 Bar赤の店主
☆セイバー■■陣営
伊夫伎忠愛[いぶきただよし](三七)巨躯の騎士のマスター 元聖堂教会代行者 第八秘蹟会所属(東京支部)
巨躯の騎士 セイバークラスのサーヴァント
☆聖堂教会
コルト・ポーシブ(五三)聖堂教会 第八秘蹟会所属 聖杯戦争の監督役
善知鳥元始[うとうげんし](四二)聖堂教会 第八秘蹟会所属(東京支部)聖杯戦争の監督補佐
☆?
リュカ・バリュエレータ・アトロフスカ(一〇) ルイス家の前に現れた少年
歴史家 象牙色のローブを着込んだ痩せ形の男
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○教会 全景 夜
ちかちかと点滅している街灯。
人通りのない住宅街。
灯りのついていない古くさい教会が建っている。
○同 室内 夜
薄暗い教会内。
祭壇には蝋燭が飾られている。蝋燭に火が灯っている。
金属がぶつかる微かな音が聞こえる。
祭壇に背を向けて、机に座っている伊夫伎忠愛(三四)。手には知恵の輪。知恵の輪に苦戦する伊夫伎。苦悶の表情を浮かべ、必死に知恵の輪を解こうとする。
机の上にはいくつもの知恵の輪の部品が置かれている。
ガチっと音が鳴る。繋がったままの二つの金属パーツ。
知恵の輪の睨みつける伊夫伎。深呼吸をして、
伊夫伎「……いいだろう。これでこそ人知が生み出した至高の遊戯というべきだ。ふふ……。私をもっと熱くさせてみろ! さあ!」
伊夫伎は前髪をかき上げる。額には赤い幾何学紋様【令呪】が刻まれている。
○廃ビル 正面玄関前 夜
巨躯の騎士は駆け出す。
騎士王と巨躯の騎士は剣を交える。
攻守に渡り機敏な動きを見せる騎士王に対して巨躯の騎士はその巨体を活かした力強い剣戟を行う。
騎士王と巨躯の騎士は距離を取り、相手の出方を窺う。
騎士王「……それが貴方の答えというわけですね?」
騎士王は一気に間合いを詰め、巨躯の騎士に斬りかかる。
騎士王の怒濤の連撃を捌ききれなくなり、徐々に後退する巨躯の騎士。
剣から赤い光が溢れ出し、騎士王は一気に振り抜く。
直撃を受けた巨躯の騎士は轟音とともに廃ビルに突っ込む。煙が舞う。
騎士王「じょーだんじゃありませんわ!! 身の程を弁えなさい!」
不機嫌な騎士王。
屋上で佇む人影。人影は騎士王やルイス・フォン・シュネー(三二)と藤戸なずな(十六)を見下ろしている。
煙を切り裂くように大盾が騎士王を目がけて飛んでくる。
騎士王は剣で大盾を流す。
勢い余った大盾はアスファルトに突き刺さる。
騎士王は頭上を睨む。今にも剣を振り下ろさんとする巨躯の騎士。
甲高い音と重く低い音が同時に廃ビル周辺に響き渡る。
周囲に粉塵と煙が舞う。
窪んだアスファルトに立つ巨躯の騎士。
アスファルトに十字架を模した剣が突き刺さっている。
一瞬の煌めき。騎士王の振り上げた剣先が巨躯の騎士の首筋を狙う。剣先が巨躯の騎士に触れようとしたとき、ぴたりと止まる。
目を見開く騎士王。
巨躯の騎士は間髪入れず身体を捻り、渾身の強打を放つ。
騎士王は痛打をもらい、廃ビルに吹き飛ばされる。
宙に左手を差し出す巨躯の騎士。大盾が飛んでくる。巨躯の騎士は大盾の取っ手を掴み、剣をアスファルトから引き抜く。
廃ビルから爆発が起こり、騎士王が姿を現す。周囲には赤い粒子が舞っている。
姿勢を正し、剣を構える巨躯の騎士。
ルイスは息を呑み、二人の動向を注視する。
騎士王「そこの貴方、彼女をお願いしますわよ?」
騎士王は一歩前に進み、剣を天に向けて振り上げる。剣の周囲にも赤い粒子が生まれ、その数を爆発的に増やしていく。
ルイスは騎士王から目を離せない。
なずな「あぁあああ……」
ルイスは反射的に抱きかかえていたなずなに目を向ける。
なずなは大きく目を見開き、身体を反らせ、苦しみだす。
ルイス「なずな!?」
なずなの顔に数本の線のようなものが浮かび赤く発光する。
驚嘆したルイスはなずなを見つめ、
ルイス「【魔術回路】……? ……何が起こっている?」
ルイスの目にはなずなの右手の甲に刻まれた【令呪】が映っている。
なずなは苦しみ、悶える。
眩い光が周囲を照らす。その中心で黄金剣を掲げた騎士王。
剣先から延びる光の帯は天まで届き雲を浸食している。
巨躯の騎士は光の帯を見つめる。
騎士王は剣を一気に振り下ろす。
騎士王「
光の奔流が廃ビルを一気に呑み込む。
爆発音。
○国道 夕方
夕焼け空。
車が行き交う。
黒のアウディ・A4が走る。
ラジオパーソナリティの声「……昨日、東京都内にてガス漏えい爆発火災事故が発生しました。何らかの原因で引火、爆発したものと推定されますが、現在詳細を調査中です……」
運転席にはルイス、助手席にはなずなが座っている。
なずな、窓の外を眺めている。
○都内総合病院 外観 夕方
白を基調とした趣のある五階建ての建物。
老若男女問わず多くの人が往来している。
○同 廊下 夕方
無機質な大きなドア。[集中治療室]と記されたプレート。
○同 ICU集中治療室 夕方
白を基調とした室内。
中央に置かれた一台のベッドでラウラ・フォン・シュネー(一〇)は眠っている。
少女を囲うように多種多様な機械が置かれている。生体情報モニタでは心電図などがモニタリングされている。
ガラス越しにラウラを見つめるなずなとルイス。その後ろには虚ろな目をした看護師が立っている。
ルイス「……紹介するよ。彼女はラウラ。……僕の娘だ」
なずなはじっとラウラを見つめている。
なずなの右手の甲には【令呪】が刻まれている。
ルイス「もう二年。……彼女はずっと眠っている」
白い肌。チューブに繋がれた幼い身体。
ラウラは眼を閉じたまま身動き一つしない。
○ルイスの家 全景 朝
雨が降っている。
庭付きの豪奢な一軒家。
急勾配の屋根に大きな窓がついている。
○同 客室朝
雨が降っている。
大きな窓から手入れの行き届いたテラスが見える。
ティーテーブルに座り、カップに口をつける騎士王。
騎士王は横目で、手の甲を見つめるなずなを見る。
騎士王「……決めましたの?」
なずなは騎士王に目を向ける。
なずな「まあ、返すも返さないもないですよ。これはもともと先生のものですから」
騎士王は静かに立ち上がり、細身の両刃剣を顕現させ、左右に薙ぐ。
騎士王「事の重大さがまるで理解できていないみたいですわね」
きょとんとするなずな。
騎士王「いいですこと? 事情はどうあれ、今、この私と契約を結んでいるのは貴女なのです。貴女には叶えたい願いはないのですか?」
なずなはじっと騎士王の剣を見つめている。
騎士王「……ってなんです?」
なずな「なんていうか、やっぱり不思議ですね。……魔術? 魔法? でしたっけ? それにその剣、とても綺麗」
ぽかんとした騎士王ははっとして、胸を張る。
騎士王「ふん、当然ですわ! 湖の乙女から頂戴した由緒ある剣なのですから」
剣身には二匹の蛇の姿が刻まれている。
○同 離れ 朝
ルイスの声「……エクスカリバー。キング・アーサーの伝説において、キング・アーサーが持つとされる剣。決してその刃は毀れず、あらゆるものを両断すると謳われた神造兵器」
窓から覗く客室ではなずなと騎士王ことアーサー・ペンドラゴンが楽しそうに話をしている。
窓際に立つルイスとエミリア・フォン・シュネー(二八)。
楽しそうに話すアーサーを横目で見るルイス。困惑の表情。
エミリアはルイスの顔を見上げ、優しく微笑む。
エミリア「事実は小説より奇なりなんてね。キング・アーサーがあんな可愛らしい女の子だったなんて世界中でどれだけの人が知っているのかしら。きっと私たちだけよね?」
ルイスはぽかんとしている。
エミリア「それに彼女がキング・アーサーなら私たちは最強のカードを手に入れたことになる。これほど好条件がそろってなんて顔をしてるの? 私たちはまた一歩聖杯に近づいた。そうでしょ?」
ルイスはくすりと笑う。
ルイス「……そうだね。君はとても前向きだ」
ルイスはなずなとアーサーと見つめる。
○同 客室 朝
なずなはティーカップに紅茶を注いでいる。
なずな「【聖杯】を手に入れればなんでも願いが叶う……」
なずなはティーカップをアーサーの元に置く。
なずな「聞けば聞くほど胡散臭いというか……」
なずなに見つめられながらもすまし顔でアーサーはカップに口をつける。
右手の甲に刻まれた【令呪】に目を向けるなずな。ため息。
なずな「……もういいです。私、受け入れます」
アーサー「いい心がけですわ。つい先日まで魔術の存在すら知らなかった貴女には酷な話だと思います。それでも貴女の目の前にいる私は聖杯戦争において最優たるセイバーのクラスの英霊です。必ず私たちの手に聖杯を勝ち取ることをお約束しますわ!」
胸を張っているアーサーに対してなずなはぽかんとしている。
アーサー「どうかしまして?」
なずな「え、いえ、……アーサーさんはイギリスの王様なんですよね? その、日本語がお上手だなって思って……」
アーサー「受け入れたのではなくて?」
なずな「いや、別にそういうわけじゃなくてですね。えーと、その、友達と話しているみたいだなって……(小声で)ちょっと変だけど……」
アーサー「【聖杯】からこの時代の基本的知識は授けられると言ったはずです。言語もその内です。それに【聖杯戦争】とは【マスター】と【サーヴァント】が共に手を取り戦うもの。会話もできないようではお話になりませんわ。更に私は日本という国の伝統を鑑みて、ブリテンの王として最も相応しい言い回しを選びました。抜かりはありませんわ」
得意げなアーサー。作り笑いのなずな。
なずな「……【聖杯】って凄いんですね……」
×××
(フラッシュ)
ルイスの声「もう二年。……彼女はずっと眠っている」
白い肌。チューブに繋がれた幼い身体。
ラウラは眼を閉じたまま身動き一つしない。
×××
なずなは目を伏せる。
なずな「……もし、本当になんでも願いが叶うなら、それこそ先生に必要なものだと思います」
アーサーは無言でなずなを見ている。
こんこんという音が聞こえ、なずなとアーサーはドアのほうに目を向ける。
ルイスの声「開けてもいいですか?」
なずな「はい」
ドアが開き、ルイスが入ってくる。ルイスの後ろからエミリアが続く。
エミリア「……少しは落ち着いた?」
なすな「……はい。……その、いろいろとご迷惑おかけしました」
エミリア「いいのよそんなことは。私たちの不手際でなずなちゃんを巻き込んでしまったようなものだもの……」
なずなは右手の甲を擦り、
なずな「先生。これ、お返しします」
ルイス「本来こちら側とは関わりのない藤戸さんを巻き込んでしまったこと、本当に申し訳ないと思っています。これからのことはなんの心配もいりません。僕に任せてください」
なずな「はい」
ルイス「キング・アーサー、貴女もそれでいいでしょうか」
アーサー「私が現在契約を結んでいるのは彼女です。彼女が自分の意志で【令呪】を譲渡するなら横から口を出すつもりはありません。それに貴方の彼女に対する誠意を感じました。私の剣を、貴方の願いの成就のため上手く使いなさい」
ルイス「お気遣い痛み入ります」
ルイスはなずなに目を向ける。
ルイス「では、今夜、【令呪】の移譲を行いましょう」
なずな「はい」
ルイス「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。【令呪】の譲渡は差して難しいことではありません」
ルイスは微笑む。
○成田空港 外観 夕方
夕暮れ。
数機の飛行機が滑走路を進んでいる。
ターミナルビルが三棟に貨物用施設が点在している。
○同 滑走路 夕方
小型ジェット機が着陸する。
×××
小型ジェット機から黒い礼服を身に纏ったコルト・ポーシブ(五三)が降りてくる。
善知鳥元始(四二)は頭を下げ、黒塗りの高級車のドアを開ける。
○国道 夕方
黒塗りの高級車が国道を走る。
運転席にはサングラスをかけた男がハンドルを握り、後部座席にコルトと善知鳥が並ぶ。
○車内 夕方
アーサーと巨躯の騎士の一戦を断片的に写した数枚の写真。
コルトの声「【聖杯戦争】。過去の英霊を現世に召喚し、最後の一騎になるまで争わせる。その勝者にはあらゆる願いを成就させる願望機、【聖杯】が与えられる……か」
写真を見つめるコルト。
コルト「【サーヴァント】がこれほどのものとは……」
コルトは善知鳥に目を向ける。
コルト「周囲の影響はどうなっている?」
善知鳥「はい。マスメディアにはすでにダミー情報を掴ませてあります。現場への立ち入りも制限されているため、神秘の漏洩は限りなく低いものと想定されます」
コルト「これだけ人口が密集した都市だ。誰一人に見られていないとは考えにくい。情報の管理は怠るな。どんな些細なことも見逃してはならぬ。いいな?」
善知鳥「……はい、存じております」
コルトは窓から東京の町並みを眺めている。
善知鳥「……コルト神父。最後に召喚されたあの少女の英雄は……」
コルトは善知鳥に目を向ける。
コルト「あぁ、その【サーヴァント】も類にもれずだ」
善知鳥「そうですか……」
次の瞬間、車内に衝撃が走る。
コルト「……なんだ!?」
コルトはフロントガラスを見つめる。目を見開く。
○国道 夕方
キキキッーという甲高い音とともに黒塗りの車が象牙色のローブを身に纏った男に突っ込んでくる。
○ルイスの家 全景 夕方
○同 客室 夕方
離れの窓には仲睦まじく作業しているルイスとエミリアの姿が映る。
じっと見つめるなずな。
アーサーの声「何をそんなに見つめていますの?」
窓際に立つになずなの側までやってくるアーサー。
アーサーは離れに視線を送る。
アーサー「ふーん、そういうこと」
アーサーは振り返り、なずなに背を向ける。
なずな「……それってどういう意味ですか?」
アーサーはため息を吐きながら、椅子に座る。
アーサー「貴女、彼のことが好きなのでしょう?」
なずなは息を呑み、作り笑いを浮かべる。
なずな「ははっ。何を言っているんですか? 私と先生が? そんなことあるわけないじゃないですか?」
アーサーはカップに口をつける。
アーサー「貴女、顔に出過ぎですわよ?」
なずなの瞳から一筋の涙が流れる。唖然とするなずな。
なずな「あれ?」
アーサー「止めておきなさい。……妻のある人に恋をしても貴女は幸せにはなれませんわよ? ……私にそのようなことを言わせないで」
なずなはちらりとアーサーに目を向ける。なずなとアーサーは目が合う。
アーサー、目が据わっている。
アーサー「……あら、ご存知ではないの? 私、親友だと思っていた臣下に妻を奪われましたの」
なずな「え?」
○同 魔術工房 夜
部屋の中央に膝をつき、手を合わせているなずな。
なずなの足下には魔法陣が描かれており、青白い光を放っている。
目を閉じ、息を呑むなずな。
ルイスの声「ーーー告げる。虚にたゆたう明星。現世に漂う宿縁……」
なずなに向けて差し出される右手、左手には魔導書を持ち、ルイスは詠唱を進める。
心配そうに見つめるエミリア。
アーサーは腕を組み、なずなを見つめている。
ルイス「……旅立つ風に壁を。循環せし軌道は逸れ、普く楔を穿て……」
なずなに【魔術回路】が浮かび、【令呪】が赤い光を放つ。
ルイス「我、【聖杯】の寄る辺に従う者。この意、その理に抗うなら応えよ」
ルイスの右手の甲に【令呪】の輪郭が現れる。
ルイス「ーーーセット(AnFang)」
なずなは目を見開き、身体を反らせ、苦しみだす。
魔法陣が発光し、なずなの周囲では赤い稲光と乱気流が生じる。
ルイスは奥歯を噛み締め、痙攣で震える右手を左手で押さえ、
ルイス「……告げる」
【魔術回路】がより強く発光し、なずなは悲鳴をあげる。
エミリアは一歩踏み出し、
エミリア「ルイス!」
ルイス「我は……」
なずなを中心に魔術工房一帯に暴風が吹き荒れる。
ルイスは吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
よたよたと立ち上がるルイス。ふと右手の甲に目を向ける。何一つ傷のついていない右手の甲。
工房の中央で倒れているなずな。右手の甲には【令呪】が刻まれている。
ルイス「……もう一度……」
アーサー「そこまでになさい」
ルイスとなずなの間に割って入るアーサー。
ルイスの視線の先、エミリアがなずなの介抱をしている。
ルイスは俯き、その場に座り込む。
○同 客室 夜
ベッドで寝ているなずな。呼吸は浅く、苦悶の表情。
側にはダグマル・クリューガー(六一)とアーサーがいる。
○同 離れ 夜
物を叩く音。
ルイスの声「なぜだ!」
ルイスは机に広げられた魔術書の頁を勢いよく捲っている。
エミリアは心配そうにルイスの背中を見つめている。
ルイス「なぜ、彼女から【令呪】が剥がれない? 本人の同意の上での移譲はなんの問題もないはすだ。なのに何故!?」
ルイスは乱暴に魔術書の頁を捲る。顔には焦りの色が見える。
エミリア「……ルイス」
ルイス「……キング・アーサーと彼女の結びつきが強いのか? 馬鹿な。彼女は昨日今日まで魔術の存在すら知らなかったんだ。それに五世紀に生きていたとされるキング・アーサーとどんな接点があるっていうんだ!?」
エミリア「ルイス。落ち着いて」
ルイスは両の手でエミリアの二の腕を掴んで、
ルイス「もう戦端は開かれたんだ! いつ敵が現れるかもわからない。時間の余裕なんてどこにも……」
ルイスは俯き、下唇を噛む。
ルイス「もう、残る手段は……」
×××
(フラッシュ)
白く透き通った肌。華奢な腕。右手の甲には【令呪】が刻まれている。
なずなは虚ろな瞳で宙を見つめている。
鮮血が飛び散る。
なずなから腕が切り離される。
×××
エミリアの声「ルイス! 落ち着きなさい!」
ルイスは目を見開く。
真剣な顔つきのエミリア。
エミリア「いい? 今、あなたが思い浮かべたそれはあなたが最も忌むべきあり方のはずよ。あなたはそれが嫌で家を捨てたんじゃないの?」
ルイスは呻きながら、崩れるように椅子に座る。
ルイス「……すまない……」
エミリアは屈んでルイスの右手をそっと両手で包む。
エミリア「……気持ちはわかるわ。このイレギュラーな態勢ではいつどんな窮地に陥るかわからない……。それでも、他に手立てがないと決めつけるには早いと思うの。それにね。こういう言い方はどうかと思うけど現状なずなちゃんは私たちに頼る他ないでしょ? 必然彼女の【サーヴァント】であるキング・アーサーも私たちを無下にはできない。なら、致命的な状況ではないはずよ」
ルイスは俯く。
○同 客室 夜
ベッドで寝ているなずな。呼吸は浅い。
ダグマルはなずなの額に浮かぶ汗を布巾で拭う。
アーサーは壁に寄りかかっている。
アーサー「……どうですの? 容態は」
ダグマル「心配はいりません。身体がびっくりしたのでしょうな。昨日今日まで眠っていた【魔術回路】に突然魔力を通せばこうもなります。しっかり休息を取れば、明日にでも自然に目を覚ますはずです」
アーサー「……そう。……ん?」
アーサーは宙にするどい視線を向ける。ドアに向けて歩き出す。
アーサー「彼女のことよろしくお願いいたしますわ」
ダグマル「騎士王殿?」
ドアの閉まる音が聞こえる。
○同 廊下 夜
アーサーは廊下を歩いている。
アーサーの前にルイスとエミリアが姿を現す。
ルイスは右手に革手袋をはめている。
アーサー「あら? どうなされました? 顔色が優れないようですけど。……今から客人を迎えるというのに主人がそのようでは示しがつきませんわよ?」
アーサーはにやりと笑う。
ルイスは真剣な面持ちで、
ルイス「心配には及びません。……それでキング・アーサー」
アーサー「ちょうど正門との間で待ち構えていますわ。正面からとは随分と自信過剰のようですわね」
○同 玄関前 夜
薄暗い中に一人、リュカ・バリュエレータ・アトロフスカ(一〇)が立っている。
○国道 夕方
燃え上がる車体。
ドアを蹴り破り善知鳥が出てくる。
善知鳥の額から血が流れている。
善知鳥「……少々やり過ぎではないか?」
空を見上げている象牙色ローブを身に纏った痩せ形の男こと歴史家に目を向ける善知鳥。煙草を口にくわえ、火をつける。
車から立ち上る煙を見上げ、歴史家は口を開く。
歴史家「……そうかね? 私としてはこれでも物足りないと思っていたところだ」
善知鳥「まあ、いい。これで監督役はコルト神父から私に移譲された」
車の中で白目を剥いたコルトは身動き一つしない。
歴史家は立ち上る煙を見つめている。
歴史家「開戦の狼煙と言うには些か弱々しい……」
善知鳥はちらりと空に立ち上る煙を見て、
善知鳥「随分と趣のあることを言うものだ。が、君も歴史家であるなら知っているはずだ。いつの世も戦争とは些細なことから始まる。誰も目に留めていないところから火は回るものだ。ならばこの始まりも予定調和に相違ない。問題あるまい?」
善知鳥は歩き出す。
歴史家は善知鳥の背中に目を向け、立ち上る煙に視線を移す。
歴史家「……問題はない。順調そのものと言えよう。……ただ、これは私に与えられた役目であり、要は様式美だ。……これだけは言わせてもらおうか……」
○タイトル
歴史家の声「……始めようか。【聖剣戦争】を」
黒み
T「聖剣戦争」
了