○都内総合病院 外観 夜
閑散とした五階建ての白い建物。
○同 ICU集中治療室 夜
ベッドで眠っている人口呼吸器をつけたルイス。
生体情報モニタでは心電図などがモニタリングされている。
ガラス越しにルイスを見つめるエミリア。瞼を閉じる。
○同 廊下 夜
長椅子に俯いて座っているなずな。
ダグマルの声「藤戸様」
疲れた表情のダグマルが姿を見せる。
なずなは立ち上がり、
なずな「せ、先生は?」
ダグマル「……単刀直入に申し上げますと予断を許さない状況とのことです」
長椅子に腰を落とすなずな。
ダグマル「お気を確かに。医師は最善を尽くしました。後は坊ちゃん、旦那様の生命力次第。とあればーー」
声もなく泣くなずな。
ダグマル「ーー大丈夫です。……あの方にはまだ成さねばならないことがあります。旦那様は自分の成すべきことを途中で放り投げるような方ではありません」
頬を濡らすなずなはダグマルの顔をじっと見つめる。
ダグマルは優しく微笑む。
○同 ICU集中治療室 夜
ガラス窓の前に立っているエミリア。背後には白衣姿のソフィア・スミルノフ(三六)が立っている。
ソフィア「ーー【魔術、回路】の損傷はかなり深い、です。切断まで至っていないですが回復は、厳しいと言わざるを得ません」
額に汗を浮かべるソフィア。
×××
(フラッシュ)
薄暗い部屋。蝋燭の火が揺れる。
アンティーク調の浴槽。
半透明の緑色をした液体に浸かるリュカ。瞼は閉じられている。
×××
エミリア「世話をかけるわね。体内に埋め込まれた楔だけど……」
ソフィア「その! ……恐れながら、それ以上の深入りは避けたほうがよいかと」
エミリアはソフィアの顔を見る。
ソフィア「彼の保護までは、よしとしましょう。ですが、エミリア様が行おうとしているそれはアトロフスカの深奥を盗み見る行為に他なりません。も、もしばれでもしたら……」
視線を逸らすソフィア。
エミリア「……確かに貴女の言うとおり争いの火種に成りえるのは理解しています。だからこそ対策は十全に行いました。ーーそれに私はアトロフスカの魔術に興味はありません。ただ彼、リュカくんの命を、少しでも長く続けられるよう尽力するだけです」
ソフィアは恐る恐るエミリアに視線を向ける。
落ち着いた表情のエミリア。
エミリア「大丈夫」
○渋谷 スクランブル交差点 朝
人の往来が激しいスクランブル交差点。
大型ビジョンには半壊したグレアムホテルと【二四階建てホテルの上層階が半壊】の文字が映っている。
○ルイスの家 全景 朝
庭付きの豪奢な一軒家。
急勾配の屋根に大きな窓がついている。
○同 客室 朝
リベラの声「ーーでは、【聖杯戦争】を継続すると」
エミリアの声「えぇ」
エミリアは首肯し、真向かいに座るリベラに目を向ける。
エミリアの背後にはダグマルがおり、テーブルを挟んでリベラとキュレルが座っている。
リベラ、キュレルは共に白いローブをまとい、瞳は赤い。
リベラ「……勝てる見込みは限りなく低いと思われますが」
エミリア「嘆いても現状は何も変わらないわ。常に最善手を探るまでよ」
キュレルはエミリアをじっと見ている。
リベラ「理解に苦しみます。シュネーの立てた【マスター】は倒れ、【サーヴァント】は魔術師でもない余人頼み。一体どこに勝機があるというのでしょう」
真顔のエミリア。
リベラ「エミリア。【聖杯戦争】において貴女がどのように立ち回ろうと構いません。ですがーー」
エミリア「ーーお気遣いありがとう。心配しなくても私、むざむざやられるつもりはないの。それと勝機なんて案外どこにでも転がっているものよ?」
不敵な笑みを浮かべるエミリア。
キュレル「強がり。……どうでもいい。私たちは貴女の体さえ残っていればそれで」
リベラ「結構です」
リベラ、キュレルは同時に立ち上がり、
リベラ「陰ながら応援させていただきます」
○同 客間 朝
手入れの行き届いた調度品。
埃ひとつない部屋。
エプロンドレス姿のアニス・フォーゲル(一四)は首を傾げる。
アニス「んんー?」
○同 廊下 朝
埃ひとつない廊下。
エプロンドレス。片手にはモップ。額の汗を拭うなずな。目元が腫れている。
なずな「よし。……次は」
アニスの声「ふ、藤戸様~!」
なずなが振り返ると掃除用具を携えたアニスがばたばたと走ってくる。
なずな「どうしたんですか?」
今にも泣きそうなアニス。
アニス「どうしたもこうしたも、私から仕事を奪わないでくださいよ~!」
○同 玄関 朝
しわひとつない玄関マット。
瑞々しい観葉植物。
○同 廊下 朝
なずなの声「そんなつもりはないですよ。ほら、朝起きてやることもなかったので」
困惑顔のなずなとむくれ顔のアニス。
アニス「藤戸様はお客様なんです! 掃除はメイドの私に任せてゆっくりとお休みになっていてくださいまし」
なずな「私なら、ほら。全然平気ですよ!」
ささやかな力こぶを見せるなずな。
目を丸くするアニス。
ダグマルの声「(咳払い)どうした? 何かあったのか?」
アニス「ダ、ダグマルさん!?」
なずなとアニスが振り返るとエミリアとダグマルが姿を現す。
エミリア「朝から元気ね。おはよう。なずなちゃん、アニス」
○同 ダイニング 朝
アニスがエミリアの前に置かれたカップに紅茶を注ぎ、一礼して下がる。
エミリア「ありがとう」
エミリアはカップの取っ手を掴み、視線を真向かいに座るなずなに送る。
エミリア「体調はどう? 少しは眠れたかしら?」
なずな「はい、昨日はよく眠れたし気合も十分です」
エミリア「……なずなちゃん。昨日、貴女が体験したことはーー」
なずな「ーー私は大丈夫です!」
エミリア「そう……」
エミリアは周囲を視線を送る。
エミリア「キングアーサーの姿が見えないようだけど?」
なずな「アーサーさんは疲れたから【霊体化】? するって言ってました。なにかあれば呼んでちょうだい、って」
ダグマルの声「やはり【宝具】の連続使用となると多大な魔力を消費するのでしょうな」
エミリアの背後にダグマルとアニスが控えている。
エミリア「魔力については試したいことがあるの。……でも、その前に」
エミリアはなずなを見る。
首を傾げるなずな。
○原宿駅前 昼
人通りの多い原宿駅前。
年齢層が若いグループが談笑しながら歩いている。
アニスの声「おおお!!」
ユニセックスな衣装のアニスは大きく目を見開き、辺りを見渡す。
エミリアの声「こらこらアニス。あんまりはしゃがないの」
シックな装いのエミリアが微笑む。
アニス「だって原宿ですよ? 若者たちのパラダイス! 激ヤバ!!」
走り回るアニス。
ワンピースにカーディガンを羽織ったなずなは浮かない表情をして、少し離れたところに立っている。
エミリアはなずなに手を差し出し、
エミリア「なずなちゃんもそんなとこにいないで、ほら」
なずな「……その、遊んでる時間なんてあるんですか?」
エミリア「ふふ。なずなちゃん、真面目すぎ。大丈夫! お姉さんを信じなさい」
なずな「で、でも」
エミリアはなずなの手を取り、アニスの元に向かう。
○ブティック 店内 昼
試着室から出てきたエミリアとアニス。
愛らしいフェミニンコーデのエミリア。
ガーリースタイルのアニス。
なずなはため息。
二人の影に気づくなずな。目の前に目を輝かせたエミリアとアニス。
二人は各々衣装を持ち、なずなに迫る。
なずなは目を大きく開ける。
試着室から出てきた大人っぽい衣装のなずな。頬を赤くし、視線を逸らす。
エミリア、アニス「きゃ~~~!!」
なずなはカーテンを勢いよく閉める。
満面の笑み店員。レジの側には大量の紙袋が置かれている。
同じく満面の笑みのエミリアの手には黒いカード。
○原宿 街路 昼
タピオカドリンクの看板を掲げたフードトラック。
店員からタピオカドリンクを受け取るエミリア。カップのデザインに目をキラキラさせる。
ガードレールに腰掛け、エミリアを見ているなずな。視線を落とす。
アニスの声「どうなされたのですか?」
なずなは隣に座るアニスを見る。
クレープを美味しそうに頬張るアニス。
なずな「いや、別になんでもないです」
アニス「心配しなくても街中で襲われるようなことはないと思いますよ?」
なずな「え?」
アニス「魔術師なんて陰キャ集団だからパリピで溢れている原宿には近づけないと、エミリア様が言っていたでしょう?」
なずな「そ、そんな言い方でした?」
アニス「なので藤戸様は安心なさって英気を養ってください。エミリア様もそれを望んでいられるはずです!」
なずな「はあ」
なずなはタピオカドリンクを運んでくるエミリアに視線を送る。