○インサート
黒味。
覚醒するなずな。
なずなは薄紫色の花吹雪が舞う周囲を見渡し、感嘆の声を漏らす。
アーサーの声「なずな?」
なずな「アーサーさん?」
なずなの前にアーサーとダグマルが姿を現す。
二人の背後にはニコラスと武士の姿がある。
アーサー「大丈夫ですの?」
なずな「はい。でも、ここは……ん?」
なずなは鼻に手を当て、眉間に皺を寄せる。
アーサーとダグマルも鼻に手を当てる。
ダグマル「この臭いは……」
花吹雪が勢いを増し、五人は身を庇うように体勢を取る。
花吹雪が止み、視界が徐々に開ける。
なずなは目を大きく見開く。
人の手。
胴体から切り離された手。
傍には悶絶に顔を歪ませた青年の亡骸が横たわっている。
なずなは口に手を当て、その場で腰を落とす。
青年から逃げるように視線を逸らしたなずなは体をびくっとさせる。
なずなの視線の先には赤黒くベタついた髪、頭蓋骨が陥没した虚ろな目をした女性が倒れている。
そして、その奥に佇む一人の大男。
大男ーー巨躯の騎士は血に塗られた白銀の甲冑に身を包み、右手には十字を象った剣を持ち、左手には大盾を携えている。
巨躯の騎士を見て全身が固まるなずな。
アーサー「何がどうなっているのか判然といたしませんが、お久しぶりですわね? 私の敵」
ニッと笑うアーサー。剣先を巨躯の騎士に向ける。
ピクリともしない巨躯の騎士。
眉間に皺を寄せるアーサー。
アーサーは一息ついて、剣を下ろし巨躯の騎士に背を向ける。
納刀の音が聞こえ、
武士「(舌打ち)つまらん。興が醒めたわ」
アーサーはなずなに手を差し出す。
アーサー「なずな。立てまして?」
なずな「……大丈夫です。でも」
なずなはアーサーと巨躯の騎士を交互に見る。
アーサー「心配せずとも大丈夫ですわ。あれはまやかしですもの」
善知鳥の声「おっしゃる通り心配せずとも結構です。ここはある凶行を再現したに幻に過ぎません。……ことの重大性を詳細にお伝えしたく、このような手段を取らせていただきました」
薄暗い路地裏。
複数の斬殺された遺体。
善知鳥の声「ここ数日の間、都内にてこのような凶行が散見されています。現場の状況から鑑みるに人ならざる者の関与を疑われまして、私どもも調査に入り、ーー結果、この凶行に及んだ罪人は【聖杯戦争】の参加者であると断定いたしました」
全員が巨躯の騎士に目をやる。
善知鳥の声「皆さまの目の前にいる六番目に召喚されたセイバーの【サーヴァント】、便宜上、6thと呼称させていただきますが、その6thが惨劇を産んだ張本人であります。そしてーー」
全員の目の前に荒い画像が現れ、伊夫伎忠愛(三七)が映っている。
善知鳥の声「6thの【マスター】である伊夫伎忠愛。彼にもその幇助の嫌疑がかけられています」
なずなは伊夫伎の画像を見ている。
善知鳥の声「犠牲者は皆、一般人であり共通点がないことから通り魔的犯行である可能性が高い。【神秘の秘匿】を軽んじる行為を監督役として放置するわけにもいきません。6thとその【マスター】に罰則を与えます」
パサっという乾いた音が聞こえる。
○教会 室内 夜
閉じた分厚い本を持った歴史家が一歩下がり、善知鳥は代わりに一歩前に出る。
善知鳥「6thとその【マスター】の討伐に協力していただけますか?」
チャーチチェアに座るなずな、アーサー。その傍に立つダグマル。
前方のチャーチチェアにふんぞり返って座る武士。壁際に立つニコラス。
ざくろの声「補足だけど、この事態は急を要するの。こうしている間にも6thは無差別に人を殺めているかもしれない。人死の隠蔽にも限界があるし、最悪【聖杯戦争】が公になる可能性だってある。そんなこと、【魔術協会】や【聖堂教会】が許さない。彼らの介入があれば貴方たちは【聖杯戦争】どころではなくなる。それは不都合でしょ? だからーー」
武士「ーーおい、女。そら、儂に言うとるんか?」
武士は鋭い視線を後方のざくろに向ける。
武士「べちゃくちゃ喧しい。女ごときがでしゃばるな」
パーシヴァルは剣の柄を握り、武士に刺すような視線を送る。
武士は犬歯をのぞかせ、太刀を掴み立ち上がる。
ざくろ「2nd」
パーシヴァルは横目でざくろを見て、剣の柄から手を離す。
武士「ーーなんや、やらんのかい」
善知鳥はパン! と手を鳴らす。
善知鳥「これは連絡が遅くなり、失礼いたしました。2ndの【マスター】である彼女は私どもの協力者です。今回の作戦に当たり、彼女には皆様のサポートをお願いしています。何かありましたら彼女におっしゃっていただければ、後ほど私どもで対応させていただきますのでよろしくお願いいたします」
善知鳥は武士に微笑む。
武士は舌打ちすると太刀を置いて、チャーチチェアに座り直す。
善知鳥「6th討伐に対する報酬についてですが、参加表明をされた陣営の【マスター】には【令呪】を一画譲渡いたします」
善知鳥が右腕の袖を捲るといくつもの【令呪】が刻まれている。
善知鳥「さらに6th、または【マスター】である伊夫伎の排除に最も貢献していただいたと私どもが判断した場合、追加報酬としてもう一画譲渡いたします。ーー彼女からもありましたように事は一刻を争います。是非ともご協力をよろしくお願いいたします」
善知鳥は頭を下げる。
× × ×
黒味。
教会堂の祭壇前には誰もいない。
アーサーの声「あぁ、もう~~っ!! なんなんですの~~っ!? 私たちは一刻も早く団結して、6thの討伐に乗り出さなくてはなりませんのに。あのサムライは~~っ!」
顔を真っ赤にして憤慨しているアーサー。その隣に困り顔のなずなとダグマル。作り笑いを浮かべるざくろとパーシヴァル。
アーサー「何がーー」
○(回想)同 室内 夜
武士は得意げな顔で、
武士「ーー儂は一人でやらせてもらうわ」
アーサーはチャーチチェアから立ち上がり、
アーサー「貴方、この状況で単独で動く意味をわかっていますの? 民の命がいつ失われるか分からぬこの状況で、最も効果的な解決策は私たちが共同戦線を張るに他なりません。私たちは手を取りあうべきなのです!」
武士「せやからあんたはそこのけったいな男と組んだらええやろ? 儂は別に止めへんよ」
前のめり気味のアーサー。その後ろには武士を見つめるパーシヴァルの姿がある。
アーサー「ですから私と2nd、そして貴方の三人でより確実にと……」
武士「何遍も言わせんなや! 儂は一人でやる言うてるやろ。心配せんでもあのでかぶつの首はあんたらより先に儂が獲ったる。それでええやろ? 何の問題もあらへん。ーーほんだらな」
教会堂を立ち去ろうとする武士。ニコラスは後に続こうとする。
アーサー「ち、ちょっと」
武士は足を止める。
武士「儂な、あのでかぶつとちいとばかし前に斬り合うとるんや。まだ決着が着いてへん。せやからあれは儂の獲物なんや。ま、あんたらかて事情があるんやろうからでかぶつを狙うんは好きにしたらええ。せやけどーー」
武士は振り返り、
武士「ーー儂の邪魔するんやったら、それ相応の覚悟をしとき」
武士はアーサーとパーシヴァルを鋭く睨め付ける。