○同 客室 外観 夕方
雨が降っている。
窓際で立っているなずな。
◯同 客室 夕方
テーブルにはポットとカップ、皿にはスイーツが置いてある。
なずなは窓際に立っている。
雨音が響く。
なずなはソファに座る。
戸板に当たる雨音が聞こえる。
なずなはソファで蹲る。
雨音が聞こえる。
XXX
(フラッシュ)
浴槽に浸かった右手。
XXX
なずなは瞼を強く閉じる。
XXX
(フラッシュ)
水がちょろちょろ流れる音が聞こえる。
張った水は微かに赤く濁っている。
虚ろな目、青白い肌の藤戸茅子(三五)。
XXX
コンコンとドアをノックする音が聞こえる。
なずなは目を見開き、顔を上げる。
○同 庭 夕方
雨が降っている。
綺麗に整えられた芝。木製のブランコが風に揺れる。
○同 客室 夕方
なずなはカップに紅茶を注ぐ。
リュカはマフィンを口にする。
なずなはリュカに目をやる。
リュカは気にせずマフィンを口に運んでいく。
リュカ「心配するなよ。オレはあんたを殺せない」
なずなの動きが止まる。
リュカ「(舌打ち)……昨日、ルイスと結んだ盟約の禁止条項にあんたに危害を加えることも含まれている。これで満足か?」
なずなはリュカを見つめている。
リュカ「紅茶。飲みたいんだけど?」
なずなは我に返り、カップをリュカに差し出す。
なずな「……それで私に何を聞きたいんですか?」
リュカ「あのさ、そのイラつく喋り方なんとかなんない? あんたのほうが歳上だろ?」
リュカの視線から逃れるようになずなは視線を落とす。
リュカ「(舌打ち)まあ、いいや。で、あんたの名前、なずなでいいんだっけ?」
なずなは頷く。
リュカ「オレの聞きたいことはさ、別に難しいことじゃない。ただ、なずなにしかわからないことだ、オレはそれを聞きたい」
なずな「……どういうこと?」
リュカは一拍置いて、
リュカ「ねえ、今、どんな気持ち?」
リュカは悪い笑みを浮かべる。
リュカ「ほら、なずなの母親。……死んだんだろ?」
なずな、目を見開く。
リュカ「あんたはさ、どう思ってるかって話だよ」
なずなは我に返り、リュカに目を向ける。
ほくそ笑むリュカ。
なずな「……何がそんなに可笑しいの?」
リュカ「おかしいのはあんただ。こんな愉快なことは他にないだろ?」
なずな「愉快?」
リュカは冷ややかに笑う。
リュカ「笑え。笑えよ。クズだったあんたの母親は死んだんだ」
呆然と立ち尽くすなずな。
◯インサート
藤戸なずな(七)の顔が歪む。目は虚ろになり、口から唾液が垂れる。震える手は宙を掴む。
鬼の形相の茅子はなずなに馬乗りになって首を絞めている。
なずなは茅子の顔を見つめている。
◯黒み
ピシャリと音が鳴る。
○ルイスの家 客室 夕方
我に返るなずな。切能と頬を抑えたリュカの姿が目に映る。リュカの頬が微かに赤みを帯びている。
リュカの前に跪く切能。
切能「……ご無礼、お赦しを……ですが、些かお遊びが過ぎる……」
リュカ「(舌打ち)おい、切能。てめえ、使い魔風情の分際で誰に逆らったかわかってるのか?」
眉間に皺を寄せ、切能に鋭い視線を向けるリュカ。
真顔の切能。
切能「……その少女、未だ自身の置かれた状況を冷静に判断できるに至っておりませぬ。母親の死とどう向き合うか。その答えを見出す時間が必要かと。今は只、悪戯に彼女を刺激するべきではありませぬ」
切能を見つめるリュカ。くくっと笑い出し、次第に高笑いになる。
困惑しているなずな。
リュカ「…………母親の死とどう向き合うか。その答えを見出す時間が必要だ? ハハッ。誰がんな、話したよ? それは……家族の話だろ?」
リュカは切能を睨めつける。
リュカ「……今オレがしてるのは親の振りをしたクズとその所有物っつー家族ごっこの話だよ。なあ、切能。……お前がそれを言うのか?」
切能の眉が微かに動く。
リュカ「隻眼のあいつとお前は家族じゃないだろ? ……あいつはお前の子供じゃない。ただの道具だ。そうだろ?!」
リュカが声を荒らげても切能は黙ったまま跪いている。
リュカは振り返り、なずなに目を向ける。
なずな、リュカから視線を逸らす。
舌打ちをしてリュカはドアを荒々しげに閉めて、部屋を後にする。
○グレアムホテル 外観 夕方
繁華街から離れた立地にあるビル。
○同 スイートルーム 夕方
善知鳥の声「お久しぶりです。ミスター・アトロフスカ」
善知鳥元始(四二)は頭を下げる。善知鳥の後ろには象牙色のローブを着込んだ男、歴史家が立っている。
微笑むセオドア・バリュエレータ・アトロフスカ(三九)。
黒み。
セオドア「……しかし、コルト神父は本当に残念でしたな。まさか【聖杯戦争】が始まる時分にこのようなことになるとは」
セオドアと善知鳥はテーブルを囲んで座っている。卓上には紅茶が置かれている。
善知鳥「……ふ、人が悪いお方だ」
セオドア「これはこれは、随分な言い様ですな」
善知鳥「既知のことだとは思いますが、表向きには事故として処理しています。ですが、実際は何者かに狙われたと見るのが妥当でしょう。現在調査中ではありますが、【第八秘匿会】が絡んでいることは間違いないかと」
セオドア「ふふ、真の敵は身内にありというわけですか」
善知鳥「【聖堂教会】も一枚岩というわけではありません。【聖杯戦争】を極東の島国の儀式と揶揄する派閥もいますが、何せ魔力の規模が桁違いです。【冬木の聖杯】と危険視する者が少なからずいるのも事実です。これは完全に我々の落ち度になります」
セオドアは善知鳥を見つめる。
善知鳥、頭を下げる。
善知鳥「申し訳ございませんでした。我々【第八秘匿会】東京支部は早急に犯人を特定し事件を終息させることをお約束します。また、【聖杯戦争】の運営進行に支障が出るのではないかとの不信感はごもっとですが、運営進行は滞りなく進行させていただきたいと思っております」
善知鳥、顔を上げる。
善知鳥「……貴方に聖杯を勝ち取っていただけるようにこの善知鳥、責任を持ちましてご支援させていただきます」
セオドア「結構。そこまで仰るのであれば引き続きお願いしますよ。……善知鳥神父」
善知鳥「感謝いたします。……して、かの【宝具】の進捗は如何なものでしょうか?」
セオドア「ほう?」
セオドアは口角を上げる。
セオドア「順調と言って差し支えはない。いや、むしろ前倒しにことは進んでいますよ。何せ我が【サーヴァント】は四六時中【宝具】制作に明け暮れております。おかげで私も休む暇がない。まあ、芸術家というのは創作活動に没頭すると周りが見えなくなるもの。致し方ないといえば致し方ない。……あぁ、彼女の場合は鍛治師ですが」
笑うセオドアを見ている善知鳥。
善知鳥「それは重畳」
セオドア「七騎目の【セイバー】が召喚されたのを機に他のマスター供が小競り合いを始めたと聞くが私からすれば片腹痛い。情報収集を兼ねているのだろうが私の前では全てが遅い!」
善知鳥は紅茶を一口飲む。
善知鳥「……ですが穴がないわけではありません」
セオドア「……それはどういうことかね?」
セオドアは善知鳥を鋭利な視線を送る。
歴史家も善知鳥に視線を送る。
善知鳥「完成すれば【聖杯戦争】を終結させるだけの絶対的な力を持つ【宝具】。その対象法など考えれば子供とてすぐに辿り着きます。……要は完成させなければいい。完成する前に潰す。これが最良です。もし、私が貴方の敵ならば間違いなく一両日中にことを起こすでしょう」
そう言うと善知鳥は鼻で笑う。
善知鳥「……とは言ってみたもののその程度では貴方の勝利は揺らぐ余地もなく。これも神の思し召しか。御子息も【マスター】に選ばれた。言わばミスター・アトロフスカには二振りの剣があるようなもの。時間稼ぎなど容易なことでしたな」
セオドア「(鼻で笑う)善知鳥神父は慎重な男のようだ。私に隙はない。万事首尾よく進んでいますよ」
善知鳥「申し訳ありません。生来からの心配性でしてね。懸念材料は口に出すようにしているのです。……そういえば今日、御子息はどうされました? いつもご一緒にいた印象でしたが」
セオドア「用事を言いつけていましてね。外に出ているのですよ」
善知鳥「……そうですか」