〇シュネー家 一室 夜
月明かりが差し込む室内。シーツの擦れる音がする。
なずなはベッドの上で目を覚ますとゆっくりと起き上がる。右手の甲を見ると、変わらず【令呪】は残っている。
×××
(フラッシュ)
赤い稲妻と乱気流がなずなの周囲に生じ、【魔術回路】が強く発光している。苦痛に呻きながら仰け反るなずな。
×××
俯くなずな。と、そこにノックの音が響く。一拍間があってから、ダグマルが部屋に入ってくる。
ダグマル「お加減はいかがですか?」
なずな「…大丈夫です」
声が若干弱弱しいなずな。
なずな「あの……」
なずなが口を開こうとすると、くぅ、とお腹が鳴る。
ダグマル「今、お食事の用意をしております。ですが、その前にお召し替えされたほうがよろしいかと」
なずな「…はい」
〇同 脱衣所前 廊下 夜
人気のない廊下。二人分の靴音が響く。
ダグマルに連れられて歩くなずな。ドアの前まで到着する。
ダグマル「では、後ほどメイドが着替えをお持ちしますので。ごゆっくりどうぞ」
お辞儀をしてダグマルはその場から去る。なずなはしばらくダグマルの方を見ていたが、ドアに向き直りドアノブに手をかける。
〇同 脱衣所 夜
なずながドアを開けると、そこには裸のリュカが立っている。リュカの横には湯浴み着を着た切能がリュカの髪を拭く手を止めている。
なずなはリュカの裸を見て唖然とするも、慌てて脱衣所から出ようとする。
なずな「ごめんなさーー!」
なずなが言い終える前に、切能はなずなの右腕を掴み脱衣所に引きずり込む。勢いのまま床に座り込み戸惑うなずな。
腕を掴んだまま、切能はリュカを見る。
リュカの視線はなずなの右手の甲に刻まれた【令呪】に注がれている。
リュカ「ふん。温室育ちですって顔つきの割に、中々食えない男じゃないか」
〇同 ダイニング 夜
テーブルを囲むルイス、エミリア、なずな、アーサー、リュカ、切能。アーサーは平服。切能は甲冑姿。
なずな、すまなそうにルイスを見る。
ルイス「隠していたことは謝ります。後に回しても問題ないと考えまして」
ルイスは右手の革手袋を外し、【令呪】をリュカに見せる。リュカから譲渡された二画分が刻まれている。
リュカ「別に責める気はないさ。オレがあんたの立場なら同じことをやった」
ルイス「しかし、あなた方には部屋で待っていてもらうよう伝えたはずですが」
リュカ「ここ数日寝泊まりする場所がなくてな。汗を流すくらい問題ないだろ。そっちの【マスター】と鉢合わせたのは不可抗力だ」
なずなはリュカと切能を観察する。
×××
(フラッシュ)
夥しい数の金属部品が埋め込まれた
リュカの体。左脇腹には【令呪】が一画刻まれている。
×××
ダグマルとメイドが料理を乗せた皿を食卓に給仕する。【サーヴァント】の分も用意されている。
エミリア「どうぞ。召し上がって」
リュカが料理に手をつける様を、切能は一瞥する。リュカは切能の視線に気づくと小さく舌打ちして、平然と食べ続ける。
リュカ「で、なんでこの女が【マスター】に? 昨夜までは、あんたが【令呪】を宿していた筈だろう」
ルイス「そうなんですが……原因はまだ分かっていません」
リュカはナイフをアーサーに向ける。
リュカ「騎士王サマにも分かっていないのか?」
ルイス「……どうやら召喚時の特異な状況のせいで、【聖杯】からの知識や記憶が一部欠けているようなんです」
リュカ「よくそんな状況でオレたちと……いや、逆か。だからこそ、同盟を組んだってわけだ」
リュカ、ナイフを下ろす。
リュカ「しかし、そちらの【マスター】が予定と違うなら、作戦に支障を来たすんじゃないか?」
思わず俯くなずな。すかさず、アーサーが口を開く。
アーサー「問題ありませんわ」
立ち上がり、不敵な表情を浮かべるアーサー。なずなは椅子に座ったままアーサーを見上げる。
アーサー「ブリテンを統べる王たる私が力を貸すのです。工房と言わず中に潜む鍛冶師ごと、まとめて切り捨ててみせますわ!」
ルイス「当然ですが、僕も全力で事に当たります。任せてください」
リュカ「……まぁ、いいだろう」
リュカは再び食事に移る。アーサーは椅子に座る。
ルイス「次はこちらの疑問に答えてもらえますか?」
リュカ「わかった。切能、説明してやれ」
切能「御意」
首肯く切能。
切能「妾が召喚の折に【聖杯】から与えられた知識の中にまずあったものが、此度の【聖杯戦争】で召喚される【サーヴァント】は全てセイバークラスであることと、己が何番目に【現界】したかということだ」
×××
(フラッシュ)
切能(M)「まず、妾は五番目だ。故に切能を名乗っている。……ヴェルンドの召喚より前に【現界】していた【サーヴァント】は三騎いる」
豪華客船の客室。
ベッドの上で素肌の上からガウンを毛布代わりにして眠っているオリエンタルな雰囲気の女性。ガウンからのぞく右脚の太腿に【令呪】が刻まれている。
バルコニーで、ガウンを着た美貌の男が星空を見上げながら鼻歌を歌う。
×××
(フラッシュ)
首都高速をライダースーツの女が赤い車体のVMX12で駆け抜ける。スーツには獅子の刺繍が施してある。
後部座席に座る青年は両手でグラブバーを握り、辺りを楽しそうに見渡している。
×××
(フラッシュ)
新宿歌舞伎町。
黒のロングコートを着た男が雑踏の中を歩く。わずかに露出する肌には刺青が彫られている。
それを傍にあるビルの屋上から見下ろす、腰に刀を二本差した袴姿の武士。
×××
(フラッシュ)
切能(M)「つまり、この三騎が一番、二番、三番にあたる。そして、妾の前に召喚されたヴェルンドが四番目」
竃の炎が室内を明るく照らしている。
壁には大小様々な剣や斧、槍などが掛けられている。
ヴェルンドはハンマーを片手に金床で剣を鍛えている。その眼はぎらぎらと輝いている。
×××
(フラッシュ)
切能(M)「昨夜、其方たちが戦った大男が六番目」
石造りの小さい部屋。薄暗い室内を蝋燭の火が照らしている。
磔台に上半身裸の巨躯の騎士が拘束されている。その背後には十字架が飾られている。
傍で椅子に腰掛け、知恵の輪を弄る伊夫伎忠愛(三七)。
×××
〇シュネー家 ダイニング 夜
切能「そして、最後に召喚された七番目が――」
全員の視線がアーサーに集まる。
アーサー、泰然としている。
アーサー「私、となるわけですわね」
切能「さらに、もう一つ。此度の【聖杯】はその本来の形を変え、剣を象っている」
×××
(フラッシュ)
真っ暗な空間。中央だけが明るい。
鎧を着た剣士を象った胸像が7体、円を描くように並んでいる。
円の中心で輝く【聖杯】はその輝きを強め、次第に【聖剣】へと形が変化する。
×××
切能「これは、七騎のセイバーによる【聖剣】争奪戦なのだ」
○タイトル
黒み
T「剣雄集う」
了