○ルイスの家 全景 夕方
○同 居間 夕方
伸びをするエミリア。
紅茶を注ぎ、エミリアの前にカップを置くダグマル。
エミリア「ありがとう、ダグマル」
ダグマル「随分と羽をのばしておいででしたね」
エミリア「ええ、とても。なずなちゃんとアニスを振り回しちゃったみたいだけど」
ダグマルは微笑み、
ダグマル「先ほどアニスがエミリア様に服を買っていただいたと喜びながら私に見せにきました。お気遣いありがとうございます」
エミリア「そう、よかった」
エミリアが紅茶に手を伸ばすと扉が開く音が聞こえる。
エミリア「なずなちゃん?」
× × ×
なずなの前に紅茶が置いてある。
なずな「……あの、私に何かできることはないですか? 何も知らない私が勝手なことを言っているのはわかります。でも、何かできることがあればーー」
エミリア「なずなちゃん」
エミリアはなずなを見つめる。
エミリア「落ち着きなさい。ルイスのこともあって貴女が落ち着かないのもわかるけど、今の私たちにできることは多くないの。なずなちゃんは体を休めること。いいわね?」
ぎゅっと拳を握り、なずなはその場で立ち上がる。エミリアの目を見る。
なずな「私は大丈夫です! 昨日はその、【グレアムホテル】で先生やアーサーさんの足を引っ張ってしまったけど、今度はちゃんとやります、やれますから……」
エミリア「貴女に何ができるの?」
目を見開くなずな。
エミリア「いい、なずなちゃん。【聖杯戦争】は【サーヴァント】同士の殺し合いなの。貴女も見たでしょ? 魔術師ですら割り込むことのできない、でたらめな争いを」
なずな「そんなこと……」
エミリア「頼みの綱である貴女の【サーヴァント】も実体化するだけの魔力もない。貴女がすべきことは体を休めて魔力の回復に努めることーーわかるわね?」
俯くなずな。
エミリア「心配しなくても大丈夫。幸い他の【マスター】も動きを見せていない。今はどんっと構えて機会を窺いましょう」
× × ×
(フラッシュ)
ひしゃげた左足。
血で染まった腹部。
口元から血が流れるルイス。揺らぐ瞳。
× × ×
なずな「(消え入りそうな声で)時間がない」
なずなはテーブルを思いっきり両手で叩く。
目を丸くするエミリアとダグマル。
なずな「先生は! 先生は今も苦しんでる。【聖杯】があれば先生は助かるんでしょ!? ……アーサーさんは一日休めば大丈夫って言ってた。【マスター】だか【サーヴァント】だか知らないけどアーサーさんなら全部やっつけてくれる。先生を助けてくれる!!!」
顔が涙でくしゃくしゃになったなずなはエミリアを睨む。
エミリア「ーー何を言っているの?」
なずなはエミリアから目を離せない。
エミリア「貴女は私たちの願いに賛同したからこそ、貴女はここにいるのでしょう?」
なずなは奥歯を噛み締める。
エミリア「貴女の願いは私たちの願いにそぐわない。それは理解できてる?」
拳を震わせるなずな。
なずな「人でなし」
エミリアは眉も動かさない。
なずな「先生は貴女の大切な人じゃないんですか? 大切な人が苦しんでるのに何もしないなんて……」
なずなはエミリアをじろりと睨む。
なずな「貴女は、私たち私たちって言ってますけど、先生はラウラちゃんと一緒の時間を取り戻したくて頑張ってきたんでしょ!? でも、死んだら意味ないじゃないですか……。先生の気持ちは、どうなるんですか?」
なずなは嗚咽を漏らしながら、
なずな「……貴女がそういう人だからーーー」
エミリア「ーーーだから、その発言が私たちの願いの趣旨にそぐわないの」
人間味を感じさせない表情のエミリア。
息を呑むなずな。
エミリア「なずなちゃん。この際だからはっきり言っておくけど、【聖杯】はラウラのために使うの。それ以外の使い道はあってはならない。天秤にルイスとラウラをかける必要すらない。そうーー例え、ルイスが死のうとも、私はラウラを救う」
なずなの目にエミリアの姿が映る。姿勢正しく胸を張って座るその姿。しっかりとなずなを見据えた瞳。その虹彩はやや赤みがかっている。
黒み。
なずな(M)「気持ち悪い」
○同 客室 夜
無人の部屋。
ベッドの上に服の入った紙袋が置いてある。
○同 全景 夜
夜空に月が浮かぶ。
○リバームハイム 外観 夜
五階建てのアパート。
灯りの点いてない三〇四号室を見上げているなずな。
×××
(フラッシュ)
ガラス張りでできた浴室のドアがわずかに開いている。
浴槽に張られた水は赤く濁っている。
血の付着したカッターナイフ。
浴槽に体を預けている藤戸茅子(三七)。虚ろな目、青い肌。
×××
なずなは口元を抑え、その場にしゃがみ込む。
○廃ビル 教室 夜
教室の窓から月明かりが差し込む。
薄暗い教室の窓辺で佇んでいるなずな。
なずなの後ろで赤い粒子が舞い、人の姿を形取る。
アーサーの声「どこをふらついているのかと思えば、廃ビルだなんて。私、信頼されているのですね。当然といえば当然ですが」
振り返るなずな。
なずな「……アーサーさん」
アーサーは机に座っている。
アーサー「どう? 少しは落ち着きまして?」
なずなはアーサーへの視線を切る。
アーサーはため息を吐く。ふと、教室に差し込む月明かりに目をやる。
アーサー「……なずなとお逢いしたのもここでしたわね。【聖杯戦争】においてお姫様抱っこしながら召喚に応じた【サーヴァント】など私の他にいないのではなくて?」
微笑むアーサーをなずなは横目で見る。
アーサー「ピンチの乙女を救いに颯爽と現れる騎士、キングアーサー。これ以上の華麗なる登場がありまして?」
胸を張るアーサーを横目に見て、笑いが漏れるなずな。
なずな「……あの、アーサーさん。ちょっと付き合ってもらえませんか?」
○同 屋上 夜
月明かりに照らされる屋上。
アーサーは目を見張る。
照れくさそうにちらちらとアーサーを見るなずな。
アーサーは屋上の中心に引き寄せられるように歩く。
アーサー「ここは……いったい?」
なずな「私と先生の隠れ家です。……辛いときにいつでも逃げてこれるようにって、先生に教えてもらったんです」
アーサー「そう……」
なずなの頬に一筋の涙が伝う。
手を震わせて咽び泣く。
アーサーは眉を落とし、なずなをそっと抱きしめる。
なずな「(泣きじゃくりながら)先生を、先生を助ける方法があるのに。 なんで助けちゃダメなの? なんで!? なんでなの!?……なんでーー」
アーサーの胸で泣きじゃくるなずな。
雲ひとつない夜空に浮かぶ月。
ベンチに座るなずなとアーサー。
なずな「取り乱しちゃってごめんなさい……」
アーサー「大切な人が今も生死の間を彷徨っているのです。取り乱すのも無理ありませんわ。大切な人を助けたい。何も貴女は間違ってはいない……」
アーサーは月夜を見ながら口にする。
横目でアーサーを見るなずな。
アーサー「そう、間違ってはいないのです。でも、エミリアもまた、間違ってはいないのですわ……」
なずなは顔を伏せる。
アーサー「考え方や物事の方向性が違うだけのよくある衝突。ですから折り合いがつかないのであれば、貴女は貴女の道をお行きなさい。貴女が望むなら、私はシュネーに剣を向けますわ」
なずな「エミリアさんは……先生のこと、愛してない」
ぼそりと口にするなずな。
アーサー「さあ、どうなのかしら。直接聞いてみればわかるのではなくて? 言ってやればいいのです。傍からはそう見えないと……」
アーサーは一旦区切り、
アーサー「とんだお笑い種ですわ」
独りごちるアーサーになずなは微かに首を傾げる。
アーサーは一息をつき、
アーサー「(手をぱんっと叩く)さて、帰りますわよ」
なずな「え?」
アーサー「え? じゃありませんわ。貴女ここで夜を明かす気でいますの? 外敵への備えもないところでどう体を休めるというのです?ーー」
重低音が屋上に鳴り響き、なずなは耳を塞ぎ、アーサーは剣を構える。
○同 壁面 夜
女が乗る赤い車体のVMX12が壁を駆け上がる。
○同 屋上 夜
VMX12が屋上に飛び出て、勢いそのままに宙を舞う。
なずなとアーサーは目を見張る。
○タイトル
T「結びと絡まり」
了