〇シュネー家 客間 夜
窓から見える木にコウモリが留まっている。
リュカは険しい表情をしている。
ルイスは平静さを取り戻している。
切能「セオドアのことは既知のようだな」
ルイス「えぇ、【時計塔】の【
リュカ「オレはあの男が召喚した【サーヴァント】の容姿、能力、そして真名。大体のことを知っている」
ルイスは驚く。
リュカ「理由は単純だ。セオドアが奴を召喚したとき、オレもその場に居たからな」
リュカは嫌そうな表情を浮かべる。
リュカ「リュカ・バリュエレータ・アトロフスカ。これがオレに押し付けられた名前だ」
ルイス「では、君が調査報告にあった養子の……」
切能「情報の信頼性の保証としては十分であろう。知る限りの情報を渡すつもりだ」
アーサー「その養父と結託し、こちらを罠にかける魂胆ではなくて?」
切能「断じてない。我が主がセオドア向ける敵意は本物だ」
アーサー「口ではなんとでも言えましてよ。信用に値する証左を見せてくださる?」
切能「……あい分かった。……主」
リュカは舌打ちして椅子から立ち上がると、上半身の服を脱いで椅子の上に放る。リュカの体にはいくつもの楔状の金属部品が埋め込まれており、左脇腹には【令呪】が三画、刻まれている。
リュカ「
リュカの体の表面に夥しい量の【魔術回路】の線が浮かび上がり、発光する。
ルイス「これは……!」
部屋の調度品が震え、部屋の明かりが明滅する。リュカの鼻腔から一筋血が流れる。表情は苦しそう。
〇(回想)アトロフスカ邸 門 昼
暗褐色の髪に暗青色の瞳をもつリュカ・バリュエレータ・アトロフスカ(七)。両親に連れられて門に向かう。
門の前で微笑みながらリュカを出迎えるセオドア・バリュエレータ・アトロフスカ(三六)。
〇(回想)同 工房 夜
薄暗い室内。中央の空間だけ灯りに照らされている。
手術台に拘束されているリュカに多様な道具を使い改造を施すセオドア。リュカは痛みに叫ぶ。
〇(回想)同 リュカの私室 夜
ベッドの上で苦しみながら呻くリュカ。金髪碧眼に変わっている。
〇(回想)同 書斎 昼
セオドアから魔術の鍛錬を受けるリュカ。魔力行使の負荷に苦しんでいる。
〇(回想)同 書斎 夕方
机に向かい、セオドアの魔術学の講義を受けるリュカ。表情は憔悴している。
〇(回想)同 工房 夜
暗い部屋の中でリュカの苦悶の声が響いている。手術台の上に拘束されているリュカ。燭台の明かりに照らされている。
その傍らでセオドアは粛々とリュカに施術している。鉛色の楔を明かりにかざして眺めると、口の端を上げる。それをリュカに埋め込む。リュカは苦悶する。
セオドアは施術の手を止める。
セオドア「美しい」
嬉しそうに話すセオドアを、リュカは朦朧としながらも睨みつける。
セオドア「喜べ。また一段、お前は魔術師としてより高みへと上ったのだ。アトロフスカの魔道を受け継ぐために」
(回想終わり)
〇シュネー家 客間 夜
リュカの魔力が空気を震わせている。
リュカ「
リュカの【魔術回路】の発光は止み、部屋の異変も収まる。リュカは左手の甲で鼻血を拭う。
リュカは左腕に埋まった金属部品を恨めしそうに睨む。
ルイス「……ひとまずは信用しましょう」
リュカは再び服を着直す。
切能「うむ。では話を戻す。セオドアの【サーヴァント】はセイバー。真名をヴェルンドという」
ルイス「ヴェルンド……北欧神話に登場する鍛冶師ですね。しかし、セイバー、ですか」
切能「此度の【聖杯戦争】において召喚される【サーヴァント】の【クラス】はセイバーだけだ。聖剣使いから聞いてないのか?」
ルイスはアーサーを一瞥すると、視線をリュカたちに戻す。
ルイス「あぁ……いえ、聞いています。ただ、鍛冶師なら本来、キャスタークラスが適当だと思ったので」
リュカ「その感想はあながちはずれじゃない。実際、奴の能力はキャスターじみていて、工房を構え、様々な道具を作ることができる」
アーサー「お世辞にも戦闘向きとは言えない能力ですわね。私の力を当てにする必要などないのではなくて?」
切能「前者は正しいが、後者は誤りだ聖剣使い。たしかにヴェルンドは剣の技にこそ疎いが、能力に都合がよいためか自身の工房で穴熊を決め込んでいる。工房は堅牢な城も同然だ。これを破る手立てが欲しい」
ルイス「ですが、いつまでも引き篭もっているということはないでしょう?」
切能「あぁ。しかし、そこが最大の問題なのだ。奴が穴倉から這い出てくる。それはつまり、神すら殺める宝具を手にしたことを意味する」
ルイス「それは……」
リュカ「■■■■■■■」
ルイスとアーサーの表情に動揺が浮かぶ。
切能「分かったか? 完成は必ず阻止せねばならない」
ルイス「時間を与えれば与えるほど力を増していく、ということですか」
アーサー「言い換えると、すぐに仕掛ければ勝ち目はある、ということですわね。それで、勝つ筋道は立っていまして?」
切能「切札がある。一騎打ちの場さえ用意できれば、妾はどんな相手であれ絶対に敗北することはない」
切能は毅然とした態度で宣言する。
〇同 外観 夜
夜空に浮かぶ月。雲が流れる。
〇同 客間 夜
あごに手を当てて唸るルイス。
ルイス「……確かにその手段が使えるのであれば、勝利は確実と言えるでしょうね」
ルイスはアーサーと目配せを交わす。アーサーは静かに頷く。
ルイス「……同盟を結んでも構いません。ただし、条件があります」
〇同 一室 夜
月明かりに照らされる室内。
ベッドで眠っているなずな。少し苦しそうに呻く。
アーサーはベッドに歩み寄ると右脇に座り、なずなの顔を見つめる。次第に視線を右手の甲にある【令呪】へと移す。
静かに目を閉じるアーサー。少しして、目を開きなずなの顔へ視線を戻す。
アーサーはそっと手を伸ばし、なずなの頬を撫でる。
アーサー「……赦しは後で請いますわ」
アーサーはなずなの唇にキスをする。次第に、赤みがかった淡い光を纏う。
〇同 ルイスの私室 夜
ルイスは苦々しい表情を浮かべ、眉間を指で押さえると、嘆息する。
ルイス「セイバークラスのみが召喚され、聖杯を望まない【マスター】が参加し、呼び出した【サーヴァント】が別の人間と契りを交わす。これを異様と言わずになんと言えばいい」
エミリア「キングアーサーが今回の異例について知らなかったのは、どうして?」
ルイス「わからない。彼女自身、訝しんでいたけれど。【令呪】が藤戸さんに移ったのと同じで原因は不明だ」
ルイスは机の上に置かれた巻物に視線を落とす。
〇(回想)同 客間 夜
テーブルの上に巻物【
ルイスは巻物にペンを走らせる。ルイスの傍にはダグマルが控えている。書き終えたルイスは、巻物をダグマルに渡す。
ダグマルは巻物をリュカの目の前に広げてみせる。
リュカ「これは……」
ルイス「魔術師の間で使われる誓約書です。約定を違えれば、死に至る呪いがかかります」
ルイスはリュカの表情を窺う。リュカは平然としたまま巻物を読むと、あっさりサインする。
(回想終わり)
〇同 ルイスの私室 夜
ルイスは右手の甲を見る。【令呪】が二画、刻まれている。
ルイス「厄介な仕事は増えたけれど、最大限の利益を出せるよう努めよう」